シンプルでやわらかいタッチで、ふんわりじわじわと心に沁みこんでくる、そんな不思議な魅力のイラストを手掛ける安西水丸のおすすめ絵本をご紹介します。
安西水丸は1942年東京都生まれのイラストレーター兼作家です。村上春樹の作品のイラストを手掛けたことでよく知られています。
ゆるやかで温かみのあるイラストが特徴で、このイラストのおかげで肩の力を抜いてゆったりと本の世界に入ることができたという方も多いことでしょう。何度か読み返すたびに、じわじわと心をつかまれるイラストに多くのファンが魅了されています。
『がたんごとんがたんごとん』は安西水丸の赤ちゃん向け絵本です。「がたんごとん」と黒い汽車がやってくるところから始まり、赤ちゃんが慣れ親しんでいる身近なモノが「のせてくださーい」と乗ってきます。みんなを乗せて、汽車はどこに向かうのでしょうか。
- 著者
- 安西 水丸
- 出版日
- 1987-06-30
とてもシンプルにストーリーが展開していくなかで、「がたんごとんがたんごとん」というリズミカルな響きが繰り返されるのが印象的です。赤ちゃんは繰り返しが大好きなので、ぜひ声に出して読んであげたい1冊です。もし赤ちゃんが最初あまり反応を示さなくても、何度も読み聞かせるうちにリズムの面白さにはまり、そのうち言葉も分かってくるので言葉の繰り返しを楽しんでくれることでしょう。
なお、この続編として『がたんごとんがたんごとんざぶんざぶん』という絵本があります。汽車が海辺を走っていき、海が似合うお客さんが「のせてくださーい」と次々と乗ってきます。夏にぴったりなお話です。
『りんごりんごりんごりんごりんごりんご』は、前述の『がたんごとんがたんごとん』と同じく、安西水丸の赤ちゃん向け絵本です。「あるひ りんごが ころんと おちた」と始まり、木から落ちたりんごが、コロコロ転がりながらゆるやかに冒険していくお話です。
- 著者
- 安西 水丸
- 出版日
- 2005-12-09
真っ赤なりんごと緑の大地、はっきりした色のコントラストが印象的な、シンプルなイラストの絵本です。この絵本も「りんごりんご……」と繰り返しの言葉が続くので、赤ちゃんとリズムを楽しみながら読むことができるでしょう。
そして、この絵本でぜひ注目していただきたいのが、りんごの顔です。文字の上では同じ「りんごりんご……」というセリフでも、ページをめくり場面が変わるたびに、表情も微妙に変わっていきます。それに気がつくと、思わず声色を変えて読んでしまいます。それほど大人も引き込まれてしまう、楽しい絵本です。
ここまででご紹介した2冊は0歳の赤ちゃんから楽しめる絵本。0歳のころは足をバタバタさせるだけだったのが、言葉が発達するにつれて、絵本のイラストを指差してモノの名前を言ったり、ある程度話せるようになると文章を覚えて、まるで字が読めているかのように1人でページをめくりながら音読したりと、年を経るにつれて反応が変わってくるのを大人も楽しんで見守ることができます。
赤ちゃんのころから読める絵本はそのときだけでなく、幼児になっても楽しめるので、ぜひ手元に置いておきたいですね。
「子育てが大変でなかなか絵本を買いに行く時間もない」「読み聞かせの時間がなかなか取れない」「家で仕事をしている間、1人で絵本を読めるようになってほしい」。絵本をたくさん読んで欲しいとは思いつつ、なかなかそんな環境を整えるのも難しいですよね。
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『おばけのアイスクリームやさん』は森でアイスクリーム屋さんをしているおばけのぼんちゃんが主人公の絵本です。森の動物たちはみんなぼんちゃんのアイスが大好き。ぼんちゃんはそれぞれにぴったりのアイスを作ってくれます。
- 著者
- 安西 水丸
- 出版日
