元書店員が選ぶ、男心に正拳突きな3冊

元書店員が選ぶ、男心に正拳突きな3冊

更新:2017.4.29 作成:2017.4.29

7年ほど続けていた書店のアルバイトでは古株にも関わらずレジ打ちをやっていた。時間を売るという表現がこんなにぴったりな仕事もない。唯一良かったのは、レジに入っている間は店の本を読んでいたこと。おかげでアルバイト中は沢山の本を読むことができた。

橋本薫(Helsinki Lambda Club)プロフィール画像
バンド
橋本薫(Helsinki Lambda Club)
2013年夏、西千葉駅前整骨院でバンド結成。Dinosaur Jr.とThe Strokesが恋人同士になったような、そこから紆余曲折を経てThe LibertinesとHappy Mondaysが飲み友になってしまったかのような、まるで、ビバリーヒルズ青春白書的な、なんでもありなニューオルタナティブサウンドを特徴とする。 シャンプーをしながら無意識で口ずさむぐらい、曲がポップ。そして、正統派ソングライターの橋本の歌詞はぐっとくるばかりか、歌詞内のさりげない小ネタにも知的センスを感じてしまう。 2014年上旬から数々のオーディションに入賞し、UK.PROJECT主催のオーディションにて、応募総数約1000組の中から見事最優秀アーティストに選出され、同年12月10日にUK.PROJECTから2曲入り8cmシングルをリリース。2015年3月18日にファーストミニアルバム『olutta』をリリースし、FX2015、VIVA LA ROCK2015、MUSIC CITY TENJIN2015への出演を果たす。同年12月18日にはシングル『TVHBD/メリールウ』をライブ会場と通販のみ限定500枚でリリースしたが、3ヶ月ですべて完売。2016年6月8日にファーストマキシシングル『友達にもどろう』をリリース。同年10月26日にファーストアルバム『ME to ME』をリリースする。 Helsinki Lambda Club HP http://www.helsinkilambdaclub.com
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レジカウンターで読み耽る日々

大学1年の冬から25歳の冬まで、実に7年間ほど書店でアルバイトをしていた。バンドマンという生き方を選んだ人間の御多分に漏れず普通の人達よりは色んなアルバイトを経験してきたわけだが、書店員としての時間が一番長かった(そしてこれから先この記録を更新することがないことを祈る)。

それだけ長くなると自ずとアルバイトの中でも古株になってきて、恐れるものは社員のみという状態。古株のくせに音楽以外の生活では省エネを心がけているため、重要な仕事を任されることもなく退屈なレジ打ちに配置されることがほとんどだった。平日の昼間のレジ打ちは退屈だ。時間を売っているという表現がこんなにぴったりな仕事もないなと、いつも目の前に掛けられた時計を見上げては忌々しく思っていた。
そんな退屈なレジ打ちにおいて唯一良かったことがある。もう時効ということにして言おう。私はレジに入っている間は基本的に店の本を読んで過ごしていたのだ。幸いレジカウンターは客と自分の間に段差があり視覚的にデッドスペースがあることと、文庫本などであれば仮にひょっこりと店長などが来てもブックカバーを折るのに使っているとカモフラージュすることも可能であることから、内緒で本を読むことには格好の場所と言えた。

そんなわけでアルバイト中に沢山の本を読んできたわけだが、今回挙げた3冊が奇しくも当時アルバイト中に読んだ本であり、かつ心に残って自分で改めて買いなおした本である。元書店員がレジで一人涙を流しながら接客する羽目になった、男心にずぶっと刺さる3冊を紹介しようと思う。

男としても書店員としても共感の嵐

著者
益田 ミリ
出版日
2015-08-05
主人公の土田くんは32歳独身の書店員。変わり映えのしない毎日にこれでいいんだと諦めるわけでもなく、かといってこれでいいのかと一念発起するわけでもなく悩みつつも日々を漫然と過ごしてしまう。幸せとか人生とかって果たして他人と比べてどっちがマシかなんて風に決まるものなのかなんて考えたり。益田ミリ作品全般に言えることではあるが、主人公の思索に共感するポイントが多々あるので、いくつか例を挙げてみる。

