月村了衛のおすすめ本5選!ミステリ・ランキングの常連

更新:2021.12.20

小説だけでなく、アニメの脚本や原案も手掛け、その独特の世界観を存分に発揮している月村了衛。硬派な舞台設定と疾走感のある新感覚のミステリー5選をご紹介します。

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小説家にして脚本家・月村了衛とは

小説家であり、また脚本家でもある月村了衛。ミステリー、ハードボイルドから時代小説まで、幅広く手掛けている作家です。高校時代から小説家になりたかったという彼は、早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、大学在学中に清水邦夫・高橋玄洋から脚本と演劇を学びます。大学卒業後は、国語の予備校教師として勤めていたことも。

1998年にテレビアニメ『ミスター味っ子』で脚本家としてデビュー。その後は『少女革命ウテナ』『神秘の世界エルハザード』『ノワール』など、人気アニメを数多く手がけました。そして2010年、『機龍警察』(早川書房)で小説家デビュー。2012年委は『機龍警察 自爆条項』で日本SF小説大賞を受賞したのをはじめ、次々と賞を獲得。ミステリー・SFの両面から高い評価を受けました。

小説家デビューと同時期に脚本家は廃業してしまったそうですが、アニメファンにも受けの良いエンタメテイストたっぷりの小説を多数発表。「週刊文春ミステリーベスト10」や「このミステリーがすごい!」にも頻繁に選出され、不動の人気を獲得しています。

近未来の日本で警視庁の新型兵器が躍動『機龍警察』

月村了衛の初めての小説作品となる、近未来警察小説。大量破壊兵器の衰退に伴い、近接戦闘兵器が台頭を始めた近未来の日本。最新鋭の戦闘兵器「龍機兵(ドラグーン)」を採用した警視庁は、搭乗要因として傭兵の姿俊之、元警官のユーリ・オズノフ、元テロリストのライザ・ラードナーらと契約し、異例の組織「特捜部(SIPD)」を発足させます。しかしこれは既存の警察組織から大きな反感を買い、内部で大きな軋轢を生みだすことに。

著者
月村 了衛
出版日
2010-03-19

ある日、機甲兵装を駆る犯罪者たちによる地下鉄立てこもり事件が発生。現場では特捜部と、それを煙たく思うSATが激しく対立していました。しかし、この事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていたのです。

まるでアニメのような舞台設定とメカニック。警察小説の様相を呈していますが、作者の月村了衛本人は本作をあくまで冒険小説としています。特捜部が所有する「龍機兵」は3体。姿の「フィアボルグ」、ユーリの「バーゲスト」、ライザの「バンシー」。いずれも世界の伝承に登場する精霊などがモチーフとなっています。龍機兵の起動シーンは、メカ好きの人ならば思わずワクワクしてしまうかも知れません。

戦闘兵器が登場しますが、アクション面はあまり強調されておらず、どちらかというと警察内部の因縁や人間関係に重きが置かれています。また、3人の龍機兵の搭乗者たちもそれぞれに過去を抱えており、それが物語にさらに深みを与えている印象。彼らだけでなく、特捜部を率いる元外務官僚の沖津旬一郎や、沖津の副官・城木貴彦、ライザがテロリストだった頃に起こした事件で両親を亡くした技術主任の鈴石緑など、搭乗者たちの周りを取り巻くキャラクターたちも個性が立っており、それぞれが非常に魅力的です。

痛快裏社会エンターテインメント『黒警』

『機龍警察』とはまた異なり、こちらは現代を舞台にした警察小説。主人公の沢渡は、暴力団担当(マル暴)の警察官。離婚した妻への慰謝料を払いながら、日々を無気力に生きているダメ警官でした。そんな沢渡には、駆け出しの頃に植え付けられたトラウマが。ある不法侵入者と思しき女性を、保身のために見殺しにしてしまったのです。

著者
月村了衛
出版日
2016-06-07

沢渡のトラウマの元になった事件のことを知っているのは、同じく当時駆け出しだったヤクザの波多野だけ。彼は武闘派だが人情に篤く、沢渡はそれを羨ましく思っていました。何となく腐れ縁となっていた彼らですが、ある日波多野が組織との抗争の中で殺されてしまいます。ショックを受けた沢渡は、義水盟という謎の組織の幹部・沈(シェン)と義兄弟の契りを交わし、波多野の敵を討つべく警察組織を罠に嵌めようと動き出すのですが……。

タイトルから受け取るイメージはダークで重いものですが、読み口は非常にライト。高慢な悪徳警察官僚を成敗する小気味の良いストーリーが展開します。さっぱりしていて気軽に読める反面、随所にしっかりと伏線が張ってあり、読み応えもたっぷり。『黒涙』という続編も発表されているので、そちらと併せて読んでみるのもオススメ。痛快裏社会エンターテインメント小説です。

