藤城清治が挿絵を手がけたおすすめ絵本5選!日本を代表する影絵作家

更新:2021.12.19

絵本や雑誌など数多くの作品に影絵を掲載し、見るものを魅了し続ける藤城清治。その活躍は本に留まらず、数々の影絵劇が上映されるなど高い評価を受けています。見る人を惹きつける影絵。その魅力に溢れた絵本を紹介します。

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光と影の魔術師、世界中の人々を魅了し続ける作家藤城清治

藤城清治は、見る人の心を掴む影絵作品を多く手掛ける影絵作家です。

出身は東京都。幼少の頃から絵の才能に恵まれ、慶應普通部に入学後は水彩画や油絵の指導を受けると共に、人形劇、影絵と出会い劇場を結成します。卒業後は東京興行に勤務し、「暮らしの手帖」にて影絵を掲載。影絵劇の上映も行いました。

1950年、初の影絵絵本『ぶどう酒びんの不思議な旅』を出版。影絵劇『泣いた赤鬼』『銀河鉄道』などでは数々の賞も受賞し、高い評価を受け続けています。

NHKみんなのうたで「雪とこども」のアニメーションを制作。「木馬座アワー」という番組のキャラクターとして「ケロヨン」を創作する等テレビの世界でも活躍が見られました。

その後も多くの影絵劇や絵本、画集を制作し美術館も開設されるなど、その芸術的な作品への人気は衰えることを知りません。

デビュー作をカラー作品として書き下ろした渾身の一作

『ぶどう酒びんのふしぎな旅』は、アンデルセン童話「びんの首」を藤城清治が26歳の時に影絵絵本のデビュー作として出版した作品です。そして、デビューから60年経った86歳の年に、元々は白黒で描かれていた作品をカラーでの作品として書き下ろしました。

物語の主役は、今はコルクの付いたびんのかけらとなってしまったぶどう酒びん。元は上等なぶどう酒びんとして生まれ、あるお嬢さんの婚約式の日に空高く投げられたことから始まった波乱に満ちた旅。それは同時にその瓶にかかわった人々の人生も物語っています。そしてぶどう酒びんが最後にたどり着いた場所とは……。

著者
藤城 清治
出版日
2010-04-13

世界中の人々に愛されるアンデルセンの名作を、繊細でどこまでも美しい影絵が彩るまさに見る人の目を惹きつける絵本です。

喜びに溢れた様子、どこか哀し気な様子、その全てを影絵で表しているのです。そして、カラーとして書き下ろされた際に描かれた瓶の輝きや光の鮮やかさ、その色遣いの細部にもこだわりが感じられます。

デビューの頃から変わらず、影絵の材料は新聞紙やザラ紙、切っているのは剃刀の刃という変わらない手法で制作されているという事にも驚きです。

手元に置いて何度でも読み返したい、そんな作品です。

ため息がでるほど美しい!物語と絵が絶妙にシンクロしあう作品

『絵本マボロシの鳥』は、お笑い芸人として知られる太田光の処女小説を藤城清治が40枚の美しい影絵で彩る、幻想的な作品です。

物語の主人公は、舞台芸人のチカブー。魔法と呼ばれるほど観客を魅了する芸とは、見る人によって全く印象がかわる不思議な鳥を胸から出現させること。その鳥は「マボロシの鳥」と呼ばれ、だれもが一番見たいものであると感じるのです。しかし、ある公演中に開け放たれた劇場の窓からマボロシの鳥は逃げ出してしまいます。それからのチカブーは落ちぶれていくばかり。

一つの村にたどり着いた鳥。その鳥を手にした青年は人々に尊敬され国の王として君臨していました。しかし、この鳥をずっと籠の中に閉じ込めて良いのかと悩んだ王は、鳥を自由にすることを決心します。解き放たれたマボロシの鳥が向かった先とは……。

著者
藤城 清治
出版日
2011-05-17

太田光が描いた物語の全てのページを、光と影で溢れた美しい作品で彩った珠玉の一冊です。

絵本としての作品ではありますが、まさしく芸術作品と呼ぶに相応しいほどに全ての絵が繊細で生き生きと描かれいます。人々の表情、マボロシの鳥の美しさ、そしてチカブーの心情までもが絵の1枚1枚から感じられるのです。

この作品を手掛けるにあたって、藤城清治は登場する劇場をミニチュアで作り、人物は粘土像で作るなど様々な工夫を凝らし、絵が1枚完成するごとにバラの花をつけて喜んだそうです。それだけの思いを込めて作りあげたということが、全ての作品から伝わってきます。

