ただ、エロいだけじゃない。「生々しい」恋愛漫画、読んでみませんか?

更新:2023.3.9

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女の子の体の柔らかさや、パーツの細部に、生々しさを感じませんか……!!?? 直接的な部位や行為を描いてはいないのに、ふたりの「仕草」や「会話」が、思わず”グッ”ときてしまいますよね。

そんな「生々しさ」が魅力のひとつなのが、恋愛漫画『付き合ってあげてもいいかな』。性対象が女性であること、お互いに少しの好意を持っていることから、女子大生2人が「とりあえず」お付き合いをしてみた、というストーリーです。

実際にはないような、ある意味「ファンタジー」な内容が見受けられる作品もある、女性同士の恋愛漫画というジャンル。本作はそのなかにありながら、心の揺れ動きや2人のからみが、何だか少し恥ずかしくなってしまうほど、リアルなのです。

今回は、作者、たみふる先生への突撃インタビューを通じて、「どうしてこんなに、絶妙に生々しいのか」の秘訣に迫ります!

 

 

12月12日には3巻も発売されます。19話から掲載で、冴子の過去が少しずつ明かされたり、みわの初恋の人が現れたりと、見所満載ですので、お見逃しなく。

著者
たみふる
出版日
2019-01-11
著者
たみふる
出版日
2019-12-12

 

生々しい魅力の秘訣は……?細部のパーツへのこだわり

 

ーー1巻冒頭から、ものすごく生々しくて思わずドキッとしてしまいました……!! でも、胸や局部など直接的な部分は、実はほとんど描かれていないですよね。

 

2人の足が交わっているコマは、官能的……!(『付き合ってあげてもいいかな』1話より引用)

たみふる 連載しているアプリ(マンガワン)では、ストアでのアプリ審査の問題もあるので性描写が露骨にならないようにしていて。直接的ではなく性的なメタファーを用いてどうやって描くか……かなり悩みますが、面白いところなんですよね。

ーー確かにエッチなのに女性でも読みやすい、絶妙なバランスです。表現にはどんな工夫をされているんでしょうか?

たみふる ひとつは、一般的に「エロい」とされるもの以外で、色っぽさを出すことです。

「エロ」って、おっぱいやお尻などの性的なシンボルが出ないといけない、というイメージがありますよね。でも、手や足、お腹、背中、首筋とか、普段シンボルにされにくい部分も色気は出せると思っていて、そういう部分だけでも官能的に見せられるよう工夫しています。

うなじからも感じる、みわの照れ……!(『付き合ってあげてもいいかな』2話より引用)

たみふる あと、連載の途中で「骨格診断」というのを知って、さらに女体の描き方に個性が出るようになったかと思います。

もともとキャラごとに皮膚が薄い、厚いっていうイメージは最初からつくっていたんです。たとえば、みわの唇はぽってり厚い感じで、冴子は薄い感じだな、とか。でも、骨格診断を知ってから、より意識して描くようになりましたね。

ーー女の子の体を描くのはもともと好きだったんですか?

たみふる もともと大好きです!(笑)でも画力に自信がなくて、もっとうまくならなきゃ!と思っていて。それで、ポーズ集の模写やヌードデッサンをして練習したんです。

もともとは人体を描く練習のために始めたんですけど、模写していくうちに「このパーツいいな……」「あ、今度ここのパーツ描きたいな」と感じるようになって。今は体を書くこと自体を楽しんでいますね。

だから、官能的なシーンを描く時は、「服を脱いでくれてる今がチャンスだ!ここであのフェチを出そう!!」ってテンションが上がります(笑)。

ーーフェチが爆発してるんですね!パーツでは、肉・骨・皮など、どの部分を描くのが一番好きですか?

