貧困にスポットを当てると浮かび上がる豊かさ【藍坊主 藤森真一】

貧困にスポットを当てると浮かび上がる豊かさ【藍坊主 藤森真一】

更新:2021.12.2

こんにちは。藍坊主のベーシスト藤森真一です。だいぶ暑くなってきましたね。藍坊主はレコーディングを終えた達成感に浸ったのも束の間、ツアーの準備に入りました(きっとコラムがアップされる頃はツアー真っ最中だと思います)。

hozzy(Vo)、藤森真一(Ba) 神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。ジャンル、サウンドのスタイルを様々に変化させながらも、秀逸なメロディーと2人のソングライターにより表現される「日常」と「実験的」な世界観の歌詞、確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。 2004年のメジャーデビュー後は数々のフェスやイベントに出演し、2011年5月には自身初の日本武道館公演を開催し大成功に収める。2015年には自主レーベルLuno Recordsを設立しより精力的に活動範囲を広げている。2016年9月14日(水)には『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなる自身8枚目のアルバム『Luno』をリリース。 Vo hozzyは「MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2014」にてBEST MUSIC ILLUSTRATOR 2014を受賞する等、ジャケットデザインの描き下ろしの他にも映像作品の制作、レコーディング機材の制作や楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮している。2015年7月からよりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト「Norm」をスタート! Norm HP norm.gallery Ba 藤森真一は関ジャニ∞「宇宙に行ったライオン」や水樹奈々「エデン」等への楽曲提供を行う。 藍坊主公式HP http://www.aobozu.jp
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彼氏にしてはいけない4B ベーシストはモテない

束の間のオフに後輩と食事をしていると、彼の口から聞き捨てならないフレーズが飛び出しました。それは「彼氏にしてはいけない4B」という言葉。聞いたことありますか?

Bは職業の頭文字でバンドマン、バーテンダー、美容師、ベーシストのことらしい……んん??? ……百歩譲ってバンドマンは理解しよう。しかしピンポイントでベーシストとは意味が分からない。プンプンしていると「ベース特有の振動が実物よりイケメンに見せ、あとで後悔が生まれるそうです」とフォローしてくれました。まぁ。フォローになってないけどね。加えてボーカルより機材にお金をかけるから貧乏ということらしい。この「貧乏」が結局はモテない理由の一番の原因なんだろうなぁ。
お酒の勢いもあり、ムキになった先輩は会計を一手に引き受けるのですが(そして翌日後悔するのですが)確かにメジャーデビューして間もない頃は、収入も少ないのにバイトする暇もないからお金がなかった。始めたばかりの一人暮らしでガスが止まり凍えるかと思った。

財布も口座もすっからかん。実家に帰る電車賃(800円程度)もなく翌日の給料日までひたすら耐えた当時の記憶。時給1000円程度を貰える東京で、健康な体を持っていたあの頃でさえ震えたものです。実家暮らしの頃は当然気付かなかったけど、貧乏ってすごく怖いと知った瞬間。今回はそこにスポットを当てようと思います。

自己中心になればなるほど損をする仕組み

著者
ポール ポラック
出版日
2011-06-14
それから年月は流れ、少しは人間らしい生活が出来るようになり、自分が生産者であると同時に消費者であるということを覚え「金は天下の回り物」とは本当のことだと気付きました。「欲しいなら、独り占めしないで他人に巡らせないといけない」という綺麗事に似た教訓を得たわけです。

「お金が欲しい。幸福が欲しい」と自己中心的に考えれば考えるほど、誰かに分け与えないとその目的は達せられないことを知る。このジレンマは神様が仕組んだイタズラだと思います。この本を読んだのは「内部留保を減らしトリクルダウンの為のベアを企業は実行するべきだ」なんて背伸びをしていた時期でした。

蚊帳の外にいた人を加え、より大人数でパス回しすることの大切さを説く作品です。「実践的なビジネス戦略を用いて1日1ドルの貧しい人々の収入を増やす」というミッションのもと、貧しい人々でも購入できるようなドリップ灌漑システムを開発し、15カ国2000万人の貧困脱却を可能にした例を紹介しています。

悪名高き銀行強盗のウィリーサットンは、なぜ銀行強盗をするのかと聞かれ、こう答えたそうです。「そこにお金があるからさ」

1%のお金持ちにむけた商品を開発するデザイナーもきっとこう言うでしょう。
「そこにお金があるからさ」

著者は提案しています。何千ドルもする音響機器しかなかった時代に、トランジスタラジオを開発し民衆に広がったように「将来、そこにお金があるからさ」という気持ちで99%の貧乏人に向けて商品をデザインしないかと。自分が金持ちになる方法と、貧困をなくすにはどうしたらいいか、と考えることが同義となる軌跡を描いた本です。