「7年間、毎日、毎日この1Kのマンションに帰りつづけている間に一体、何人の宇宙飛行士が宇宙に行ったんだ? 別に悲観してるんじゃないんだ。うらやましいのとも違う。ただ、ただ、オレの人生の意味ってなんなんだろうって、明日からもまたここに帰りつづけるオレの人生の意味ってなんなんだろうって考える夜もある。」

「人生がずっとつづくのなら人は、本なんて読まねえんじゃねーか? なにも探す必要がないわかる必要がない。いつだってできることはいつまでもやんないでいいのと似ている。オレがオレの部屋に帰りつづけるのは一晩ねむって、またオレの人生を生きるためなんじゃねーか。」

「自分ルール、その1。スーパーで半額弁当をゲットしたら、発泡酒ではなくビールを飲んでよし! 」

書店員が主人公なだけあり、作中で紹介される本も面白そうだなと興味を引くし、益田ミリ作品のファンならすーちゃんシリーズのキャラクターがスピンオフ的に登場するのでニヤリとしてしまったりと、色々な楽しみ方ができる1冊。

ニシノユキヒコ ー プレイボーイ要素 = ハシモトカオル

著者
川上 弘美
出版日
2003-11-26
ニシノユキヒコはその生涯を通してプレイボーイだった。これはそんなニシノユキヒコを巡って、彼のことを愛した(または愛しかけた)女性たちによって描かれた彼の人生と人物の記録だ。ニシノは沢山の女性に愛されるのだが、同時に複数の女性と平然と関係を持つことに嫌気が差したり、彼の心の奥の闇に触れて自分ではどうすることもできないことに気付いたりして、いつも女性の方から長くとも2年程度でニシノの元を去ってしまう。

読めばわかるがこの男、うらやましくもなかなかのクズっぷりなのだが、どうしても共感せざるを得ない点が一つある。それは、愛することを知らないということだ。人が人を愛するってどういうことなのだろうか。映画や小説などでそういう描写は腐るほど出てくるからなんとなくイメージはできるけれど、本当の意味で自分は愛を知っているのだろうかとたまに恐ろしくなる。

愛を与えるということが相手を思いやるという行為だとして、その相手への思いやりが裏を返せば自分のことを考えているってことも多々あるし(そもそも愛を”与える”という考え方が正しいのかどうかもわからない)。もしかしたら正しく愛を認識できているのかもしれないけれど、できていないかもしれない。はっきりわからないから余計に恐いし、周りの人間が普通にこなせている行為だとしたら余計に孤独だし、大きな欠陥を抱えているような気持ちになる。口に出すのは簡単だけど、愛するってどういうことだろう? 誰か教えてください。

作中から一つ真理に近いと感じた文を抜粋。「でも、甘くみあわないで、どうやってひとは愛しあえるだろう。許しあって、油断しあって、ほんのすこしばかり見くだしあって、ひとは初めて愛しあえるんじゃないだろうか。」

思っている以上に、ずっと脆い

著者
山崎 ナオコーラ
出版日
2012-12-01
正論は嫌われるだけとよく言う。山崎ナオコーラの描く人物や吐き出す言葉は、ジョークの衣をまとっているわけでもなく剝き出しのまま投げかけられることが多く感じるが、なぜ頭の中に一陣の風が吹き込むように爽快な刺激と納得を与えてくれるのだろうか。世の中的になんとなく当たり前とされている常識、法律、システムに対して違和感を感じれば徹底的に何故を突き詰めていく姿勢に、同じく現代日本の社会に対して違和感や生きづらさを覚える身にとっては彼女の作品はいつも勇気と安心感をもたらしてくれる。

今作でもそういった社会との関わり方が描かれているわけだが、私が特に共感し見抜かれて恥ずかしいような気持ちにさせられたのは、主人公の栞の彼氏であり一つ年上の紙川の存在によってである。異性に好きだと告白することが二人組になるという意味であることを疑わなかったり、周りからすごいと思われるために公務員を目指したり、知らぬ間にものごとを決めつけで話してしまうところだったりと、社会通念に絡めとられた生き方考え方をする紙川に対し冷静かつ自分の感覚で判断を下す栞。

一見思慮深そうに見える紙川の傍に栞を対比させることで彼の俗物性が際立って、物凄く男として痛いところを突かれたような気持ちになる。生きづらさは増すかもしれないけれど、多角的な視点というのはきっと人生を豊かにする上で、そして社会を良くしていく上で必要だと思うので、沢山の人に読まれて欲しい作品。