みなさんは似鳥鶏という作家をご存知でしょうか?そのユニークな名前からは想像できませんが、実は推理小説作家なんです。物語の中に次々とトリックを仕掛け、解いていく。今回は、テンポが良く、少しコミカルな似鳥鶏ワールドをご紹介します!
似鳥鶏(にたどり・けい)は、1981年に千葉県で生まれました。2006年に『理由(わけ)あって冬に出る』で鮎川哲也賞に佳作入選し、翌年に小説家としてデビューします。
デビュー以降、精力的に執筆活動を続け、たくさんのユニークな作品を発表していますが、特に目を惹くのはそのタイトルです。今回ご紹介する作品以外にも、『まもなく電車が出現します』『ダチョウは軽車両に該当します』『迷いアルパカ拾いました』など、どれも特徴的なものばかり。
「推理小説って、トリックが難しかったりするから取っつきにくい……」と感じてしまう方も多いかと思いますが、重くなりがちな内容を、独特な語り口の地の文が絶妙に柔らかくしてくれます。地の文は主人公が語り手であることが多いのですが、そのコミカルな語り口に好感を覚える方も多いのではないでしょうか。
画廊の息子、緑川礼は高校で、無口な美少女の千坂桜と出会います。礼は小さい頃から絵画に親しみ、高校でも美術部で絵を描き続けていましたが、めぼしい友達は変わり者の「風戸」ただ一人、という冴えない高校生活を送っていました。
学校の絵が壊されるという事件が発生。礼はその犯人だと疑いをかけられてしまうのです。誰もが彼を疑う中、無口な千坂桜が礼は無実であるとかばってくれて……。
この事件をきっかけに、礼と桜はお互いに惹きつけられるものを感じ、だんだんと距離を縮めていきます。桜には洞察力と絵画のセンスが備わっていましたが、実は彼女にはある大きな秘密があるのでした。
- 著者
- 似鳥 鶏
- 出版日
- 2017-03-29
この小説では、高校・芸大・社会人と、主人公を長いスパンで追って描いています。さらに、絵画というどこか神秘的な雰囲気を持つ芸術を中心に物語は展開していくのです。作中には物語に登場する有名な絵画が口絵としてつけてあり、これは似鳥鶏の独創性を表している部分でもあります。
今までの作品には見られなかった似鳥鶏の世界が広がっているため、新しい魅力を発見することができる作品と言えるでしょう。さまざまな要素を網羅した小説、ぜひ読んでみてください。
主人公の葉山が通う市立高校で幽霊が出る、という噂が広まり、葉山は友人の秋野や三野、先輩の高島などと、その現象の真偽を確かめるために動き出します。そこにかなり変わった性格の持ち主である文芸部長の伊神が加わり、次々と謎を解いていくのです。彼は文芸部長なだけあって、ミステリーなどには目が無いのでした。
- 著者
- 似鳥 鶏
- 出版日
舞台は高校で、幽霊がらみのミステリーを頭の切れる高校生が解いていく、という設定はまさに王道。ですが、王道に迎合して終わる似鳥鶏ではありません。
入念に組み立てられ、数多くの謎がどんどん出てきて、その謎の解明の仕方も独創的です。とにかくキャラの立っている伊神と、その行動や言葉に心の中で、時には声に出して的確な突っ込みを入れる主人公の葉山との掛け合いが絶妙で、ミステリアスなストーリーにアクセントを加えています。
またこの作品には、事件の現場となる高校の部室の見取り図が具体的に載せられていて、その趣向の凝らし方にも思わず舌を巻きます。
怪奇現象、幽霊騒動という非現実的な事件から始まりますが、ラストはとても非現実的とは言えない、実際にあり得るような展開に。ストーリーは意外な広がりを見せ、最後まで読者を飽きさせません。テンポよく、コミカルに描かれていますが、ぎくりとさせられるところもある、読み応えのある小説です。
巡査の設楽と、おっとりしていて例え話が長く、お嬢様のような容姿なのに、常識や方向感覚があるとはいえない警部の海月千波は、捜査一課でペアを組んで捜査に当たることに。
