ある少女と、まるで漫画はアニメのような出会いを果たした少年。彼は、その出会いを元にストーリーを作成し、ゲームを作ろうと思い至るのでした。 アニメ放送二期放送や、2019年10月に映画の公開など絶好調の人気ライトノベル『冴えない彼女の育てかた』。今回はその全巻を振り返り、魅力に迫っていきましょう。
生粋のオタク・安芸倫也(あき ともや)は、ある日、地元で有名な坂道でとある少女が落としてしまったベレー帽を拾います。
その、まるで漫画かアニメに出てくるような展開に運命を感じた彼は、彼女との出会いをストーリーに、ゲームを作ろうと行動を開始するのです。
- 著者
- 丸戸史明
- 出版日
- 2012-07-20
ゲーム作りを志したはいいものの、倫也には憧れのクリエイターのように物を作る才能があるわけでもなく、当然のように挫折。しかし、そんなあるとき桜舞い散る坂道で出会った少女が、何の変哲もないどころか、彼が抱いていた理想とは大きくかけ離れているクラスメイト・加藤恵であったことに気づくのです。
恵に夢を砕かれたせいで逆に燃え上がった倫也は、知り合いの超人気18禁同人作家の沢村・スペンサー・英梨々と、女子高生人気ラノベ作家の霞ヶ丘詩羽に協力を依頼するも、すげなく断られます。
やる気のない彼女たちをあの手この手で説得を続けていくのですが、それでもことごとく断られ、とうとう最終通告として企画書の期日をGW開けと提示されるのです。
迫りくる期日のなかアイデアは出てこず、ただただ時間だけが過ぎ……微かな望みをかけて、あの出会いの場所に向かいますが、そこにあるのは何の変哲もないただの坂道でした。
そこで突然、空から舞い落ちてくる白いベレー帽。見上げた先には冴えないクラスメイト、加藤恵がいるのでした。彼を励ますためだけに本気をだす恵。そんな彼女の本気に触発されて、英梨々も詩羽もついにサークルに参加することに。この瞬間、ひとつの同人サークルが結成されたのでした。
本作はアニメ放送もされていますが、序盤では大胆な構成変更がされており、アニメはもう見たという方でも楽しめる内容となっています。また、深崎暮人先生による美麗なイラストも大きな魅力のひとつです。
霞ヶ丘詩羽。豊ヶ崎高校3年の彼女のもう1つの顔は、累計50万部を売り上げる売れっ子ライトノベル作家・霞詩子なのです。
黒髪ロング、黒タイツ、巨乳などさまざまな属性持ちの彼女が、本巻においてスポットライトが当てられます。
- 著者
- 丸戸史明
- 出版日
- 2012-11-20
倫也たちが作るのは、パソコン上で動くノベルゲーといわれる類のゲーム。当然、小説家である詩羽がプロットを書くのですが、周りが大絶賛するなかで倫也も同じように評価しながらも、このままではいけないという判断を下すことに。
本巻では詩羽が倫也との過去に拘る少女であることが明かされます。昔、詩羽は作品に倫也への思いを仮託して届けようとしますが、彼には受け入れてもらえず、2人の関係には1度終止符が打たれました。
それゆえに、彼女がプロットとしてあげたものは輪廻転生もの、つまり彼女にとって終わってしまった過去を、現実で結実させようとするものだったのです。対して倫也は恵とのデート中に、そのプロットの中で感じた違和感が何だったのか気づき……。
過去の因縁を精算し結ばれるヒロインと、しがらみをすべてなくし現在で幸せに暮らすヒロイン……どちらが幸せなのか。どちらを選ぶのか。
究極ともいえる問いかけに、倫也はあっさりと言ってのけるのです。
「残そうよ」
(『冴えない彼女の育てかた2』より引用)
彼の選択は、プロットとして両方とも残す。過去に囚われたヒロインも、現代で幸せを掴んだヒロインも最高に萌えるのだと主張するのです。
詩羽はそんな彼を優柔不断と批判しますが、いいとこどりをするのがギャルゲーの醍醐味だと倫也は宣言。彼の情熱にほだされた詩羽は説得に応じ、2人で修正に取り組むのです。
あくる朝、いつものように下ネタを発するかに見えた詩羽が、倫也に授けた言葉は、
「クリエイターの世界へようこそ、安芸倫也君」
(『冴えない彼女の育てかた2』より引用)
この言葉は、作家である霞詩子から倫也に向けた、最大級といってもいい賛辞でしょう。
