柔道。それは日本が世界に誇るスポーツ、格闘技です。オリンピック正式種目になっているほど世界的に競技人口の多い柔道。今回はそんな柔道に熱い青春を燃やす少年少女の姿を描いた、柔道漫画5作品をご紹介したいと思います。
主人公の三五十五(さんごじゅうご)は中学時代には吹奏楽部に所属し、学力もトップクラスだった文系少年です。実家の寿司屋を継ぐ関係から、普通科の高校ではなく岬商業高校に進学しました。
高校でも引き続き吹奏楽部に入るつもりだった三五ですが、新入生獲得に燃える柔道部2年生の姿を見て興味を抱きます。友人の秋山一郎を誘って2人で見学したところ、上級生の甘言に釣られて正式に入部してしまいました。
短い練習量、髪型の自由、月に1度のレクリエーションなどの口車に乗せられた三五。それらは全部口から出任せで、正式入部した彼らには地獄のようなしごきが待っていました。負けん気の強い三五は逆に闘志を燃やし、柔道を続ける決意を固めます。
- 著者
- 小林 まこと
- 出版日
- 2013-11-21
本作は1985年から「週刊ヤングマガジン」で連載されていた小林まことの作品。当初、作者自身の経験を活かしたコメディタッチの作風でしたが、後に1992年バルセロナオリンピックで金メダリストになる古賀稔彦からファンレターを受け取ったことで方針転換、本格柔道路線に舵を切ったそうです。
前述したように初期はややコメディ調で話が進みます。学力優秀で汗臭さとは無縁だった三五が、先輩の術中にはまって柔道部に入部。中学からのガールフレンド原田ひろみや、過保護な母親は猛反対しますが、おだてられてその気になった三五は利かん気を見せます。
新入部員を獲得した2年生は、甘い顔を捨てて厳しいしごきを始めます。1年生はしごきに耐えかねて次々退部していき、13人だったのが7人にまで減ってしまいました。そのうち3人は経験者で、素人は三五も含めてたった4人です。それほどつらい練習にも、三五は音を上げるどころか、自主的に練習まで始める始末。彼はどんどん柔道にはまっていきます。
学校が別で、反対する柔道にのめり込んでいくことから、三五はひろみと疎遠に。それでもひたむきに打ち込む三五に胸打たれ、クラスメイトの平家ゆりは徐々に彼に惹かれていきます。本作にはこのようなちょっとした恋愛要素もちらほら。
元オリンピック候補だった柔道部監督の五十嵐寛太の指導、意地の悪い先輩に揉まれて三五達は上達していきます。県民大会、高校選手権、そしてインターハイ。全国の強豪相手に彼らの力はどれだけ通用するのでしょうか。
2017年現在、本作の精神的続編とも言える『女子柔道部物語』が「イブニング」誌で連載中です・
中学3年の7月。粉川巧(こがわたくみ)、杉清修(すぎせいしゅう)、斉藤浩司、宮崎茂、三溝幸宏(みつみぞゆきひろ)の5人は、柔道昇段試験の場でお互いがライバルとして運命的に出会い、しのぎを削ります。それぞれが5人抜きを果たし、全員「抜群」の評価で初段を取得しました。
それから半年後。北部中学から巧、杉が県立浜名湖高校(浜高)に進学すると、そこには昇段試験で覇を競った斉藤、宮崎、三溝の姿がありました。あの時に「抜群」だった5人が全員揃っていたのです。
かつてのライバルが同級生という偶然が起こったにもかかわらず、浜高には柔道部がありませんでした。それを知った彼らは柔道部を創設し、無名からスタートを切ります。
- 著者
- 河合 克敏
- 出版日
本作は1989年から「週刊少年サンデー」で連載されていた河合克敏の作品。従来の柔道漫画というとスポ根のイメージが強いものでしたが、本作ではそれを払拭し、あくまで高校スポーツの部活モノとして爽やかな漫画に仕上がりました。
本作が爽やかな印象になっている原因のひとつには、新設ゆえの上級生不在という設定があります。体育会系というと、とにかく上下関係が厳しいものです。同級生、かつ実力伯仲のライバル同士が協力して部を立ち上げるところから始まるので、部員同士の不和や不仲が基本的に存在しないわけです。
そしてもうひとつ、主人公である巧の方針。彼はみんなで楽しく柔道をすることを掲げます。これは、ともすれば「お遊び」であるかのように勘違いされるかも知れません。しかしそうではなく、つらく苦しい練習を楽しんでやることで、柔道を長く続け、上達しようという意識の表れ。
