学習用にもおすすめの漫画5選!日本語の美しさから太平洋戦争まで

更新:2017.4.20

勉強は大事だとわかっていても、内容が難しい本を読む手はなかなか進まないもの。興味深く学べるのならば、それに越したことはありません。今回は、楽しく読んで学べる文化的漫画5作品をご紹介しましょう。

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【国語】季節と出会うジャパネスクロマン

主人公の青蛙(せいあ)は、人気作家で双子の姉の赤兎(あかえ)に代わって取材している時、廃墟で不思議な体験をします。昼なお暗い廃墟での謎の男との出会い。誰も住んでいる様子のないそこでもてなされますが、気づけば男の姿は消えていました。

青蛙には3年間、原因不明で眠っていた過去がありました。昏睡の中で見た奇妙な夢。彼自身は覚えていなかったものの、双子という絆のもつ不思議か、姉の赤兎は夢の内容を知っていました。それを元に赤兎は作家として成功したのですが、以来、彼女は兎青蛙のリハビリを兼ねて彼に取材を頼んでいたのです。

そんな因縁の末に、謎の男が鍵となって突然思い出す、夢の中での物語。そして謎の男そのものが、季節を象徴するもののように感じられました。その時から、青蛙は、まさに季節を象徴するものである「季語」が人の形として見えるようになっていました。

著者
椎橋 寛
出版日
2016-12-02

『ぬらりひょんの孫』で知られる椎橋寛による、情緒溢れる和風ファンタジー漫画です。

元来、日本には「言霊」という概念があります。言葉には魔力が宿っており、それを口に出すと多かれ少なかれ、言葉通りの事象を引き起こしてしまうというもの。だからこそ、みだりに言葉を使ってはならない、不要な言葉を入れない、という日本らしい概念が形作られたのでしょう。

そういった奥ゆかしさの結晶とも言えるのが俳句です。「5・7・5」の限られた文字数で作られる、世界でも稀に見る短い詩の文化。ご存知のように、俳句には原則として「季語」が不可欠です。

季語とは四季折々の季節感を表し、その時期ならではの事象、生物を取り込んだ定型文。例えば松尾芭蕉の名句「古池や蛙飛びこむ水の音」の季語は「蛙」で、春を意味します。冬を冬眠で過ごしていたものが、春になると活発に活動し始めるので、蛙は春を象徴する言葉とされています。

青蛙はそんな季語が擬人化して見えるという不思議な能力の持ち主です。俳句と言われると、高尚な文学という気がして思わず身構えてしまいがち。しかし、青蛙の目を通じて季語を見ると、その特徴が擬人化されているためわかりやすく、親しみが湧きます。

俳句をモチーフにしているだけあって、物語はあまり詳しく語られず、読者の想像力に委ねられる描写が多いです。雰囲気を重視した精妙な筆致で描かれる「静」の漫画と言えるでしょう。

耽美な雰囲気を漂わせる謎の男、木下闇。この麗人との出会いから、青蛙は季語達の世界を垣間見るようになります。不思議で奇妙で爽やかな季節の物語をお楽しみください。

「何虫の蝶かわづらふ木下やみ」(『東京季語譚訪』より引用)

【生物】生命に感謝して「いただきます」

日本有数の敷地面積を誇る大蝦夷農業高等学校、通称エゾノー。進学校の学力競争に挫折した八軒勇吾は、目的も定かでないまま、実家から離れたいがために寮生活の出来るエゾノーに入学します。

専門教科、人間関係、動物関係。今までになかった新たな世界。1年生に課せられる農場実習をはじめとして、体を使った数々の農業的試練が八軒の前に立ち塞がります。

著者
荒川 弘
出版日
2011-07-15

『鋼の錬金術師』で有名な荒川弘作品。荒川自身が農業高校出身であるため、描写される内容には非常にリアリティが感じられます。執筆に当たっては、日本の食糧自給率への低さの懸念もあったとか。もちろん、ハガレンで見せた手腕は健在。農業高校のリアルとエンターテインメントを見事に両立しています。

主人公の八軒は夢も目標も持たない、さりとて無気力なわけでもない少年。受験に失敗はしても上昇志向はあり、持ち前の人の良さもあってめきめき頭角を現します。私達読者にとっては架け橋的存在であり、彼を通して農業という仕事を知ることが出来ます。

農業とは動植物、自然が相手の職業。太古の昔から繰り返し試行錯誤してきた、人間の生活にとってなくてはならないものです。生きることとは食べること。安定して食料を得るためには、動植物、自然への理解が必要不可欠となります。

畜産や酪農に用いる動物の世話は大変な苦労を要します。ルーティンワークとしての日々の世話、餌やり、時期を見ての種付け、出産。そして出荷。丹精込めて育てなければいけないが、情が移るとつらいという矛盾した仕事です。

そうした現場の出来事が時にコミカルに、時にシリアスに描かれます。日々私達の食卓に並ぶ食べ物にこうした物語があるのかと思うと、農家の皆さんと食べ物への感謝で、自然と食事時に手を合わせるようになるのではないでしょうか。

【音楽】気ままで気まぐれな歌声のように響け!