また本巻の巻末特典として、丸戸史明が使っている企画書のテンプレートが記載されており、そちらも創作を志す人にとっては大変役立つこと間違いなしといえます。
澤村・スペンサー・英梨々は豊ヶ崎高校2年、金髪ツインテールで黒ニーソックスを履いているイギリス人のハーフで加えて大金持ち。彼女は人気壁サークル(人気のある大手サークルのことを壁サークルといいます)「Egoistic Lily」の柏木エリでもあるのです。
英梨々も他のヒロインに負けず劣らずの属性てんこ盛りで、彼女も詩羽と同じように倫也との過去に問題を抱えているのでした。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2013-03-19
筆が早く、シンプルながらも洗練されたデザインで、かつ上手いという観点から、倫也は英梨々あらため柏木エリをクリエイターとして評価をしています。しかし、そんな彼女の前に波島出海という少女が登場。
英梨々と同じ倫也の幼なじみですが、歳は2つ下の後輩。しかも、彼女よりも凄い絵を描く……。そんな存在に対して英梨々が感じる恐怖は実に明確です。その感情が顕著に現れているセリフがこちら。
「あたしの絵を見てドキドキする?
鬼気迫るモノを感じる?
何が何でも売ってやりたいって、思う?」
(『冴えない彼女の育てかた3』より引用)
彼女の創作のモチベーションは、倫也に認められることです。ようやく認められてきたと思ったところに、想い人である倫也をかっさらっていくような出海。彼女のプライドはズタズタに傷つけられました。
クリエイターとして、ひとりの女の子として、たった1人に認められたいという彼女のエゴがはっきりと現れると同時に、物語は急速に加速を始めます。
さて、ゲームといえば何があるでしょうか?イラストもあり、シナリオもあり、さてあとは……となると思い浮かぶのは音楽です。
本巻では倫也の従姉妹で、「icy tail」というバンドに所属している氷堂美智留が新キャラとして登場し、彼女にスポットライトが当てられます。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2013-07-20
アニメ放送では、著者である丸戸史明が脚本を担当しているため、大胆なエピソードの差し替えなどがおこなわれていましたが、本巻では非常に大きな解釈の違いが作られています。
アニメ版では美智留は、サークルは倫也だけが本気でゲームを作ろうとしている、だから自分たちを巻き込まないでくれ、ついでにそんなことはやめて自分の夢を応援してくれ、という立場に立っています。
一方、原作ラノベでは美智留の評価は歪であるというものです。英梨々はサークルの方が忙しくてほかのことをやっていない、詩羽もサークルばかりにかまけてラノベ作家としての新作が遅れに遅れている、そんな2人だけに負担が集中している状況を、美智留は歪であると称したわけです。
本巻で倫也は彼女をバンドごと抱え込み、バランスを取るという結末に落ち着きます。しかし、そうやって何がなんでも前に進み続ける彼らがどういった結末を迎えるのか、そこを意識した展開になっていくのです。
アニメ版、原作版での違いを意識するとより楽しめるのが、このラノベの4巻でしょう。
スポットヒロインもとうとう2周目を迎えて、再び霞ヶ丘詩羽の番となります。
ついに完成したシナリオに、倫也がお疲れ様会で労いをしていると、詩羽からとんでもない爆弾が突きつけられます。
提出されたルートとはまるで解釈が違う、もう1つの傑作シナリオ……彼女が倫也に想いを仮託するシナリオを前に、彼はまたもや決断を迫られるのです。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2013-11-20
当たり前の前提として、小説とゲームのシナリオはまるで別物です。小説は文字情報、仮にライトノベルだとしても数枚のイラストで補完されるだけで完結します。
一方ゲームは音楽があり、常時絵がついて、スクリプトによってそれらが動かされていく……ある種アニメにも似た、総合芸術といえるでしょう。
どちらのシナリオを選ぶか迷うなか、3巻で登場した出海の兄である伊織が所属する人気サークル「Rouge en Rouge」が、倫也たちの前に立ちはだかるのです。
