代表作「11ぴきのねこ」シリーズで人気を博した馬場のぼるの絵本は、ほのぼのとした絵とどこかのんびりとした背景を感じさせるストーリーで、読者の心の中にすっと入ってくるものばかり。飾らずに読める物語はいつまでも愛され続けています。
馬場のぼるは、1927年に青森県で生まれた漫画家であり絵本作家です。
戦争の時代に生き、特攻隊員として出撃を待つ間に敗戦を迎えるという経験を経て、除隊後はりんごの行商や大工の見習い、小学校の代用教員など様々な職に就きます。その傍ら、映画館のポスターや看板を描くなど、絵に携わり続けるのです。そして漫画家を志すようになり、初めての漫画を出版したのが1948年のこと。児童漫画家として子ども達からの支持を集めます。
その後は絵本作家として、他の漫画家と共に「漫画家絵本の会」を結成。1967年に出版された『11ぴきのねこ』でサンケイ児童出版文化賞を受賞し、その後も「11ぴきのねこ」シリーズを始め、子どもの心を惹きつける絵本を多数発表し、2001年に亡くなった後も愛され続けています。
『11ぴきのねこ』は、今でも愛され続ける「11ぴきのねこ」シリーズの第1巻、原点となった作品です。
物語の主役は、お腹をすかせた11ぴきのノラねこたち。11ぴきの仲間はいつでも一緒です。ある日、お腹を空かせたねこたちは、湖に大きな魚が住んでいることを聞き早速探しに出かけます。苦労してやっと探し出した大きな魚はまるで怪物のよう。なかなか捕まえることができません。11ぴきは力と知恵を合わせて、魚を捕まえることができるのでしょうか。そしてその結末は……。
- 著者
- 馬場 のぼる
- 出版日
- 1967-04-01
11ぴきのねこ達の掛け合いと、ほのぼのとした絵に何度読んでも笑ってしまう作品です。
魚に何度負かされても諦めずに力を合わせて立ち向かうねこたち。そのたくましく前向きな姿につい「がんばれ!」と声に出して言いたくなります。そして、ラストでは自分の気持ちに素直なねこたちの姿に大笑いすること間違いなしです。みんなでした約束をやぶるのもみんな一緒、仲の良い11ぴきの愛されるねこたちの物語はここから始まり、そして続いていきます。
子どもと一緒に、ワイワイとと楽しみながら読みたいですね。
『ぶたたぬききつねねこ』は、題名からも分かるようにしりとり遊びの絵本です。子どもが大好きなしりとり遊びが、優しい絵とストーリーで描かれ、普通のしりとり絵本とは一味違う作品に仕上がっています。
初めに出てくるのは、「おひさま」。ここからしりとり遊びの始まりです。「まど」「どあ」と続き、しりとりの言葉として登場する動物や物たちが、素敵なストーリーを築きあげていきます。
そして題名にもなっている、「ぶた」「たぬき」「きつね」「ねこ」も登場します。4人が楽しみにしている事とは……。
- 著者
- 馬場 のぼる
- 出版日
優しい絵と子どもの好きな言葉遊びで、赤ちゃんからしりとりが理解できる年齢の子どもまで幅広く楽しめる絵本です。
しりとり絵本と侮ることなかれ、ひとつひとつの絵の繋がりや予想外の展開が面白く何度も読み返したくなります。そして、最後のページに描かれている、みんなでパーティをしている幸せな様子は読者の心も温かくしてくれることでしょう。
表紙からは想像できないかもしれませんが、実はクリスマスの季節にぜひ読んでもらいたい1冊です。
『きつね森の山男』は、気は優しくて力持ちという言葉そのもののような山男がみんなの気持ちも身体も温かくしてくれる、意外な展開が面白い1冊です。
物語は、山男がねぐらを探すうちにきつね森に迷い込む場面から始まります。初めは警戒していたキツネたちですが、山男の人柄を知り仲間に迎えます。そしてなんと山のお城の殿さまを倒すというのです。しかし、山男は戦争など好きではありません。彼が好きなことは大根づくりにぶどう酒作り、そしてその大根でふろふき大根を作り、ぶどう酒を飲みながら食べることなのですから。
