竹宮ゆゆこを知っていますか?アニメ化や漫画化された作品も多いライトノベル作家です。読みやすい文体でありながら実は深い題材を扱う、甘いだけではない彼女の作品の魅力をご紹介します。
『とらドラ!』や『ゴールデンタイム』のアニメ化で有名な竹宮ゆゆこ。1978年生まれで2004年に『うさぎホームシック』でデビューしました。この作品はのちに『わたしたちの田村くん』の第1話となっています。
大学院まで刑法を学んだ竹宮が、そこから得たものは「しょせん他人のことはわからない」「善悪は絶対のものではなく、人が決めた設定、人間の世界の作り物」ということでした。小説を書くということは設定を自分がするということで、そこに嘘はない。それだけは信じられるというのです。
そんな彼女が描く主要人物たちは「普通」からはちょっとズレているのですが、自分なりの「善悪の基準」を持っていてブレず、それがキャラクターの魅力になっています。そして、必ず彼らのすべてを受け入れる人物が周囲にいます。これは、「他人のことはわからない」と言いつつも、竹宮自身が人間に対する好奇心や相手を理解しようとする気持ちを失わずキャラクターを描き続けてきたからなのでしょう。
ライトノベルやラブコメディと呼ばれる作品群ですが、竹宮ゆゆこはただ能天気に明るい恋愛話を書いているわけではありません。いじめ、家族の不和、自死等、ともすれば暗くなるような題材を取り上げ、マンガチックなキャラクターと軽妙な語り口で仕上げます。ライトな文体だからこそ読者に読ませることができ、その後心に残るものがあるのです。
父親譲りの目つきの悪さで敬遠されがちな高須竜児は、実は争いごとが嫌いで完璧に家事をこなす高校生。片想い中の櫛枝実乃梨と同じクラスになると同時に、その親友である逢坂大河に振り回される日々です。
大河は身長143センチでお人形さんのような美貌なのに、非常に凶暴かつ我儘で、「手乗りタイガー」としてクラスメイトから恐れられている存在。しかしドジッ娘にして家事能力ゼロの大河の本性を知ってしまった竜児は放っておけず、何かと面倒をみてしまうのでした。
- 著者
- 竹宮 ゆゆこ
- 出版日
- 2006-03-25
アニメ化・漫画化もされており、ファンの多い作品です。竜児と大河もさることながら、かわいくて明るくスポーツ万能なのに変な口調で変なことをしてしまう実乃梨、正統派美人のモデルで性格が悪い亜美、和風美人で中身は漢!な生徒会長狩野すみれなど、個性豊かな女子高生がわんさか出てきます。その外し具合がいいです!
きっとお気に入りのキャラクターが見つかるはずです。更に、巨乳で頼りない竜児の母、竜児が愛するブサイクなペットのインコちゃん、大河が片想いしている「まるお」こと北村など、サブキャラクターも皆個性的です。
しかしこの作品、ただキャラ立ちしているだけのラノベではありません。巻を読み進めるうちに竜児も大河も家庭に問題を抱えて少なからず傷ついていることがわかってきます。明るく迷いがないかのような実乃梨も実はいろいろなことを考えたり悩んだりして自分の歩みを決めていくのです。
竜児と大河の片想いの行方は?2人の家族はどうなるのか?サブキャラたちの進路は?竜虎並び立つその日は来るのか?目が離せなくなるシリーズです。
大学入学を機に上京してきた多田万里はひょんなことから柳沢光央と知り合い友達になります。ストーカーまがいに光央を追う自称婚約者の加賀香子の完璧なルックス、本物のお嬢様オーラに目を奪われた万里は彼女が気になってしかたありません。しかし彼女は自分の思い込みのままに突っ走るイタイ女だったのでした。
- 著者
- 竹宮 ゆゆこ
- 出版日
- 2010-09-10