シナリオに関しては小説家である詩羽の腕を信頼していた倫也に対して、伊織は不敵に笑いながらそこだけは負ける気がしないとまで言い放ちます。
その言葉に倫也は詩羽のシナリオの欠点に気づき、2人の濃密な交わりあいを経て、最高のシナリオを完成させていくのです。詩羽だけではなく、英梨々、恵の想いが交錯しあい、ゲーム制作という目的によって辛うじて保たれている人間関係の拮抗具合が非常にいい味を出しています。
著者の丸戸史明の真骨頂ともいえる展開が熱中させてくれること間違いなしでしょう。
ゲーム作りもとうとう終局に近づくなか、英梨々はまさしく修羅場の真っ最中。
そんななか、さまざまな事情で遅れに遅れたスケジュールを取り戻すため、英梨々は缶詰状態になって作業しますが、完了間近で倒れてしまい……。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2014-04-19
英梨々と倫也は幼なじみ。倫也にとっての英梨々は病弱で、すぐに体調を崩して寝込んでしまったり、自分の後ろに隠れてついてきたりするような女の子でした。倫也にとって彼女は守るべき存在だったのです。
そんな想いを今も引きずったまま彼女と接しているがゆえに、倫也は大きなミスを犯してしまいました。
彼の思い違いを端的に表しているのが、この詩羽の台詞です。
「澤村さんは絶対に無茶をしない。暴走しない。はっちゃけない。
その先の限界を超えるための試練があったとしても、挑まず帰ってくる
……あなたは、そう言ってるのよね?」
(『冴えない彼女の育てかた6』より引用)
柏木エリである英梨々なら、締め切りを守ってきちんと作品をあげる……それに対する詩羽の言葉は、彼の思い違いを静かに糾弾していきます。
そして、その思い違いが正されることなく、事態が取り返しのつかないところまで進んでいったところで、いつも倫也の味方でいてくれた恵の彼女らしくない台詞が倫也の心を突き刺します。
「わたしは、安芸くんが正しいことをしたと思ってる。
それにわたしは、安芸くんのこと、友達だと思ってる。
でも、許せない。
友達だと思ってるからこそ、今度のこと、まだ消化しきれない」
(『冴えない彼女の育てかた6』より引用)
これまで認めていてくれた彼女の言葉は、激しくもなく熱くもなく淡々と紡がれて、それゆえに大きな衝撃を彼に、そして読者にも与えます。
まさしく、切なさの伝道師たる丸戸史明の、面目躍如といえる内容です。
丸戸史明はもともと小説家ではなく、ゲームライター。本編完成後、後日談であったり過去編であったり、完結した本編を補完するものがFD(ファンディスク)と呼ばれる存在です。
本巻もまた、原作ラノベの隙間のエピソードを縫う形で紡がれた短編集となっています。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2014-08-20
英梨々とのまさかの18禁同人作成や、すぐにぐずってやる気をなくす詩羽をおだてながらのインタビュー記事作成。ゲーム制作に関わるロケーションハンティング(デート)などなど、物語の隙間として描かれるものとしてはもったいないくらいの充実具合で、読者を満足させてくれること間違いなしでしょう。
基本的にはドラゴンマガジンという富士見ファンタジア文庫が刊行している雑誌に掲載されたものをまとめて一冊にしていますが、1編だけ書き下ろしされているものがあります。
5・7話「冴えない座談会の進めかた」がそれに該当するのですが、今までいろんなゲームをしてきた人にとっては思わずくすっと笑ってしまったり、あるある、と共感できる内容に。もちろん、しっかりと練られた構成は新規読者を飽きさせることもありません。
本編に関係がないからと敬遠せず、ぜひとも読んでいただきたい珠玉の一冊になっています。
ある春の日に始まったゲーム作りは、あとわずかで幸せなエンディングを迎える、というところですべてを倫也が台無しにしてしまいました。
恵との喧嘩、英梨々のスランプ、詩羽の高校卒業。冬が過ぎていき春の訪れを感じさせる時期に、倫也は悩みぬいた末にあるひとつの決断を下します。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2014-12-20