たみふる 脂肪と骨のコラボレーションみたいなのは好きですね。

もともと、人体の(内部の)構造も勉強していたんです。でも、東村アキコ先生の「超速!! 漫画ポーズ集」に「構造が分からなくても、どうせ描くのはガワ(側)だから、ガワが描けるようになれば良い」みたいなことが書いてあって。「パッと見うまく見えればいいんだ!それだ!」と思って(笑)。

外から見えるところを意識して、「この角度だとこういう線になる」って覚えて描いてますね。だから、脂肪と骨です(笑)。

ーー脂肪と骨のコラボっていうと、たとえばどんな部位でしょう?

たみふる いろんな部位がありますが、私の中で最近ひじブームがきてます。ひじは、服を着てても描けるところなのでフェチが光るんですよ。

でも、ひじって内側に回した時と外側に回した時で、ひねると筋肉が変わる複雑なところみたいで……。なかなか描くのが難しいんですが、書きがいがありますね!

こういう角度でひじを曲げた時、骨とぷにっとする二の腕の部分はこういう線になるなって覚えるようにしてます。

確かに、腕からひじへのラインが美しい...!!(『付き合ってあげてもいいかな』22話より引用)

 

ーーでも、秋冬になったら、部分が服に隠れて描けなくなっちゃいますね。

たみふる そうですね。描けなくなるからやばい……と思ってます(笑)。でも、みわちゃんは髪が短いから、首筋とかはまだ描けますね。顎のラインや首筋も好きなので、秋になったらフェチはそこにぶつけていきます!

 

生々しい魅力の秘訣は……?心の動きを、体の演技におとす!

 

ーーその他に特にこだわって描いているところはありますか?

たみふる あとは、心の動きを体の動きにのせることですかね。

特に手や足の演技は、感情が出やすいのでこだわってます。指をぎゅってしてるのかしてないのか、相手の方にすり寄せてるのかいないかとか、そういうちょっとした違いで艶が出るんです。

 

みわが本音を漏らすシーンで、あえて顔ではなく足が描かれるという技……!(『付き合ってあげてもいいかな』10話より引用)

 

ーーああ〜〜!この足のシーン、「これだけで戸惑いとか、『したい』気持ちとかが伝わってくる!」と思っていました!

たみふる そう感じていただけて嬉しいです(笑)。

ーーあとは、ごまかし笑いの様子がすごく上手だなって思います。

たみふる 初めて言われました!なんだろう?……目の描き方なのかな。

現実だと、目で笑ってるシーンと笑ってないシーンでは結構違いが出るじゃないですか。それは意識しているかもしれません。

目は笑ってないけど口だけ笑ってるっていうシーンは、心から笑ってないなーってごまかしの笑いだし。逆に、目は笑顔だけどちょっと眉が困った感じになってる時は、相手に笑ってることを伝えるための愛想笑いというか。

作品だと、冴子は顕著ですね。

 

困り顔で笑う、冴子(『付き合ってあげてもいいかな』23話より引用)

 

ーーそういう具体的な動きは、周囲から情報を得てるんですか?

たみふる そうですね。周囲もそうですし、自分がうまく笑えてるかなっていう時を客観的に見ていますね。その時の自分の表情筋のイメージを覚えているというか。

ーー表情筋の動き……!細かなところまで日常で観察しているんですね。

 

生々しい魅力の秘訣は……?自分が見たい漫画を描く!

ーーここまで特に体の描写について伺ってきましたが、ほかにご自身ではどういうところが「生々しさ」の秘訣だと思いますか?

たみふる 私自身が生々しい描写をもっと見たい!と思っているから、あえて生々しさを出してる、というところもあって。その熱量が伝わってくれていたら、嬉しいです。

たとえば女性向けの漫画って、朝チュン→終わり、みたいなことが多いじゃないですか。

ーー「朝チュン」とは?

