「推理小説を読みたい!」といっても作家が多く、作品も色々あって、どれから読めばいいかわかりませんよね。今回は、初心者でも読みやすい推理小説を紹介していきます。
父の失踪と母の病死によって叔父一家に引き取られた主人公の少年・日下守(くさかまもる)が、個人タクシーの運転手である叔父が起こした交通事故をきっかけに、意図せずして事故や自分の父親の失踪の真相に迫っていく、というストーリーです。
新聞の社会面に掲載された、2人の若い女性の死亡事件の記事から物語は始まっています。そんな中、主人公の叔父の起こした交通事故をきっかけに、普通の高校生として平和に暮らしていた主人公の周りでも奇怪な事件が起こるようになり……。
この推理小説は、前半部分では主人公の叔父が引き起こした交通事故が中心に書かれています。後半部分ではその交通事故のみならず、冒頭で取り上げられた2人の若い女性の死亡事件や主人公の過去にまつわる闇、主人公がアルバイトをしているスーパーマーケットでの奇怪な出来事が結びつき、ダイナミックな展開になっていくのです。
物語の中盤で主人公の叔父が警察署から釈放されて帰ってくるところで一区切りつくのですが、実はそのあたりから後半部分、ひいては全体の終わりに至る伏線が用意されています。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 1993-01-28
この作品では、「人の持つ心の強さと弱さ」が鮮明に描かれます。それも、社会的な問題に触れる描写を通じて、描き出されているのです。
例えば、キーパーソンとなる4人の女性について。悪徳商法に手を染めていたという裏の顔を持ってはいるものの、やりたくてやったわけではないが大金欲しさにやらざるを得なかった、という心の弱さを描いている場面があります。
そういった人間の弱さを描く一方で、主人公が事件と立ち向かい、過去に自分と母親を捨てていった父親(市役所の幹部職員)を最終的には赦そうと考えるようになる、という成長も描いています。また、最後に主人公自身が事件の中で大きな役割を演じる人物を裁こうとする立場に立ったとき、それに対しどう向き合っていくか、という、彼自身が人として強くなっていく描写も見逃せません。
本作は推理小説ですが、サブリミナル広告などの社会問題もところどころに取り扱っているので、当時の社会問題が垣間見られる点に注目してもおもしろい作品です。
ある超高層マンションで変死を遂げた野口夫妻と、その現場に居合わせた20代の若者4人をめぐる物語です。
事件現場に居合わせた4人がそれぞれ証言するところからストーリーが始まります。やがて4人それぞれの事件に至るまでのお互いの人間関係や生い立ちを中心に物語は進んでいきます。
物語が進むにつれ、それぞれが抱いている過去の記憶や、想う人に対する複雑な心情とが垣間見えます。そして読み進めていくほどに、次々と衝撃的な事実が明らかになっていくのです。
- 著者
- 湊かなえ
- 出版日
- 2014-08-23
この作品では、特に4人の20代の若者(男性3人、女性1人)がそれぞれ抱く思いも注目です。
この4人にはそれぞれ秘密があり、4人とも自分以外の人間が抱えている秘密を知らずに、想う人のために行動しています。彼らのお互いの人間関係の中で気持ちのすれ違いが起こっている点が、この物語の奥ゆきを生んでおり、見逃せません。
さらに、4人の登場人物が10年後に改めて事件について語るシーンがあるのですが、このとき第1章の証言シーンと見比べながら読むとおもしろいでしょう。4人が証言の際にあえて言わなかった一部のことについて、垣間見ることができるのです。
もしかすると、この作品は推理小説にしては少し異色の展開をしているように感じるかもしれません。しかし、それがこの作品の魅力。物語の展開の仕方も含めて楽しむことで、より、この小説が深く味わえると思います。
ある雪の日の高校で、クラスの学級委員である8人の生徒が閉じ込められるところから始まる物語です。8人それぞれの過去の闇や、迫りくる恐怖と向き合いながら脱出しようとする描写が、強い印象を残すことでしょう。