『冴えない彼女の育てかた』というラノベにおいては、想いを作品に仮託するという形式がよく取られています。とりわけ詩羽に関してはそれが顕著です。
彼女の直系の弟子である倫也も、彼女に習い、作品を作ることでもう1度サークルのメンバーを繋ぎとめようとします。また、前作で失敗したことをもう1度やり直すために……。
恵と強引にも会をセッティングして、いつものように企画をぶちまけて、呆れられて、かつてそうしていたような関係性に戻ってくることができたのです。
そして恵を取り戻した倫也は、欠けているピースである卒業予定の詩羽に企画をぶちまけて、参加を頼み込みます。ところが……。
そんな彼の目の前に立ちはだかる事態が、詩羽と英梨々のサークル脱退、人気サークル「Rouge en Rouge」の代表である紅坂朱音による2人の強奪劇です。
本巻では一般人である恵と、クリエイターである詩羽や英梨々の違いが明確に対比されて、それゆえにお互いのことを思っていながら、またもやすれ違いが起きてしまいます。
辛くて、きつくて、それでも救いのある物語に仕上がっており、満足すること間違いなしといえる第1部の最終巻でしょう。
衝撃的な展開で読者を驚かせた『冴えない彼女の育てかた』第7巻ですが、本巻ではその裏側、倫也と恵が仲直りをしている間、詩羽と英梨々は何をしていたのか、あの移籍劇の裏側が語られています。
また詩羽と英梨々の出会いなど、気になっている方も多いだろう場面が描かれる巻でもあるのです。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2015-02-20
本編では名前だけしか出てこなかった紅坂朱音が具体的なビジュアルを持って登場するのですが、彼女は非常にエキセントリックであり、かつその創作にかける熱意が凄まじく魅力的なキャラクターに仕上がっています。
傍若無人なキャラクターというのは読者の反感を買いやすいのですが、読者がクリエイターに抱くであろう感情をうまく拾い上げており、あくまで創作もしているただの生粋のオタクとして描いている点が、絶妙な感覚で持ってバランスを取らせているのです。
また、これまで少しずつ光を当てられてきた女同士の友情という面でも、本作は大きくスポットライトを当てています。たとえば英梨々と恵の親友関係であり、英梨々と詩羽のお互いに尊敬し合うクリエイターなど本編への関わりは薄いです。
こういうところまで描いてくれる、丸戸史明の気遣いには読者としては感謝しかありません。ぜひとも皆さんも読んで楽しんでいただければと思います。
倫也たちのサークルである「Blessing Software」も詩羽、英梨々の脱退、また出海の加入によって再スタートを切りました。
けれど生まれ変わったサークルは、これまでとは異なる別の問題が浮上して……。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2015-06-20
本巻では新作ゲームのプロット作り、それにともなう倫也の負担増を軽減するための伊織の加入、そして脱退以降ぎくしゃくしてしまった英梨々と恵の仲直りを軸に物語が展開していきます。
本巻では出会いと別れをくり返した恵のキャラクターの変化がコミカルに描かれており、一見してほのぼのとした雰囲気が展開。しかし気を抜いたところでモノづくりを志す物語らしい、シビアな面も描写されており、とてもメリハリのある構成になっています。
伊織の加入を勝ち取り、プロットも完成し、あとは英梨々と恵が仲直りするだけ……という段階で、とあるゲームの新作発表会が執りおこなわれることに。
ゲームの名前は、フィールズクロニクル。英梨々と詩羽がサークルを脱退する原因となった作品です。かつて仲間だった人たちの晴れ舞台を応援する気持ちでそれを眺めている彼らに、衝撃的な映像が突きつけられ……というところで、物語は終わります。
よく、フォロワーという言葉がクリエイターの世界では語られています。
優れたクリエイターを目標として、ああいう作品を自分も作りたいと思った結果、作風が似たりよったりになってしまうことが多々起こりえます。
