『ぼくらの七日間戦争』でお馴染みの宗田理は、学校が舞台の作品を何冊も書かれています。「学校」という場所の存在意義や「大人」の不条理を問い正す挑戦的な作風はインパクトがあり、学生さんはもちろん、大人の方にも読んでいただきたい作品ばかりです。
宗田理は1928年東京都に生まれ、小学生の頃に父親を亡くし、母親の実家の愛知県西尾市一色町に移り住みました。戦後間もなく、同人誌を制作して作品を書きましたが、進んだ大学は日本大学藝術学部映画学科です。卒業後は映画の脚色の制作にとどまらず、編集業に深く携わったり、企業をPRする会社を興したりと、その活躍は多岐に渡っています。
1979年に、小説『未知海域』で宗田理は小説家としてデビューを果たしました。後に新聞の連載を持ったことをきっかけに『ぼくらの七日間戦争』をはじめとする、子どもを読者に想定した小説にも精力的に取り組むようになったそうです。
青春小説の要素も含まれていますが、本作は学園ミステリーととらえた方が正確でしょう。
主人公は駆け出しの女性教師・本間美幸。2年1組の副担任です。担当している2年1組は問題児ばかりを集めたクラス。そのクラスである日、いじめを理由に学生が自殺してしまいます。
その自殺に疑問を抱いたのが問題児・須藤朗。今ひとつきまらない新米女性教師と、切れ者の問題児中学生のコンビが自殺の謎を追っていきます。
- 著者
- 宗田 理
- 出版日
- 2008-08-25
本作で取り上げられているテーマは「いじめ」「マスコミの過激化」「不倫」。表紙の雰囲気とは裏腹に、とても重く、ドロドロとしたテーマです。いじめられていた子が不登校となり、いじめを行っていた主犯格がクラスのスケープゴートとして次のいじめのターゲットになるなど、いじめの発端・いじめの内容がとてもリアル。子供同士の人付き合い、大人同士の駆け引き、大人・子供それぞれの社会の闇を描いています。
事件が起きてしまった際の学校側の対応やマスコミの様子は、読んでいると空恐ろしいものを感じるでしょう。やわらかい文章ではあるものの、学校という一種の閉鎖空間内で起こる問題の深刻さが見事に表現されています。
しかしそれでも、クラスの問題児達が事件を通して1つにまとまっていく様子が描かれていますので、読後の痛快さはなくなりません。主人公の教師と問題児といったお決まりのコンビも、読者にとって心地良いものとなっています。お決まりとはいえ、本書の探偵役である問題児は主役ではなく、その傍観者である教師が主役という新しい切り口も含まれていますので、新鮮な気持ちで読み進めることができます。
現実世界での問題を取り上げているため、読み終えた時にモヤモヤした気分を抱える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、主人公である教師の視点を通して、少年少女の青春を優しい気持ちで読むことのできる1冊となっています。
新米中学教師、秋元千佳は、相当な問題児の男子生徒がいるクラスの担任となりました。予想通り、次々と問題が起きますが、千佳は教育に情熱を持ち、生徒に寄り添う姿勢を崩しません。彼女の愛情によって、例の男子生徒にも変化が現れるのですが、突然、状況は一変してしまいました。千佳は更なる壮絶な苦しみに飲み込まれていきます。
- 著者
- 宗田 理
- 出版日
大変重たく、苦しい宗田理の作品です。一途な教師が心に闇を抱えた生徒と懸命に向き合う日々に、息が詰まりそうになります。その過酷さは同僚の教師とのやり取りにも如実に表れています。
「『秋元先生、(中略)彼だって、ふつうの少年になれるはずです。ただし、そうするためには、ただ愛してやるだけではだめです。自分も傷つくくらいの覚悟が必要です』『それは自覚しています。迷える子羊を救うことができるなら、どんな苦労もいといません』千佳は、教師になって以来、その信念は揺らいでいない。」(『13歳の黙示録』から引用)
しかしこの宗田理の作品に驚かされる点は、熱心な教師が生徒を更生させる過程がクライマックスではないところです。まだその先があるのです。「その先」は増して恐ろしく、悲しく、読むだけの価値があり、深く考えさせられます。
生生学園高校は、名の知れた進学校でありながら自由な校風が魅力。その魅力の鍵を握るのは、ある風変りな生徒、倉知麻実こと「マミー」です。彼女は何年も留年して学校に居座っているらしく、高校生では出せない貫禄と教師をも虜にする料理の腕で高校生活をとびきり楽しいものにしてくれます。どんどんページをめくりたくなる、宗田理が描くお気楽な学園物語です。
- 著者
- 宗田 理
- 出版日
『13歳の黙示録』とは対照的な小説です。こんなに軽やかな作品も創り出せるとは、宗田理の発想の豊かさに舌を巻きます。「マミー」がいてくれれば、どんな学校でも毎日通うのが楽しみになること間違いなしです。「マミー」の特徴が出ているクラスメイトからの質問をひとつ紹介させてください。
