そっと宇宙に連れて行ってくれる「星空の本」5冊

そっと宇宙に連れて行ってくれる「星空の本」5冊

更新:2021.12.13

WEAVERのドラム、河邉です。連載2回目、前回はたくさんの方に記事を読んでいただけたようで、ありがとうございました。自分が好きなものを紹介できるのは楽しいものですね。うふふ。今月は「星空の本」をテーマに5冊選ばせていただきました。

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先日、WEAVERはプラネタリウムにてライブを行いました。もちろんバンド史上初なので最初は不安などもありましたが、しかしやってみると、それはまさにもう、星の海の下で演奏をするような、これまでにない素晴らしい時間を過ごすことができました。

ということで、今月は「星空の本」をテーマに5冊選ばせていただきました。季節は暖かくなってきましたが、まだまだ空は澄んでいるように思います。すべての人のロマンになりうる宇宙。紹介する本たちが、あなたをそっとそこまで連れて行ってくれますように。

三軒茶屋星座館

著者
柴崎 竜人
出版日
2013-12-05
渋谷から田園都市線で二駅。三軒茶屋の裏手にある古いビルのフロア。そこで和真はひっそりと三軒茶屋星座館を営んでいた。そこへ突然、アメリカにいたはずの弟が8歳の娘を連れて和真のもとを訪れ、一緒に暮らし始めるのだ。古いビル、バーカウンター、そしてプラネタリウム。店の性質上、様々な仕事や事情を持った人が集まり、それぞれの持つドラマが混ざり合う。互いが少しずつ影響しあい、最後には驚きの展開が待っている。

この小説の見所は、それぞれの章の名前が星座の名前になっており、その星座の神話と訪れる人の持つ背景が不思議とリンクしているところである。和真は星々の神話をいつもくだけた調子で、わかりやすくユニークに説明してくれる。オリオン座や山羊座の由来など、本来少しとっつきにくい神話の世界も、とても身近に感じることができるのだ。

本の中では実際に三軒茶屋にあるスーパーや通りの名前が多く出てくるため、本当にこんな星座館がどこかのビルに存在するのでは、と想像を巡らせてしまうこと間違いなしである。

読了後に、あなたはきっとこの星座館に行きたくてネットで検索してしまうだろう。

星に願いを、月に祈りを

著者
中村 航
出版日
2013-06-06
『リレキショ』『100回泣くこと』などを手がけた中村航さんによる、優しい物語。

キャンプファイアーの後、みんなが寝静まった頃に大介と麻里とアキオの三人はホタルを探しに森の中を歩き出す。物語の間に差し込まれるラジオからの言葉。番組表にはないはずの「星空・レディオ・ショー」が聴こえてくる。DJが話す宇宙のストーリーには哲学的で文学的な響きがあり、その言葉たちと流れる音楽がこの物語を導いていく。

小説は四章に分かれていて、それぞれの章は時間軸も違う。そしてそれらが一つに重なった時には、言葉にできない程の愛しさがこみ上げてくるのだ。命の物語か、愛の物語か、それはあなた自身で決めてほしい。文章のタッチがどこまでも柔らかく、読者は毛布に包まれたような安心した気持ちで読み進めていくことができるだろう。

個人的な話ではあるが、「星空」と「ラジオ」の組み合わせに美しさを感じるのである。WEAVERの「Shine」という曲でもその二つが登場し、恐縮ながら勝手に親近感を覚えている本でもある。夜空の星の一つをカバンに入れて持ち歩くことができれば……。そんなあなたの願いを叶えてくれる、大切な一冊になるだろう。

宇宙の声

著者
星 新一
出版日
2006-06-24
素晴らしいSFやショートショートの作品で知られる星新一さんによる宇宙の物語。「宇宙の声」と「まぼろしの星」という二つの物語が収録されており、どちらも誰もが心に持つイマジネーションの部分を刺激してくれる作品だ。

学校帰りのミノルとハルコは、宇宙特別調査隊のキダに宇宙での仕事の手伝いをお願いされる。宇宙で起こる不思議な現象の正体を探しに行くのだ。ロボットのプーボも仲間に加わり、幾つもの星を巡る冒険が始まる。それぞれの星にはまだ誰も見たことのない生き物がいて、主人公たちは知恵と工夫で困難を乗り越えていく。

少年少女向けの本であるが、大人が読んでも十分に楽しめる作品である。星の景色や驚異に立ち向かう主人公たちの姿が、まるで絵本のように映像として浮んでくるのだ。時々ある挿絵の手伝いもあり、宇宙の中で目まぐるしく展開される言葉の映像は、読者を最後まで楽しませてくれるだろう。親子で読むのも面白いかもしれない。

初めて長い本を読んだのはいつだっただろう。最後に音読をしたのはいつだっただろう。初心に戻り、心をフルで活動させてくれる本だ。

カシオペアの丘で 上・下

著者
重松 清
出版日
2010-04-15
直木賞をとった『ビタミンF』やドラマ化された『流星ワゴン』をはじめとする、数々の名作の著者である重松清の長編小説。北海道、北都と呼ばれるかつて炭鉱で栄えた街で、4人の小学生がボイジャー1号2号を見つけるため夜空の下に集まった。そこで満天の星空を見上げ、4人はその丘に「カシオペアの丘」という名前をつける。そしていつかここに遊園地を作ろうと約束をするーー。

実はこの作品、紹介するかどうかすごく迷った。なぜならこの作品を読んだ方は、きっと泣いてしまうだろうと思ったからだ。この作品は命の物語である。病気と闘う命の物語だ。命の中で、許されたいと願い続ける人と、許したいと願い続ける人の思いの交錯。4人の幼なじみの時を超越した心の繋がり。不変の家族への愛。

涙を流してしまうかもしれないが、この作品は今大切にしなければいけないことは何かと考えさせてくれる。今の自分の幸せにも気づかせてくれる。上下巻に分かれていてボリュームのある本でもあるが、決して忘れることのない経験になるだろう。勇気を出して手にとってみて欲しい本だ。

小説内でも出てきた星のエピソードの一つを紹介しよう。オレンジに輝くアークトゥールスと青い光を放つスピカは古くから夫婦星として親しまれてきた。現在肉眼で見ても少し離れているが、アークトゥールスは今も秒速100km以上の速度でスピカへ近づいているそうだ。約五万年後には二つの星は仲良く並んで見えるようになるという。春の夫婦星とも呼ばれているそうで、これからの季節に夜空を探してみるのもいいだろう。

宙の名前

著者
林 完次
出版日
2010-07-01
今回初めて、小説以外の本も紹介してみようと思う。すべての宇宙ファンへ送る、天体図鑑ともいえる本だ。ページをめくると美しく、鮮明に写された星々の写真がずらりと並ぶ。この本の特筆すべきところは、タイトル通り、写真と共に星々の名前が記されているところだ。夜天光、星野光、明けの明星、立待月、居待月、火星の和名である夏日星。聞いたことのある言葉から、まったく聞いたことのない名前まで、時間や季節で分けられ宇宙の名前が整理されている。さらに昔の歌人が詠んだ俳句までも掲載されているのだ。

宇宙の名前は美しい。この本はただの天体図鑑ではなく、文学がちりばめられている。最初に星の名前をそう呼んだ人は誰なのだろう。星のその姿を見て、自然と唇から出てきた言葉が名前になったのだろうか。

ふと壮大な宇宙の旅をしたくなった時には、そっとページをめくってほしい。この本が宇宙と、その言葉の美しさの世界へ連れて行ってくれるだろう。

この記事が含まれる特集

  • 本と音楽

    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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