舞台となる高校の校舎では、文化祭で1人の生徒が自殺しています。そして、彼の自殺した時間である5時53分が、この作品の中では大きな意味を持ってきます。なぜか、その自殺した生徒の名前を誰も思い出せないのです。そして、恐ろしいことに、登場する8人が5時53分になるたびに1人ずつ殺されてしまうのです。
8人は、その自殺した生徒が校舎に仮想空間を作り出して、自分たちを閉じ込めているという仮説を立てます。しかしその仮説は恐怖を生み、その恐怖に飲み込まれていく内容が、読者を惹きつけます。
閉じ込められた校舎(仮想世界)から脱出するためにも、8人は、自殺した生徒が果たして誰であるのかを考えざるを得なくなるのです。その場面はかなりスリリングで、読む手が止まらなくなるでしょう。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2007-08-11
この作品では8人の特徴や性格、彼らの過去の大切な思い出や闇などが詳細に描写されています。特に主人公であり、作者と同姓同名の女子生徒・辻村深月に関しては、過去に不仲になったクラスメートとの葛藤とそれに対して自身が抱いている心の闇が描かれており、この小説の中で重要な位置づけとなっています。
そのほかに登場する7人の学級委員についても様々な伏線があり、興味津々で読むことのできる作品。ボリュームも結構あるため、じっくり堪能したいという人に向いている推理小説です。
5本の短編が含まれている短編推理小説集です。
主人公は初登場時に中学3年生の仁木雄太郎と、その妹で中学1年生の仁木悦子という仲の良い仁木兄妹。1作目の「みどりの香炉」は、2人がおじさんの家に泊まりに行ったときに緑色の香炉が盗まれる事件に遭遇し、その解決のために奔走するという内容です。この作品は、盗まれた香炉を見つけ出すという、子供でも読みやすい内容となっています。
2作目の「黄色い花」では、兄の雄太郎が植物学を専攻する植物オタクな大学生になっています。今回起こった事件は、兄弟の住む隣の家での殺人事件。この中で雄太郎は、植物オタクの名にふさわしく豊富な植物の専門知識をいかして事件解決に奔走します。
ちなみに、本編に入る前に植物の予備知識についての説明があるため、この作品を読む際には特に難儀に感じることはないでしょう。
- 著者
- 仁木 悦子
- 出版日
- 2009-11-06
3作目の「灰色の手袋」は、クリーニング屋から持ち帰るものを間違えた雄太郎に代わり、取り替えにいった悦子が死体を見つけてしまったところから、事件解決に奔走するという筋書きです。
関係者の証言を照合して真相に近づくものの、その過程で様々な思惑と意外な真相が浮き彫りになっていく、ミステリアスな展開が見所となっています。
4作目の「赤い痕」では、兄妹の面倒を見てくれたおばあさんが何者かによって殺害された事件を解決していきます。雄太郎と巡査との短いやり取り、9年前に起こった事件とのつながりなどを通して、兄妹が快刀乱麻を断つ活躍ぶりをしていくところは見逃せません。
最後の「ただ一つの物語」は、妹の悦子が結婚し、2児の母親になった頃の物語です。ペンフレンドの七重からもらった童話の本とそれに対する投書を巡る謎に、悦子が挑む内容となっています。
全体として、窃盗事件や殺人事件などを広く扱っており、子供から大人に至るまで幅広く読むことができるようにできている短編です。そのため、小学生で推理小説を読み始めてみたいという人にもおすすめです。
女探偵・葉村晶の活躍を描いた「葉村晶」シリーズの最初の作品で、8編からなる短編推理小説集となっています。
ですが、ただの短編推理小説集ではありません。実は1~7章が最後の8章の短編につながるという練られた構成になっているのです。
主人公である女探偵・葉村晶は、この時まだフリーター。ひょんなことから、娘の自転車を乗り回すおとぼけな小林警部補と出会ったところから作品が始まっています。それぞれの章の中で葉村晶と小林警部補が交互に事件を解決して、最後の8章目で2人がコンビを組んで事件を解決していくのです。
- 著者
- 若竹 七海
- 出版日
各章に登場する事件は、どれも何気ない日常を生きる普通の人間によって引き起こされたもので、そこに極悪非道な殺人鬼などは登場しません。
