経営戦略とは何か? 分かりやすく基本、特徴、事例を押さえるおすすめ本5選

更新:2021.12.5

大企業でも破たんする事例が増えてきました。昔に比べ、企業の生き残り競争が激しくなっている昨今。「経営戦略」は、経営者に限らず、多くのビジネスリーダーに求められる必須の知識となりつつあります。そこで、その案内役になるおすすめ本を紹介します。

ブックカルテ リンク

経営戦略とは何か

経営戦略とは「他社との競争の中で」取るべき戦略です。

どのような分野でも、同じビジネスに取り組む「他社」が必ず存在します。例えば自動車業界なら、トヨタ自動車に対して、Hondaやマツダがいます。海外には、GMやVWもいます。あるいは従来の産業の垣根を越えて、Tesla、さらにはAmazonなども競合する他社と呼べるようになってきました。

こういった会社同士が、ぶつかることによって生まれるのが「競争」です。経営戦略とは、企業が、その競争に生き残るためにとるべき戦略。あるいは、その戦略の道しるべとなる理論なのです。

この経営戦略を立案するために、外部環境の観測から自社の位置づけを探ることもあれば、リソースなど内部要因から自社の位置づけを定めることもあるでしょう。また、そのどちらからも導き出されない行動があることも注目されてきています。

しかしいずれにせよ、これらを組み合わせながら、他者との競争に勝利しようとすることを総じて「経営戦略」と呼ぶのです。
 

経営戦略の種類や特徴を、歴史から学ぶ

競争環境がめまぐるしく変わる現代社会では、こうした経営戦略への知識の需要は、ますます高まることに違いありません。…でも、ひと言で「経営戦略」といってもそのカバーする知識は幅広く、参考となる情報も多岐にわたります。いったい、どこから手をつけて学べばよいのでしょうか?

そんな悩みをもつ方にまず、おすすめしたいのが本書『経営戦略全史』です。

 

著者
三谷 宏治
出版日
2013-04-27

そもそも経営戦略というものは、前述のように定義はしたものの、その内容は多岐に渡ります。なぜなら、経営者の数だけ、あるいは経営学者の数だけ、経営戦略があるためです。そのため、経営戦略をひとつひとつの事例や理論から学びはじめた人は「何が正しいのだろう」という疑問に突き当たることでしょう。

そこで本書。「全史」の名前のとおり、本書では、経営戦略に関するさまざまな考え方を、俯瞰的に、歴史からすべて整理しています。その内容を、わかりやすく、コンパクトにまとめた得難い一冊なのです。

何ごとも、物ごとを学ぶときには、まずその全体像を俯瞰(ふかん)してみることが学びの近道だといいます。その点で、経営戦略をこれから学ぼうという人はもちろんのこと、ある程度経営を実践していながら一度体系づけて整理したい人も含めて、経営に関わりうる人はすべて、買って損のない本だと言えます。

なお、本書には図や写真が多く、読むひとを飽きさせない工夫も満ちています。脱力感たっぷりな図は、逆に知識を頭にスルスルと入れてくれることでしょう。
 

経営戦略の基本を押さえる

経営戦略の全体像が掴めたならば、次は基本を押さえましょう。そのときにおすすめなのは、本書『この1冊ですべてわかる 経営戦略の基本』。きっと、理論から実践への橋渡しの役目を果たしてくれるはずです。

 

著者
(株)日本総合研究所 経営戦略研究会
出版日
2008-11-13

経営戦略の全体像をとらえることも大切ですが、経営戦略を学ぼうという人は、ただ学ぶだけではなく「自ら経営戦略を描こう」という人でしょう。だとすると、知識を実践に落とし込む「描きかた」を教えてくれる本が必要なはずです。

本書は、まさにそのような本。経営戦略に関する基本的なフレームワークが網羅されているだけでなく、それを、どのような場面で、どう活用すれば自社の経営戦略が描けるのかという使いかたまでが、実践的なステップのもとに描かれています。

また、個々のフレームワークにおいても、その成り立ちや、不足している点。だから異なるフレームワークが生まれた...などという関連性なども示しているので、納得しながら使いこなせるようになることも魅力です。

