可憐な女子高生の仕事は、「臓器売買」? 臓器売買組織とそれを追う人々のサスペンス・ストーリーが人気の『ギフト±』。主人公である女子高生・環(たまき)の、美しくも恐ろしい雰囲気が魅力的な作品です。 今回は、アニメ化もされた人気作の見どころを13巻までご紹介!ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。スマホのマンガアプリで無料で読むこともできるので、ぜひチェックしてみてください!
「生きる価値がない人」というのは、いるのでしょうか。仮にそのような人がいるとして、社会は、その人々にどのように向き合うべきなのでしょうか。
「基本的人権を尊重するべき」というのは模範解答でしょうが、尊重をした結果、高確率で他の「基本的人権」をもっている人々へ危害を加えると分かっている人には、いったいどう対応するべきなのでしょう。
この漫画には、1巻だけでも、「連続強姦殺人者(シリアルキラー)」、「連続実子殺人者(妊娠だけをしたい女性)」、「通り魔」と、社会に不安と実害をおよぼす人々が登場します。いずれも「再犯」をし続ける人々ですが、逮捕をしても一定の再犯率が毎年報告されている現代では、再犯を止めるすべはなかなかなく、あっても膨大なコストがかかってしまいます。
そのような問題提起をするとともに、過激な「解決策」を示しているのが、このマンガ『ギフト±』です。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2015-07-18
繊細な線で、美しい女子高生も極悪な犯罪者も過激な解剖シーンも描き抜き、前述するような社会問題に対して、マンガならではの仮説力を通してどんどんと切り込んでいくのが、鬼才・ナガテユカ。
本格サスペンスとして多くの人々を引き込んできた『ギフト±』の主人公・環(たまき)の美しさと、「生きる価値のない人間は、臓器になって役に立てばよい」という歪な正義感には、読みだしてしまうと、目が離せなくなるでしょう。
今回はそんな主人公、女子高生・環(たまき)の立ち振る舞いを中心に、背筋がひやりとするような名シーンをご紹介します。
また、スマホアプリ「マンガPark」で無料で読むこともできるので、気になった方は以下からご覧ください。
主人公の女子高生・環(たまき)は学校では無気力な普通の子。しかし学校が終わると、臓器売買のためのターゲット「クジラ」を捕獲し、生きたまま解体するという仕事をしています。
なぜ彼女が生きた人間の臓器解体をおこなうようになったのかは、徐々に明かされる本作の謎ですが、臓器売買のターゲットを「クジラ」と呼ぶことの意味は1巻から明かされます。
昔からクジラ(海を泳ぐ生き物)は、その全身をまるまる資源として利用されてきました。肉は食用に、骨や皮はクレヨンや石鹸の材料に、すじはラケットなどのネットに、歯は靴べらに。まったく「無駄がなく」活用される生き物だったのです。
人を臓器として見る環(たまき)ですが、悪人なのかというと、そうではありません。飛び降り自殺を図ろうとした女子生徒を引きとめ、命を救うこともします。
この時、自分の命を粗末に扱う女子生徒に対して、環は次のように言葉をかけます。
「ダメだよ こんな事しちゃ
…もっと命は大事にしないと」
同じ人物が、同じ表情で発する「命は大事に」という言葉。しかしまったく逆の意味をもつ言葉だと気づいたとき、私たちの背中にゾクリと何かが走ることでしょう。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2015-10-19
連れ去った強姦殺人魔の男を仕事場に連れて行き、解体を始める環。ナイフを横1列に綺麗に並べ、こう言います。
「仕事する相手に敬意を払うの
そういう気持ちって大事だよね…」
(『ギフト±』1巻より引用)
仕事の流儀を語りながらも、環は彼が目を覚まして恐怖で叫んでも眉ひとつ動かしません。完全にその目は人間というよりも「もの」を見る目です。そして何事もなかったかのように慣れた手つきで解体を始めます。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2016-01-18
臓器を次々を取り出し、両手が血まみれになっても表情を変えない環。最後の心臓を取り出し、強姦殺人を繰り返してきた「クジラ」についてこう語ります。
「あの男には生きてる時は存在価値なんてなかった
でもこうなって初めて社会に貢献出来たんだ
…命は神様からの贈りもの
それをより良い形で再配分するの
これも人助けだよ」
(『ギフト±』1巻より引用)
そして今までにない笑顔で、笑うのです。
このシーンで初めて笑顔らしい笑顔を見せた環。作業服を血まみれにしながら、達成感で頬を紅潮させます。
彼女を見ていると「正義」とは、「悪」とは何なのかが分からなくなって来ます。果たしてあなたは彼女の「正義」を見て何を感じるでしょうか?
