レジカウンターで読み耽る日々
大学1年の冬から25歳の冬まで、実に7年間ほど書店でアルバイトをしていた。バンドマンという生き方を選んだ人間の御多分に漏れず普通の人達よりは色んなアルバイトを経験してきたわけだが、書店員としての時間が一番長かった(そしてこれから先この記録を更新することがないことを祈る)。
それだけ長くなると自ずとアルバイトの中でも古株になってきて、恐れるものは社員のみという状態。古株のくせに音楽以外の生活では省エネを心がけているため、重要な仕事を任されることもなく退屈なレジ打ちに配置されることがほとんどだった。平日の昼間のレジ打ちは退屈だ。時間を売っているという表現がこんなにぴったりな仕事もないなと、いつも目の前に掛けられた時計を見上げては忌々しく思っていた。
そんな退屈なレジ打ちにおいて唯一良かったことがある。もう時効ということにして言おう。私はレジに入っている間は基本的に店の本を読んで過ごしていたのだ。幸いレジカウンターは客と自分の間に段差があり視覚的にデッドスペースがあることと、文庫本などであれば仮にひょっこりと店長などが来てもブックカバーを折るのに使っているとカモフラージュすることも可能であることから、内緒で本を読むことには格好の場所と言えた。
そんなわけでアルバイト中に沢山の本を読んできたわけだが、今回挙げた3冊が奇しくも当時アルバイト中に読んだ本であり、かつ心に残って自分で改めて買いなおした本である。元書店員がレジで一人涙を流しながら接客する羽目になった、男心にずぶっと刺さる3冊を紹介しようと思う。
男としても書店員としても共感の嵐
主人公の土田くんは32歳独身の書店員。変わり映えのしない毎日にこれでいいんだと諦めるわけでもなく、かといってこれでいいのかと一念発起するわけでもなく悩みつつも日々を漫然と過ごしてしまう。幸せとか人生とかって果たして他人と比べてどっちがマシかなんて風に決まるものなのかなんて考えたり。益田ミリ作品全般に言えることではあるが、主人公の思索に共感するポイントが多々あるので、いくつか例を挙げてみる。
「7年間、毎日、毎日この1Kのマンションに帰りつづけている間に一体、何人の宇宙飛行士が宇宙に行ったんだ? 別に悲観してるんじゃないんだ。うらやましいのとも違う。ただ、ただ、オレの人生の意味ってなんなんだろうって、明日からもまたここに帰りつづけるオレの人生の意味ってなんなんだろうって考える夜もある。」
「人生がずっとつづくのなら人は、本なんて読まねえんじゃねーか? なにも探す必要がないわかる必要がない。いつだってできることはいつまでもやんないでいいのと似ている。オレがオレの部屋に帰りつづけるのは一晩ねむって、またオレの人生を生きるためなんじゃねーか。」
「自分ルール、その1。スーパーで半額弁当をゲットしたら、発泡酒ではなくビールを飲んでよし! 」
書店員が主人公なだけあり、作中で紹介される本も面白そうだなと興味を引くし、益田ミリ作品のファンならすーちゃんシリーズのキャラクターがスピンオフ的に登場するのでニヤリとしてしまったりと、色々な楽しみ方ができる1冊。