作者自身が柔道経験者であることから、わかりやすい解説、柔道らしい動きのある描写も見られます。そしてまた、少年漫画らしい必殺技的な技も登場します。それも非現実的なものではなく、存在するが難度が高く使い手が少ない技であったり、他競技の技をアレンジしたものであったりします。
本作にはラブコメ漫画の要素もあります。と言っても、お色気要素は皆無。巧と彼の幼馴染みでマネージャーの近藤保奈美は周囲公認の仲ですが、徹頭徹尾プラトニックな関係です。他にも、密かな想いを秘める海老塚桜子は、主人公を差し置いて読者人気トップの実質的なヒロイン。
切磋琢磨する浜高柔道部は、無名から這い上がって、明るく楽しく全国制覇を狙います。
かつては柔道の名門と言われた県立伊手高校。柔道漫画に影響され、伊手高に入学した林田亀太郎につらい現実が突き付けられます。強豪だったのも今は昔の話で、3年生は卒業し、2年生の部員はゼロ。初心者の林田が部長に指名されますが、上級生がいなくなったことで早々と4人辞めていきました。
残った部員は林田を含めてたった数人。名門柔道部の復活に燃える林田でしたが、他の部員はまるでやる気なし。曲者だらけの柔道部に、やがて待望の女子部員が2人も入ってきて……。
- 著者
- モリ タイシ
- 出版日
- 2002-12-18
本作は2002年から「週刊少年サンデー」で連載されていたモリタイシの作品。弱小になり果てた柔道部を舞台にしたほのぼのギャグ漫画です。
個性的というより、個性しかないキャラが特徴。下半身直結のスケベ男の皮村薫に、ずば抜けた体格と異常な顔面積の無口キャラ三浦単一、チョンマゲ頭で謎のおネエ系の藤原虎呂助(ふじわらころすけ)、寝技の練習にだけ顔を出す同性愛者の東菊千代といった柔道部の面々。
特に藤原は変態的な格好でチョメジと呼ばれるチョンマゲを自由自在に操って、ヘリコプターのように飛ぶなどやりたい放題します。
皮村はスケベ心を発揮して問題行動を起こしますが、意外と義理堅く、友情に篤い一面も。林田からは普段問題児として危険視されていますが、林田の恋愛関係にはまめなサポートを見せます。
柔道部の花となるのが森桃里(もりももり)と、ベリ子こと綾川苺。苺は友人の桃里を引き連れて入学以来いくつもの部活に入っては辞めるを繰り返しており、柔道部にもその縁でやって来ます。引っ込み思案気味の桃里は当初柔道部の濃さに躊躇しますが、お笑い好きなことから柔道部のコメディチックな雰囲気に惹かれて入部を決めました。
入退部を繰り返していた苺も柔道部に腰を据えます。彼女の目当てはなぜか三浦でした。
そんな不真面目な柔道部員達による、笑いと笑いと恋と時々熱血の青春の日々。
京都の有名私立高校、望月女学院。中学女子柔道で京都府2位だった高瀬雅(たかせみやび)は、そんなお嬢様学校に外部入学します。望月女学院の柔道部自体は弱小でしたが、前年度インターハイでベスト4の大石萌(おおいしめぐみ)が在籍していました。
雅はもちろん、柔道部に入部。彼女の誘いで見学に付き添ったクラスメイトの九条京(くじょうみやこ)、比嘉聖(ひがひじり)、穂積喫(ほづみのり)の3人も一緒に部員になりました。特に京は雅の柔道に魅せられ、心身共に優れた能力を持った彼女は、めきめき上達していきます。
雅を除いた初心者の1年生と、上級生の間にある溝。名門校、お嬢様学校特有のしがらみの中で、雅は人心掌握術を発揮して彼らの仲を取り持っていくことになります。
- 著者
- 木村 紺
- 出版日
- 2008-10-23
本作は2008年から「月刊アフタヌーン」で連載されていた木村紺の作品。同作者『神戸在住』でも見られた群像劇の手腕は本作でも健在です。
主人公の高瀬雅は人好きのするキャラ。誰とでも打ち解ける男前な性格で、周囲をぐいぐい引っ張っていきます。柔道の腕前も高く、入部後は萌に次ぐ実力を見せます。実は望月女学院理事長である高瀬螢生(けいき)の血縁者で、それにまつわる因縁も。
小柄で控えめな京は、経験者の雅や萌が驚くほどの素質の持ち主でした。総じて身体能力に優れており、メンタルも強く、勝利に貪欲。これには彼女の家柄が関係しています。舞妓の家系である彼女は京舞の渡部流を修行中の身。本来、舞妓修行は中学卒業後すぐ行われ、高校には通えないはずの立場なのです。