環の所属する臓器売買グループのリーダー秋光崇は、表向きは大学生として生活しています。
極秋会病院を運営する秋光家の資金力、人脈を背景に、自身のハッキング能力を活かし、環のサポートをします。環に執着する理由は、自身と母の鈴原真琴と似ているから。
秋光家の2代目当主・聡の次男と表向きにはされていますが、実は祖父正とその妾鈴原真琴の子供です。
そもそもタカシが生を受けた理由は、聡の病弱な実子・渉へ心臓を移植するためでした。臓器提供者になるべく産み落とされたのです。しかし、渉が手術に耐えられないことが判明し、タカシは渉の世話係として生かされることになります。
その後、極秋会病院の院長をしていた叔父を廃人にし、病院の実権を握ることになります。
英琢磨は、指名手配をされており、闇医者林として違法な臓器移植を行っています。
琢磨が指名手配をされることになった原因は「英医院放火殺人事件」。確かに放火をしたのは琢磨でしたが、それは環をかばってのことでした。
英医院の院長は琢磨の叔父で、琢磨は叔父が環の健康な心臓を摘出するという違法行為をしたことに気がつきます。そのことを叔父に問い詰めると、琢磨は叔父に打たれ意識を失います。現場を偶然目撃した環は、叔父を刺殺。
意識を取り戻した琢磨は、環が殺人を犯した証拠を隠滅するために火を放ったのでした。
環とは事件以来会っていませんでしたが、臓器移植に環が関わっていることを知ると、移植手術をすることができなくなり……。
元警官で探偵の阿藤は、自身の正義に従って行動します。児童売春クラブ「プティシャトン」の経営者が変死した事件を警察が握りつぶしたのに幻滅し、警察を辞めました。
探偵になってからは、琢磨に環の行方を捜す依頼を受け、環に接触することに成功しますが、臓器売買グループの一員で警官の加藤に射殺されてしまいます。
死ぬ間際に、後輩の女性警察官桜田に連絡し情報を託しました。
捜査一課の警部であり、タカシの臓器売買グループの一員でもある加藤。タカシの商売敵のリュウともつながっており、その真意はが重要になってくる人物です。
残留孤児3世のチャイニーズマフィア・リュウは、自身の左目をえぐったボスを殺害して、組織を乗っ取りました。
環を襲った際、睾丸の片方をつぶされたことがトラウマになっており、環を殺さなければ恐怖を克服することはできないと考え、環を狙っています。
阿藤の後輩で元恋人でもある女性警官桜田瑞希。阿藤の死に際し、プティシャトン事件からの一連の事件に関する情報を託され、事件を解決するため、命懸けの覚悟を決めます。
琢磨と接触するなど、独自に事件の捜査を進めていましたが、加藤に嵌められ謹慎処分に。その後、加藤のいる捜査一課に異動になって……。
環の主治医として登場した神崎梨世は、のちに中国、日本、アメリカの3ヵ国をまたにかける三重スパイであることが判明します。
中国からは環に移植された心臓が誰のものであるか突き止める任務を与えられ、タカシの病院乗っ取り計画においてはハニートラップ要員として叔父を罠にかけます。タカシは梨世が中国からのスパイであることに気づきますが、実はアメリカともつながっていて……。
常に冷静沈着で、無表情を崩さない主人公・環の口癖は「命を大切に」。
いじめを苦に、学校の屋上から飛び降り自殺しようとした女子生徒を助けた環は、「命は神様からの贈り物だから大事にしないとダメなんで」と助けた理由を述べます。
環にとって「命」はとても大切なもののようです。それは、生きたままの状態から臓器を摘出する「解体や」ならではの言葉かもしれません。