そうして天才に追従することが、本当に正しいかは誰にもわかりません。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2015-11-20
フィールズクロニクルの発表会で見た衝撃的な映像のせいで、出海は柏木エリを必要以上に意識してしまい、彼女をフォローしてしまうようになります。
また、恵も踏ん切りがついたはずの英梨々との仲直りに、二の足を踏んでしまうように。
サークルを辞めたはずの人間に感情を振り回されて、なかなか前に進まないゲーム制作、そんな彼らに同じくサークルを辞めた人間である詩羽が、倫也にアドバイスをして力を貸してくれます。
「あなたは、シナリオを、書きなさい」
(『冴えない彼女の育てかた9』より引用)
この作品は想いを創作物に仮託しているという手法が取り上げられていますが、今回はその発展系であるといえます。つまるところ、創作物を使って物語上の問題を解決するということです。
魅力的な作品を書くことで出海に自らの望みどおりのイラストを書かせ、そして英梨々という人物をきちんと描くことで、恵に対して英梨々は仲直りに値する人物だと告げるため。
策は功を奏してさまざまな紆余曲折の結果、英梨々と恵の仲直りは一歩前進するのでした。
本作品においてガールズサイドは特殊な立ち位置にある分類です。『冴えない彼女の育てかた』は基本的にナンバリング作品であり、一般的にはそれ以外は本編ではない、ということになります。
しかし、ガールズサイドで語られる内容は明らかに本編そのものであり、飛ばしてしまえば何が何だかわからなくなってしまうので、きちんと飛ばさず読むことが推奨されます。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2016-03-19
今回もまた、重要な話の転換点の裏側で何があったかがクローズアップされていますが、ディープなファンにとっては嬉しいことがひとつ。スピンオフコミックに登場するキャラクターが表紙を飾っており、こうしたちょっとした心配りも本作の魅力であるといえます。
加えて挿絵とのマッチングやコラボレーションも、見事の一言です。
基本的にはライトノベルには挿絵がつきものですが、ただ場面をイラストに起こしただけの場合であったり、挙句、本編で書かれている内容とは相違が生まれてしまったりすることもままあります。
けれど、この作品では深崎暮人がしっかりと本編の内容を汲み取り、100%を超えて120%魅力を引き出す特徴的な挿絵の使いかたをしており、非常に魅力を引き出しているのです。
総合芸術といい切ることができる本・ラノベをぜひともお楽しみください。
霞ヶ丘詩羽は、きわめて優れたクリエイターとして描かれています。倫也にとって1番のクリエイターであり、行き詰ったときに助けてくれる有能なキャラクターでもあるのです。
もちろん物語として行き詰まることはありましたが、それはあくまで方向性の違いで迷ってしまっただけであり、本人の実力が足りないということはありませんでした。
本巻では、彼女にとっては初めての事態が起こり始めてしまいます。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2016-07-20
倫也たちサークルの面々は、来るべきリリースに向けて合宿を企画。本来であればサークルメンバー5人でおこなわれるはずでしたが、紆余曲折の末、OGである英梨々と詩羽も参加するという展開になります。
電車の中での楽しい移動や、現地についてからの出来事が展開されるかと思いきや、まさかのラスボス紅坂朱音が登場。突如として始まった作品の評論会に、倫也は巻き込まれていきます。
英梨々の成長を確かに感じつつ、一方で紅坂朱音によりボコボコに叩きのめされる詩羽の姿、この世で1番尊敬している師匠の醜態を否応無しに見せつけられてしまうのです。そして1番倫也の心に突き刺さったのが、そんなことになっても彼女を守ってあげることができない自分の弱さでした。
そして、そんな彼女を救うために彼が取った手段は、シナリオを書くことです。
ここで、王道のストーリーに関しての朱音のセリフをご紹介します。
「ユーザーを泣かせるつもりなら、徹底的にあざとく攻めやがれ!
