秋吉理香子のおすすめ本5選!『暗黒女子』が映画化でブレイク!?

更新:2021.12.20

今や「イヤミス」の旗手として、コアなファンを獲得している秋吉理香子。多くの引き出しを持ち、そして人間の心の闇を克明に描き出す……そんな秋吉理香子のおすすめの5作品をご紹介します。

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イヤミスの女王・秋吉理香子とは

秋吉理香子は兵庫県生まれ。幼い頃より母親の影響で本を読み始め、やがて作家を目指すに至ったといいます。15歳の頃、アメリカ・ロサンゼルスに移住し、高校卒業と同時に帰国。早稲田大学第一文学部に進みました。卒業後は再びアメリカに渡り、ロヨラ・メリーマウント大学院で映画・TV製作の修士号を取得。

2009年『雪の花』が第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞したことをきっかけに、作家としてデビュー。テンポの良い文章と今までになかったダークかつ斬新な内容が話題を呼び、『雪の花』は渡辺裕之・原日出子夫妻の主演で映像化もされました。また、代表作のひとつである『暗黒女子』は、日本のみに留まらず台湾や韓国などアジア諸国で翻訳出版されています。

映画や音楽が好きで、自身のブログ「秋吉理香子の虎馬(トラウマ)」でも話題にしていることが多いです。小説執筆のかたわら、別名義で映画やアニメの制作・脚本・監督も手掛けており、ライトで感情移入しやすい作風はそちらの方面と繋がっているところがあるのかも知れません。秋吉理香子の作品は、主に学園を舞台にしたミステリーが多いですが、作者本人は今後家族小説や社会派小説にも取り組んでいきたいと意気込んでおり、今後の作品発表が非常に楽しみな作家です。

誰も知らない思春期少女たちの闇『暗黒女子』

Yahoo! JAPAN文学賞受賞後、第1作目となる作品。その人気から2017年4月には実写映画も公開され、話題になりました。

著者
秋吉 理香子
出版日
2013-06-19

物語の舞台は、ミッション系女子高の聖母女子高等学院。ある日、全ての女生徒たちの憧れの存在である美少女・白石いつみが校舎から転落して死亡する事件が起こります。自殺か他殺かは不明、そしてその手にはなぜか鈴蘭の花が握られていました。疑いの目を向けられた文学サークルのメンバーたちは、朗読会で犯人を告発すべく動き出します。

定期的におこなわれる文学サークルの「定例闇鍋朗読会」。それは各自が持ち寄った具材を鍋にし、みんなで囲みながらメンバー自身が執筆した小説を朗読するというちょっと奇妙な会合です。会長の澄川小百合が設定した今回のテーマは「前会長である白石いつみの死について」。小説という形を借りて、文学サークルメンバーたちの証言が始まります。

しかし、どの小説も全く違う結末となり、一体誰の証言が真実なのか、読者は混乱をきたすことに。読み進めるごとに謎は解けるどころがますます深まっていきます。全員が嘘をついているのか?それともこの中に真実があるのか?やがて、朗読会は容疑者たちの信じられない姿を浮き彫りにしていくことに。そして、バラバラだったものがラストで一気に集束、裏にあった衝撃の真実をあぶり出し……。

小説を朗読する形で犯人を告発するというスタイルが非常に面白い本作。思春期の少女たちの心の闇が垣間見える、少し嫌な気分にさせられるミステリー「イヤミス」として読ませる小説に仕上がっています。

母の愛と執念『聖母』

46歳の保奈美は、長い不妊治療を経てようやく娘を授かりました。しかし最近、保奈美の住む街の付近では幼稚園児を狙った殺害事件が頻発。先日も4歳の男の子の惨たらしい遺体が発見され、その猟奇的な手口は近隣の住民を恐怖に陥れていました。保奈美は、自分の娘だけは必ず守ると固く決意します。

著者
秋吉 理香子
出版日
2015-09-16

『聖母』の物語は、異なる3つの視点から展開します。主人公の保奈美、文武両道の高校2年生・田中真琴、そして警視庁捜査一課の刑事である坂口と谷崎。実はここにちょっとした仕掛けが隠されているのですが、そこは是非実際に読んで体感して欲しいポイントです。簡潔な文章で読みやすいため、あっという間にラストに至ることができるはず。

「ラスト20ページ、世界は一変する」とキャッチコピーが付けられているとおり、ラストでは誰もが驚く真実が明らかになります。濃密な描写で凄惨な事件をリアルに描き出しており、エンタメ小説としても評価が高い本作。ラストまで読めば『聖母』というタイトルに込められた意味も読み取れ、同時に母親の強さも実感できます。一気読み推奨のサスペンスミステリーです。