物語が走り出す1巻では、スプラッターな物語を彩る環のかわいさが余すこと無く描写され、物語の要となる登場人物たちや、臓器移植・臓器売買の闇が少しだけ明かされます。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2015-07-18
臓器移植において大切なことは、臓器の鮮度と品質を維持することです。
だからこそ、環たちのグループが提供する臓器は「生かしたまま取り出す」「純国産」であることにこだわっています。
その点において、タカシが見極め、環が解体した臓器の鮮度は抜群。腕のいい外科医ながらモグリの闇医者・林からもお墨付きが出るほどのクオリティです。
しかし、そんな林をはじめ取引先の病院や施設から臓器提供に対する断りの連絡が入りはじめ、何だか不穏な空気が流れ出します。
実は、中国マフィアが組織する臓器提供グループが、環たちのグループが持つ日本の市場を乗っ取ろうと目論見、水面下で動き出してきたのでした。
そんな緊迫した雰囲気を漂わせる1巻において、環が見せた屈託のない笑顔は癒やしであり、また恐怖でもあるというコントラストが絶妙です。
何の感情も見せずに「クジラ」を解体してゆく姿と、解体が終わった後にタカシに向かって「これも人助けだよ」と笑いかける姿と。 どちらの環も人間味を欠いた空恐ろしい気分にさせてくれる描写が本作の持ち味ではないでしょうか。
「命」を必要としている人に、必要な「命=臓器」を与えることを「人助け」と言い切る環のあどけない笑顔は天使のようなのに、行いは悪魔のような所業と対比が見事ですよ。
果たして環たちの行為は「人助け」と呼べるものなのか? 衝撃の展開が幕を開けます。
日本の臓器移植の市場に、中国系マフィアたちの人間関係がからみ合い、より事態が複雑になっていくのが2巻のメインストーリーとなっていきます。
特に、2巻で初めて登場する人物として、中国の残留孤児3世という身の上を持った「斎藤」は今後の展開にも深く関わっていく重要人物として挙げられるでしょう。
斎藤は、本名を「劉達善(リウ ダーシ)」と言い、大陸と日本、残留孤児や在日中国人たちの裏ネットワークに精通する存在として登場し、環たちと同じく臓器売買をおこなう中国系マフィアの一員として活動しています。
本名「劉」からとって「リュウ」と呼ばれており、部下たちからも慕われ、リーダーシップも兼ね備えている様子。
2巻では、そんなリュウの過去と現在が交錯しながら、徐々に環たちの市場に侵食していくリュウの姿を中心に展開していきます。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2015-10-19
リュウは残留孤児として育ったため、大陸でも日本でも「残留孤児である」という理由のために蔑まれ虐げられて過ごしました。
それゆえの不屈の精神がリュウを形成しており、その精神は、対立する組織のボスを殺してボスの座を乗っ取るような豪腕さになって現れています。
リュウは、日本での臓器売買を成功させるために、まずは環たちと同様に「生きたままの人間の臓器」を調達しようと考えます。その窓口となるのが、環と同じ高校に通う「アイ」という少女。
アイはリュウとともに、「バイト」と称し少女買春を斡旋しており、それと同時にバイトにやってきた少女たちの臓器を「解体」して売りさばいているのです。
そんなアイが次に目を付けたのがまさかの環!