「自己責任」の前提として考えておくべきこと

著者
ラジ・パテル
出版日
2010-08-31
貧乏性だからかもしれないけど、僕はとにかく無駄が嫌いです。例えば、会議の前に行われる長い世間話とか。例えば、狭いスペースなのに、働く人が多すぎて落ちる作業効率とか。特に無駄だと思うのが、エスカレーターとダイエットの関係。わざわざ並んでエスカレーターに乗るくせに、ダイエットをする為にジムに通う人がいる。これが不思議でしょうがなかった。「お金がない」と嘆きながらも太っている人を見ると「自制心がないことの言い訳」と一刀両断していた時期もありました。

しかし、この本に僕の考えをがらりと変えられてしまいました。貧困層の肥満は世界的に広がっているようです。アメリカでは、ファーストフードの店舗は貧困地区や有色人種の居住地域に集中し、有色人種と貧困層は肥満にやりやすい環境におかれており、白人や富裕層は新鮮で栄養価が高く塩分と脂肪分が少ない食べ物を得やすい環境に住んでいるらしい。さらに貧困地域は富裕地域に比べてスーパーマーケットの数が4分の1しかないそうです。

医学的にも、子供時代に充分な栄養を摂取出来ないと肥満になる確率が高くなるとのこと。貧乏人は安いファーストフードしか選択出来ないから中毒になり、その結果太り続ける。このサイクルは自分に甘いだけでは起きないと気付いたわけです。

加えて、嗜好を飼いならされている時代からも影響を受けています。「近代の味覚は、戦争や国家安全保障上の必要、あるいは技術や食に纏わる意味を変化させることで利益をあげようとする企業によって作られてきた」と書いてある。食べ物を選んでいるのではなく、食べ物に選ばれているという事実が浮かび上がってきます。近代の味覚を作った技術は、缶詰でもなく、冷蔵庫でもなく、テレビなのかもしれません。

自分の欲求を満たそうとするお金持ちが、貧乏人の欲求をコントロールし搾取する。これこそ「自制心がない」と一刀両断するべきことなのではないでしょうか。

究極の自己中心的な思想の持ち主が得た幸福

著者
ムハマド・ユヌス
出版日
2008-10-24
例えば、ビジネスのアイデアを閃いたとしたら、資本金はどのようにして集めるでしょうか。日本であれば、既にある財産を担保にしたり、信頼し合える人に保証人になってもらい融資を受ける、もしくはコツコツバイトをして貯める、またはクラウドファンディングで募るなども考えられるでしょう。

しかし世界には、数百円の借金をすることでしかありつける職がなく、どれだけ頑張ろうともその利子を返済するのがやっとという条件の労働環境があるらしいのです。著者のムハマド・ユヌスは「人間は誰でも偶然にある人種、ある階級、ある経済状態の元に生まれただけであり、そのことで苦しむべきでないことを、私たちは皆理解している。しかし、金融機関は誰にも恐れられない差別の世界的なシステムを作り出した。担保がなければあなたは信用に値しない。銀行にとっては、そういう人は世界の隅にさえも受け入れられないのだ」という思いから、貧しい人達に希望とチャンスを与えるため、無担保で融資を行いました。

そして返済日になると、貧しい人々は毎回きちんと決まった日時にローンを返済することを目の当たりにし、貧しい人でも信用に値するということを知るのです。そして1983年、マイクロクレジット(無担保少額融資)で農村部の貧しい人々の自立を支援する手法を全国で展開する銀行「グラミン銀行」を設立します。

今ではバングラデシュ内で支店がある村は8万超、借り手は700万人超(うち女性が97%)、返済率97.86%という国を代表する大企業になったそうです。争いを招く一番の原因は貧困だと言われています。人々を貧困から引き上げることで、マイクロクレジットは平和のための長期的な力になると、グラミン銀行は2006年にノーベル平和賞を受賞しました。

「お金が欲しい。幸福が欲しい」という欲望は誰もがあります。「自分だけが倖せになりたい」と自己中心的に考えれば考える程、誰かに分け与えないと達成できないことを知る。このジレンマは神様が仕組んだイタズラだと、このコラムでも前述しました。

ユヌスは理想論者、偽善者と後ろ指をさされたかもしれません。しかし実は全く逆で、究極の自己中心的な思想の持ち主なんだろうと僕は思います。幸せを何百万人へ配った結果、誰よりも幸せを手に入れたのだと思います。

ここで伝えきれない思いは『ブルース』(2012年リリースシングル『ホタル』のカップリング)に込めました。B4のうちの2つを持った男のブルースですのでお気を付けて聴いてください。感情移入したら彼氏にしたくない男になっちゃうかも(笑)。それではまたお会いしましょう。藍坊主のベーシスト藤森真一でした。

この記事が含まれる特集

  • 本と音楽

    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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