偶然の出会いが導いた小説たち
徐々に天気もぽかぽかしてきて春らしい陽気が続くようになり、外での読書が楽しくなる季節がやってきました。このサイトで本の紹介を始めさせていただいたのは秋ごろ。時がたつのは早いというか、2017年も始まったばかりのように思えますが、もうすでに3分の1以上が過ぎ去ってしまいました。
様々な仕事に関わらせていただいている日々ですが、ひとつだけ変わらないのは読書の時間を作ること。どんなに忙しくても、読んでいる最中の本の続きが気になったり、面白い本がないかなと探してみたり。そういうところは変わらないな、そしてこれからもそうなのだろうと思います。世の中には素晴らしい作品があふれていますが、一生ですべてを読むのはきっと不可能……。読める本の数も限られているのだなぁ、どの本を選んで読もうか……と最近よく考えます。
でも、ふとしたきっかけで手に取った中に心を打つ作品もたくさんあり、本との偶然の出会いもおもしろいなと。なんとなく手に取った作品だったのですが、予想をはるかに上回る作品を今回は紹介させていただきます。
奇妙な事件の犯人を追う、少年の奇妙な物語
- 著者
- マーク・ハッドン
- 出版日
- 2016-04-07
主人公は15歳のアスペルガー症候群(自閉症)の少年、クリストファー。父親と2人で暮らしていますが、ある日隣の家の犬が殺されるという事件が起こります。一度犯人だと疑われてしまう主人公でしたが、どうにかして自分で犯人を探し出し、その過程を一冊の本にしようと決心します。
人並み外れた記憶力や数学の才能などはありますが、人とのコミュニケーションが苦手だったり、外を一人で出歩いたこともほとんどないクリストファーが犯人探しの旅で見つける真実とは……。
物語は主人公の目線で冒険物語として描かれています。つまり、クリストファーが自身の冒険をつづった作品。本の表紙がかわいくて印象的という、なんともいえない理由で手に取った作品だったのですが、ストーリーが進むにつれて、何もできなかったクリストファーが少しずつ成長していく様をみることができたり、自分とはまったく違う観点からのもののとらえ方が面白く、どんどん話に引き込まれて行きました。
数学が得意でいつも合理的、論理的に考えて行動するクリストファーですが、物語のなかで彼が感じる、説明できないような心の痛み。不器用に書かれた物語の中に垣間見える人間味が印象に残りました。途中途中で数学の問題が出てきたり、物語の章が1、2、3の順ではなかったりと、クリストファーが書いた要素がちりばめてあるような楽しみもあります。最後の終わり方が印象的で非常に心があたたかくなるので、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
ライトな読書がしたい人には江國香織の短編小説がおすすめ
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
- 2007-02-28
全9編からなる短編小説集。中に「きらきらひかる」の続編も入っているというところで続きが気になって手に取った本です。最初はその続きの短編が読めればいいかなという軽い気持ちで買ったのですが、他の8つの話も面白く、すぐに読んでしまいました。
ふっと笑ってしまうような話や、心が温かくなるような話、ユーモアあふれる話、そんな中で訪れる切ないシーンなど、飽きずに最後まで楽しめます。ひとつひとつの物語が短めで、さくっと読めるのでライトな読書をしたい方におすすめ。登場人物や物語の舞台が、普段の日常で見ることのできるような設定が多いのも、読みやすさの要因なのではないでしょうか。