パリに10年間住んでいたわたしが選ぶ、パリ紹介本

更新:2021.12.13

パリで約10年暮らしていました。 行ったり来たりをして、現在は日本で暮らしているのですが、旅行や日本のテレビで観るパリはキラキラしているなぁと感じます。華やかで、楽しくて、美味しくて、芸術家や恋人達の街。そんなイメージがあるのかもしれません。 しかし暮らしてみると様々な複雑な模様が見えてきます。そんなパリについて、日本から渡仏した人間の目線で書かれている本を、私の経験も含めながら、今回お伝えしようと思います。

ブックカルテ リンク

パリを愛すれば日本も愛するようになる。そして明確な目的を持たずに飛び込んだ後に待っているもの。

『金曜日のパリ』は人気アナウンサーだった雨宮塔子さんがパリに渡られてからのことを綴った本です。他にもたくさんパリに関する本を出されているみたいですが、こちらの本は日本からパリに渡るところから話が始まります。

ベテランのパリジェンヌになられた方のお話もとても興味深いですが、そうなるまでのプロセスや始まりの部分にこそ人間味があって、リアルに伝わってくるものがあると思います。そして雨宮さんが渡られた1999年頃、ちょうど同じく私も2度目の渡仏をし、パリで再び家族で暮らし始めました。

残念ながら私はお見かけしたことはないですが、知人はすれ違ったことがあり、「目がとにかくすごく大きかった!」と言っていました。雨宮さんは、“フランスに惹かれるほど、日本への思慕も強くなる”と綴っています。本当にその通りで、ここに暮らすことで辛いことや厳しいことがたくさんあっても、パリに漂う独特の香りに酔わされ、離れたくない気持ちが強くなっていきます。その一方で、日本への思いもどんどん強まってくるので、渡仏者の大半が一度苦しくなってくる時期があります。

未来を見据えた時に、どの道を選ぶべきなのか迷う時がくるのです。明確な目的を持たずにやってきた著者の雨宮さんにはどんな道が待っていたのでしょうか。

この本はパリやフランスの雰囲気を伝えつつも、新しいことにはっきりとした目的を持たずに飛び込んでいくということがどういった感じなのかを明るく綴っている所が魅力だと思います。パリとは関係なく、人生の言葉として、深く頷くポイントがいくつかあります。読後は自分も好きなことに飛び込んでみようかなと考えてしまうかもしれません。

著者
雨宮 塔子
出版日

パリの区にはそれぞれの色がある。

『パリ20区物語』は読んでいて、うんうんと頷いてしまう所が多いです。今現在のパリはまたどんどん変化しているのかもしれませんが、色濃くパリを感じられる時代に暮らされていた著者の吉村葉子さんが綴られている文を読んでいると、自分がパリに居るような錯覚さえ覚えるのです。

懐かしい! と思ったのは、”エトランゼ(異国人)の私に道を聞く人が多いのにも驚いた” という所です。全く同じことを私も感じていました。本当によく道を尋ねられました。フランス人に!

日本では道に迷っても、他にもたくさん人が行き交う中で、わざわざ明らかに国籍の違う人を選んで道を尋ねるということはなかなかないのではないでしょうか。そこにもざっくばらんなフランス人らしさを感じます。

20区で構成されたパリを1区ずつ宇田川悟さんの素敵な写真と共に紹介されている本です。パリに行ったことがある人もない人も、その歴史や芸術に触れながら散歩をしているような気持ちにさせてくれます。それぞれの区で雰囲気がガラッと変わるので、1つ1つ私が知っていることをご紹介するとなると何年もかかりそうだということが、今回自分でも区の特徴を書いてみようと試みて分かり、この1冊にまとめあげた吉村さんに感嘆しています。

エスカルゴのように区が順番に渦巻いているパリは狭く感じられるので、この本を片手にぐるっと区から区へと歩いていけるかもしれません。

著者
["吉村 葉子", "宇田川 悟"]
出版日
1999-12-10

フランス人っぽくなるまで。

戸塚真弓さんの『暮らしのアート-素敵な毎日のために-』はお小遣いではない自分のお金で本を買うようになってから買った、私にとって初めての文庫本です。家にあった『パリ住み方の記』を読んで戸塚さんの書くものに惹かれ、この本を買いに走った訳です。

戸塚さん夫妻は大変なグルメでもあるので、美味しそうなものが登場する作品が多く、それが戸塚さんの本の魅力でもあります。『暮らしのアート-素敵な毎日のために-』にもフランスならではの美味しいものがたくさん登場します。『パリ住み方の記』の方は食に関する内容はほとんどなく、パリでの住居問題について経験されたことにそって書かれています。

情報としては、時代の流れとともに変わったこともあるかもしれませんが、毎章出てくるフランスらしさやフランス人らしさなどに面白みがあり、いま読んでもフランスの色を色濃く感じられます。戸塚さんは自分に正直に、そして無駄のない生活を送っているところが読んでいて惹かれるポイントです。

どちらにも登場する戸塚さんのご主人はフランス人なのですが、いつもいい味を出してくださっています。戸塚さんご本人も良い意味でフランス人っぽい所があると感じました。誰しもフランス、とりわけパリに住んでいると自分でも知らずの内にフランス人っぽくなっているということがあります。

そんな私も1歳からの幼少期に住んでいたので、ちょっと変わり者になってしまいました。私の場合はフランス人にも、日本人にもなりきれない、中途半端な性格で、昔はそんな自分の嫌いな所も多かったです。しかしある時、パリでの友人の「自分で自分のことを好きじゃないのに、他の人が自分を好きになると思う?」という言葉が稲妻のように心に突き刺さり、あの日から変われた気がします。むしろ少し変わっていることが好きになりました。

パリジェンヌは自分に自信を持っている人が多いです。その分、思った事はなんでもすぐ行動に移せる力を持っています。だから他の人から見ても素敵に見えるし、生き生きしているのでしょう。私はそんなかっこいいものではありませんが、自分の人生が好きで、自分の意見をあまり隠さない今の私があるのは、パリで受けたたくさんの影響が大きいのは間違いないです。

そんなパリに住んでみたいと本気で考えている方は、ぜひリアルな一昔前のパリが綴られたこの本を読んでみてください。あなたのパリに対する色は何色から何色に変化するでしょうか。

著者
戸塚 真弓
出版日
著者
戸塚 真弓
出版日

パリに渡ると、最初に思い描いていたイメージが一度崩れ、ある壁を越えた時にまた最初のイメージに近いものに戻ったりします。例えば、評判の名曲の演奏に期待を膨らませて聞きにくると、ちょっと音程のずれた音楽に愕然とするのですが、ある日やっぱりそれが素晴らしい名曲に聞こえるようになる、そんな街です。

今回はそんなパリに渡って、酸いも甘いも経験された3人の本を選ばせていただきました。少し時代が前のものかもしれませんが、これこそが私の知っているパリらしさであり、変化をあまり好まないフランス人さながらに私も知っているパリの根底はずっと変わらないでいてほしいとどこかで願っている故のセレクトとなりました。

これらの本を久しぶりに読み、パリに思いを馳せていたら、まるで瞬間移動でもしたみたいにすぐ近くにパリを感じられました。読み終わった後はしばらくパリジェンヌの残り香のようなものがずっと追いかけてきます。

昨年より、パリは厳しい状況にあり、それについては辛い気持ちもありますが、なにがあっても私の中のパリへの深い愛が消えることはないですし、応援するつもりで今回は明るく紹介させていただきました。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る