葛飾北斎を知れる本おすすめ5冊!作品解説から小説、漫画まで!

更新:2021.12.19

葛飾北斎といえば『富嶽三十六景』を思い浮かべることでしょう。もちろん代表作ではありますが、北斎の魅力はそれだけではないのです。さまざまなジャンルの絵を描き続けた北斎について、その絵や人柄を知れる本を集めましたのでぜひ手に取ってみてください。

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江戸時代に活躍した浮世絵師、葛飾北斎とは

葛飾北斎は1760年、現在の東京都墨田区で生まれました。幼い頃から手先が器用だったために、木版彫刻師のもとで働き、その時に絵にも関心を持つようになっています。そして1778年、浮世絵師の勝川春章の門下となりました。唐絵、西洋画、風景画、役者絵など数多くのことを学んでいます。

1779年に北斎は役者絵「瀬川菊乃丞 正宗娘おれん」でデビューしました。しかしその後、春章以外の人から狩野派や中国絵画など他の画法を勝手に学んだために、勝川派を破門されます。そこからは何度も名を変えながら、狂歌絵本を書いたり『北斎漫画』を刊行したりと創作活動を続けました。『北斎漫画』は、民衆のいろいろな表情を捉えていて面白く、大きな人気を得ることになります。

70歳を過ぎた頃、北斎は『富嶽三十六景』を発表します。これは北斎が各地から見た富士山に感銘し描いたもので、外国にも大きな影響を与え、北斎の代表作となりました。74歳には『富嶽百景』を発表。しかし、この頃には北斎の人気には陰りが見えています。79歳には火災で若い頃から書き溜めていた資料を失うという悲劇もありました。

しかし最後の最後まで絵を描き続け、1849年88歳で死亡。とにかく多才な人物で、人物画、風景画のみならず、春画、妖怪画、漫画、戯画、百人一首など、どんな絵を描かせても素晴らしいものを仕上げました。また90回以上引越しをしたり、改号して30以上の号を用いていたりと、奇行も多かったと言われています。絵のこと以外には無頓着で、食事にも衣服にも構わず、ひたすら制作に励んだ人生でした。

葛飾北斎の作品に浸ることができる本

豊富な図版を用いてその生涯と作品を追う『もっと知りたい葛飾北斎』。ただの作品紹介にとどまらず、絵を描くこと以外には何も気にしなかった性格や、人間関係についてのエピソードも盛り込まれています。オールカラーで図版は130点以上。部分アップやイラストもあったりと、葛飾北斎の魅力、技術力、発想や視点の豊かさを存分に堪能できることでしょう。

著者
永田 生慈
出版日
2005-08-20

著者が葛飾北斎の魅力の一つは多才な作域を示したことと言っている通り、こんなにもいろいろな絵を描いていたのかということに驚くことでしょう。常に進化し続け、新しいものに挑戦していた北斎について、とても分かりやすく学ぶことができます。一つ一つの作品が意図しているもの、隠し持っている意味などが紹介されていて、葛飾北斎の魅力が深まります。

「あと10年、いや、せめて5年生かしてくれ。そうすれば、まことの絵描きになってみせる!」(『もっと知りたい葛飾北斎』より引用)

このように死ぬ間際まで、さらに進んでいこうとしていた北斎。モネ、ゴッホら外国の画家やドビュッシーといった作曲家にまで影響を与えた作品を作るためには、その向上しようという気持ちが大切なのでしょう。北斎初心者も北斎ファンも手元に置いておきたいおすすめの1冊です。

葛飾北斎の作品の背景を探る

『宇宙をめざした北斎』というタイトルにはインパクトがあります。「宇宙」というのは、森羅万象を描こうとした北斎にはぴったりですし、北斎は北極星や北斗七星も好んでいました。本書は宇宙をめざして描かれた多くの作品についての解説本です。技術面の話、描かれた背景、どんな意味を持つのかなどが分かりやすく書かれています。

著者
内田 千鶴子
出版日
2011-02-09

有名な『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』では大きな波と、それに翻弄される船がクローズアップされていて、富士山は小さく書かれています。本書には、この構図は「波の伊八」が千葉・行元寺に作っていた欄間彫刻とそっくりであると書かれています。北斎はこの彫刻を見て絵の構図を考えたのでしょうか。それとももともと北斎の頭の中にあった構図なのか、というような話からは絵の背景を知ることができ、さらに深く絵を楽しむことができることでしょう。

