武井武雄が描くおすすめ絵本5選!温かみのある画風が懐かしい名作

更新:2021.12.19

子どものための絵「童画」を極め、懐かしさの中にも斬新で新しい画風を備えた作品は、長い間読者の心を掴み続けています。子どもへの深い愛情から生まれた絵本は、今も昔も子どもの心に触れ語りかけてくるのでしょう。

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「童画」の生みの親、子どもの為の絵を発表し続けた作家武井武雄

武井武雄は1894年生まれの、童画家、版画家、童話作家として多方面にわたって活躍した作家です。

長野県の裕福な家庭に生まれ、病弱であった幼少時代は空想の世界に「妖精ミト」という友達を作り出し、この時すでに童話の世界の中で一緒に遊んでいました。この経験が童画を描く原点になったのではないかと言われています。

東京美術学校西洋画科を卒業後、東京社が創刊した絵雑誌「コドモノクニ」のタイトル文字及び表紙絵を担当。その翌年には処女作となる童話集『お伽のたまご』を出版しました。「童画」という言葉を初めて使ったのは1925年、初めての個展開催の時のことです。玩具の創案にも積極的で古いという言葉を逆にした「イルフ」という造語を用いた「イルフ・トイス」という新しい玩具の創案を目指し、展覧会も開催しています。

1959年に紫綬褒章を受賞し、1983年で他界するまで子どものための作品を発表し続けました。その人気は、亡くなった今でも色褪せることはありません。

小説家、劇作家として知られる著者が手掛けた児童文学作品を美しい絵で彩った名作

小説家、劇作家として知られるイギリスの作家ウィリアム・サンセット・モームが手掛けた唯一の児童文学です。武井武雄の鮮やかで美しい挿絵が物語を彩ります。

物語の登場人物は、タイの王様とお妃そして9人の姫です。姫君たちは、新たに姫が産まれるたびに「昼、夜」から「春夏秋冬」へ、そして「一月から九月」へと名前を変えられていきます。名前を何度も変えられた姉さんの姫たちは心がひねくれ、最後に生まれた九月姫だけは名前が変えられなかったので素直に育ちました。

ある日、姫君たちは金の籠に入ったオウムを王様から贈られます。しかし、九月姫のオウムは死んでしまったのです。そこへウグイスが姫を励ましにやってきます。姉の入れ知恵からウグイスを籠に閉じ込めてしまう九月姫。ウグイスとずっと一緒にいたい、しかしウグイスの幸せはそこにはない。悩んだ九月姫が出した答えとは……。

著者
サマセット モーム
出版日
1954-12-10

ウグイスとの交流の中で、自分の気持ちよりも相手の幸せを思いやることができるようになる九月姫の成長を描いた物語です。相手のことを思いやって日々を過ごし、大人になった九月姫の元には幸せな未来が待っています。ウグイスとの交流が美しく、流れるように心に響く作品です。

物語を彩る武井武雄の挿絵は、どれも細部まで美しく描かれ穏やか表情や切ない表情が九月姫の心情を物語っています。物語とともに、絵の美しさにも見入ってしまうことでしょう。

幅広い年齢で楽しめる、言葉の持つ面白さを引き出した絵本

大正時代に武井武雄が書いた原案を活動写真館(明治大正時代の映画館)の一コマとして三芳悌吉が文章と絵を描いた言葉遊びの絵本です。

物語の主人公は、優しい王様「アイウエ王」と欲深い侯爵「カキクケ公」。アイウエ王国には、「サシスセ僧」というお坊さんがいました。アイウエ王国を奪おうとしたカキクケ公はアイウエ王を「タチツテ塔」に閉じ込め、アイウエ王国を占領してしまいます。アイウエ王国の人々は立ち上がり「ナニヌネ野」で戦う事となり……。

著者
三芳 悌吉
出版日
1982-09-20

全てのストーリーが50音で綴られた物語は、次は50音がどんな言葉に化けてストーリーの中に組み込まれていくのかを想像しながらワクワクとした気持ちで楽しめる1冊です。そして、言葉遊びとしての面白さはもちろんのこと綿密に作り上げられたストーリーには脱帽させられます。

子どもにとっては少し難しい言葉も出てきますが、だからこそ親子で一緒に読みながら言葉の意味を知るよいきっかけとなるのではないでしょうか。古さを全く感じさせない斬新な絵本は、言葉を覚え始めの就学前の子どもから大人まで、幅広い年齢の読者を楽しませてくれます。

