孤独や絶望と親しくなれる本
そして、目の前の人とに限らず、遠く離れた場所で同じ本を読んで、ものがたりに共感している誰かと、知らぬ間に孤独や宇宙の実感を、共有しているのを想像してみたりするのもまた、良いんじゃないかと思う。

今回は「孤独や絶望と親しくなれそうな本達」を5冊、ご紹介いたします。

二十億光年の孤独

著者
谷川 俊太郎
出版日
2008-02-20
小さい頃、夜布団の中で宇宙の広さなどを想像すると、壮大で不思議な気持ちになってしまい、眠れなくなった記憶があります。この詩集の表題にもなっている詩、「二十億光年の孤独」を読むと何故だかその場面を思い出してしまいます。

“二十億光年の孤独に 僕は思わずくしゃみをした”(表題詩結び)

この詩集では、とても有名なこの詩をはじめ、谷川俊太郎さんの最初期の詩達を体感できます。布団の中で眠れなかった私も、くしゃみをして、さっさと寝てしまえば良かったのかも知れないなぁと、今となっては思うのです。

つむじ風食堂の夜

著者
吉田 篤弘
出版日
“夜は宇宙が存在する限りそこにあり続ける。夜とは、すなわち宇宙のことなのである。”(本文より)

私は、読み終えた本の内容など、ともすれば忘れてしまいがちなのですが、何年前に読んだのかも覚えていないこの本の、この一節を、今でもふと思い出します。「月舟町」に住む、当たり前に孤独な人たちが、(時折渦巻いては散っていくつむじ風のように)町の十字路にあるつむじ風食堂に集っては、また独りに帰ってゆく。

とても「静かな本」だと思います。一人で機嫌の良い時などに、ぴったりな一冊です。

夜は暗くてはいけないか

著者
乾 正雄
出版日
夜の暗闇を否定するかのように、明るい照明は、次々発明されて人の暮らしを照らしてきた。でも、国や地域によっては、今でも外の明るさや暗さという自然に寄り添った暮らしをしている人たちの、そんな生活の様がこの本には述べられています。

日本とヨーロッパの芸術作品や気候、建築物などを通して暗さの文化論を講ずる一冊です。そういえば、東京に住んでから、人工的な明かりのない暗闇というのを体験することがなくなったような気がするのですが、ほんとうは、夜は暗いのが当たり前なのだということを、この本を読むと思い出されます。

ウエハースの椅子

著者
江國 香織
出版日
“絶望は永遠の状態として、ただそこにあった。そもそものはじめから。”(物語冒頭より)
物語中の「私」は、‘‘勿論’’孤独で、おまけに絶望と親しくしているお陰で、とても平和だと言います。「私」と恋人との関わり合いが一冊を通じて描かれているのですが、その中で、普段言葉で表すのが難しいような感情や感覚が、寸分の狂いもなく的確だと思えてしまえる美しい表現で綴られています。

恋をしていても、していなくても、誰もが通ったことのある、いつかの記憶や感覚が呼び覚まされるような恋愛小説です。

死に至る病

著者
セーレン キルケゴール
出版日
“絶望は死に至る病である。”(本文より)

ここに論ぜられる絶望は、けっして外からふりかかってくる不幸などではない。

“絶望するということは、人間自身のうちにひそむことなのである。”(本文より)

そして、死ぬことが希望となるほどの状況の中、死ぬことさえもできない状態、それが絶望だといいます。そしてこのような苦悩に満ちた矛盾は、あらかじめ私たち自身にひそんでいる。

殆どの哲学書は文章が複雑で根気がいるので、なかなか読み切ることのできた試しがないのですが、この本に書かれている内容は心当たりのある部分が多く、共感しやすかった。今回紹介した江國香織さんの『ウエハースの椅子』からもこの本の影響を伺い知ることができるので、ぜひ合わせて読んでみてほしい一冊です。

この記事が含まれる特集

  • 本と音楽

    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る