何ともほのぼのした、ぼんちゃんの絵が心地よく、ゆったりと楽しむことができる絵本です。次々とアイスクリーム屋さんにやってくる動物たちに、ぼんちゃんがアイスクリームを作ってあげていくのですが、このアイスクリームのイラストがまたとても可愛いのです。
このイラストを見た子どもたちは、「わたしもアイスクリームほしいな」なんて言うかもしれません。絵本を読んだ後は、アイスクリーム屋さんごっこで遊んであげるのも盛り上がれるでしょう。
「おばけ」と「アイスクリーム」という組み合わせも新鮮で素敵です。子どもたちにとって「おばけ」はちょっぴり怖いものの気になる存在で、そんなおばけがアイスクリームを売っているということが子どもたちの心にグッとささるのかもしれません。
『ぞうのふうせんやさん』は、森で風船屋さんをしている、ぞうのがんぼが主人公のお話です。ストーリーは先ほど紹介した『おはけのアイスクリームやさん』と同じ形式で、やってきた動物たち1匹1匹にがんぼがふうせんを作ってあげるというシンプルなものです。
- 著者
- 安西 水丸
- 出版日
この本で特に面白いなと思うのが、ふうせんをもらった動物たちの喜び方。たとえば、鹿なら「うれしかうれしか」、カブトムシなら「むっしむっし」、という具合です。子どもって風船が好きですよね。そのためか、動物たちが喜んでいるページでは、子どもたちもつられてにんまりします。
最後に、おばけのぼんちゃんがちょっぴり顔を出しているので、ぼんちゃんを知っているとより楽しめるのではないでしょうか。『おばけのアイスクリームやさん』と2冊合わせて読んであげたい絵本です。
また、安西水丸の「おみせやさん」シリーズには、『おばけのアイスクリームやさん』『ぞうのふうせんやさん』に続き、『おさるのケーキやさん』があります。アイスも風船もケーキも、どれも子どもたちが大好きなものです。そこに、おばけやゾウ、さるを組み合わせて独特な世界を作りあげるのは、さすが安西水丸のセンスですね。
上記の4冊と少し印象が異なるのが、この『ふわふわ』という絵本です。猫への愛情が温かく描かれている絵本なのですが、乳幼児向けというよりは、言葉が分かるようになった子どもや大人が楽しめる絵本です。
- 著者
- ["村上 春樹", "安西 水丸"]
- 出版日
- 2001-12-15
「ぼくは世界じゅうのたいていの猫が好きだけれど、この地上に生きているあらゆる種類の猫たちのなかで、年老いたおおきな雌猫がいちばん好きだ。」(『ふわふわ』より引用)
この書き出しで始まっていますが、猫好きで知られる村上春樹の猫への愛情を感じますよね。また、物語の中に出てくる猫は春樹が子ども時代に飼っていた猫とも言われています。
身近な動物への愛情が込められていて、愛猫家はもちろん、愛犬家やその他動物を飼って愛情を注いだことのある人であれば、きっと共感できることでしょう。
それほどに村上春樹の愛情がつまったこの猫を、安西水丸はどのように描いているのでしょうか。表紙をみると、ふんわりとしたタッチの猫の顔の一部が大きく描かれているのです。そして、本を読み進めていくうちに気がつくのが、猫はほとんどのページで、顔の一部や、尻尾など体の一部しか描かれていないということです。このことは読み手である私たちの想像力を大いにかきたてます。
お話はゆるやかに、まさにタイトルどおり「ふわふわ」と進んでいきます。この空気感に安西水丸のイラストはピッタリです。
文中に「幸せとは温かくて柔らかいこと」、こんな1文があります。まさにその描写の通りの猫の手触りやぬくもりを思い浮かべることができ、温かい気持ちになることができる、そんな1冊です。
赤ちゃんの読み聞かせにぴったりな絵本から、大人も楽しめる絵本までご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。お子さんが楽しんでくれそうな1冊をぜひ見つけてあげてください。