動物同士の友情を描いた物語から詩のように美しい言葉を紡いだ物語まで、内田麟太郎の絵本は1冊ごとに違った魅力を醸し出しています。言葉の持つ力を存分に生かしたストーリーは、読者の心を掴み何度読んでも飽きることなく楽しむことができるのです。
内田麟太郎は、1941年、福岡県生まれの絵本作家であり詩人です。詩人である内田博を父に持ち、自身も19歳で上京後看板職人をしながら詩を書き始め、38歳の時に児童書の執筆を始めます。
言葉を自在に操り、魅力を引き出した作品を多く発表し『さかさまライオン』で絵本にっぽん賞、『がたごとがたごと』で日本絵本賞を受賞するなど多くの賞も受賞し、愛され続ける作品を発表し続けている作家です。また、絵本作家としてだけではなく、多くの読み物や詩集も発表し、言葉の魔術師と呼ばれています。
「おれたちともだち」シリーズは、1998年に第一作として刊行された『ともだちや』から『ともだちくるかな』『あしたもともだち』『ごめんねともだち』『ともだちひきとりや』『ありがとうともだち』『あいつもともだち』『ともだちおまじない』『きになるともだち』『ともだちごっこ』『よろしくともだち』へと続き、2016年に刊行された最新作『いつだってともだち』までの12冊からなるシリーズです。
第一作となる『ともだちや』は、森に住むキツネが1時間100円で寂しい人の友達となる「ともだちや」を始めるところから始まります。そんなキツネに声を掛けたオオカミがいて……。友達ってどうやって作るの?本当の友達とは?キツネとオオカミとの友情を描いた物語の始まりです。
1作ずつ読んでも十分楽しめる物語ですが、続けて読むとオオカミとキツネの友情の深まりと、2人の成長を感じることができて何倍も楽しめるシリーズとなっています。
- 著者
- 内田 麟太郎
- 出版日
キツネとオオカミ、そして森に住む個性豊かな動物たちとの交流と友情の物語が満載なシリーズです。
友達になるってどういうことなのかな?という子ども達が必ず一度は考える友情について描いているので、キツネやオオカミ、登場する動物達を自分や友人に重ね合わせて読むことができる、子どものバイブルとなるようなお話となっています。
そしてどの物語も友達を思いやる気持ちに溢れているので、ぜひ子ども達に読んでもらいたいシリーズです。
毎回登場するみみずくじいさんが良い味を出していて、的を得た言葉を発っするところにも注目です。
『がたごとがたごと』は、ごく普通の駅からお客さんが電車に乗る場面から始まります。このページだけを見ると、普通の電車の絵本の様ですがページが進むにつれて、不思議な世界へと迷い込みます。
鉄橋を渡り、山を登りたどり着いた場所はその名も「おくやま駅」。そしてなぜかお客さんは皆動物になってしまうのです。
次にお客さんが乗ったのはまた普通の駅、そしてたどり着いたのはなんと妖怪の駅。もちろんお客さんは妖怪に変身しています。
そして次に向かった駅は……。
- 著者
- 内田 麟太郎
- 出版日
- 1999-04-25
台詞は「おきゃくさんがのります ぞろぞろ ぞろぞろ」「がたごと がたごと」「おきゃくさんがおります ぞろぞろ ぞろぞろ」という3文のみという、一見とてもシンプルな絵本です。
しかし、その内容はかなり不思議で物語の展開に思わず目を見張り、シンプルな言葉の中にもストーリーが凝縮されている手法には脱帽させられます。
何度か読むうちに新しい発見があり、大人も子どもも不思議な世界観に引き込まれること間違いなしです。
『なきすぎてはいけない』は、亡くなった祖父から孫へと向けたメッセージです。
祖父が亡くなったことを寂しがり、祖父との思い出を辿りながら涙を流す孫。その孫を亡くなってもなお、溢れんばかりの愛情で見守る祖父の気持ちが詩のように美しい言葉で紡がれています。
祖父との思い出を胸に成長していく孫が、祖父と同じ立場になって気付く事とは……。
- 著者
- 内田 麟太郎
- 出版日
- 2009-05-21
亡くなった人を思って涙する気持ち、その抑えられない気持ちを大きな愛情で包んでくれる言葉で溢れた絵本です。
人はいつか、必ず大切な人を亡くす時がきます。その時には、泣いても良いのです。だけど亡くなった人が望んでいることは、ずっと悲しんでくれることではなく覚えていてくれることでもなく、生きている大切な人が幸せになってくれること。自分の死を乗り越えてまた笑顔を見せてくれること。孫を思う祖父の気持ちは、そのまま読者の大切な人からのメッセージであるのでしょう。
大切なひとを亡くし、悲しみに涙があるれてしまう時にぜひ読んでもらいたい絵本です。
『さかさまライオン』は、絵本にっぽん賞を受賞した、子どもの想像力を形にしたような絵本です。
もし影が自分から離れて動いたら……子どもの頃に一度は考えたことがあるのではないでしょうか?それは不思議な世界の扉を開けてしまうような恐怖心が伴ったかもしれませんね。この絵本は、そんな恐怖心を覆すように笑えてそしてハラハラドキドキの冒険と友情を描いた物語です。
一匹のライオンの影がライオンから離れることから話は始まります。いつも自由に動きたいと思っていた影。ライオンの夜遊びから初めて影は自由になります。そして、ライオンが帰ってきてライオンにくっつくと、なんと影がライオン本体になってしまったのです。でも、やはり影はライオンの影。ライオンが猟師に撃たれそうになると、すかさず助けに入ります。二匹は無事に猟師から逃げきれるのでしょうか。
- 著者
- 内田 麟太郎
- 出版日
- 1985-09-20
影が意志と気持ちを持って行動する、ストーリー設定の面白さにまず惹きこまれてしまいます。更にこの影は、自分の意志でライオンを助け、ライオンと力を合わせて猟師から逃げようと奮闘するのです。ライオンと影の友情の物語でもありますね。
初めは、影の行動が面白くライオンとの掛け合いに思わず笑ってしまいますが、途中からライオンと影が力を合わせて逃げる姿にハラハラドキドキ。不思議な魅力にあふれた1冊です。
『くじらさんのーたーめならえんやこーら』は、海の生き物たちの友情を描いた絵本です。
ペンギンやアザラシ、トドなどたくさんの海の生き物が「くじらさんのーたーめならえんやこーら」と歌いながら、次々に海へと飛び込みます。すると、動物が達が乗っていた氷山がふわりと浮かび上がります。そして氷山に載ったくじらもどんどん高くなっていくのです。
動物たちが海に飛び込む理由とは……。
- 著者
- 内田 麟太郎
- 出版日
- 2015-10-10
海の生き物たちがユーモラスに歌いながら飛び込む姿、更にそれがくじらさんのため……。理由がわかるまでは、どんどん読み進めたくなってしまうことでしょう。そして理由が分かった時の、なるほどというすっきり感はなんとも言えません。
読み終わった後にはもう1度、歌の面白さや動物たちの様子をじっくりと見ながら読むと、より楽しさが増しますよ。最後に縁の下の力持ちが登場する場面にも注目です。
大人気のシリーズから、心に響く名作まで内田麟太郎の絵本を紹介してみました。ひとつひとつの物語に違った魅力があり読む人や年齢、場面によって感じ方が変わる作品が多くあります。ぜひ子どもと一緒に楽しむ1冊を、そして1人でじっくりと心に刻みながら読むお気に入りの1冊を見つけてみてください。きっと内田麟太郎の魅力を存分に感じ、その言葉に引き込まれることでしょう。