この作品は、たくさんの人に世界はきっとどこかでつながっている、そして影がある場所には必ず美しい光があるということを伝えてくれることでしょう。

藤城清治の世界に浸れる名作

『銀河鉄道の夜』は、日本のみならず世界中から愛され続ける宮沢賢治が描いた名作童話を、藤城清治が美しい影絵の数々で彩ったのが今回紹介する絵本です。

物語の主人公は、貧しい家で暮らす少年。ある日、一人で星空を見ていると、まぶしい光に包まれ友達と共に銀河鉄道に乗り込んでいました。2人は星を巡る旅をしながら、様々な生き方をする人々に出会います。そして、旅の途中で聞いた本当の幸せを見つけることを誓うのです。しかし、友達はお母さんに対しての言葉を残して消えてしまいます。

主人公が目覚めると、友達は川で溺れた同級生を助けようとして行方不明になっていたことを知ります。友人が残した言葉の意味とは……。

著者
宮沢 賢治
出版日
1982-12-17

孤独に暮らす少年が、銀河鉄道の旅を通して本当の幸せとは何かを悟る、童話ではありますが哲学的な意味を感じさせる作品です。世界中の人に知られ、挿絵もたくさんの画家によって描かれている不朽の名作です。

藤城清治が挿絵を制作したこの作品は、光と影のコントラストが息をのむほど美しく一枚一枚の絵をずっと見つめていたくなるほどに引き込まれます。全てのページが美しいのですが、きっと読者の一人ひとりにとってのお気に入りのページができることと思います。

影絵劇としての『銀河鉄道の夜』も高い評価を受けており、光の揺らめきや影の動きからより作品を生き生きと魅せてくれます。

子どもも大人も一緒になって楽しめる一冊

『お母さんが読んで聞かせるお話 お見舞いにきたぞうさん』は、その題名の通りお母さんやお父さんが子どもと一緒に絵や文章を楽しみながら読んであげたい絵本です。物語は13話の短編で描かれていて、全ての話に愛らしく美しい影絵が描かれています。

表題となっている「お見舞いにきたぞうさん」は、5話目の話。ずっと寝たきりの女の子ナージャが主人公です。医者でも原因が分からず、日に日に痩せていくナージャ。ある日、両親に「本物のぞうがほしい」とお願いします。そして本当に象が家に来ることになりました。夢が叶った少女はどんどん元気になり……。

生きることは楽しむことだということを教えてくれるお話です。

著者
["藤城 清治", "香山 多佳子"]
出版日

藤城清治は、あとがきで「こどもだけが見て楽しむというよりは、お母さんもお父さんも一緒になって。お話や絵を楽しみながら話し合ってもらいたい」と語っています。その言葉の通り、物語はどこかおしゃれで大人が読んでも面白いですし、挿絵の一枚一枚がその物語を彩り子どもと一緒になって、ウキウキした気持ちで読む事ができる作品です。

大人が楽しみながら読んでいるとその楽しさは子どもにも伝わりますよね。親子で楽しい時間を一緒に楽しむのにぴったりです。

子どもが楽しむことを一番に考えた民話

『子どもに聞かせる世界の民話』は、長い間世界中の人々の口から口へと語り伝えられた民話を、子どもに分かりやすい言葉に再話した作品です。

初めのページにこの本の使い方が掲載されていて、忙しいお母さんが少しの合間に読めるように何分くらいで終わる話なのかを記号で記してあったり、民話を話す人々が暮らす場所を地図で示してあったりと親にも子どもにも優しい工夫が満載です。

けものや虫が出てくお話、王子や王女が困難と戦い幸せになる話など子どもの興味を引く民話が多数紹介されています。藤城清治の挿絵は多くはありませんが、話の合間に描かれ物語を彩ります。長い話の時には、絵をみて休憩をしながら読むのも良いかもしれませんね。

著者
出版日

各国の民話が収められていて、400ページにもわたる作品なので子どもにはまだ早いかもとためらってしまうかもしれません。しかし、子どもが読みやすいように、そしてお母さん、お父さんが読み聞かせをしやすいように考え抜かれた作品です。

まず目を引くのが、表紙を裏表紙の色鮮やかで異国情緒あふれる影絵。開いてみると、文字は多いのですが一つひとつの物語は意外と短く、幼稚園くらいの子どもでも集中して読むことができます。

絵を見て楽しむことから、言葉を聞いて想像力を働かせて楽しむ事へと挑戦する時期にピッタリの一冊です。

光と影を自在に操り見るものを魅了し続ける、藤城清治の作品。その全てが美しく、キラキラとしたものが好きだった子どもの頃を思い出します。物語は絵でこんなにも光り輝くことができるのだということを教えてくれているようです。子どもの頃から、美しいものを見ることで感性豊かになってもらいたいですね。

たくさんの作品の中から、ぜひお気に入りの作品を探してみてくださいね。落ち込んだ時に眺めると穏やかな気持ちになれるはずです。

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