ただ、そのぶん、人間の心の中にある闇ともいうべき暗い部分が浮き彫りになってくる作品集です。しかも、葉村晶の推理の仕方があまりにも冷静であるがゆえに、その事件の実行犯の暗い部分がなおさら色濃く反映されています。
短編の集まりのために読みやすく、また、凝った推理よりもクールな推理や心情の描写を楽しむ本書は、推理小説の初心者にこそ向いている作品かもしれません。
主人公は類稀なる推理力を持った青年音野順と、彼のために仕事場の一角を使って探偵事務所を開いた推理作家・白瀬白夜。本作では引きこもり気質な音野と、彼になんとか自信をつけさせたい白瀬の姿がコミカルに描かれています。密室殺人の現場にばら撒かれたトランプや「時間」を盗む泥棒、バレンタインの毒入りチョコレートなどなど……。白瀬は様々な事件現場に音野を引っ張り出し、彼が解決した事件に脚色を加えて小説を書いていくのです。
- 著者
- 北山 猛邦
- 出版日
- 2011-06-29
白瀬が書く小説の中の音野は華麗に事件を解決し活躍する名探偵ですが、実は目立つのが嫌いでとても気弱な青年。推理小説にお決まりの「犯人は、お前だ!」も大の苦手で、「名探偵」と呼ばれることにも引け目を感じています。彼がどのように成長していくかも本作の見どころです。
鎌倉の古書店を舞台に店に持ち込まれた古書とその持ち主に隠された物語を美人店主・栞子さんが読み解いていくストーリーの推理小説です。
本作は、古書を愛する美女・栞子さんとひょんなことから「ビブリア古書堂」で働くことになった本が読めない青年・大輔を中心に展開していきます。栞子さんは本の扱い方や好きな本の傾向などを見てその人がどんな人かぴたりと当てることができます。また作品に関する謎も話を聞いただけで真相を暴いくことができるのです。彼女のもとにはいわく付きの古書を持つ人々がやって来ます。ある人は過去と向き合うために、またある人は大切な人のために——。
古い本に隠されたどこか懐かしく切ない物語。それを読み解ける栞子さんにも、ある秘密がありました。その秘密を暴こうとする人間が現れることで作品は急展開していきます。
「わたし、古書が大好きなんです…人の手から手へ渡った本そのものに、物語があると思うんです…中に書かれている物語だけではなくて」
(『ビブリア古書堂の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち』より引用)
人々と共に長い時を過ごしてきた古書に、深い愛情と尽きる事ない探究心を持つ栞子さん。その思いが現れたのがこの言葉です。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2011-03-25
本作では、主人公2人のキャラクターや関係が特徴的に描かれています。普段は接客もまともに出来ないけれど、本に関することなら人が変わったように流暢に話す栞子さんと、あるトラウマから本が読めない体質になってしまった大輔。誰にも理解してもらえなかったその体質の理由も、栞子さんによって明かされます。2人の関係の変化も作品の見どころです。
本作には、名作文学から哲学書やビジネス書、漫画から少女小説までたくさんの本が登場します。いずれも栞子さんが魅力を存分に語ってくれており、題材になっている作品も読みたくなるはず。登場人物のキャラもたっていて初心者の方から推理小説マニアの方まで読みやすい作品です。
主人公は、天才数学者と称され将来を嘱望されながら不幸が続き、高校教師に甘んじている石神。彼は、アパートの隣の部屋で娘と2人慎ましく暮らす女性・靖子を唯一の心の支えに日々を過ごしています。彼女が務める弁当屋で弁当を買い、短くても言葉を交わすことが彼の生きがいなのです。ある夜石神は、彼女が離婚した元夫を殺害してしまったことに気づき彼女と娘のためにある壮大な作戦を実行します。警察を欺き、捜査の目から日々の希望を護るためにーー。
事件の捜査を担当する草薙刑事は友人であり物理学者の湯川に捜査協力を依頼しました。これにより石神の作戦は天才V.S天才の心理戦の様相を帯びて展開していきます。湯川は石神にとっても、大学時代唯一認めた友人であり最大のライバルだったのです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2008-08-05
