当時のビートルズを取り巻く状況――たとえばジョン・レノンの「キリスト発言」の波紋や、ラジオや新聞の報道、本番前の控室での様子、4人を訪ねたジョーン・バエズ姉妹の様子や二人のインタビュー記事などをはさみながら、「最後のツアー」の様子を克明に伝えている。見どころはやはり、約100ページの後半4割を占める最後のキャンドルスティック・パークでのコンサートの模様だ。「カメラ片手に4人はステージに上がった」。そんな話は80年代前半ぐらいに耳にしていたが、まさかね、と。でも、たしかにジョンとポールの二人は、ステージに上がる直前にカメラを持っているのがわかる。演奏直前に、大勢の観客を撮影するポールは、どんな心境だったのだろうか。前日の8月28日のステージ写真なども収めた『THE BEATLES 1965/1966/1967』(撮影は長谷部宏)や、日本公演をまとめた浅井慎平『THE BEATLES IN TOKYO 1966』も併せてぜひ。
「愛こそはすべて」はこうして生まれた
1曲だけで写真集が1冊できちゃうんだからすごい。しかも124ページ135点以上掲載だ。もちろんこれ、全世界衛星生中継番組『アワ・ワールド』用にイギリス代表としてビートルズが「愛こそはすべて」を演奏することが決まり、それだけの写真素材が集まったから、ということだけれども。でも、なぜそれだけの「素材」が集まったのかというと、放送前日の67年6月24日にカメラマンや記者など100人以上をアビイロード・スタジオに呼んだからである。シングル「愛こそはすべて」発売の30年後に出た本書は、そのときのリハーサルの模様を中心にまとめたものだ。表紙の写真も“All You Need Is Love”の書体も、それを見ただけで“1967年”とすぐに答えたくなる鮮やかなデザインだ。
1968年にもなると、4人が一緒に写真撮影に応じる機会は少なくなる。そんな中、『ザ・ビートルズ』(通称:ホワイト・アルバム)のセッションの合間に、68年では唯一、野外での撮影が7月28日に1日がかりで行なわれた。その時の写真はベスト盤『ザ・ビートルズ 1967-1970』(通称:青盤)の見開きの中ジャケットほかあちこちで登場しているが、本書はそのときのフォト・セッションの様子を一冊にまとめたものだ。この本もデザインや写真の配置がいい。と思ったら、これもまた、版元はイギリスのTRACKS。先に紹介した『All You Need Is Love』に比べると全体のボリュームは半分以下だが、本の造りの良さが何より魅力。「持っていたい」と即座に思わせる魔力(?)がある。
the summer of 1968
1996年09月15日
Peter Doggett 著/Don McCullin&David Magnus 撮影
Tracks
なぜか上半身裸のポール(太り気味)――上着を脱いだり靴を脱いだりするのが好きなのだろうか――や、変なマントを纏った4人、オウムを肩に乗せたジョンとポールなど、和気藹々のメンバーを見ると、この約3週間後(8月22日)にリンゴが一時脱退しちゃうようには全く見えないけれど、カメラマンは69年の“ゲット・バック・セッション”でメンバーの“緩和剤”となったビリー・プレストンと同じような存在でもあったのだろう。68年の写真集としてはもう一冊、インドのリシケシ滞在時(2月)の写真をまとめたポール・サルツマンによる『Beatles in Rishikesh』もおススメしたい。サイケ好きはそっち、である。そしてまた本書のベストは、冒頭にいきなり登場する、他のメンバーと一緒に散歩するジョンとヨーコの、他では見たことがない2ショット、である。
表紙を見て、「あ、これ、海賊盤『THE LOST LENNON TAPES VOLUME TWO』のジャケットに逆版で使われたやつだ!」とすぐにわかる人は重度のビートルズ狂。と、これは断言。逆版までわかるのか? ということだが、ブートのジャケに使われるのは、ある意味名誉ではある。それはさておき、本書は上記の『GET BACK』に掲載された写真も含め、アメリカ編集盤『ヘイ・ジュード』のジャケット撮影時の別カットや、ローリング・ストーンズのテレビ・ショー『ロックンロール・サーカス』時の写真などのビートルズ関連以外に、ストーンズを中心に、ザ・フーの『フーズ・ネクスト』の別カットなどが多数掲載。60年代末から70年代初めにかけてのロックの写真集の趣がある。