山口雅也のおすすめミステリー小説5選!独特な世界観を味わってみては?

更新:2021.12.18

たくさんの引き出しを持ち、一風変わった舞台設定と見たことのないストーリーでいつも読者を驚かせる山口雅也。数ある名作の中から、おすすめ作品を5作ご紹介します。

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博識を活かした本格ミステリー作家・山口雅也

山口雅也は、1954年神奈川県横須賀市生まれ。横須賀高校を卒業後、早稲田大学法学部へ進学。大学では「ワセダミステリクラブ」に所属し、エッセイやミステリー評論を書いていたそうです。大学卒業後は出版社に勤務するも、1985年に退職。山口雅也はミステリー評論家に転身を遂げます。

また、この頃から自身でも作品の執筆を開始し、1989年に『生ける屍の死』で満を持して作家デビュー。その後1995年に発表した『日本殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞しました。

謎解きがメインの本格骨太ミステリーを得意とする一方、社会派ミステリーやサスペンス・ホラーなど幅広く執筆。学生時代から10年ほどを東京で過ごしていましたが、作家としてデビューしたことをきっかけに地元・横須賀に戻りました。横須賀を舞台にした作品も発表するなど、故郷愛が窺えます。

軽妙な語り口と趣向を凝らした仕掛けで読者を混乱に陥れる、そこが山口雅也作品の絶妙な魅力です。趣味は音楽鑑賞やスキューバ・ダイビングなど。博識を活かした独自性の高い小説で多くの読者に愛されています。

死者が蘇るミステリーは成立するか?『生ける屍の死』

1989年に発表された、山口雅也の記念すべきデビュー作です。その衝撃的な内容が話題を呼び、同年の「このミステリーがすごい!」ランキングでは第8位を獲得。また、「このミス」20年間の作品の中から選ばれるベスト・オブ・ベストでは国内編で2位に輝き、名作ミステリー小説としてその地位を不動のものとしました。
 

著者
山口 雅也
出版日

舞台はアメリカの田舎地方。死んだはずの人間が次々と蘇る事件が発生します。そんな中、遺産相続に揺れる州内随一のスマイル霊園を狙う殺戮者の影が垣間見えるのです。

お茶会の日に誤って毒を飲み、死んでしまった主人公の少年グリンは、自分が死者であることを隠しつつ事件の解明に乗り出します。タイムリミットは体が腐ってしまうまで。被害者も犯人も次々と死んでは蘇る中、グリンが辿り着いた真相とは。

「死者が蘇る」という非常に特殊な状況下で起こる殺人劇。そのことを前提として推理を行う必要があるため、まさにミステリーとしても新境地の開拓と言えるのではないでしょうか。本作の主人公であるグリンは、後に山口雅也の小説には欠かせないお馴染みのキャラクターとして各所で活躍します。

また、かなり荒唐無稽なストーリーであるにも関わらず、社会に対して問題提起がなされていたり、自らの死生観を改めさせられたりする点も作者の筆力によるところ。ミステリーのタブーに挑戦した、山口雅也の意欲作です。

懐かしのゲームブックがモチーフ『13人目の探偵士』

皆さんは「ゲームブック」をご存知でしょうか。文中に書かれた選択肢を選び、対応するページに移動することでストーリー展開が変化する形式の本で、日本国内でも1980年代に大ヒットしました。山口雅也の『13人目の探偵士』は、元々ゲームブックとして刊行されたものが長編として書き直されています。

「探偵士100年祭」が開催される中、探偵ばかりを狙う殺人鬼「猫(キャット)」による事件が発生。11人の被害者は、みなマザーグースの唄になぞらえて殺害されており……。

著者
山口 雅也
出版日

密室の中で死体と一緒に倒れていたことで、犯人の疑いをかけられた記憶喪失の主人公。疑いを晴らすため、探偵を頼って事件を解決してもらうことに。ここで読者は3人の探偵の中から好きな1人を選択。それぞれに捜査編と解決編があり、読者が選んだ選択肢によってストーリーが分岐します。まさにゲーム感覚でゲームオーバーとリセットを繰り返すのです。あなたは事件を解決に導くことができるでしょうか……?

ゲームブックという形式が非常に斬新でありながら、その中身には密室・見立て殺人・暗号・ダイイングメッセージといったミステリーの鉄板的要素がこれでもかと詰め込まれています。パラレルワールドのイギリスを舞台とし、探偵が警察よりも高い地位にいるなど、突拍子のない設定も面白さを際立たせる要素の一つです。

伏線回収も見事の一言。また山口雅也の本作は、1997年に『Cat the Ripper 13人の探偵士』というタイトルでプレイステーション・セガサターンにてゲーム化されており、ゲームブックから実際にゲームになるという珍しい試みもおこなわれています。

サムライ、ゲイシャ、殺人『日本殺人事件』

日本推理作家協会賞を受賞した山口雅也の小説です。アメリカから憧れの日本へとやってきた東京茶夢ことサム。私立探偵を営む彼は、継母の母国である日本で探偵事務所を開業する夢を抱いていました。