他の1年生、上級生も個人的な事情、家庭、血筋に関わる問題を抱えています。本作では柔道を軸にして、それらの背景が交錯して描かれていくのです。
そしてまた、個々の才能についても描かれます。インターハイの実力者で、今年度の優勝候補と目される萌という高い壁。血の滲む努力を積み重ねて中学時代、京都府2位に輝いた雅。柔道素人ながら、その2人に急接近していく京の天才性。
持つ者の意地と持たざる者の執念。女子柔道部の青春群像劇がここにあります。
日刊エヴリースポーツ記者の松田耕作はある日、ひったくり犯を見事な巴投げ投げ飛ばした少女を目撃します。それを見た松田は、彼女が日本柔道界をしょって立つ逸材であると確信。彼女の名前は猪熊柔(いのくまやわら)。過去に全日本柔道選手権を五連覇した滋悟郎(じごろう)を祖父に持ち、柔道の英才教育を受ける16歳の高校生でした。
ところが当の柔は柔道に消極的です。幼い頃に柔が柔道家の父、虎滋郎(こじろう)を負かしてしまってから、虎滋郎は失踪し、母の玉緒はその捜索に奔走。一家離散したことを自分のせいだと思っています。柔を大舞台でデビューさせるつもりだった滋悟郎は、スポーツ紙記者に知られてしまったことから、方針を転換して強引に公式デビューさせようと画策します。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
- 2013-12-27
本作は1986年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた浦沢直樹の作品。当時は女子柔道が1988年にソウルオリンピック公開競技、1992年にはバルセロナオリンピック正式種目に採用されたこともあって、世間的に注目された漫画でした。本作の大ヒットを受けてマイナー競技だった女子柔道に脚光が当たり、柔道自体の普及の立役者ともなりました。
元女子柔道家、谷亮子(旧姓田村亮子)の愛称「やわらちゃん」は本作が由来。谷が15歳の時に国際大会に優勝した際、すでに人気作だった本作にあやかって命名されたそうです。
本作の特徴は、柔道というスポーツ競技を取り上げながら、従来のスポーツ漫画らしくないところにあります。スポーツもの、部活ものと言えば、主人公が努力して強くなり、勝ち上がっていくというのがそれまでのお約束でした。本作では異なり、柔は滋悟郎の指導で最初から最強だったのです。
そのままでは格闘やバトル展開につきものの、苦戦からの逆転という快感のカタルシスを得られません。そこにもうひとつポイントがあって、前述したように柔が柔道家でありながら柔道を忌避しているという部分。最強なのに自ら枷をかけ、全力で戦えなくなっているのです。そんな柔の柔道に接する態度の変化もストーリーの見所。
ではスポーツ漫画らしい努力がないかというと、そうではありません。本作は大別すると高校生編、大学生編、社会人編の3編で構成されていますが、このうちの大学生編で重要な脇役達が登場します。
柔道部のない女子短大で、柔道部を作るために集まってくるキャラ達。体を丈夫にしたい日陰今日子(ひかげきょうこ)、男を見返したい南田陽子(みなみだようこ)、痴漢撃退の護身を学びたい小田真理、ダイエットを目論む四品川小百合(よしながわさゆり)。そして大学生編のもう1人の主人公と言っても過言ではない元バレリーナの伊東富士子。
まったくの素人の彼女達と柔の交流、努力、成長はまさにスポーツ漫画の王道。特に富士子の躍進には目を見張るものがあり、その活躍における感動は柔のそれと比べても些かも見劣りしません。
可愛くて強い猪熊柔が、恋に柔道に懸命に取り組む爽やかな青春作品です。
いかがでしたか? 柔道の理念は「柔よく剛を制す」と言われます。ただ「強い」だけが「強さ」ではありません。千差万別の強さの形が、今回ご紹介した柔道漫画の中から読み取れるのではないでしょうか。
『YAWARA!』については<漫画『YAWARA!』の知られざる8つの魅力ネタバレ紹介!結局誰が強い?>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。