ゆとり教育風のフィンランド教育?特徴と課題、日本の教育との違いに迫る

更新:2021.12.18

世界トップクラスの教育を行う、フィンランド。授業料は無料で、塾がない……。憧れの念すら抱かせるフィンランド教育の特徴、課題、日本教育との比較についての要点をまとめてみました。

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フィンランド教育の特徴

2003年に行われたOECDによる生徒の学習到達度調査PISAで、トップレベルの学力を示し、注目を浴びることとなったフィンランドの教育。その秘密は何なのでしょうか。

まずは、松下(2007)を参考にして、フィンランド教育の特徴を3点挙げてみます。

①修了年限や時間割に柔軟性がある

②落ちこぼれをつくらない、授業料や給食は無料など、平等な教育を受けられる

③教師の自律性が尊重されており、その裁量権も大きい

この他にも、9年制で義務教育が行われる義務学校におけるクラスが20〜30名程度、読書量が多い、といった特徴もあります。これらはまるで、2000年代に日本で批判にさらされた「ゆとり教育」的要素を含む教育モデルといえます(竹内里欧「『近代主義の残像』としてのフィンランド教育ブーム」を参考)。

以上を踏まえると、フィンランドの教育は、子どもと教師とがそれぞれのポテンシャルを伸ばせるような教育だといえるのではないでしょうか。そしてこれらの特徴が複合的に絡み合い、世界トップクラスの学力に繋がったのでしょう。

またこれらの背景には、資源の乏しいフィンランドで、「人材」を第一の財産として行われた教育改革があります。結果的には国家や自治体の予算の約1割が教育に充てられ、「学びたい意欲があれば、そのチャンスが与えられるように制度が整えられ、公平性が保たれている」といいます(ハフィントンポストより引用)。

フィンランドと日本の教育の違い

一方、日本では、教員が授業外にこなすべき仕事が多かったり、1クラスも40名前後です。

また日本における2013年の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は「3.2%」であり、比較可能である33ヶ国中で32位だという結果も出ています。一方のフィンランドは「5.6%」と、ノルウェー(6.2%)、デンマーク(6.1%)に続き、トップクラスでした(日本経済新聞を参考)。

しかし日本では、教育にかける「私費負担」の割合は、OECDの中でも高くなっているといいます。すなわち日本においては、家庭の所得格差が教育の格差に繋がる可能性が高いというわけです(城繁幸ほか著『世代間格差ってなんだ: 若者はなぜ損をするのか?』を参考)。

フィンランド教育の課題

そんなフィンランド教育ですが、課題も指摘されているようです。たとえば教師の自由裁量権の大きさは、大都市圏においては学校格差に繋がっているという報告もあります(北川達夫ほか著『フィンランドの教育~教育システム・教師・学校・授業・メディア教育から読み解く』を参考)。

またフィンランド国内では、「高得点数が相対的に少ないこと」、「政府の教育政策に国際的かつ『科学的』承認が与えられてしまい、その結果、教育政策にかんする様々な問題を国内で批判的に論じる機会がかえって封じられてしまう危険性が感じられていた」といった反応も見られました(竹内里欧「『近代主義の残像』としてのフィンランド教育ブーム」より引用)。

ここまでフィンランド教育の特徴などを見てきましたが、文化などを踏まえても、フィンランド教育の全てを日本に持ち込むことはできないでしょう。しかし学べることも多いはず。まずはその第一歩として、フィンランド教育の実態を3冊の本から見ていきましょう。

フィンランド教育の特徴を、読む

著者
["北川 達夫", "中川 一史", "中橋 雄", "佐藤 幸江", "Tarja Malmi-Raike"]
出版日
2016-04-20

この本では、就学前から高等教育までの授業料無償の他にフィンランド教育の特徴をいくつか挙げています。

・教科書検定制度は1994年の学習指導要領改訂時に廃止され、学習指導要領に沿っていないような教科書(「悪い教科書」)は自然淘汰される
・教科書採択制度はなく、教科書を使用して教える義務もない(学校にある教科書を児童に貸すので、教師はその中から自由に教科書を選ぶことができる)

