発表した作品が国内外で多くの賞を受賞し、力強い筆遣いと色彩で読者を魅了する田島征三の絵本。日本を代表する絵本作家の作品はどれも生き生きと描かれ、心に残る絵とストーリーは生命力に溢れています。
田島征三(たしませいぞう)は1940年に大阪府で生まれた絵本作家で、多摩美術大学図案科に在学中に『しばてん』を制作しました。1964年に初めての絵本『ふるものや』を出版。その後も、農耕に取り組む傍ら、絵本の制作を続けました。
1969年『ちからたろう』で第2回世界絵本原画賞「金のリンゴ賞」を受賞。1974年『ふきまんぶく』で講談社出版文化賞、1988年『とべバッタ』で絵本日本賞、『もりへさがしに』ではボローニャ国際児童図書展「グラフィック賞推薦」を受賞するなど、国内外で多数の受賞経験があり、力強い筆遣いと色彩で描く絵本は国内外で支持され続ける絵本作家です。
また1992年に出版したエッセイ『絵の中のぼくの村』は映画化され、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しています。
『しばてん』は、河童に似た化け物「しばてん」の生まれ変わりと言われる少年「太郎」の運命と、太郎を取り巻く村人との人間模様を描いた、「人間とは」という深いテーマについて読者に問いかける名作です。
昔、村人から恐れられ退治された「しばてん」。その後、村の外れに捨てられていた赤ん坊の「太郎」が成長するにつれ、その風貌と強さにしばてんの生まれ変わりではないかと村人達は噂をします。そして太郎を山の奥に追いやってしまうのです。
月日が流れ、太郎は山の中でも逞しく生き続けましたが、村を飢饉が襲います。村人たちは飢えを見ても、食べ物を分け与えようとしない長者を襲おうと長者の家へ向かいますが、体力が尽きたどり着くことができません。その様子を見た太郎は長者を投げ飛ばし、かつて自分を村に追いやった村人を救うのです。しかし、その後は村人と和解し仲良く暮らしましたとはなりません。
役人がやってきて「だれがやったのか」と聞かれ、恐れた村人は「しばてんの太郎が」と答えてしまうのです。そしてラストでは哀しい結末を迎えます。
- 著者
- 田島 征三
- 出版日
- 1971-04-01
「太郎」をめぐる人間の身勝手さ、そして生きる為に他者を犠牲にする弱さがリアルに描かれています。
人が大勢集まり、群衆化して一人の人を追いやる恐ろしさとその時の心理。権力に打ち勝つことのできない心、人間なら少なからず持っている心なのかもしれません。ただ、その心に打ち勝つことの出来るような強さを持ちたいですね。
小学校の高学年から中学生位の多感な時期の子ども達に、差別とは何かということについて考え、太郎の運命の哀しさと不条理さを感じることで、今後の人との付き合い方を考える上でもぜひ読んで欲しい作品です。
物語の舞台となっている、東京都多摩群日野出村では、まんじゅうのことを「まんぶく」と呼びます。フキノトウのふっくらとした様子をまんじゅうに例え「ふきまんぶく」と呼ばれているのです。『ふきまんぶく』は、そんなフキノトウを取り巻く自然と女の子との交流を描いています。
物語は、山の麓で暮らす女の子「ふきちゃん」が夏のある夜に山へ入る場面から始まります。星の様にキラキラと光るものを見つけたふきちゃん。光の元へ行くと、それはフキの葉にキラキラと光る夜露でした。夜露と知ってがっかりするふきちゃんですが、一緒に遊ぶうちにフキの魅力に引き込まれます。そして、フキの茎を滑り、土の中で眠ってしまうのです。
季節は流れ翌年の春の始まりの頃、ふきちゃんはあの夜と同じ場所へと向かいます。するとそこでふきちゃんを待っていたものとは……。
- 著者
- 田島 征三
- 出版日
絵の一つひとつが自然の美しさと逞しさを表していて、引き込まれる絵本です。
ふきちゃんが蕗と話をしたり、フキの茎を滑り降りる場面では、子ども特有の想像力の豊かさと夢見心地なフワフワとした気持ちよさを感じ、子どもの想像力を掻き立てるでしょう。そしてふきちゃんの目を通して子ども達も、季節の移り変わりや春を楽しみに待つワクワクとした気持ちを感じることができるはずです。
最後のページには、フキノトウの一つひとつがふきちゃんの顔になっているという一見シュールな絵が描かれていますが、人間の子どもも蕗の子どもであるフキノトウも、同じように育っていく尊い命であるというメッセージを感じます。