本作は天才物理学者湯川が、大学時代の友人である刑事・草薙から持ち込まれた不可解な事件を解き明かす「探偵ガリレオ」シリーズの第3作となる長編で、直木賞受賞作品でもあります。
作中では天才物理学者・湯川の心情が細やかに描かれています。最大のライバル石神との再会を喜ぶ反面、彼は殺人に加担していることを察し苦悩します。
また序盤で殺人が起き、最重要容疑者もあがっていながら、最後まで真相がわからないままというのが本作最大の特徴です。最後のページまで読み石神がたてた作戦の全容が分かったとき、その覚悟と愛の深さに感動できることでしょう。トリックが分かると改めて読み返したくなる作品です。
「これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。石神のあの無表情の下には、常人には底知れぬ程の愛情が潜んでいたのだ。」(『容疑者Xの献身』より引用)
苦労を重ねてきた靖子は全てを知り、自分に向けられた愛の深さを知るのです。
推理小説でありながら美しく哀しい純愛小説、ぜひご一読ください。
主人公は、弱小吹奏楽部に所属する活発な少女チカと、彼女の幼馴染で頭脳明晰、ちょっと残念な秘密を抱えた少年ハルタ。二人は吹奏楽部の甲子園「普門館」への出場を目指して部員集めに奔走します。このように書くと一見推理小説には見えませんが、実はチカとハルタの部員集めは一筋縄ではいかないものばかりなんです。
六面が全て真っ白なルービックキューブや変人部長が率いる演劇部との即興劇対決、誰も見たことがない「思い出の色」探しなど、喉から手が出るほど部員が欲しい二人の前にやってくるのは一癖も二癖もある難題と、それ以上に癖のある登場人物ばかり。本作には、そんな中でもチカの前向きさとハルタの知識で問題を解決し少しずつ部員を増やしていく様子が描かれています。
本作は「ハルチカ」シリーズの第1作目。文体も軽く個性的な登場人物も多いため、読んでいると漫画やアニメを見ているような気持ちになります。しかし扱われているテーマは、中国の一人っ子政策や小児まひ、ベトナム戦争など国内外で社会問題になっているものばかり。文体が軽いからこそ、テーマの重さがズシリと胸にのしかかってくるような感覚があります。
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2010-07-24
「いつか大人になって話すときがきたら、辛かった思い出を口にすることはしないだろう。(中略)その代わり、素敵な寄り道ができたことはみんなに伝えたい。楽しく生きたことは教えてあげたい。それが許される宝石箱のような時間は、わたしたちにはまだあるのだ。」
(『退出ゲーム』より引用)
これは、難問奇問を乗り越えたチカの決意の言葉です。
高校生活は、3年間と短いものです。しかし、その分友達と過ごす時間や夢中になって打ちこんだものの記憶が濃く残ります。チカたちが懸命に吹奏楽に打ち込み、少しずつ仲間を増やして絆を深めていく姿は応援したくなると同時に自分の青春を思い出すきっかけにもなるはずです。
軽いものから読みたい初心者の方にも、じっくり考えて読みたい推理小説マニアの方にもオススメの作品です。
この作品を紹介する事が出来る日が来るとは……感無量です。驚きと衝撃に溢れていて、読み終わった後には、誰かにすすめたり話をしたりしたくなる、そんな作品なのです。
その賞賛すべき点は色々とありますが、巧みに隠された伏線。決して強調しているのでは無く、かと言ってすぐ忘れてしまう程薄くもありません。「ん?」と何となく心に小さく残っていた疑問が、何とたった1行で、恐ろしいほどの衝撃と共に解明されるのです!!
- 著者
- 綾辻 行人
- 出版日
- 2007-10-16
「お前たちが殺した千織は、私の娘だった。」四重殺人事件と呼ばれる謎の死を遂げた建築家、中村青司の手紙から全ては始まりました。無人島に建てられた中村青司の十角館において、合宿中のミステリ研究会メンバーが次々と殺されていく中、それを知る術もない元ミス研の江南は本土で青司の事件を追います。
島と本土の動きを交互に追いながら、物語は進んでいきますが、そのどちらにも不気味な影を落とし続ける中村青司とは一体どんな人物なのか、果たして彼は生きているのか、そして島にいる仲間達の運命は!?