たみふる 性行為の描写はせずに、行為があったということだけを伝えてシーンを切り替えることです。よくあるのは、暗転したら朝になって鳥が鳴いてて2人とも裸っていう。

ーーあぁ!! よく見ますね!次のページ見たら行為が終わってる、みたいな。

たみふる そうそう。私は、いつもそこで「え、終わり!?」ってがっかりしちゃってたんです。「そこもうちょっと見せてよ!」っていう(笑)。だから私の漫画では、読者に、こういうところまで描いてくれるんだ!って思ってもらいたくて。

ーー確かに、2人の行為をここまで見ちゃっていいの……!?ってドギマギしながら読んでました。

こっそり覗き見してるようでドキドキする!!!(『付き合ってあげてもいいかな』18話より引用)

たみふる ただ、ここまで生々しさを描けるようになるまでは実はかなり勇気がいりました。私の漫画を読んでる家族や地元の友達たちに、この漫画に描いてあることをそのまま考えていたり、していたりするのかな、と見られるのが怖くて。この作品を描くまでずっと、さらけ出して描くことができてなかったんです。

ーー今、さらけ出せるようになったのはどうしてですか?

たみふる ある日、「地元の人たちより読者の方が何百倍、何千倍と多い」ということに気づいて、もういっか!と吹っ切れました。

少ない知人の目ばかり気にするのではなく、多くの人たちに面白いと思ってもらえるものを書く方がいい!と思って。

あと、「私だけかも」と思ってることって意外とみんなも思ってるな、というのに気づいたのもあります。だから、私が感じていたことは、たぶんみんなも同じように感じてるだろうと思ってさらけ出してみました。もう、ここは読者にも分かってもらえるだろう、と信じつつ描いていますね。

ーーそこからリアルさを追うようになったんですね。描いていてしんどい時はありますか?

たみふる 話を考えるのは楽しいけど、作画は物理的にきつい時がありますね。今一人で描いてるんですけど、1日3、4ページが限界で、数日缶詰することもあります。妥協せずに自分が目指した画面を作りたくて、今はスタッフを雇わずひとりで描いていて。

ーーすべてご自身で描いてるんですね……!

子供の頃って漫画を描いていた子が多かったかと思うんですが、そういう辛さを超えて職業にできる方ってどういうところが違うと思いますか?

たみふる たとえば、趣味で描くだけだったら、描きたい時だけ描いて、描けない時は別のことをすることができます。でも、職業だと描けない時も描かなきゃいけないので。自分との戦いに耐え抜けるかどうか、かなぁと思っています。

ーー耐え抜くためのエネルギーは何ですか?

たみふる さっきの話にも戻りますが、自分が一番読みたいと思ってるからでしょうか。

もともと『付き合ってあげてもいいかな』は同人誌で描いていた作品でした。その後、マンガワンで連載をすることになって何を描くかとなった時、主人公の2人が好きだから、もっと彼女たちの物語を描きたいと思ったんです。

「早くこのシーンが見たい!このストーリーが読みたい!」って。読者も待ってくれていますけど、誰よりも私が待っているんです。私が一番この作品にハマってるんですよ。それでなんとか頑張ってますね。

ーー「生々しさ」を感じる理由は、たみふる先生自身の「作品が大好き!」という気持ちの熱量や、そこからくる細かいこだわりにあったんですね。

その細かいこだわりについて、さらに具体的にお伺いしたいのですが……。

(以下に続きます)

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女子が女子に惚れる理由が分かる!と共感を生んでいる恋愛漫画、『付き合ってあげてもいいかな』。異性を好きになる読者からすると、百合漫画などの同性を好きになるストーリーの作品は、自分とは違うことのように思いがちではないでしょうか。しかしこの作品は、なぜか彼女たちに共感できる内容なのです。 そんな、共感できる作品に秘められた創作の工夫とは。作者のたみふる先生を、取材しました。

『付き合ってあげてもいいかな』は単行本が発売中!カバー裏の「オーディオコメンタリー風」漫画や、見開きの絵の、手の絡みなどの色っぽさなど、ぜひご覧ください。

著者
たみふる
出版日
2019-01-11
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