1冊の中に基本をステップに分けて整理しているため、個々のフレームワークや戦略検討についての深掘りはどうしても足りません。しかし、この本の意図はそこにはないため、深さを求める人は違う本を探すべきでしょう。タイトル通り、「基本」をしっかりつかむためには、まずおすすめしたい優れた書です。
 

利益の上げかたを事例から学ぶ

さて、経営戦略の俯瞰した知識と、戦略立案の基本的な知識は身につけました。では、いざ自社の経営戦略を描こう!という段に知っておきたいのが「どの戦略が勝てそうか」でしょう。

前述した『経営戦略全史』も『経営戦略の基本』も、経営戦略を描くためのフレームワークをまとめていた本でした。それに対して、次に紹介する『プロフィット・ゾーン経営戦略』は、経営戦略による「勝ちかた」をまとめた本だと捉えると良いでしょう。

プロフィット・ゾーンとは、利益を生み出す場所・方法のこと。経営戦略を「他社よりも多くの利益を稼ぐための戦略」と捉えなおすならば、業界や時間の変遷によって異なるプロフィット・ゾーンのあり方を知っておくに越したことはありません。

 

著者
["エイドリアン・J. スライウォツキー", "デイビッド・J. モリソン"]
出版日

本書がすごいのは、利益の上げ方を、22ものモデル(型)に分類して、詳細に論じたことです。この利益の上げ方を知ることができれば、次のような発想を生むことができるようになります。

「この業界の常識はAの利益モデルだけれど、自社は敢えてBの利益モデルにすることで、後発ながら競争に勝つことができるだろう」

しかも22の利益モデルについて、その一つひとつに、数社の具体的な事例がついています。古い企業や、海外なのでなじみのない企業もありますが、知っている企業も多いはず。それらの企業が「どうして勝っていたのか」、あるいは「何を利益の源泉にしていたのか」を自分のなかに整理できれば、自社の経営戦略を描くときに、複数のオプションが見えてくるはずです。

なによりも、22もの利益モデルを、或る所は首肯しながら、或る所は首を傾げながら、批判的に読んでいけるだけでも楽しい思考実験になるはず。読むこと自体が、知的スリルに富んだ、経営戦略の絶好のトレーニングでしょう。

なお、本書が教科書的に感じハードルが高いという方には、物語調で描かれた『ザ・プロフィット』という同じ著者の本をおすすめします。この本は、物語にページを割いているため1つ1つの利益モデルの言及は少ないものの、流れとして全体像をとらえられる利点があります。また、『プロフィット・ゾーン経営戦略』より後に出版されているため、利益モデルが1つ新たに追加され、23のモデルが書かれている点もおもしろい点です。
 

経営戦略にストーリーを持たせる

さて、経営戦略の俯瞰した知識と、戦略立案の基本的な知識を身につけ、利益の上げ方も学びました。ここから経営戦略を作り上げるわけですが、その戦略は、競合に真似されないのでしょうか。いつまでも「勝ち続ける」ことができるのでしょうか。

そのような疑問を抱いた人は、逆の考えを持つことでしょう。
「いつまでも勝ち続けているような企業は、どのような経営戦略を描いているのだろうか?」

このような悩みを抱いた人におすすめな本が、この『ストーリーとしての競争戦略』です。

 

著者
楠木 建
出版日
2010-04-23

著者は、一橋大学で長年教鞭を取っている楠木建氏。長年、数々の経営戦略を分析しているうちに、何が良い戦略で、何が良くない戦略なのか、の境界線に気づいたといいます。それが、「経営戦略に、ストーリー性があるのかどうか」ということでした。

ストーリーというのは何も、ただ、戦略を流れるように説明することができる、というものではありません。一つひとつの戦略とそれにひもづく打ち手が、次の戦略に結びつくような、意味のある連鎖があることをここでは指しているのです。

例えば、本書には、小型モーターのトップメーカーであるマブチモーターの事例が登場します。モーターの生産企業というのは、顧客に合わせて少量多品種を作ることが通例でしたが、そのなかでマブチモーターはモーターの標準化を推し進めます。この「標準化」という戦略が、単体ではなく、複合的なストーリーとしての戦略を生んでいくのです。