そうして、アイは「仲良くなりたい」と環を誘い出し、クスリを打って眠らせてしまいます。そこに、何をするか分からないヤバい空気をまとったリュウがやってくるのだから、どうなる事かとハラハラしっぱなしです。
しかし、次の瞬間、環はそっと目を開けると、なんと無表情のままリュウの睾丸を握りつぶしたのです!ひー、痛そう……。
さらに、睾丸を片方つぶしておいて、「精子は不妊治療に使えるし」「両方潰すのはもったいない」という実に環らしいセリフを吐くからあっぱれですよね。
その後、リュウとアイを「クジラ」として処理するためタカシに連絡をする環……というラストシーンで2巻は終了しますが、このままでは終わらなさそうな緊迫した雰囲気が漂います。
「クジラ」として処理されるはずだったリュウが、力を振り絞って逃げ出してしまうという冒頭からスタートする3巻では、環の過去に関わる重要人物・林との接触も見どころです。
環たちのグループと懇意にしていた、医師の林は、阿藤という探偵に「たまき」という名前の少女を探すように依頼をしていました。
林は、本名を「英琢磨(はなぶさ たくま)」と言い、幼い頃の環の主治医だった人物です。
過去に起きた「英医院放火殺人事件」に関わっており、環の心臓を「自分が治す」と誓った約束を果たすために、事件の後から行方不明になっていた「たまき」を探し続けています。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2016-01-18
そんな折、林こと英から手渡されていた「英医院放火殺人事件」の全容をまとめたSDカードから、「たまき」の手がかりを見つけた阿藤。
英琢磨が勤めていた英医院と、大病院・極秋会病院、関係する2つの病院の共通点は「臓器移植の実績」があること。
その共通点から事件を紐解いていくことにした阿藤は、極秋会病院を経営する秋光家の紹介記事から、秋光家の次男・崇(タカシ)の子どもの頃の顔と、「たまき」の顔が瓜二つであることを突き止めます。
秋光家と「たまき」の間に何らかの秘密があることを掴んだ阿藤は、秋光家を見張ることにし、やがて探していた「たまき」が、環であることを確信するのです。
とうとう「たまき」を見つけた阿藤は、秋光家から出てきた環に声をかけます。
環の警戒を解きつつ、自分がなぜ環を探していたのか、その理由となる英琢磨の存在について説明しようとした矢先、1発の銃弾が阿藤を貫きます!
実は阿藤を撃ったのは、思いもよらない人物で……!?
と、なかなか読者が思い描く幸せな方向へと進展せず、裏をかいて進行するからこそ、面白い『ギフト±』。
環たちがくり広げる「クジラ狩り」の日常と、過去に発生した2つの事件が少しずつからみ合い、臓器売買をめぐる闇の深淵がますます深くなっていくストーリーの続きが気になって、ページを捲る手が止まりません。
環に起きた少しの変化と阿藤の遺志を継ぐ女刑事・桜田の行動が、物語を大きく動かしていく4巻。
これまで積み重ねてきた1つ1つが大きな塊となって、環とタカシ、リュウ、そして英琢磨、といった登場人物たちの裏に潜む謎が少しずつつまびらかになっていく胎動に心が躍ります。
3巻で銃弾に沈んだ阿藤は結果的に命を落とすこととなり、その遺志は元同僚で恋人である桜田瑞希へと受け継がれていきます。
桜田は、「プティシャトン事件」と、英が関わる「英医院放火殺人事件」、さらに女子高生の内臓が抜き取られて殺害されていた事件(=リュウが2巻で行った解体)との関わりについて、そのすべてに「たまき」が関連しているという阿藤の仮説を裏付けるため、英琢磨に会いに行くのです。
そうして、ポツリポツリと話される、「英医院放火殺人事件」の全容とは?