幽霊と殺人の証拠探し『自殺予定日』

12歳で母親を亡くした女子高生・瑠璃。今度は父親が死亡するのですが、瑠璃は継母が彼を殺したと確信していました。しかし証拠がなく、警察に話しても全く取り合ってくれません。誰にも信じてもらえず絶望した瑠璃は、自殺を決意。死をもって継母の罪を告発しようと企てます。

著者
秋吉 理香子
出版日
2016-04-28

自殺の名所といわれる山奥へ入った瑠璃。そこで首をつって死のうと考えるのですが、突然裕章という名の男性の幽霊に自殺を引き留められます。瑠璃の事情を知った裕章は、1週間以内に継母による犯行の証拠を見つけようと瑠璃に提案。証拠が見つからなければ自殺すればいい。今日から6日後、瑠璃の「自殺予定日」が決定したのです。

これまでの作品とは少し毛色が異なる青春ミステリー。秋吉理香子はこんな作品も書ける!と新境地をアピールする作品となっています。幽霊の裕章は一体何者なのか?なぜ瑠璃に提案を持ちかけたのか?謎だらけで予想を次々に裏切る展開の連続です。タイトルには重い響きがありますが、読後感は爽快。秋吉理香子の作品が「イヤミス」だということで敬遠していた人も挑戦できる内容ではないでしょうか。
 

正義は身を滅ぼすか?『絶対正義』

ある日、ノンフィクション作家・今村和樹の元にパーティーの招待状が届きました。差出人の名前を見た和樹は、我が目を疑います。差出人は「高規範子」。それは和樹が5年前に殺害した女性の名前でした。さらに、一緒に範子を殺した3人の女性共犯者たちにも、同じ招待状が届いていることがわかります。一体誰がこの招待状を送ったのか。そしてその目的は……?

著者
秋吉 理香子
出版日
2016-11-10

5年前に殺したはずの女性から届く、パーティーの招待状。その不気味な導入部にまず惹かれてしまいます。和樹らが殺した高規範子は、間違ったことや法を犯すことは絶対に許さない、まさに「絶対正義」の女性でした。共犯者たちは、痴漢から助けてもらったり、働かない夫を説得してもらったりと、みな範子に助けられた経験があり、彼女に感謝していました。そもそも、なぜ4人は範子を殺害したのでしょうか?

法・規則とは何か。正義の果ての悲劇の描写はゾッとさせられます。範子の絶対正義には少し過剰な部分もありながら、しかし間違いはないので思わず納得してしまうのですが、その正義によって歯車が狂っていくのは不気味の一言。ともすれば異常にも見える範子の正義を重んじるエピソードも面白く描かれています。『暗黒女子』に並ぶ、狂気に満ちたイヤミス作品です。
 

幸せと狂気のコントラスト『サイレンス』

新潟の本土から、さらにフェリーで2時間のところに位置する雪乃島。そこに生まれ育った深雪は、幼いころから美人と評判の女性でした。やがて彼女はアイドルを目指すようになり、オーディションを受けるのですが、両親に上京を反対されて断念。その後必死に勉強をして東京の大学に進学し、現在は人気アイドルのマネージャーとして働いていました。

著者
秋吉 理香子
出版日
2017-01-26

大手広告代理店のプロデューサー・俊亜貴と交際を始める深雪でしたが、なかなか結婚に至ることができずに悩んでいました。業を煮やした深雪は、ついに俊亜貴を実家へ連れて行くことに。しかし、東京生まれでお坊ちゃん育ちの俊亜貴は田舎の風習に気疲れし、さらに結婚をためらうことになってしまいます。そしてある朝、俊亜貴がいなくなってしまい……。

ただストーリーを追っているといつの間にか忘れてしまうのですが、本作がミステリーであることを読んでいるうちに少しずつ思い出します。そして、それがとうとうラストで読者に突きつけられるのです。結婚を焦る深雪の気持ち、深雪の愛情を確信している俊亜貴の狡猾さ、それはとてもリアルな感情として読者を襲いますが、やがて島が天候不順に見舞われた時、それが恐ろしい真相に変わります。さらに、島の護り神「しまたまさん」とは何か。気付くと思わず読み返してしまう、数々の伏線にも注目です。

後味の悪い小説というのは、嫌だけどなぜか読みたくなるものです。秋吉理香子の作品を入口にして、イヤミスの世界へぜひ行ってみてください。

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