それができないんなら、徹底的に乾いたテキストで淡々と描写した方がまだマシだよ」
(『冴えない彼女の育てかた10』より引用)
朱音が主張するしているように、王道とは物語を美しく見せる1番の近道であり、だからこそ1番多く使われている道でもあります。その結果、多くの人に響くというわけです。
英梨々ルートを終了させ、詩羽ルートも書き上げ、満を辞して取り掛かる恵ルート。倫也の想いが詰まったこの物語の原点ともいえるシナリオは順調に書き進められていきますが、あるとき急にその進捗が止まってしまいます。
イベント番号:巡璃15
条件:最終ヒロイン選択で巡璃を選択した場合に発生
概要:巡璃、主人公を意識するようになる
(『冴えない彼女の育てかた11』より引用)
決して倫也だけではわからない、恵の気持ちに関わる部分です。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2016-11-19
モノづくり系の物語である本作品ですが、シナリオライターとして長年経験されてきた丸戸史明の含蓄ある言葉が惜しみなく注がれて、創作者を志す人にとっては非常に興味深い内容となっています。
もちろんそうではない人も楽しめるよう、きちんとエンターテインメントに落とし込んでいる辺り、技量の高さを感じさせるラノベでもあります。
さておき本巻の1番の魅力は、恵とのイチャイチャ描写であることは間違いありません。これまで散々萌えゲーを作るといっておきながら重たいシナリオばかり書いてきた倫也が、初めて萌えを全開にして突っ走っていくのがこの11巻なのです。
貫き通された王道である作品に想いを仮託することをさらに飛び越え、2人の関わりをそのままシナリオにするという手法が取られており、恵とイチャイチャする=ゲームが面白くなるという構図ができ、そのまま最終目的であるゲームの完成!というところまで読者の期待度をはね上げています。
本巻の恵はもう最上級の可愛さを誇っているので、ぜひとも壁をバンバン叩きながらお楽しみいただければ幸いです。
物語では起承転結が大事だ、とよくいわれています。調子がいいだけでは駄目、悪いだけでも駄目。好事魔多し、災い転じて福となす。物語の波こそが、それをエンターテインメントに仕立て上げているといえます。
イチャイチャだけで終わるかと思われた恵ルート、まさかの出来事が本巻で起こるのです。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2017-03-18
丸戸史明は、非常に味わい深い作家であります。長年培ってきた知力の高さはいうまでもありませんが、その引き出しの多さ、小ネタのおもしろさなどの意味が理解できれば、さらに作品の面白さが伝わってくる作家です。
そのうえできちんとエンタメとして物語を構築して、新規でも面白いと思える作品を提供し続けているわけですから、その姿勢には脱帽するしかありません。
『冴えない彼女の育てかた』にも多くのネタが張り巡らされており、何倍にも感情を膨れ上げさせる魅力的な物語です。さまざまな問題を乗り越えていき、やっと見えたゴール地点まであとわずか。恵と倫也の関係性も進展を見せ、どのような場所にたどり着くのか期待に胸が膨らむこと間違いなしでしょう。
『冴えない彼女の育て方』のスピンオフ漫画『冴えない彼女の育てかた 恋するメトロノーム』について紹介した<「冴えカノ 恋するメトロノーム」見所を結末までネタバレ紹介!無料で読める>の記事もおすすめです。気になる方はあわせてご覧ください。