『とべバッタ』は自然界の厳しさと、それを勇気を持ってかえようとする1匹のバッタが主役の物語です。
厳しい自然の中で、いつ食べられてしまうかもわからないとおびえて暮らすバッタ。しかしある日、こんな風に生きるのは嫌だと自らの運命を変える決意をします。
全ての力を振り絞り、天敵のへびもカマキリもくもや鳥さえも打ち負かして、高く高く飛び上がったバッタ。最後の試練に打ち勝つためにバッタがとった行動とは……。
- 著者
- 田島 征三
- 出版日
- 1988-07-01
自分を取り巻く環境や運命を変えようと、奮闘するバッタ。その思いは強く自分よりも強い者たちを次々に打ち負かします。その姿に、ハラハラしながらもいつしか心からバッタを応援していることに気付きます。
弱肉強食の厳しい自然の中では、弱いものは生まれた時からその運命を背負っています。しかし自然の中だけではなく、人間の社会でも同じなのではないでしょうか。自分で環境を変えたいと思っていても踏み出す勇気が持てず、諦めてしまった経験はきっと誰でもあることでしょう。
このバッタを自分と重ね合わせながら、子ども達は自分で踏み出す勇気を学びます。そして、最後のページに描かれたバッタの幸せそうな様子に、勇気を出すことで環境を変えることはできるという希望につながるのです。
子ども達にぜひ読んでもらいたい1冊です。
『ガオ』は「シロダモ」という植物の実をひとつひとつ並べ、色々な動物に変化させることで移り変わりを描いた作品です。木の実にはどれ一つとして同じものはなく、様々な色、形の木の実が物語を彩ります。
物語は、1匹の山犬が「ガオ」と力いっぱい吠える場面から始まります。すると、元気が身体の中から飛び出して身体は6匹の蛇に、元気は恐ろしい鳥に変化してしまうのです。鳥は1匹ずつ蛇を食べ、残りの1匹が力を振り絞って「ガオ」と吠えます。すると蛇もまた別の動物に変化して……。
- 著者
- 田島 征三
- 出版日
- 2005-02-10
ひとつひとつは小さな木の実ですが、作品としてダイナミックに作り上げられた姿に目を奪われます。自由自在に変化していく様に、ついページをめくる手がとまりじっくりと眺めてしまうことでしょう。
山犬から他の動物へと変わり、そしてその動物もまた形を変えていく。自然の移り変わりや生き物の命がまた次の命へと繋がれていく様子が生き生きと描かれています。
最後のページが最初のページを繋がっていて、再び物語が始まるのことを期待させるラストも魅力的です。
『やまからにげてきた』は、後ろから読むと『ゴミをぽいぽい』という話が描かれている、前からも後ろからも読める絵本です。
『やまからにげてきた』は山から逃げることを余儀なくされた、動物たちの視点で描かれています。たぬきも虫も鳥も、沢山の動物が山から必死で逃げているのです。しかし、中には逃げられない動物も。魚は「にげられないの」と言って涙を流します。その悲痛な叫びに胸が締めつけられます。動物たちが逃げる理由とは……。
『ゴミをぽいぽい』は、人間の視点で描かれています。人間たちが捨てたゴミは清掃車で収集され、焼却炉で燃やされ。その灰は一体どこに運ばれるのでしょうか。
2つの物語は丁度同じページで終わりを迎えます。そのラストのページに描かれていたものとは……。
- 著者
- 田島 征三
- 出版日
- 1993-02-05
自然を守るということについて深く考え、子どもと話すきっかけとなる絵本です。
人間が出したゴミによって、山から追いやられ住む場所を奪われた動物たち。逃げることができずに悲痛な叫びで助けを求める動物。その動物たちの姿に心が痛み、自分の生活を顧みると共に、自然を壊さずに生活するということはどういうことなのだろうと深く考えさせられます。
環境問題を子どもとともに考えるというと、難しいイメージがありますが、子どもにとっても身近な動物の様子を知りメッセージを受け取ることで、子どもの心にもすんなりと「自然を守る」という意味が入ってくることでしょう。
自然の雄大さを描き、人間の心について深く考えさせられる作品を多く生み出している田島征三の絵本を紹介してみました。国内外で多数の賞を受賞していることも納得の作品ばかりですね。
力強い筆遣いと色彩は読者の心を惹きつけ、大人の読者も多い田島征三。ぜひお気に入りの1冊を探してみてください。
また、子どもに伝えたいメッセージが描かれた作品もたくさんありますので、親子でじっくりと読んで話し合ってみるのも良いですね。