2017年7月にアニメ化された競技クイズ漫画『ナナマルサンバツ』。クイズというおとなしそうなジャンルの題材を迫力ある描き方をしたことで人気が出た作品です。今回はそんな本作の魅力をご紹介!ネタバレを含みますのでご注意ください。
本作は主人公が周囲の力や自身の素質を活かしてどんどん成長していく姿がアツい作品です。まったくのクイズ初心者の彼が才能を見出され、徐々に熱中していく姿はスポーツ漫画にも引けを取らないほどの手に汗握る展開があります。
読者があまり詳しくない題材ながらも最終的にはその難しさや見所を共通のものとしてしまうストーリーテリングの力はうならされるもの。読み進めるうちに主人公と同じように競技クイズの醍醐味を肌で感じられること間違いなしの作品です。
- 著者
- 杉基 イクラ
- 出版日
- 2011-05-02
越山はこの春高校に入学したばかりの1年生。華やかな体育会系の部活勧誘を横目に「お呼びでない世界」だと思っているちょっと頼りないタイプの少年です。
そんな越山はひょんなことから新入生歓迎会でのクイズ研究会の即席クイズ大会に参加することに。知識豊富な彼は全て答えがわかっているのに早押しで負けて答えられない悔しさを感じます。
しかし短時間でクイズのコツを掴んだ越山は、一番最後の難問に見事正解!周囲の度肝を抜いてみるのです。その才能に目をつけたクラスメイトで競技クイズ経験者の真理によって誘われ、越山に競技クイズの世界に足を踏み入れることとなります……。
一度読んだ本の内容がすべて頭に入るという特技を持っている越山。彼は新入生歓迎会で活躍したとはいえ、クイズに慣れていないが故に問題にまったく答えられませんでした。
それは早押しに慣れてないことでの押し負けからくるもの。更に言うとそれはベタ問の情報量不足によって、ボタンを押すことのできるタイミングを知らないが故でした。
ちなみにベタ問とはクイズ大会や問題集などでよく見かける頻出問題のことで、これを覚えていることでボタンを押すことのできる「答えの確定ポイント」がわかります。
ある日、真理に誘われてクイズ大会に参加することになった越山。彼は競技クイズの第一歩が「ベタ問の暗記」であるということをその当日に知らされます。そして自分の番を迎えるのですが、やはりベタ問を知らない彼は圧倒的に不利な状況に陥ってしまうのです。
同じく真理に誘われてついてきた初心者の井上がポイントを連取する中で、越山はもう無理なんだと諦めかけてしまいます。
「やっぱり僕には無理なんだ…
ボタンチェックもまともにできない運痴だし…チビだし…」
彼のネガティブさが顔を覗かせた時、やっと自分の得意分野「文学」のクイズが出題され始めます。新入生歓迎会の時のように正解を連続する越山ですが、その良い流れを相手のミス押しで止められてしまいました。そしてまた異なる分野の出題となり、苦戦し始めるのです。
知識量が多いだけに自分の得意分野でしか早押しができないもどかしさがこちらにまで伝わってきます。そしてこのあと、この知識量の多さが競技クイズというものに疑問を持ってしまう原因ともなるのです。
競技クイズの醍醐味のひとつが緊迫感です。
クイズ大会で勝ち抜けできるのが残り1席になり、越山と最後まで残った相手のポイントが両者リーチとなる緊迫した場面。そして読まれた問題は……。
「本名は平岡公威。『金閣寺』『仮面の……」
そう、越山の得意分野「文学」だったのです。しかし、そこで押し勝ったのは相手。しかも更に悔しいことに相手はその問題の答えを知らなかったのです。そして相手が答えられずに次の問題へと移ってしまいます。
チャンスを逃してしまったことで更にプレッシャーを感じた越山はこう思います。
「定番(ベタ)がなんだ 定番に負けるな!!
とにかく押すんだ…!」
そしてその強い気持ちで問題に臨んだ彼は、まだ「ミニスカ」しか言われていない状態で押し込みすぎてしまうのです。
ちなみにボタンの「遊び」部分を事前に押しておくというのが押し込み。越山はまったく問題の意図がわからなかったのですが、ビギナーズラックで見事正解!何とか勝ち抜けることができるのでした。
相手より早く押せるかどうか、戦略的にわざと押して相手の答えを阻止するか、勝ちたい、負けられない……。様々な気持ちがクイズが読み始められるまでの沈黙の中に凝縮され、緊迫した空気感を作り出しているのです。
そして勝負が決まる一瞬。そこまでの展開の緊張感が競技クイズの醍醐味であり、『ナナマルサンバツ』の見所なのです。
このクイズ大会で早速越山は壁にぶつかってしまいます。勝ち抜けたことができたものの、晴れない顔の彼はベタ問の暗記をして、その答えがわかるポイントさえつかめれば勝負に勝てることに気づき、がっかりしてしまったのです。
これは競技クイズを始めた者が陥りがちなスランプ。純粋な知識量よりもコツをつかむことが勝敗を分けることが多い競技クイズに疑問を感じてしまうのです。特に知識量が豊富な越山はなおさらそう思ってしまいます。
その時に先輩の笹島にこう言われるのです。
「『クイズ』とは万国共通誰もが知っている『遊び』である」
そして笹島にベタ問だけでは決まらないと言われるものの、ベタ問によって悔しい思いをした越山はその真意が分からないまま2回戦を迎えることになります。
先ほどより有利なルール形式になったものの、今度はひっかけ問題を知らないことによって答えを間違えつづけてしまう越山。またしても答えは知っているのにポイントを稼げません。
しかし越山は2回戦の途中で問題にあるヒントが隠されていることに気づくのです。そしてそれをきっかけにただ答えるだけではない、ルールや戦略などのゲーム性を楽しむ競技クイズの本質的な面白さに気づいていくのです。
- 著者
- 杉基 イクラ
- 出版日
- 2011-08-03
今回少しネタバレしてご紹介いたしましたが、まだまだこれは物語の序盤。ここから越山はクイズのコツを掴んでいき、知識量の多さを武器にしながらどんどん成長していきます。
競技クイズを知らなかった少年がその面白さに引き込まれていく様子は、スポーツ漫画と同じくらいアツい気持ちにさせられます。ぜひ作品でその白熱する世界をお楽しみください。