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聖地巡礼のおともに…。神殿から教会まで論じる『古代地中海の聖域と社会』

更新:2020.11.27 作成:2017.4.27

本書は伝統的な意味で「聖地」とされた場所についての論考を集めたもの。タイトルの通りギリシャ時代からローマ時代にいたる数百年のあいだの、神殿から教会まで、多様な「聖地」のあり方が紹介されています。

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聖地巡礼といえば、今ではアニメやドラマに登場したりモデルにされたりした地域に詣でることを指しますが、アニメやドラマに限らず、パワースポット巡りやポケモンGo、ingressなど、昨今は「場所」を軸にした産業が注目を集めています。それは観光の意味が新しくなりつつあるのにも通じる現象であると言えます。

著者
浦野 聡
出版日
2017-02-28
本書で「聖域」として扱われるのは、一般にイメージされるであろう神殿や教会に留まりません。普通は都市(あるいは都市国家)として認識されている「ポリス」も含む、多様な「聖域」の在り方が多角的に論じられています。

有名なアンティゴネ―の悲劇において、王女は国家に反逆した兄の遺体を埋葬することを禁じられました。反逆者の埋葬は、ポリスの神聖性と相容れないものであり、それは政治の根本にかかわるものだったからです。本書のタイトルが単に『古代地中海の聖域』ではなく、『古代地中海の聖域と社会』となっているのは、このように聖域と社会構造とが分かちがたく結びついていることに由来します。

地中海は様々な地形があり、また遥か大昔からエジプト、中東、ヨーロッパなどの様々な文化圏が衝突・共存・相克してきた場所でもあります。高校の世界史でも習う「パックス・ロマーナ」の時代には、文化の坩堝(るつぼ)として各地の文化や風習が混淆(こんこう)しました。

本書のある章では、数世紀のスパンで、ある聖域の周辺の変化を辿っていきます。そうすることで、その聖域を中心にしていた都市の変化が、そしてその都市を取り巻く社会情勢の変化がわかるようになり、それはつまり時代の変化が見えてくるということでもあります。地図や写真、平面図が多く掲載されており、現場でなければわからないような臨場感の片鱗を味わうこともできます。

個人的にもっとも興味深かったのは、第3章「ネットワーク理論と神聖使節団テオリアのネットワーク」です。この章では、古代ギリシャにおいて複数の国家間で共通の祭儀が行われるときに派遣された「神聖使節団」について、ネットワーク理論を用いて論じています。さいきん話題になっている東浩紀氏の『ゲンロンゼロ 観光客の哲学』のクライマックスで登場した、あの「ネットワーク理論」です。本書のこの章でも、スケールフリーなどの概念が概説されています。

ギリシャの各都市では、そこで祭儀が行われるときに他の都市から使節団を受け入れていましたが、すべての都市が常に均一に、平等に使節団を相互に送り合っていたというわけではありません。ひとつの都市から別の都市へ、一方的に使節団が送られていることもありますし、ある都市に何百もの年から使節団が訪れることもありました。こう書いてしまうと平坦な印象になるかもしれませんが、本書では都市間の使節団のやりとりをダイナミックに捉え、当時の都市間のやりとりがどのようなものだったのかをいきいきと活写してくれるのです。