「『ところであんたなんで、校長のケータイの番号なんて知ってるんだ?』『なんでって番号の交換したからに決まってる。普通そうするだろ』『絶対しねえよ、大体、校長と何話すんだよ』」(『マミーよ永遠に』から引用)
読んでいて思わず口角が上がってしまいます。「学校」という閉ざされた窮屈な場所に「マミー」のようなおおらかでユーモアのある空気が充満していれば、生徒はのびのびと過ごせるかもしれません。難しいことは考えなくても読み終えることのできる宗田理の小説です。
『ぼくらの七日間戦争』をはじめとする、「ぼくら」シリーズに登場していたキャラクターが主人公となった宗田理のシリーズものです。
蛍雪学園中学2年A組の前川有季はミステリー好きの友達と探偵事務所を作りました。有季が事務所の所長となり、助手には足田貢を据えて様々な事件を解決していきます。子どもから大人まで、どんな依頼人に対しても礼儀正しく賢く対応していく中学生探偵の痛快劇です。
- 著者
- 宗田 理
- 出版日
- 2013-06-18
宗田理の本シリーズは子どもが読むことが念頭に置かれており、キャラクター設定が明確です。主人公の前川有季はロンドンからの帰国子女で自由で勇ましく、頭の回転が速い可愛い女子です。相棒の足田貢は優しい男子で気が弱い部分もありますが、運動神経が良く有季を支えることにやりがいを感じています。何となく、シャーロックホームズとワトソンの関係を思い起こさせます。
物語は会話を中心に構成されていて読みやすいですが、大人の愚行を冷静にとらえる子どもの視点は、なかなか手厳しいです。1作目に出てくる貢と依頼人の大人とのやり取りを例に挙げてみます。
「『自分の会社をつぶしたら、給料もらえなくなっちゃうじゃないですか?』『それは昔のことです。今はほかの会社で雇ってもらえる』『そうかあ、どうせやめたっていいと思うなら、なんでもやれるわけだ』貢が言った。」(『2年A組探偵局 ラッキーマウスと3つの事件』から引用)
因みに、2作目以降には秋葉真之介というクールなイケメン中学生の活躍が増えます。角川つばさ文庫から2017年現在7冊が出ていますので、大人の方もドラマ感覚で読んでみてはいかがでしょうか。
念願の小学校教師になった三輪元(はじめ)は東京を離れて山口県の小学校に赴任しました。希望を抱いて教壇に立った元でしたが、やんちゃな生徒やモノ言う保護者にペースを乱されて落ち込む日々。おまけに元のクラスには、東京から転校してきた心を閉ざした少女もいて、悩みは尽きません。しかし、元がホタルのことを話題にした日から、子どもたちの目の色が変わりだします。
- 著者
- 宗田 理
- 出版日
本作は2003年に小沢征悦主演で映画化されています。ここに紹介している5冊のなかで、最も柔らかな光に包まれている印象を受けます。蛍の光そのものです。山口の方言が使われているのも大きいと思われます。
蛍をきっかけに、子どもたちが変わり、保護者も変わっていきます。まるでドキュメンタリーをみているようです。蛍が自ら光を放つように、子どもたちも自分の意志で動き輝くことが重要であり、子どもを支える大人の在り方が問われます。
それは、本当の意味での「学ぶ」ことを子どもたちが実践出来る環境にあるのか、という問いかけにもつながります。主人公の元を中心に整えられていく教育環境は、開放的で楽しくて羨ましい限りです。素直な感動が心地よい爽やかな宗田理の小説です。
言わずと知れた『ぼくらの七日間戦争』から始まる宗田理の「ぼくら」シリーズは、中学一年の菊地英治と相原徹を中心に、子どもたちが団結して大人たちに立ち向かうところから始まります。
その様子や会話はまるで、子どもたち本人が書いたかのように、いきいきとしていてスピード感があります。登場人物もページ数も多いですが、テンポ良く分かりやすく書かれていますので、子どもも夢中になって読んでしまうようです。
- 著者
- 宗田 理
- 出版日
- 2009-03-03
子ども版「水戸黄門」のような世界です。悪を懲らしめ、弱きを助ける姿はヒーローそのもの。
面白いのは、弱きものにも大人が含まれている点です。
子どもたちは身勝手な大人を敵視していますが、社会的に弱い立場にいる大人にはとても寛大な措置を取り、存在をありのままに受け入れます。その思い切りの良さが気持ちが良く、ほろりとさせられることもあります。大人になってから読むと、「しかし、子どもってのは不思議な生き物だねぇ」としみじみしてしまいます。
「2年A組探偵局」シリーズ同様、キャラクター設定がはっきりしていて、魅力的なマドンナも登場します。『ぼくらの7日間戦争』には、西脇由布子という美人の養護教諭が子どもたちや大人にときめきと癒しを与えます。典型的な構図ではありますが、あなたも彼女の虜になってしまうかもしれませんよ。
1928年生まれとは思えない、若々しい感性で紡ぎあげられた作品ばかりです。誰もが経験する「学校」という場所は、これから社会を担っていく子どもたちが社会に出る前に多くの時間を過ごす大切な場所です。そんな「学校」を取り上げた作品に触れて、自分自身のこと、子どもたちのことに思いを馳せる時間も素晴らしいものだと思います。