そしてついに戦いの時がきました。なんと殿様が攻めてきたのです。山男はきつねが逃げ込んだ大根畑を守るために殿さま軍を追い払います。それ以来、殿様は攻めてこなくなったのですが、ある日ひょんな事から山男は捕まってしまいます。一体山男はどうなってしまうのでしょうか……。
- 著者
- 馬場 のぼる
- 出版日
優しくて平和を望み、そして食べることが大好きな山男。その飄々とした姿と、殿さまに捕まってもなお大根の心配をし続ける優しい行動や表情がいつの間にか可愛らしく見えてきます。
初めは、殿さまから自分をそして仲間の命を守るために戦う準備をするきつね達ですが、「せんそうはないほうがよいのです」という一文に全てが表されているのでしょう。命を犠牲にする戦争よりも、皆でおいしい物を囲み平和に暮らす方が良いに決まっています。この山男は意図せずにそれをやってのけたのです。
みんながこんな風に思えたら、いつまでも平和に暮らすことができるというメッセージなのかもしれませんね。
『アリババと40人の盗賊』は世界中に広く知られるイスラム世界に伝わる物語の一つです。「開けゴマ」の呪文でご存知の方も多いのではないでしょうか。
この物語は、貧乏ですが正直な「アリババ」という主人公が盗賊の宝のありかを知ることから始まります。金貨を持って帰ったアリババは、実の兄から金貨のありかを聞かれ場所も呪文も正直に答えてしまいます。そして欲深い兄はたくさんの宝を持ち帰ろうとして、盗賊に殺されてしまうのです。
ここで登場するのが賢い奴隷の娘。盗賊に命を狙われるアリババを幾度に渡って機転を利かせて助けます。この物語のもう1人の主役と言っても良いですね。
アリババは、無事に盗賊から逃げて幸せになることはできるのでしょうか。
- 著者
- 馬場 のぼる
- 出版日
世界中に広く知られている物語を馬場のぼるならではの語り口で描いた名作です。絵本にしては長いお話ですが、軽快に進む話の展開にハラハラドキドキしながらどんどん読み進めることができます。
実の兄が無残な様子で殺されたり、盗賊の隠れている瓶に油を注いで焼け死んだりと、子どもにとっては衝撃的な場面も出てきます。しかし、馬場のぼるならではのほのぼのとした絵がうまく原作のストーリーと調和しているので、子どもたちも怖がることなく読める作品に仕上がっています。
『ぶどう畑のアオさん』は、優しくて強い馬の「アオさん」が主役のほのぼのと読める絵本です。
物語は、アオさんがぶどう畑の夢を見る場面から始まります。夢で見たぶどう畑を探しに丘に来たアオさん。するとそこには夢でみた光景と同じぶどう畑が広がっていたのです。そして途中に出会ったねこと「誰にも内緒」と約束をして、明日改めてぶどう畑に来ることにしました。しかし、優しくて正直なアオさんは会う動物たちについぶどう畑のことを話してしまいます。そしてみんなでぶどう畑に向かうとオオカミがいて……。
- 著者
- 馬場 のぼる
- 出版日
気持ちの優しいアオさんですが、強さも兼ね備えています。ぶどうを独り占めしようとするオオカミをやっつける訳ではなく、アオさん流のやり方で打ち負かします。そしてみんなでお腹いっぱいぶどうを食べるのですが、そこで終わらないのがアオさんの良いところ。独り占めをしていたオオカミのことも気遣ってあげる気持ちを持っているのです。
こんな風に人を思いやりながら生きていけたら素敵ですよね。ほのぼのとしたストーリーと絵は優しさに溢れていて、気持ちが温かくなる1冊です。
代表作である『11ぴきのねこ』から、世界の名作を書き下ろした作品まで、馬場のぼるの絵本を紹介してみました。優しい絵のタッチと、軽快に進むストーリーの中でもどこかほのぼのとした世界観をもった作品は、どれも子ども達に愛され続ける絵本ばかりです。
また、今回ご紹介した『11ぴきのねこ』は、シリーズとして発表されている6作全てがどれも面白く何度でも楽しめる絵本ですので、ぜひお子さんと一緒にお気に入りの1冊を見つけてみてくださいね。