今さらですが文字が好きです。“彼は自宅にいた”という一文だけでも読み手によっては縁側で猫が寝ているような昼間の木造一軒家を想像する方がいるかもしれませんし、夜景を眺めながらワインでくつろぐ夜のおしゃれで硬質なタワーマンションを想像する方もいるでしょう。
突飛な人は蛍光色の宇宙船の一室を想像するかもしれません。クルッと脳が半回転してあれこれ余計な想像する。未確認の余白が作る可能性という部分が僕は好きです。そんな風にあくまで自分勝手に想像させてくれる文字がやっぱり好きだなと再確認するのが短編小説やショート・ショート集を読むときです。
描写を意識しなくても、こんな顔してるだろうなとあなたの頭の中には登場人物の顔がきっと作られているでしょうし、物語の解釈がどうこうということではなく(本当の答えは誰にも解らないはずですし)、その自分だけに見える情景とストーリーの真意を想像すること自体がとても楽しい時間だと思います。
そんなわけで、今回は寝る前のちょい読みで、いい夢を見れそうな短編集をご紹介させていただきます。
未来いそっぷ
ショート・ショートという分野を作り上げた星新一さんの作品との出会いは小学校の国語の教科書です。もはや原体験です。
短編と言われるものよりさらに短くカラフルでユニークなSFが多いですが、どこか社会風刺が含まれていて考えさせられる話もあります。寓話とか昔話、言い伝えなどに通じるような部分が後味を良くしているのでしょうか。人を騙したりする話であっても嫌な気分にはならない。
星新一さんの文章は、時代や地域が限定されないように書かれていて、とあるセールスマンの話では売り物の金額を「安くはなかったが、買えないほど高い値段でもなかった」と書いたりしています。そして機会があるごとにそのような修正を繰り返していたようです。
スローグッバイ
高校時代、池袋ウエストゲートパークがドラマで放送されていたのでそのイメージが強かったのですが、この短編集はテイストが結構違うと思ってます。
街中で溢れている恋愛の一部をスプーンですくい取ったみたいな、どこにでもありそうな物語がつるりと口当たりよく書かれている恋愛短編集です。そのせいか1話の読み終わりで変にラストに引っ張られない。なんでもない話が無理なくそこにある。
そんな風にサラサラ進んでいくのですが、ラストの話ーー別れが決まっている二人が最後にデートをする「スローグッバイ」で、何かモヤモヤしたものが……。同じ感想を抱いた方がいたら、僕を飲みに誘ってください。