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2016-04-18
また、リュウに監禁のうえリンチされていた英と、そうとは知らずに出会った環の心臓が動き出すと、それまで何事にも心を動かすことのなかった環が、少しずつ「人間らしい」感情に目覚めます。
環がたまたま病院で出会った、心臓の悪い将太くんという男の子との交流はその最たる例でしょう。
将太くんとの心の交流を通じて初めて、自身が解体した男の心臓を「将太くんにあげたい」という思いを持つようになります。
ほかにも、ライオンとインパラのガチャガチャおもちゃをライオンに会いたがっていた将太くんに渡すために一生懸命になっているところなど、人間らしいやさしさと「愛」のようなものが誕生してきた環。
無垢な子どものように、言われるまま行っていた「解体」という行為について、少しずつ自分の想いも芽生え始めていくのかもしれません。
「あたしも神様からの贈り物(ギフト)を再分配することで人を助ける…いいよね、それで…たくま先生…」(『ギフト±』4巻より引用)
その時、「命の再分配」について、環はどんな結論を出すのか。どんな結論であったとしても、環が出した結論を見届けたいものです。
4巻から新しく登場した、環の主治医・神崎梨世(かんざき りよ)先生も要チェックですよ。
2つの事件と、「たまき」について徐々に明かされていく5巻では、まず、「英医院放火殺人事件」について、英琢磨が桜田警部補に真実を語り出すところからスタートします。
語られた内容を整理すると、
ということのようです。
その話を聞いた桜田警部補は、移植される前の、環の心臓の行方が全ての事件の鍵を握っているのではないかと確信を持つのでした。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
一方で、環やタカシの過去についても少しずつ明らかになっていきます。
秋光正翁が立ち上げた新興財閥である「極秋会」。
その極秋会の跡取りである「聡」と正妻との間に生まれた長男が「渉」で、タカシの兄です。そして愛人と聡との間に生まれたのが「崇(タカシ)」であるとされていました。
しかし、実際には、タカシは父・聡と愛人との間の息子ではなく、祖父である秋光正翁と愛人との間に生まれた子どもだったのです! 年の差が凄いことになっていますね。
そしてその愛人というのが、少女買春を斡旋する高級クラブ「プティシャトン」にいた「真琴」という名前の15歳の少女だということが発覚します。
プティシャトンの顧客リストが流出した「プティシャトン事件」と「英医院放火殺人事件」と、「たまき」が繋がった瞬間です。
なかなか衝撃的な事実が明かされた今巻では、タカシが叔父の経営する「極秋会病院」の実権を握り、何かをやろうとしていることや、真琴の写真を眺めているときに突如暴れ出した環の心臓、英琢磨と環の関係など伏線の多くが回収されてきました。
今後、物語はどのような結末を迎えるのか、一瞬たりとも目が離せません。
徐々に「人間らしく」なっていく環、連続少女誘拐殺人事件、少しずつ真相に迫っていく桜田警部補、そして環のいじめなど6巻も盛りだくさんの内容で進行していきます。
いじめられる環という構図は初めて見ますね。
しかも本人はいじめられているという認識もないようで、机の上に故意に散らばらせられた画鋲を集めて「誰か置いてったみたい」と先生に返却するなど、何の感情もないかのように対応。
そんな環の態度に、どんどんいじめをエスカレートさせてていくクラスメイトたち。
いじめっ子と環の対決もさることながら、環が解体前の儀式のようにつぶやいていた「命をありがとう」という言葉を言わずに解体にとりかかった、「いつもと違う」様子は必見です。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
今回、「クジラ」として処理されるのは、茂田という幼女誘拐殺人の犯人です。
茂田は、明らかに犯罪を犯しているにもかかわらず、警察によって事件として立件されずにいるのをいいことに、次の獲物を物色しながらしたたかに生きているクズ老人。
そしてまた今回も、女の子をあばら屋に監禁していました。
無事に、女の子が茂田の手に掛かる前に「クジラ」として運び出すことに成功する環ですが、その面持ちはいつもと少し違っています。
いつもの通り解体作業に取りかかるのですが、解体中の環の心境は今までとまったく違いました。