N大学工学部建築学科助教授の犀川僧平と、大学2年生の西之園萌絵の2人が難事件に挑むS&Mシリーズの第2作目ですが、このシリーズを通して理系の話が所々に出てきます。その為に、理系は苦手・難しいと感じてしまい読むのを遠慮してしまう人もいるようです。
しかし、実は決して難しく読みにくい作品ではありません。メインとなる密室や殺人のトリックには理系の問題は使われていませんし、犀川と西之園の2人の関係はとても微笑ましく読めます。それに、2人は助教授と大学生なので、普段の会話にまったく授業や研究の話が出るのは自然な事です。なので、今まで遠慮していた方はぜひ「2人は真面目に話をしている」と考えて読んでみて下さい。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 1999-03-12
そんな真面目な2人は今回、通称極地研と呼ばれる研究会の実験に立会い、その後の打ち上げコンパにて事件は発覚します。氷点下20度という実験室の、準備室と搬入室でそれぞれ研究会メンバーが殺されているのが発見されたのです。どちらも完全な密室状態、そして警察の捜査によって行方不明だった研究会のリーダーの白骨遺体まで発見されてしまい……!?日々研究に励む彼らに一体何があったのでしょうか?
クールであまり多くを語らない犀川に代わって言えるのは、複雑なのは密室トリックだけではないという事、人の心や人間関係もまた、簡単には解けない程に複雑なのです。
主人公、伏見亮輔は大学時代の旧友が集まったペンションで、後輩の新山和宏を殺害します。その殺人事件に旧友たちは皆、気付かず、部屋から出てこない新山に疲れているからだと結論付けました。
しかし後輩である碓氷優佳だけが疑問を持ち、新山の部屋の鍵のかかり方、カーテン越しの部屋といった小さなことから新山が死んでいることが露見します。新山自身による自殺説もささやかれる中、碓氷は小さなことから言葉を投げかけ、伏見は窮地に立たされてしまうのです。
- 著者
- 石持 浅海
- 出版日
- 2008-02-08
本作は犯人視点で語られる“倒述ミステリー”と呼ばれる作品です。犯人対探偵の形ですが、対決はけん制や疑いような証言という言葉での対決です。新山に対して意識が向かないようにする伏見と、自然な流れで新山のことについて言及していく碓氷。犯人として窮屈さが増していくストーリー展開は手に汗を握ってしまいました。
そして碓氷が謎を解いた理由には彼女の思いが隠れており、冷ややかな驚きと薄暗い面白さに思わずニヤリと笑ってしまうのです。
須藤友三は警視庁捜査一課の刑事。ある日銃撃によって頭に弾丸を受け、捜査一課を外れることに。数か月後、須藤がリハビリを兼ねて配属された先は、容疑者のペットを保護する「警視庁総務部総務課動植物管理係」でした。
須藤はこの「動植物管理係」で、新米巡査の薄圭子と出会います。彼女は大の動物好き。動物に関するオタク知識も次々と飛び出します。
- 著者
- 大倉 崇裕
- 出版日
- 2012-11-15
殺人の容疑をかけられた八木という男が事故で意識不明に。彼が自宅で飼っていた十姉妹から謎を解く「小鳥を愛した容疑者」。自殺した山脇が勝っていた巨大な蛇の世話をするため、須藤と圭子が現場に向かいます。しかし、隣人が死んだはずの山脇を見たという「ヘビを愛した容疑者」など、4編を収録。
「警視庁いきもの係」シリーズの第1作目で、ライトなミステリーです。動物たちに強すぎる愛情を持つ薄圭子は、被害者が飼っていたペットを見ることでだんだんと事件解決の糸口を掴んでいきます。
「須藤は改めて、エプロン姿でちょこまかと猫を追う、薄を見た。
警察博物館の最上階で、ネコがどうどうと飼われている。それも、制服の上にエプロンをした女性警官によって。」
(『小鳥を愛した容疑者』より引用)
この作品の中で最も愛すべきは、薄圭子の警察官らしからぬほんわかとしたキャラクターでしょう。須藤と圭子の出会いのシーンは、とてもミステリー作品とは思えないほどほのぼのとしています。また、堅物の須藤と天然の圭子によるどうにも噛み合わない会話が絶妙で、読むうちに2人のやりとりに魅了される読者はきっと多いはずです。
主人公である僕が3年前の事故と、現在の“奈々子さん”の真意について推理をしていく青春ミステリーです。過去、現在、2つのことから2人の関係が少しずつ描かれていく魅力的な作品です。