武井武雄自身が生まれ変わりと語るほど思い入れの深い作品

武井武雄自身が「私はラムラム王の生まれ変わりだ」と常々口にしていた思い入れの深い作品で、武井の童画を展示している「イルフ童画館」のオブジェとなっていることでも知られています。

物語の主人公は、ロンドンから9マイル離れたエッペ国に生まれた男の子。名前がとても長いので略して「ラムラム王」と呼ばれていました。このラムラム王は不思議な変身能力を持っていて、その力を駆使して自分の「生まれがい」を見つけるために冒険の旅へと出かけます。巨大な磁石に吸い寄せられたり、魚になって海に飛び込んだり……。ラムラム王は「生まれがい」を見つけることができるのでしょうか。

著者
武井 武雄
出版日

大正時代に刊行されたとは思えないほど、モダンな絵と引き込まれるストーリーは武井武雄の代表作と言っても過言ではないでしょう。復元された際に文字遣いは変えられていますが、挿絵は当時の絵そのままであるという事にも驚きです。

一度見たら忘れられない童画の一つひとつに目を奪われ、ワクワクする冒険物語に大人も子どもも心を掴まれることでしょう。

ラストの場面は、武井武雄からの「自分はラムラム王の生まれ変わりである」というメッセージの様に感じます。

大正ロマンを感じさせるモダンな童画が目にも楽しい1冊

ギリシャの寓話作家イソップが作ったとされる寓話を集めた寓話集を、楠山正雄が編集、武井武雄が挿絵を描いた作品です。今回紹介する『最新版』は文字遣いを現代のものに改め、全ての漢字にルビをふったことで子ども達にとってより読みやすい作品となっています。

収録してある物語は、「きたかぜとたいよう」「ぶたとひつじ」「うさぎとかめ」「ろばとちん」「おおかみとこひつじ」など、全部で23話。ひとつひとつの物語を武井武雄のモダンで優しい色使いの絵が彩ります。

著者
武井 武雄
出版日
2014-06-27

「イソップ物語」という世界中で愛され続ける物語を、子ども達にも読みやすいように編集し優しい挿絵を描くことでその魅力がますます引き出された1冊です。

聞いたことがある話からこの作品で初めて知る話まで、23編の多様な物語の中でお気に入りの作品がきっと見つかるるはずですよ。また、子ども達への教訓となる話が多いので自分で感じ学ぶ心が育っていくことでしょう。

武井武雄の魅力がぎゅっと詰まった絵本の宝箱

武井武雄が子ども達の為に、気持ちを込めて描いた5冊の絵本が収められた絵本セットです。

武井が多くの作品を掲載した、絵雑誌「キンダーブック」の中から選りすぐりの5作品『うらしまたろう』『とうもろこしどろぼう』『きりたおされたき』『ぬけだしたジョーカー』。全て1970年代に刊行された作品ですが、武井武雄の生誕120周年となる2014年に絵本コレクションとして復刊されました。

一冊一冊の絵本が美しく細部にもこだわって描かれていて、武井の魅力に溢れています。子どもも大人もその魅力に浸れること間違いなしです。

著者
["山本 和夫", "西本 鶏介", "槇 晧志", "吉田 絃二郎", "こわせ たまみ", "宮脇 紀雄"]
出版日

中国の錦絵を元にした『にしきのむら』、鮮やかで美しい色彩で描かれた『うらしまたろう』、メキシコ民話の明るさが絵でも描かれた『とうもろこしどろぼう』、江戸時代の風情を感じる『きりたおされたき』、サーカスの絵が子どもの気持ちをワクワクさせる『ぬけだしたジョーカー』。どの物語も、武井武雄の絵によって生き生きと描かれ子どもも大人も心くすぐられるものばかりです。

時を経ても色あせない、宝箱のような絵本。武井武雄の世界に浸りたい読者にぴったりです。

武井武雄が生涯をかけて描いてきた童画。その魅力は時が経った今でも全く色褪せることはありません。それどころか、モダンで美しい絵はいつの時代でもどこか新しく感じるものばかり。

子ども達の為に描かれた絵本は、かつて子どもであった大人たちの心も掴み続けます。その魅力を子どもと一緒に感じ楽しむ時間は、きっと素敵な時となることでしょう。

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