「命をありがとう」などとは思わずに「(こいつが)奪った分だけ(命を)返さないと」という負の感情だけで、環は解体作業を続けます。
茂田に対して、怒りにも似たドロドロとした感情を覚えた環。
これまでは、過去に移植された心臓によって感情さえもコントロールしていた環が、だんだんと人間らしい感情を持つようになるきっかけが描かれた鍵となる巻となっています。
さらに6巻のラストには、環の出生の秘密も明らかにされるので、見逃せませんよ。
6巻で見せたように、環が少しずつ感情を取り戻していくことに焦るタカシと、今後の円滑な仕事のために、感情に左右されないよう心臓にペースメーカーを埋め込もうと考える環。
そんな2人の出生理由が明らかになる7巻では、「プティシャトン事件」、「英医院放火殺人事件」と秋光家との関連が、また少し明らかになっていきます。
なかでも今巻では、常にクールだったタカシが取り乱すシーンが印象的です。
環の感情を動かす英琢磨の存在に「環を取られてしまう」という恐怖を感じ、「環は自分のもの」という激しい感情を抑え切れずに環を犯そうとしてしまったタカシ。
しかし、すんでのところで最後までは至らず、そのはけ口を環の主治医である梨世へとぶつけてしまいます。
冷静さを欠き、己の欲望や激しい感情を梨世へとぶつけてしまうタカシ。誰しもが持ち合わせる人間の脆さや弱さがリアルに描き出されています。タカシも人の子なんですね。
- 著者
- ナガテユカ
- 出版日
いよいよ環の心臓にペースメーカーを埋め込む、となった日、手術を待つ間にタカシは昔のことを思い返します。
タカシは、生まれつき心臓の弱かった秋光家の長男・渉に、その心臓を移植するために生まれることを望まれた「デザイナーベビー」であったことが明かされます。
当初、タカシの心臓を渉の心臓に移植する予定でしたが、移植可能な年齢になっても渉の体力的な問題で移植手術は行われず、結局そのままタカシは秋光家の次男として養子に迎えられることになるのです。
そして、同じようにして生まれたのが環です。
冷凍保存されていた真琴の受精卵を使い、代理母から生まれた環も、渉に心臓を移植するために生み出されたのでした。
タカシが環に執着するのは、環が自分と同じように「造られて生まれた」ためであり、その哀しい事実が2人が家族や兄妹などよりも深い絆で結びつけているというのが切ないですね。
ペースメーカーを付けた環はとても理性的で、「解体」の最中も感情を乱すことなく、首尾は上々といったところ。
いつもの日常が戻ってこようとした矢先に、新たに登場する大物が波乱を巻き起こします。
さらにタカシは、「クジラ狩り」の先にある、「祖父の研究と繋がる」何かを目指しているようなので、その真の目的が何であるかも非常に興味深いです。
大陸の重要人物・中国人民解放軍の曹国良が登場し、タカシの目的が発覚。リュウの過去が明らかにされ、情報漏洩のスパイ疑惑は神崎梨世に注がれ、何度目かのピンチを迎える環、と8巻も盛りだくさんです。
今巻では、叔父の病院を乗っ取ったタカシが、その病院を使ってやろうとしていたことの本当の理由が明らかになります。
タカシの目的とは、最新の設備と新鮮な臓器で、人体を造る「再生医療」の研究でした。
そのことを嗅ぎつけていた曹は、再生医療の研究に必要な人間の臓器2,000体分を提供するかわりに、研究結果を共有したいと持ちかけます。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
目的のために、得体の知れない中国人の言い分を飲むのか、それとも取引を中止するのか、悩んだ末にタカシは、曹の申し出を受け入れることを決意するのです。
さらに、タカシの側近であり刑事の加藤と、中国系マフィアであるリュウとの繋がり、英琢磨の過去、そしてタカシを罠にはめた梨世と曹との関係など。
様々な人間の思惑が入り乱れ、また臓器売買の深淵が顔を覗かせることにぞわりとする恐怖感を感じながらも目の離せない中身の詰まった8巻となっています。
そんな中、以前、環をいじめていたクラスメイトの里谷さゆりが、反対にいじめられる立場となって登場。
さらに、さゆりは実の父親からレイプされるという壮絶な過去を持っていました。
その父親は、18歳の頃に婦女暴行殺人を犯した人物で、出所後にさゆりをレイプした挙げ句「イヤなら代わりを連れてこい」というド外道です。
そんなさゆりに「父親を殺すのを手伝ってほしい」と言われた環が、さゆりとともに家へ向かうと、別室には全裸の男が……! 環ー!逃げてー!