万里の大学生活は、サークル勧誘の名を借りた怪しい新興宗教への拉致軟禁、光央の心を掴むラブリーな岡千波の出現、お祭りサークルへの入部とリンダ先輩の出現などに彩られていきます。
大学生のラブコメディとしても楽しめますが、「もう1人の万里」がところどころで登場しており、この万里の正体は何なのか、失われた過去と交錯する現在、登場人物たちの恋はどうなったのかなどの部分を楽しむこともできます。この作品以降、竹宮は謎を提示し解き明かしていくというミステリーに似た構造を用いることがあり、ここから彼女が新たな境地に突入したことがうかがい知れて興味深いです。
小説の構造などという小難しい話はさておき、この作品でも登場人物たちは粒ぞろいの美人で変わり者、漫才のようなやり取りは健在です。全8巻プラス外伝、番外編、列伝まであるこのシリーズ、過去の影を少し引きずりながらも全力で生きる彼らの日常をとくとご覧ください。
23歳にして引きこもりニートの錦戸枇杷の唯一の日課は、夜の街を徘徊し女装の泥棒を探すことでした。盗まれたのはお金ではなく、亡き親友、清瀬朝野の写真です。自立を促すため家から追い出された枇杷がようやく捕まえた犯人は、なんと朝野の元彼、森田昴。昴は枇杷に謝り、同居を提案するのでした。
- 著者
- 竹宮 ゆゆこ
- 出版日
- 2014-08-28
誰かが亡くなると、周囲の人は「もっとこうしてやればよかった」「こうしておけばもう少し長く生きられたのではないか」など何かしらの後悔をするものです。2人は朝野の死についてそれぞれ強い罪悪感を抱え、もがき、前に進めずにいます。
重いテーマですが、ここでも竹宮ゆゆこ節は健在で、枇杷と昴のかけあいは思わず笑ってしまうほどで重苦しさを感じさせません。特に昴は、朝野をこの世にとどめておきたいばかりに女装をしているというツッコみたくなる設定になっています。でも、そこまで必死だからこそ2人の痛みが強く感じられるのです。
枇杷と昴はただ互いの傷を舐めあっているわけではない、切実で真剣そのものの関係です。同じ罪の意識を抱えた者同士が共に過ごす時間が、2人が再び歩き出す足がかりを作っていきます。痛くてせつなくて優しい物語です。
高校3年の濱田清澄は全校集会でいじめに遭っている1年生、蔵本玻璃を放っておけずに助けます。身なりも悪く変人扱いされている玻璃。清澄のおせっかいとも言える厚意は初め拒絶にあいますが、2人の距離は徐々に近づき、玻璃も清澄に心を許すようになります。しかし、玻璃はいじめ以外にも深刻な問題を抱えていたのでした。
- 著者
- 竹宮 ゆゆこ
- 出版日
- 2016-05-28
UFOが撃ち落とされたせいで死んだのは2人。……作品冒頭で玻璃が言う謎めいた言葉。UFO?死んだのは2人、ということは亡くなったのは宇宙人でなく人間?頭の中はハテナマークが点滅し、一気に物語に引き込まれます。
いじめの描写は醜悪ですが、物語の大半は冗談好きな清澄と実は天然だった玻璃の微笑ましいやりとりで癒されます。この部分はラブコメで培われた竹宮ゆゆこの本領発揮といっていいでしょう。
しかし、そんな楽しげなページでも不協和音のような耳障りな感じが常に底に流れています。その不協和音が一気に噴出する物語後半、そして冒頭の謎が解き明かされる終盤。ラストまで一気に読んで、また冒頭から読み返したくなります。一見軽い読み口に惑わされそうになりますが、気軽に竿を借りて釣堀に行ったら、思ってもみない大きな獲物に水中に引きずりこまれてしまったような衝撃が走る作品です。
シリーズものを含め竹宮ゆゆこの作品たちを紹介してみましたがいかがでしたか?どの作品の中でも魅力的なキャラクターたちがキラキラと輝いています。可愛らしいのに一癖ある登場人物の中から、お気に入りの1人を見つけ出してみてくださいね。