千秋真一は有名ピアニスト千秋雅之を父に持つ、桃ヶ丘音楽学園ピアノ科に通うエリート。しかし、内心では指揮者を志望し、上手く行かない現実に対して苛立ちを感じています。

そんな時に千秋が出会った妙な女、野田恵。通称のだめ。のだめはがさつで、気配りの出来ない野生児のような女でしたが、彼女には確かなピアノの才能がありました。こののだめとの出会いが、千秋の運命を大きく変えます。

著者
二ノ宮 知子
出版日
2002-01-08

クラシック音楽をテーマとした二ノ宮知子の漫画で、音大を舞台とした個性豊かな面々が集うコメディタッチな作品。アニメ化、ドラマ化などのメディアミックスが何度もされた人気作です。

クラシック音楽というと、格調高く、厳格で高尚なものというイメージ。確かに現実のコンサートなどはそうかも知れませんが、本作においてはそのイメージが主人公のだめの存在で完膚なきまでにぶち壊されるでしょう。

品のない言動を繰り返す、他人の弁当は奪う、自室はゴミ屋敷と凄まじいキャラ。ただし、ピアノの才能と千秋への好意は本物です。楽譜を読まない型破りで、しかし伸びやかな演奏は、劇中で「気まぐれに歌うようだ」と評されます。

当初いけ好かない天才だった千秋も、のだめに影響されてどんどんコメディチックになっていきます。彼の持つある種のカリスマ性がそうさせるのか、落ちこぼれとも揶揄される一癖も二癖もある演奏者が彼の周りに集まってきます。そうして作られる奇跡的な楽団、Sオケ。

それらの経緯もまたコミカルで、クラシック音楽というもののハードルを落とし、読者の既成概念を壊す一助にもなっています。

問題児音大生の関わり合い、練習、演奏。その中で、自然とクラシックが作られた由来、特徴と聞き所が語られます。今日一般的なポピュラー音楽とは縁遠い印象のクラシック音楽ですが、本作を一読した後は、耳に馴染む音楽として鑑賞出来るようになるのではないでしょうか。

【社会】「生活保護」という現実と向き合う

主人公の義経えみるは区役所に就職したばかりの新人です。彼女は福祉保健部生活課に配属されました。生活課の職員は生活保護の諸問題を担当する、いわゆるケースワーカーです。

右も左もわからず生活課に配属されたえみるは、先輩の指導を受けながら、生活保護世帯の実態を体感していくことになります。
 

著者
柏木 ハルコ
出版日
2014-08-29

生活保護とは憲法で保障された国民の権利ではありますが、一般的にはあまり身近な題材ではありません。普段私達が目にするのは保護費の高騰、あるいは不正受給などの問題がニュースに取り上げられた時ぐらいなのではないでしょうか。

本作は柏木ハルコが挑む、生活保護の実態を余さず描いた意欲作。現場レベルで生活保護を担当するケースワーカーの視点から、それら諸問題を浮き彫りにしていきます。

制度に無知なえみるは、読者と同じ目線のキャラで、現状の問題点を確認させてくれます。えみると同期で同僚の栗橋千奈は、民間企業からの転向者。彼女は制度については熟知しているものの、想像力が足りずに個別のケースで躓いてしまいます。七条竜一は熱意があっても、保護世帯の事情を見逃しがち。

ケースワーカーの仕事は過酷です。何しろ人間の命に関わるお仕事。そして担当者1人に対する負担が大きい。ともすれば流れ作業になって、人間味が損なわれてしまう恐れもある現場。

本作はそういった難しい面まで含めて、新人ケースワーカー達の担当する個別のケースを通して、生活保護がどういったものなのかを学んでいくことが出来ます。

【歴史】昭和19年、戦争はまだ遠くの出来事だった。

1944年、名古屋。主人公の木村あいは、姉と2人の妹、そして両親の6人で長屋に暮らしていました。「進め1億火の玉だ」と世の中は言っていても、国民学校高等科に通うあいには戦争の当事者である意識はありませんでした。

あいの気がかりは日常生活のことばかり。そんな彼女に構うことなく、刻々と状況は悪化していきます。終戦まで後、1年……。

著者
おざわ ゆき
出版日
2014-06-13

本作はおざわゆきによる、少女の目を通して戦時下の日本を描いた漫画です。2012年に発表された『凍りの掌 シベリア抑留記』はおざわの父親の体験を元にした作品でしたが、本作は母親の体験をベースにしたフィクションとなっています。

物語の舞台となる1944年は太平洋戦争末期。ご存知の通り、日本が連合国に追い詰められていった時期です。私を含めた読者の大半は戦争を知らない世代です。そんな私達にとって戦時中とは「物資がなかった時代」というイメージが大きいでしょう。実際は違いました。正しくは「物資がなくなっていった時代」だったのです。

そのことが端的に感じられるのは、冒頭に描かれる食卓の回想シーン。味噌汁の具が日一日と明確に少なく、見すぼらしくなっていきます。当時の食糧事情は配給に頼る部分が大きいものでした。家庭の食事が貧相になっていったということは、日本全体で物資が段々と不足していったということを意味しています。

当初は牧歌的ですらあった、あいの周囲も時代に合わせて激変していきます。彼女のような学生であっても、学徒動員で工場を手伝うことになるのです。

当時の名古屋には三菱重工業の航空機エンジン生産工場があったので、連合国にとっては東京に次ぐ重要攻撃目標でした。今日の私達は、1945年に名古屋大空襲が行われたことを知っています。

戦時中という日常を生きるあいに、果たしてどんな過酷な運命が待っているのでしょうか。

いかがでしたか? 読んで学べるとは言っても、それはあくまで表層的なもの。出来れば今回ご紹介した作品に触れ、これを端緒として深く広く知識を掘り下げていっていただければ幸いです。