今巻ラストで大ピンチを迎える環は、今まで以上に感情表現が豊かになり、だんだん普通の女子高生と化してきています。そんな環の様子も必見ですよ。
桜田警部補の追究。カナダでの新しい人生を望む梨世。そして、タカシの右腕である加藤の過去など、個人が掘り下げられはじめる9巻は、引き続き、大ピンチの環の様子からスタートします。
スローペースでつまびらかにされ、だんだんと物語の全体観が見えてきた今巻では、また環の心境に変化が訪れます。
今回のターゲットとなる「クジラ」は、前回から登場していたド外道ことさゆりの父です。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
父親の魔の手から逃れるため、「身代わり」として環を自宅へ招いたさゆり。
しかし、父親を殺したいほど憎悪する気持ちから、一升瓶を振りかぶって父親を殴り飛ばすと、環がスタンガンで気絶させ、ピンチを脱することになります。
そんなさゆりの父・藤岡とさゆりは、DNA鑑定の結果、親子ではないと診断されました。
そのことを知った環は、
「もしそうなら今回の解体だいぶやりやすくなったかも」
(『ギフト±』9巻より引用)
と、さゆりの気持ちを慮るような言葉を発しています。
人間らしい「情」が芽生えた環が「人間になろうとしているのを止められない」と悟るタカシですが、人間らしくなる=解体作業ができなくなるということ。
タカシは、環が感情を持ち「解体」できなくなってしまうかもしれないその日までに、確実に再生医療の技術を確立しないといけない、と心に誓うのでした。
10巻では、「内蔵を抜いて殺害」という手段で少女を殺害する、環たちの「模倣犯」のような存在が登場します。
模倣犯・須崎は整形外科医で、自分が美しいと感じる人間=環とそっくりな人形を作っていて、外見だけでなく内蔵も美しくないと、と考え、5人の命を奪い、臓器を奪ったのです。
さらに、タカシの右腕である加藤の過去も明らかになっていきます。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
須崎は環そっくりのレプリカの人形に、人間の内臓を詰め込むことで人形を完成させようとしていました。
最後には環の心臓を入れるだけの状態になったころで、加藤に捕らえられ、「クジラ」として解体されることに……。
そうして模倣犯・須崎は、環によって解体されてしまうのです。
一方、加藤は、タカシが以前に持ちかけられていた大陸(を取り仕切る曹)との取引に、かたくなに反対しています。
それには、これまで語られることのなかった加藤の過去が関係しているようで……?