自衛官は人を殺せるか?『土漠の花』

雑誌「papyrus」誌上で連載された『ソマリアの血、土漠の花』を加筆・修正し、単行本化。本作は日本推理作家協会賞を受賞しました。また「本屋大賞」5位、2014年「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第15位、2015年「このミステリーがすごい!」国内編6位と、その後も数々の賞を受賞しています。

著者
月村 了衛
出版日
2016-08-05

吉松勘太郎3尉の率いる捜索援助隊は、ソマリアの国境付近で野営地に駆け込んできたビヨマール・カダン氏族の族長の娘・アスキラに出会います。以前から諍いのあったワーズデーン氏族が街を襲ったため逃げてきたと話すアスキラ。吉松3尉は彼女を保護すると約束しますが、直後に兵士の襲撃を受け、命を落としてしまいます。

残りの隊員たちも捕虜となり、数的不利に陥った捜索援助隊。武器も土地勘も、通信手段すらない状況で過ごすうち、ついに仲間内でも疑心暗鬼が湧き起こり始めます。来ない救援、知らない土地で次々と降りかかる試練の中、彼らは生きて帰ることができるのでしょうか。

手に汗握るミリタリーフィクションである本作。フィクションでありながら、社会情勢により現実味を帯びた世界観により、やや考えさせられる場面も。自衛官たちが守るべきものを懸命に守る姿に心を打たれます。「自衛官は人を殺せるのか?」を問いかけ、平和への願いを感じる作品です。

中学生VS武装半グレ集団『槐(エンジュ)』

弓原公一が部長を務める、水楢中学校野外活動部。彼らは夏休み恒例のキャンプにやってきますが、何とその夜キャンプ場が武装した半グレ集団「関帝連合」に占拠されてしまいます。狙いは、キャンプ場のどこかに隠された40億円。彼らが振り込め詐欺をおこなって騙し取ったお金でした。

著者
月村 了衛
出版日
2015-03-18

回収を急ぐリーダー・溝淵は、宿泊客を皆殺しに。公一たちも囚われてしまいます。さらにキャンプファイヤーのための薪を拾いに行った副顧問の由良先生が行方不明に。圧倒的に不利な状況に絶望する中、突如現れた何者かが関帝連合に逆襲を始めるのですが……。携帯電話も使えず、外へ続く道も封鎖されたキャンプ場で、公一たちの生き残りを賭けた戦いが始まります。

スピード感満載のバイオレンスアクション。タイトルの「槐」の意味は中盤で明かされ、読者は多いに納得することになります。それまではどこかバラバラだった中学生たちが、やがて力を合わせて脅威に立ち向かっていきます。野外活動部の面々にはそれぞれに得意分野があり、その特技を活かした活躍シーンが用意されているのも見どころ。積極的に戦う彼らの成長にも注目です。

中学生たちに迫る強敵、そして彼らを守る最強の兵士。それは一体誰なのか?バイオレンスアクションに分類される作品ではありますが、血生臭いシーンはなく、あくまで疾走感を味わうことに集中できる物語となっています。

特殊部隊に挑むのは、主婦と女教師『ガンルージュ』

舞台は群馬の小さな温泉郷。中学生の秋来祐太朗と神田麻衣は、自宅近くの「別荘御殿」と呼ばれる場所で武装集団が男性を拉致する場面に遭遇。彼らは韓国の特殊部隊「消防士」で、目撃した祐太朗たちも人質に取られてしまいます。それを知った祐太朗の母・秋来律子と祐太朗の担任・渋谷見晴は、息子たちを救出すべく武装集団に挑むことに。

著者
月村 了衛
出版日
2016-02-19

韓国の特殊部隊VS日本の主婦と女教師という、一見ちぐはぐな組み合わせですが、戦闘シーンは本格的で迫力満点。それもそのはず、主婦の律子は実は特殊な訓練を受けた元公安なのです。さらに見晴も元カレから格闘術を教わっているという、何とも濃いキャラクター設定。持ち前の戦闘能力を存分に発揮して立ち向かう律子と、どちらかといえば運と威勢の良さで危機を乗り越える見晴のコントラストがコミカルなコンビです。

律子は銃と台所から持ってきた包丁を装備し、13年ぶりに戦闘のプロフェッショナルとして戦場に戻ってきます。公安一の腕利きだった彼女の戦いぶりは、読者をどこかワクワクさせてくれます。そして、「消防士」の工作員であるキム・ホグンと律子の間には浅からぬ因縁がありました。物語の中で明かされる彼女の壮絶な過去とは?そして「消防士」との対決の行方は……。群馬の温泉郷を舞台に巻き起こる、読めばスカッとする爽快バディ小説です。

月村了衛の作品は、アニメっぽい世界観を作り出しながらも、どれもエンターテインメントとして完成されています。今までになかったミステリーを味わいたい方にぜひおすすめです。

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