また北斎がよく描いていた波に関する秘密や、『富嶽三十六景』を印象的に魅せる役割を果たしている「ベロ藍」についての話も興味深く、ますます北斎の魅力にはまってしまうことでしょう。

手に取りやすい、葛飾北斎の作品解説

常に絵を描き続け、役者絵から美人画、絵手本、風景画、花鳥画、肉筆画と描く内容を変化させていった葛飾北斎。数多くの絵が残されていますが、その中から傑作、代表作を取り上げて解説していきます。新書なのでコンパクトにまとめてあり、手軽に北斎について学ぶことができることでしょう。

著者
大久保 純一
出版日
2012-05-23

代表作『富嶽三十六景』がオールカラーで収録されており、楽しく眺めることができます。この絵が流行ったことにより、名所絵という浮世絵のジャンルが出来上がったそうです。どのようにして『富嶽三十六景』が出来上がったのか、その影響力の大きさはどれほどだったのか、北斎の集大成ともいえるこの絵についてより一層知識が深まることでしょう。

北斎の画法や各絵の構図、技法についてなど読みどころがたくさんあり、資料も多く載せられています。常に現状に満足せず成長し続ける北斎の魅力を、存分に味わえる1冊です。

江戸時代の日常生活が生き生きと描かれる

江戸時代、浮世絵師の葛飾北斎は娘のお栄と共に絵師として活躍していました。お栄は北斎の代筆ができるほど筆が立ち、北斎が描きたがらないものはお栄が代わりに書いていたのです。葛飾家には、絵師を志す善次郎という居候も住んでいました。また、歌川国直という北斎とは対立する歌川門下の若手絵師も出入りするようになります。『百日紅』は、北斎、お栄、善次郎、国直の4人を中心に、それを取り巻く人々との関係、江戸の町の様子、庶民の生活が生き生きと描かれる漫画です。

著者
杉浦 日向子
出版日

著者の杉浦日向子は、江戸の風俗研究もしている漫画家で、そのリアルな江戸の情景は驚くほどです。会話やしぐさ、町並み、食事などすべてが細かく描写され、まさに江戸時代にタイムスリップしたかのような気持ちにさせてくれます。

もちろん登場人物の心情面についても、生き生きと描かれています。汚い部屋で描きたいものしか描かず、55歳ながらまだまだ色恋沙汰も盛んな北斎。そしてそんな父親を支えるお栄は、とても魅力的で、描く絵は迫力があり素晴らしいものです。しかし真に迫った絵であるからこそ起こる事件もあるのですが……。

美人画を書かせれば北斎よりも上手かったであろうと言われているお栄について、よく知ることができる本です。登場する絵師たちが描く絵も、しっかり描かれており圧巻。江戸時代のすこし怪しげな雰囲気を堪能しつつ、北斎とお栄に思いをはせてください。

葛飾北斎は隠密だった!?

浮世絵シリーズの中の2作目にあたる『北斎殺人事件』。『写楽殺人事件』から続いており、北斎が隠密だったのではないかという設定で話が進んでいきます。ミステリーですが謎解き要素よりも、この北斎隠密説にまつわる話の方が興味深く、北斎の人物像が浮かび上がってきます。日本推理作家協会賞受賞作です。

話は写楽を研究していて、前作では写楽殺人事件に巻き込まれた津田のもとに、北斎隠密説を調べてほしいという依頼が来るところから始まります。同じころボストンで日本人画家の老人が殺されるという事件が起こりました。日本とアメリカを交互に舞台にしながら、事件解決へと向かっていきます。2つの話はどこでつながり、誰がつなげているのでしょうか。

著者
高橋 克彦
出版日
1990-07-06

葛飾北斎は、数多く旅をしていることや、引越しを90回以上繰り返すなどの奇行、名を幾度も変えていたことなどから、謎めいた部分を多く持っています。そしてこの物語の凄いところは、北斎の隠密説に対して状況証拠が積み重ねられていく点です。読んでいると本当に隠密であってもおかしくないと思わされ、その世界に引き込まれることでしょう。

天才的な表現者だとされる北斎を、芸術家としてではなく、浮世絵師という仕事をしていた一人の人間として描いた作品。北斎の違った一面に触れることができるミステリー小説です。美術界の闇を垣間見れる謎解き部分や、ちょっと悲しげな人間模様も楽しんでください。

死ぬまで向上心を忘れなかった葛飾北斎は、やはり日本を代表する画家だと思います。世界でも北斎の名は多くの人が知っており、私たち日本人の方が、もっと北斎について知るべきなのだと感じます。ぜひ美術館などへも足を運んでみてください。

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