琢磨を探す環は、何気なく街を歩いていたところ、公園で気功体操をしている団体に出会います。それは天廻功という教えを信仰する新興宗教団体でした。
その団体に出会ったことをタカシに相談すると、クジラ候補のひとつでもあるから、あまり近づくなと忠告されます。ただ、彼に不信感を抱いている環は、その言葉を信じられず、次の日にまたその団体に会いに行くのです。
「大陸で仲間が臓器を取られているのに、なぜ抵抗しないのか」と素朴な疑問をぶつけ、その後、道場に招かれることに。そこで、ストレス軽減のための瞑想を教わります。目を瞑り、意識を研ぎ澄ませると、琢磨の姿がありました。しかし次の瞬間、心臓のペースメーカーが作動し、意識が戻ります。
人間らしい感情を取り戻しつつある環に起こった異変。感情をコントロールするためにペースメーカーがつけられたのですが、制御ができなくなってしまうほど感情が高ぶってしまうことがあるかもしれません。そのとき環は、どんな選択をするのでしょうか。
- 著者
- ナガテユカ
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道場で親切にしてくれた女性がいなくなったことをきっかけに、環は道場の異変に気がつきます。闇のうちに団員の臓器を抜いていたのです。その現場をとらえた環は、次のように言葉を放ちました。
「あたしは…捕っていいクジラしか捕らないの」
(『ギフト±』11巻より引用)
解体屋としての彼女の揺るがない信念が感じられるセリフです。しかし、この発言によって、彼女がネットで噂になっていたクジラ狩りの正体であるとバレてしまい……。
環はどうなってしまうのでしょうか。
タカシが曹と取引をしている場面から始まる12巻。少しも油断できないような雰囲気を出しながらも、曹はタカシが自分い似ていて、取引をするのに問題ない器を持っていると判断していました。
しかし本人は自分と彼とは臓器を奪う対象が、犯罪者とカルト教団の信者だという点が大きく異なると感じていました。
そして取引がこう着状態になった時、タカシに加藤から「環が行方不明になった」という連絡が入り……。
- 著者
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彼女の身の危険を知ったタカシは、天廻功のすべての拠点を教えることを条件に曹tの取引をのむことに。この判断がのちに大きくストーリーに影響してくるのは間違い無いでしょう。
しかし、まずは環の身の安全の確保です。
ペースメーカーが動かず倒れてしまった環は、別のアジトへと運び込まれていましたが……。
徐々に人の情のようなものを見せ始めた環でしたが、そのことを一瞬忘れさせるほど、見事な立ち回りでピンチから抜け出します。しかし保護されたあとは、以前よりもさらに無機質な様子になっているのが心配です。
また、12巻はそんな環だけではなく、捕まった梨世の過去が明らかになる場面も見所。なぜ彼女が環を誘拐しようとしたか、その理由が明らかになり、つい彼女に同情してしまうことでしょう。
多くの人物に狙われることになった環の今後、周辺人物たちが抱える事情から目が離せません。
13巻では久しぶりに交わった梨世に、環のある秘密を明かされるタカシの様子から始まります。実は梨世は、環の心臓を移植した際に、そのサンプルをとっていました。そしてその心臓からナノファイバー片が出てきたと語ります。
再生医療に必要なものは、①体の基礎をなす幹細胞、②幹細胞が定着するための足場となるもの、③それらの働きを促す刺激の3つです。
そしてナノファイバー片とは、そのうちの2つ目、足場となる重要なもの。しかしそれが環の心臓から出てくるということが意味するのは……。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
環が祖父にされた悲しい現実が明かされましたが、彼女は以前にも増して人間味を帯びてきているように見えます。笑顔を見せ、お手伝いやクラスメイトの反応がそれによって変わっていきます。
しかし実はそれはある「学習」の賜物。そして彼女が冷静なクジラ狩りに徹するのが難しくなってくることを表してもいるのでした。
一方、梨世もタカシの支配により、徐々にひとりの女として生きる希望を見つけつつあるようで、徐々に変化していきます。
そんな彼女たちの変化の影で、またしてもプティシャトンの事件が動き始めます。それぞれの物語が各所で動き始めており、これらがどう収束されていくのかが気になります。
- 著者
- ナガテ ユカ
- 出版日
- 2015-07-18
主人公・環の、普段の無気力な顔と、仕事中の恐ろしい顔とのギャップにヒヤリとさせられる『ギフト±』。ストーリーはこの後さらに白熱していき、環がこうなってしまった過去や、彼女を取り巻く周囲の人物たちの事情が少しずつ明らかになっていきます。
今なら無料で読みはじめられる独特の世界観を、ぜひ作品でチェックしてみてください。