朱音が倒れたことによって、倫也が恵の誕生日をすっぽかしたという最悪な展開があった本編。その裏で英梨々や詩羽、美智留たちがどのような行動をしていたのかがわかる一冊です。
本編に負けない、濃い内容が楽しめる作品となっています。
- 著者
- 丸戸 史明
- 出版日
- 2017-06-20
本巻の1番の見所は、今後起こる注目展開を前にした恵の心境がわかる描写です。彼女のツンデレな一面がはっきりわかる場面であり、可愛さ全開。ぜひ13巻を読み終えてから、あらためて読み直していただきたいところとなっています。
他にも、美智留が音楽制作に苦戦する様子が描かれています。ギャルゲーに使用されてきた曲のレベルの高さを感じている彼女は、メインヒロインの曲を最高のものとするべく自分を追い込んでいくのです。オタクでなくても泣ける曲に仕上げるために奮闘する彼女の姿は、要注目です。
波乱の展開の裏で、彼女たちがどのように動いていたのかがわかる一冊。もはや本編にした方がよいのでは?というほど、内容が濃く仕上がっています。ぜひ、こちらも合わせてお楽しみください。
さまざまな想いが交差した物語も、ついに本巻にて完結です。
ついに、倫也は恵に告白することに決めました。そんな彼に、恵は言うのです。
「成功率、どのくらいだと思ってる?」
(『冴えない彼女の育てかた』13巻より引用)
冴えない彼女の育てかた13 (ファンタジア文庫)
2017年10月20日
そこから恵は、彼に英梨々、そして詩羽に対する気持ちを聞いていくのです。クリエイターや仲間として好きだと言い張る倫也ですが、問い詰められた結果、つい「手の届かない女の子として」好きだという本音をもらしてしまうのです。
それを受け、彼らの関係はどうなってしまうのでしょうか。倫也が最後に選ぶ相手とは……。ぜひ本編でご確認ください。
本巻での見所は、倫也が、恵、英梨々、詩羽とそれぞれ会話するところではないでしょう。彼女たちの想いが切なく響きます。最終巻でくり出される「あたしのこと、好きだった?」の言葉には、ここまで読んできた読者にとっては非常に胸を打つものがあるのではないでしょうか。
感動の結末、そしてゲーム制作の行方を、どうぞ見守ってください。
倫也と英梨々の過去なども描かれる本巻。本編の内容を補完してくれるような内容となっているので、本作のファンの方はぜひ読んでいただきたい一冊となっています。
- 著者
- ["丸戸 史明", "深崎 暮人"]
- 出版日
本巻の見所は、なんといっても恵の可愛さでしょう。彼女はさまざまな人物から倫也との関係を問い詰められるのですが……その流れが、なんともよい!彼女推しの方は、ぜひ注目です。
そんなことより、表紙の女の子は誰?と思う方、多いのではないでしょうか。彼女の正体は、なんと恵の姉・宏美!妹に負けず劣らずの可愛さです。新キャラクターである彼女が本巻でどのような活躍を見せるのかも、楽しみなところですね。
2019年10月に『冴えない彼女の育て方 Fine』が公開されました。キャストはテレビアニメから変わらず、松岡禎丞や安野希世乃、大西沙織などが担当しています。
来場者得点があり、中身はなんと原作者の丸戸史明の書き下ろし小説!公開から7週間、週ごとに異なるストーリーの小説配布される予定です。
映画や来場者特典の詳細情報は、劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」の公式サイトをご確認ください!
長文になりましたが、少しでも本作の魅力を伝えることができれば幸いです。絶好調のこの作品をぜひとも読んでみてください。