小学校高学年の時期になると、自分を取り巻く環境や将来の事について悩んだり思いを巡らせたりすることも増えるかと思います。今回は、時にはじっくり考えそして時には思い切り笑って気分を変えることで、前に進む手助けをしてくれる絵本をご紹介します。
『むらの英雄』は、わたなべしげおが文章をにしむらしげおが絵を描いたエチオピアの昔話です。
物語は、ある村の12人の男たちが町に行く場面から始まります。帰り道に仲間が全員そろっているか気になった1人の男が人数を数えると、なんと11人しかいません。慌てる男たち。
しかし、読者にはここでネタばらし。男は自分を数えていなかったのです。次に数えた男もその次に数えた男も皆自分を数えずに、ついにはいなくなった男は「ヒョウにやられてしまったに違いない」というところまで話が膨らんでしまいます。男たちの頭の中はヒョウと勇敢に戦ってやられてしまった仲間のことでいっぱい。
哀しい思いで村に帰ると、1人の女の子が男は12人いるという事に気が付くのです。さて、男たちは自分の思い違いに気付くのでしょうか?最後まで笑えるお話です。
- 著者
- 渡辺茂男
- 出版日
- 2013-04-12
自分たちの思い違いに気が付かず、いなくなった仲間を思って涙を流す男たち。その姿は、「何で気が付かないの」と笑いを誘う一方、仲間を思う気持ちに心が暖かくなる作品です。大人たちが、嘆き悲しむ中で1人冷静な女の子の登場がよいスパイスとなり、より物語の面白さを引き立てています。
少し抜けてる村人たちの大らかな様子は、子ども達の心を和ませてくれるはずです。
『でっかいでっかいモヤモヤ袋』は、イギリスの新聞や雑誌の身の上相談の回答者として知られている作者が描いた、子どもの不安な気持ちを形にした絵本です。
物語の主人公は、やさしいパパとママ、お兄ちゃん、仲の良い友達に囲まれた女の子ジェニー。幸せな生活を送るジェニーですが、だんだんとモヤモヤした気持ちが広がっていきます。友達の事やパパやママの事、戦争が起きてしまうのではないかという不安な気持ちまで。すると大きなモヤモヤ袋が出現しどんどん大きくなってずっとついて来る様になってしまい……。誰にも相談できないジェニーはどうやってモヤモヤを解決したのでしょうか?
- 著者
- ヴァージニア アイアンサイド
- 出版日
子どもが抱える不安な気持ち、もしかしたら嫌なことが起きるかもしれないというモヤモヤした気持ちを形にしたのが、このモヤモヤ袋です。
思春期に差し掛かる高学年の時期には周りの目が気になったり、今までは当たり前に思っていた生活がいつか変わってしまうのではないかと不安な気持ちを抱く子どもも多いのではないでしょうか?親が一番の相談相手となれれば良いのですが、一番近い親だからこそ相談できないことも多いですよね。
そんな時に、そのモヤモヤした気持ちはあなただけじゃないよ、抱え込まずに誰かに頼って良いんだよと教えてくれる作品です。
『ライフタイム いきものたちの一生と数字』は、生き物の一生に携わる様々な数字について描いた作品です。作者は、絵本やノンフィクション作品など数多くの子ども向けの本を執筆するアメリカ人作家ローラ・M・シェーファー。
この絵本に登場するのは、一生の間に卵を包む薄い袋を1つだけ作るクモ。一生の間に30個の穴を木に開けるキツツキ。一生の間に200インチに育ち網目模様が200個できるキリンなど、11種類の動物たちです。
ページごとの文章はシンプルですが、動物の絵が全てとても綿密に描かれていて、たとえばキリンには本当に200個の網目模様が描かれていますし、キツツキの穴は29個描かれ最後の1個はこれから開ける所なのかなと読者の想像力を刺激します。可愛らしい絵ではありますが全てがリアルに描かれているのがこの絵本の良さです。
そして最後のページには、登場した動物の情報が詳細な文章で描かれていることも高学年の子どもにおすすめする理由です。
- 著者
- ローラ・M. シェーファー
- 出版日
- 2015-06-10
訳者、福岡伸一のあとがきとして、「人間もいきものです。一生のあいだに、きみは何をどれくらいすることになるかな。」という言葉が書かれています。
初めは、純粋に動物のことを知る楽しみを持って読み、2回、3回と読み込むうちに人間という動物である自分についても考えることができると素敵ですね。動物の様々な数を知ることで、自分が他の動物に与える影響、一生のうちに作り出す数など自分を取り巻くものにも思いを巡らせることができる作品です。
『バスラの図書館員 イラクで本当にあった話』は、イラクのバスラという港町の図書館で働く、アリア・ムハンマド・バクルさんが戦火の中で図書館の本を守り抜いた、実際にあった話です。
アリアさんの図書館に、集まってくる本を愛する人たち。人々の話題は迫りくる戦争のことばかりです。アリアさんは戦争で本が焼かれることを恐れ、ひっそりと自宅に運びます。
そして、ついに町を襲った戦争は全ての物を焼き尽くしてしまうのです。皆が図書館を見捨てて逃げる中アリアさんが本を守るために起こした行動とは……。
- 著者
- ジャネット・ウィンター
- 出版日
- 2006-04-10
「図書館の本には私たちの歴史が全部つまっている」と語るアリアさん。自分の身が危険に晒されようともその思いが変わることはなく、本を守りたいという気持ちがひしひしと伝わってきて胸を打たれます。
今こうして自由に本を読めていることは決して当たり前ではなく、幸せなことなのだと教えてくれる作品です。
私たち大人も戦争を経験したことがない中で、子ども達に平和について身をもって語ることは難しいですが、絵本を通して子どもも大人も共に平和について真剣に考え、そして感じる良いきっかけとなることでしょう。
『ねむりのはなし』は、もっとも身近でそしてなくてはならない「ねむり」の世界について分かりやすい言葉と優しい絵で描いた作品です。作者はアメリカ人作家のポール・シャワーズ。本作以外にも子ども向けの科学の絵本を描いています。
眠りは赤ちゃんから大人まで、そして人間以外の動物にとってもなくてはならない大切なことです。赤ちゃんも子どももたくさん眠って大きくなり、大人も疲れた身体や脳を休める為に眠ります。
- 著者
- ポール シャワーズ
- 出版日
- 2008-10-01
「ねむり」についてシンプルにそして優しく語りかけるように描いた作品です。
文章は全て平仮名で書かれていますし、高学年にしては簡単な内容かもしれません。しかし、幼い頃には大切にしていた眠りが勉強や遊びに追いやられ、どうしても睡眠時間が短くなってしまうこの時期だからこそ、親子でじっくりと読んでもう一度眠りについて考える良いきっかけとなるのではないでしょうか?
高学年の多感な時期だからこそ、親子でじっくりと読んでもらいたい絵本を紹介しました。
学校生活の中での人間関係も複雑になり、自分は人からどう思われているのだろうと思い悩んだり、日々の勉強に疲れてしまったりすることもあるかと思います。そんな時に、思い切り笑ったり、興味が広がる絵本や自分の悩みを解決したりする手助けとなる絵本を読むことで気持ちがリフレッシュしてまた明日から頑張ろうと思うことができるのではないでしょうか。また、悩みをなかなか親に打ち明けてくれない時期ではありますが、同じ絵本を読むことをコミュニケーションの第一歩として親子の会話のきっかけにしてみてくださいね。