当初、マブチモーターは他のメーカーの例にもれず、コスト削減、大量生産を進めていました。しかしそのなかで、顧客からの規格注文に応えている限りどうしても大量生産ができないという現実に直面します。ここでマブチモーターは、異例なことに、2種類のモーターを作り、それを使ってもらうことを顧客へ提案してまわりました。

当然ながら、顧客は憤慨します。そんなことは求めていないからです。しかし、理解のある一社だけがその提案に乗りました。標準化ができたことにより、大量生産が可能になり、モーターの価格は下げられることになりました。すると「安いならモーターは同じでいいか」と考える他社が追随してきます。さらに大量生産が可能になり、コストは押さえられ、いつしか注文生産を続ける競合他社とはまったく違うビジネスが生まれていたのです。

それだけではありません。ここからが「ストーリー」の持つ強みです。注文生産に応じた範囲でのコスト削減や大量生産では、競合他社も真似することが可能であり、持続的な差別性が生まれません。しかし「標準化」を進めたことがコアであり、大量生産やコスト削減はその「結果」です。すると「標準化」に伴う、ストーリーとしての「太さ」と「長さ」という強みが派生するのです。

「太さ」とは、横展開。標準化をすすめたことにより、当時の顧客であった玩具メーカー以外にも、ラジカセに使う音響メーカー、ドライヤーに使う家電メーカー、ドアミラーに使う自動車メーカーなど、他業界にも顧客を広げられることになりました。また、標準化を進めることにより、営業の効率化、部品の内製化なども進めることができ、経営効率も大幅に高めることができました。この2つの横展開が、経営戦略を強固なものにしたのです。

そして「長さ」とは、時間です。前述のように他業界へ顧客を広げたことと、また「標準化」という競争の仕方がそう簡単にはマネできることではなかったことから、何十年間も続けて、持続的な競争優位性を築いたのです。

これこそが、ストーリーです。
「太さ」と「長さ」を得られるようなストーリーを生む経営戦略は、そうそう作れるものではないでしょう。しかし、前述する本と実践を通じて、基本的な経営戦略を描けることができるのであれば、競合他社に差をつける、ストーリーのある戦略の立案を、目指してみてもいいのではないでしょうか。

 

やはり事例から学ぶのが一番!

経営戦略はナラティヴ(物語的)でなければならない。…楠木氏のこの発想を突き詰めてゆくと、結局、経営戦略の根幹にあるのは、各企業が辿った歴史に他ならない、ということに気づきます。

なぜなら、歴史こそ、物語的に綴られた、勝者の軌跡であるからです。

最後はそのような、珠玉の事例から経営戦略を学べる本として、おすすめの一冊を紹介しましょう。それは、『P&G式 勝つために戦う戦略』です。

おむつや、シャンプーで有名なP&G。世界有数の大企業であるこの会社が、危機に陥っていた2000年ごろから10年間、危機打開のために、大きな改革に取り組みました。それを一つの経営戦略の例として、理論化したのが本書です。

 

著者
["A・G・ラフリー", "ロジャー・マーティン"]
出版日
2013-09-06

著者は、P&Gの以前のCEOアラン・ジョージ・ラフリー氏と、トロント大学の経営学者ロジャー・マーティン 氏。この2人が、P&Gの成功の軌跡を辿りながら、企業経営における「戦略」の重要性を指摘します。

著者の2人は、「大当たりの商品を生み出したとしても、戦略を欠く企業はいずれ死ぬ」、「常に企業は、勝つために戦う戦略を模索していなければならない」と言い切ります。また、「戦うために戦うのではない。勝つために戦うのだ」とも。

では、何をもって「勝つ」と言うのでしょうか?また勝つためには、「どこ」で戦うべきで、そして、「どのように」戦うべきなのでしょうか?

P&Gが辿った軌跡を追体験しながら、こういった問いの答えを、本書の中に探してみてください。その試みにより、それこそ抽象的な理論だった経営戦略が、本当に現実的な思考に結びつく最後のステップになるはずです。
 

初心者にもわかりやすく、けれど本格的な、経営戦略の本5冊をご紹介しました。この5冊を通読すれば、経営戦略とは何かについてある程度のイメージと、現実的な思考が生まれるはず。あとは、それを自社のビジネスにどう活かすかは、あなた次第です。チャレンジングな経営戦略に挑んでみるのも、良いですね!

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る