- 著者
- 高木 敦史
- 出版日
- 2010-08-31
3年前の事件には3人の人物が関わっています。主人公である僕と、N、そして名無しの“奈々子さん“です。小学校の社会準備室で戸棚が突然開き、重い荷物、凶器が三人を襲います。その事故により、僕は体の自由を失い、Nは亡くなり、“奈々子さん”は名前を呼ばれると発作を起こしてしまう後遺症を持ってしまいます。
しかし3年経った今、“奈々子さん”は事故にしては不自然な点があったと僕に伝えるのです。驚く僕は当時の教室の状況、Nと僕、“奈々子さん”の友人関係等を思い出し考えます。過去のエピソードから詳細を思い出し、証拠を集めていくのです。さらに現在の“奈々子さん”が今、告げた理由も組み合わさり、僕の推理は次々と形を変えていきます。
そして最後に明かされる僕が結論付けた“奈々子さん”の本性と彼女の真意。そのわずかなズレはユーモアもありながら切なく、笑いながら涙を流してしまうかもしれません。
12年前の夏、熱海の別荘に滞在していた淳は、「蔦屋敷」と呼ばれる洋館で、白いドレスを着た少女・百合と出会います。時は流れ、淳は父や腹違いの兄と同じく画家となります。しかし、画廊が火災に巻き込まれ、すべての作品を失ってしまうのです。この火災をきっかけに、淳の周りで次々と事件が起きていき……。
- 著者
- 服部 まゆみ
- 出版日
1988年に発表された『罪深き緑の夏』。古い洋館「蔦屋敷」に住まう美しい兄弟、青髭と噂される人物による耽美小説、淳が描く童話、フレスコ画など様々な趣向が幻想的で美しい雰囲気を作り出します。
本作の魅力は、複雑な人間関係。まず、淳は愛人の子です。美男の異母兄や、洋館に住む美しい兄妹、百合と瓜二つの少女など、人々は乱れた人間関係で複雑に繋がっているのです。一般的にあまりない関係なので、どこか幻想的にすら感じます。ただでさえ美しい世界観を、より上質に変える重要な要素といえるでしょう。
舞台は1980年前後のアメリカ、ライツヴィルという町です。3年前、結婚式直前に突然失踪していたジムが戻ってきました。そのまま婚約者のノーラと式を挙げますが、主人公、エラリイ・クイーンはジムの失踪と帰還理由に疑問を持ちます。さらに彼はジムの筆跡による妻の殺人予告を見つけてしまいました。
ライト家を中心に、エラリイ・クイーンはライト家の末っ子パトリシアと協力し、ジムの失踪、帰還理由、そして手紙という謎に挑んでいきます。しかし2人の目をかいくぐり、手紙通りに事件は起きていくのです。
- 著者
- エラリイ・クイーン
- 出版日
- 2014-12-05
3つの謎はそれぞれ絡み合いながらエラリイ・クイーンとパトリシアの疑問を大きくしていきます。そして次々と規模を大きくしていく犯罪にライト家の空気は張りつめていき、ライツヴィルには怒りが広がっていきます。
そして真相が明かされたとき、ノーラとジムの秘めていた思いが浮かび上がり、印象が大きく反転します。自然でありながらどしんと響いてくる真相に全ての疑問が繋がり、読み終えた後でもすぐには物語から抜け出せないかもしれません。
「ヴェルーヴェン警部」シリーズの第2作。海外諸国で高い評価を受け、日本国内でも「本屋大賞」や「このミステリーがすごい!」などで賞を受けています。重厚な読後感と何度も読みたくなるやみつき感が味わえます。
本作は若い女性が誘拐、監禁されることから事件が始まります。短い章立てで彼女を探すカミーユ・ヴェルーヴェン警部を始め警察の捜査の様子と、暗い密室からの脱出を試みる女性の生々しい様子が交互に描かれていくのが特徴です。
しかし、捜査が進行し女性の秘密が明らかになるにしたがって事件はどんどん様変わりしていきます。誘拐、監禁事件は単なる氷山の一角でしかないのです。
- 著者
- 出版日
- 2015-10-09
女性の捜査を担当するヴェルーヴェン警部は、身長145㎝の小柄な体がコンプレックス。妻を凄惨な事件で亡くし、この捜査が復帰戦という設定です。この妻に関する事件というのも本作の中で頻繁に語られるので、気になる方は1作目の『悲しみのイレーヌ』から読まれるといいと思います。もちろん、本作単品でも充分お楽しみいただけます。
疲れるけれどやめられない、最後まで緊張感とくらくらするような混乱が詰まった推理小説です。