設楽は海月千波に振り回されっぱなしです。彼女のペースに振り回された結果、2人は戦力外通告を受けてしまいます。しかし設楽は、戸惑いながらも彼女の洞察力と肝の座った行動力を認めはじめ、2人はだんだんと息の合ったバディになっていきます。そんな2人が捜査している事件は、だんだんと複雑で深刻な大事件へと発展していき……。
- 著者
- 似鳥 鶏
- 出版日
- 2013-10-08
この作品の見どころは、何と言っても設楽と海月千波の掛け合いです。はじめは海月千波のペースについていけなかった設楽も、物語が後半になるにつれ、良くも悪くもだんだんと会話のペースが合うようになってきます。また、海月千波以外の登場人物も1人1人キャラが強く、コメディ要素満点なところも、この作品の特徴です。
コメディ要素が強い一方で、似鳥鶏らしく、かなり凝ったトリックや背景の設定をしてきています。知らぬ間に伏線があったりと、何回読んでも毎回楽しめるでしょう。
シリーズになっており、彼女たちの活躍を何冊にも渡って楽しめる点も魅力のひとつです。
主人公の桃本は動物園に勤務する飼育員。桃本は、同じ職場に勤務する同じく飼育員の服部や七森、村田、獣医の鴇(とき)先生など、個性的な仲間たちと動物の世話や管理に奔走する毎日を送っていました。
しかし、飼育していたワニを盗まれるという事件をきっかけに、動物園はごたごたに巻き込まれていきます。犯人はどうやってワニを盗み出したのか、そしてなぜワニが必要だったのか、誰が盗んだのか……。一見突飛な事件の裏には、実は重大な事件が隠れていたのでした。
- 著者
- 似鳥 鶏
- 出版日
- 2012-03-09
動物園という、事件など起こりそうもない場所が舞台である上に、事件を解き明かしていくのが探偵ではなく、飼育員や獣医という、かなりユニークな設定の作品です。登場人物たちも、似鳥鶏作品らしくキャラが立った人々であり、彼らの行動や言動も個性的で面白いものになっています。
また、この作品では、人と人だけでなく、人と動物との掛け合いも描かれています。主人公の桃本は、とにかく小さい頃から、そして飼育員となった今でも、そこらじゅうの動物に舐めまわされていたり、七森は飼育されている動物の名前に「さん」をつけて呼んでいたりといった様子なのです。
加えて、人間と動物との関わり方、関係についても、読者に再考することを促すようなシーンが何回かあり、いつもの似鳥鶏ワールドにプラスして感じるものが多い作品になっています。
主人公の青井は笹倉書店で働く、仕事のできるアルバイト店員。店長はもっぱらバックヤードでポップを書いたり、いくつかアルバイトに対して指示をしたりするだけで、実務は青井たちに任せっぱなし。
そんな、店長とは言い難い店長ですが、本の発注の正確さと、ポップで紹介した書籍は必ず完売にする、という「神通力」を持ち、さらに、お店で生じる謎までもあっという間に解いてしまうのです。
ある日、そんな順調そうな笹倉書店に、不穏な空気が流れ始め……。
- 著者
- 似鳥 鶏
- 出版日
- 2016-01-19
主人公の青井は少し冷めたように見えますが、実際にはそれと真逆の、仕事に対する愛だったり熱意だったりが、青井の視点から描かれる地の文に色濃く表れているのです。店長も含め、青井以外の登場人物も皆とても個性的で、書店のアルバイト店員同士の掛け合いも読者を飽きさせません。
1冊に4つのストーリーがまとめられていますが、1つ1つの物語がそれ自体で完結しており、テンポの良さを感じられるでしょう。
最も特徴的なのは、頻繁に現れる「脚注」です。「脚注」と言ってもみなさんが想像するような、辞書から引用されたものではなく、作者、もしくは青井による独自の解釈が載せられています。その脚注を追っていくのも、なかなか面白いですよ。
似鳥鶏の作品、いかがでしたでしょうか?
コミカルではあるけれど、しっかりミステリー、というメリハリのある作風は、シリーズものであっても、また別の作品であっても、読者を飽きさせることのない工夫に富んでいます。
ぜひ、今回ご紹介した作品以外も、手に取ってみてください!