夜は暗くてはいけないか
夜の暗闇を否定するかのように、明るい照明は、次々発明されて人の暮らしを照らしてきた。でも、国や地域によっては、今でも外の明るさや暗さという自然に寄り添った暮らしをしている人たちの、そんな生活の様がこの本には述べられています。
日本とヨーロッパの芸術作品や気候、建築物などを通して暗さの文化論を講ずる一冊です。そういえば、東京に住んでから、人工的な明かりのない暗闇というのを体験することがなくなったような気がするのですが、ほんとうは、夜は暗いのが当たり前なのだということを、この本を読むと思い出されます。
ウエハースの椅子
“絶望は永遠の状態として、ただそこにあった。そもそものはじめから。”(物語冒頭より)
物語中の「私」は、‘‘勿論’’孤独で、おまけに絶望と親しくしているお陰で、とても平和だと言います。「私」と恋人との関わり合いが一冊を通じて描かれているのですが、その中で、普段言葉で表すのが難しいような感情や感覚が、寸分の狂いもなく的確だと思えてしまえる美しい表現で綴られています。
恋をしていても、していなくても、誰もが通ったことのある、いつかの記憶や感覚が呼び覚まされるような恋愛小説です。
死に至る病
“絶望は死に至る病である。”(本文より)
ここに論ぜられる絶望は、けっして外からふりかかってくる不幸などではない。
“絶望するということは、人間自身のうちにひそむことなのである。”(本文より)
そして、死ぬことが希望となるほどの状況の中、死ぬことさえもできない状態、それが絶望だといいます。そしてこのような苦悩に満ちた矛盾は、あらかじめ私たち自身にひそんでいる。
殆どの哲学書は文章が複雑で根気がいるので、なかなか読み切ることのできた試しがないのですが、この本に書かれている内容は心当たりのある部分が多く、共感しやすかった。今回紹介した江國香織さんの『ウエハースの椅子』からもこの本の影響を伺い知ることができるので、ぜひ合わせて読んでみてほしい一冊です。