本書ではこの他にも、フィンランドの小学校教師であるTarjaが教師の1日を書き下ろしていたり、ICTを活かした授業実践、メディアについて学ぶメディア教育の実践例について学ぶことができます。

なお本書によれば、「メディア・リテラシー能力を高める教育」とは「メディアの意味と特性を理解した上で、受け手として情報を読み解き、送り手として情報を表現・発信するとともに、メディアのあり方を考え、行動していくことができる能力を身につけさせる教育」のこと(本書より引用)。

全159ページで気軽に手に取れる本書は、フィンランド教育の概要を短時間で学びたい!という人におすすめしたい1冊です。

フィンランドに、塾はない?

著者
["実川 真由", "実川 元子"]
出版日

文部科学省(2008)の調査によれば、日本では、学習塾や家庭教師、通信添削などを含む学校以外の学習活動は、小中学生で80%前後といわれています。通塾率に限っていえば、中学2年生では50%を超えているのです。

一方のフィンランドでは、夏休みの間に2〜3カ月通う学校もあるようですが、通塾という概念は理解されづらいようです。また学校で学ぶという意識が強いため、居眠りをすることもないといいます。このように、塾や偏差値がない国フィンランドで受けた教育の実体験が『受けてみたフィンランドの教育』では綴られています。

著者は、2004年から約1年間のフィンランド留学に行った実川真由と、その母親である実川元子。娘の体験談と、母親による解説が1冊にまとめられた本です。たとえば娘の実川真由は、フィンランドの塾や受験状況について以下のように述べています。

「受験がないためか、塾もない。実際には、大学に入るための試験はあるので、そのための予備校がまったくないといったら噓になるが、日本のように高校入学と同時に三年間予備校や塾に通い、志望する大学に合格するためにこつこつ勉強するという、『受験戦争』なるものはフィンランドには絶対存在しない」(本書より引用)

本書を読めば、フィンランドと日本の教育の違いが手に取るようにわかります。先述した通り、塾がない代わりに学校の授業に重きを置いていたり、エッセイが多く課される授業内容であったり……。

なによりもフィンランド教育の「余裕」には、驚かされることでしょう。たとえばフィンランドには、「ヴァリヴオシ」という、将来したいことを見つける「猶予期間」があるのです。

ひるがえって日本社会における学生生活は慌しいもので、それが当たり前で普遍的であるように思われているかもしれません。将来を決めるために十分な時間が確保されているフィンランドの教育環境を知れば、日本の学生生活も新たな視点から見つめられることでしょう。

フィンランド教育から探る日本の教育

著者
福田誠治
出版日
2011-02-10

学校での教育が充実しているフィンランド。しかし教育は、学校にとどまるものではないのかもしれません。

前掲書では、成績もいまいちで英語がとりわけ得意でもないホストブラザーが「洋画は幼い頃から見ているから、字幕なしでも理解できるようになった」と言う場面があります。これは一体どういうことなのでしょうか。『こうすれば日本も学力世界一 フィンランドから本物の教育を考える』の著者は、以下のように説明しています。

「学力とはいったい何か、学校の成績なのか、授業で身につけるものなのか。(中略)学びを教科書のなかに閉じ込めてはならない。『教育といえば学校』という発想ではなく、『いつでもどこでも学習する』と考えて、社会全体が教育的であること、そうすれば国の学力は上がるということだ(中略)学力とは、授業を含めた多様な活動によって、長い時間で形成されるものである」(本書より引用)

学力といえば学校という場がフォーカスされがちですが、それと同時に「社会全体が教育的」である必要もあるのでしょう。学力は、学校という場を含めた社会全体で、誰もが平等に養えるようにすることが大切であるように思われます。

本書ではさらに、かつて日本で行われていた質の高い授業実践についての言及などもあります。フィンランド教育の特徴を詳しく学びながら、日本の教育を再考したい人におすすめしたい1冊です。

時間割などを含め、ゆとりある教育が特徴のフィンランド。日本の教育について比較しながら考えれば、多くの新たな発見があることでしょう。

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