彼が見た日本は、侍や忍者が存在し、人力車が行き交い、建物の入り口には鳥居がそびえ立つ奇妙な世界。そんなちょっとおかしな日本で巻き起こる数々の事件にサムが挑む、山口雅也の連作短編集です。

著者
山口 雅也
出版日

外国人が書いた小説を作者の山口雅也が翻訳するという体裁で描かれた本作。外国人から見た誤った日本観をミステリーに落とし込み、それを探偵役の外国人が解決するという今までになかった異質の小説となっています。

親戚を頼って訪れた旅館で切腹事件に遭遇する「微笑みと死と」、茶の湯の席で密室殺人事件が発生する「侘びの密室」、海に浮かぶ「クルワ島」で連続殺人事件に巻き込まれる「不思議の国のアリンス」と、終幕となる「南無観世音菩薩」の4編を収録しております。

古来より日本に伝わるワビサビや、外国人が不思議に思う日本人のちょっとした特性が事件に繋がる部分もあり、怪しげな世界観ながら少し親しみを持ってしまうことでしょう。

ふざけているようで、中身はしっかり本格派ミステリー。外国人がイメージする日本は、やはりどこか異次元として彼らの目に映っているのかも知れません。真のサムライとなるべく、日本を必死に理解しようとしているのにやっぱりできないサムの姿に思わず笑いが零れてしまいます。また、念願の探偵事務所を開業したサムが活躍する続編『續・日本殺人事件』も発表されていますので、そちらもぜひ読んでみてください。

パンク探偵、イカれた登場『キッド・ピストルズの冒涜』

パラレル英国を舞台に、パンク探偵・キッドと相棒のピンク・ベラドンナが活躍する、山口雅也の「キッド・ピストルズ」シリーズ記念すべき第1作目。『13人の探偵士』同様、マザーグースになぞらえた事件を4編収録しています。

著者
山口 雅也
出版日

50年間一歩も外に出ず毒殺された一人の女優の物語「『むしゃむしゃ、ごくごく』殺人事件」、ある動物園で起きた園長とカバの殺害事件「カバは忘れない」、「曲がった男」と呼ばれる実業家が石膏で固められた死体で発見される「曲がった犯罪」、人気バンドのメンバーに送られた脅迫状と「赤ニシン」だらけの奇妙な事件「パンキー・レゲエ殺人」……一体どんな事件なのか、どれもあらすじだけでは全く想像がつきません。

この「キッド・ピストルズ」シリーズでは、全ての作品においてマザーグースの見立て殺人が行われるのが特徴で、よく知られた唄から少しマイナーなものまでバラエティ豊かに物語のアクセントとなっています。マザーグースを使った童謡殺人は時折ミステリー小説や漫画の中で見かけることがありますが、ここまで徹底して題材としたシリーズは少し珍しいかも知れません。

主人公のキッドとピンクのコンビも魅力的で、今や山口雅也作品は彼らを置いて語れないほど。一見ハチャメチャに見えるキッドですが、意外にも常識人で論理的に事件を解決するというギャップを持っています。

キャラクター同士の掛け合いも軽妙で、そのテンポの良さを気持ちよく感じた読者も多いはず。奇抜なのにその地盤にある堅実さ……キッドというキャラクターは、山口雅也の作品そのものを体現しているようにも思えます。巻頭にある「なぜ駒鳥を殺したのか?」という童謡殺人の考察エッセイも必読ですよ。

音楽CDになぞらえた短編集『ミステリーズ』

1995年「このミステリーがすごい!」第1位に輝いた作品で、山口雅也の10作品を収録した短編集。作品自体を音楽アルバムになぞって、「DISC1」と「DISC2」の2つに内容を分けています。そして巻末にLINER NOTEまで付けるこだわりっぷり。ハードカバー版からノベルス版・文庫版になる際、ボーナストラックとなる1編を追加収録したため、タイトルに「完全版」の文字が付け加えられました。
 

著者
山口 雅也
出版日
1998-07-15

DISC1・DISC2共に、5編の短編を収録。ループの先に事件が起こる「密室症候群」や、笑ったまま死んだ死体の真実を暴く「禍なるかな、いま笑う死者よ」、あるテレビ番組を見ていた夫婦を襲う疑惑「あなたが目撃者です」、世界最後の日に開催されるコンサートを描いた「≪世界劇場≫の鼓動」など、テイストの違う変化球ばかり。ミステリーというよりもブラックユーモアに比率が置かれ、その中で巧妙に張られた伏線とラストで受ける衝撃が非常に効いています。

これまでになかったミステリーの形に果敢に挑戦する、実験的な色合いが強い山口雅也の作品。「シュール」という言葉が最も似合うのではないでしょうか。時に玄人向けと評される本作ですが、ブラックさとシュールさがミステリー短編の醍醐味である以上、むしろ限りなく王道に近いとも言えます。読んでニヤリとさせられる、少し辛めのミステリーがお好みの方におすすめです。

まるで海外作品を読んでいるかのような雰囲気にさせてくれる山口雅也の作品。今までにない奇抜なミステリーを読みたい方、普通のミステリーでは満足できない方に特におすすめです。

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