「自己責任」の前提として考えておくべきこと
- 著者
- ラジ・パテル
- 出版日
- 2010-08-31
貧乏性だからかもしれないけど、僕はとにかく無駄が嫌いです。例えば、会議の前に行われる長い世間話とか。例えば、狭いスペースなのに、働く人が多すぎて落ちる作業効率とか。特に無駄だと思うのが、エスカレーターとダイエットの関係。わざわざ並んでエスカレーターに乗るくせに、ダイエットをする為にジムに通う人がいる。これが不思議でしょうがなかった。「お金がない」と嘆きながらも太っている人を見ると「自制心がないことの言い訳」と一刀両断していた時期もありました。
しかし、この本に僕の考えをがらりと変えられてしまいました。貧困層の肥満は世界的に広がっているようです。アメリカでは、ファーストフードの店舗は貧困地区や有色人種の居住地域に集中し、有色人種と貧困層は肥満にやりやすい環境におかれており、白人や富裕層は新鮮で栄養価が高く塩分と脂肪分が少ない食べ物を得やすい環境に住んでいるらしい。さらに貧困地域は富裕地域に比べてスーパーマーケットの数が4分の1しかないそうです。
医学的にも、子供時代に充分な栄養を摂取出来ないと肥満になる確率が高くなるとのこと。貧乏人は安いファーストフードしか選択出来ないから中毒になり、その結果太り続ける。このサイクルは自分に甘いだけでは起きないと気付いたわけです。
加えて、嗜好を飼いならされている時代からも影響を受けています。「近代の味覚は、戦争や国家安全保障上の必要、あるいは技術や食に纏わる意味を変化させることで利益をあげようとする企業によって作られてきた」と書いてある。食べ物を選んでいるのではなく、食べ物に選ばれているという事実が浮かび上がってきます。近代の味覚を作った技術は、缶詰でもなく、冷蔵庫でもなく、テレビなのかもしれません。
自分の欲求を満たそうとするお金持ちが、貧乏人の欲求をコントロールし搾取する。これこそ「自制心がない」と一刀両断するべきことなのではないでしょうか。
究極の自己中心的な思想の持ち主が得た幸福
- 著者
- ムハマド・ユヌス
- 出版日
- 2008-10-24
例えば、ビジネスのアイデアを閃いたとしたら、資本金はどのようにして集めるでしょうか。日本であれば、既にある財産を担保にしたり、信頼し合える人に保証人になってもらい融資を受ける、もしくはコツコツバイトをして貯める、またはクラウドファンディングで募るなども考えられるでしょう。
しかし世界には、数百円の借金をすることでしかありつける職がなく、どれだけ頑張ろうともその利子を返済するのがやっとという条件の労働環境があるらしいのです。著者のムハマド・ユヌスは「人間は誰でも偶然にある人種、ある階級、ある経済状態の元に生まれただけであり、そのことで苦しむべきでないことを、私たちは皆理解している。しかし、金融機関は誰にも恐れられない差別の世界的なシステムを作り出した。担保がなければあなたは信用に値しない。銀行にとっては、そういう人は世界の隅にさえも受け入れられないのだ」という思いから、貧しい人達に希望とチャンスを与えるため、無担保で融資を行いました。
そして返済日になると、貧しい人々は毎回きちんと決まった日時にローンを返済することを目の当たりにし、貧しい人でも信用に値するということを知るのです。そして1983年、マイクロクレジット(無担保少額融資)で農村部の貧しい人々の自立を支援する手法を全国で展開する銀行「グラミン銀行」を設立します。
今ではバングラデシュ内で支店がある村は8万超、借り手は700万人超(うち女性が97%)、返済率97.86%という国を代表する大企業になったそうです。争いを招く一番の原因は貧困だと言われています。人々を貧困から引き上げることで、マイクロクレジットは平和のための長期的な力になると、グラミン銀行は2006年にノーベル平和賞を受賞しました。
「お金が欲しい。幸福が欲しい」という欲望は誰もがあります。「自分だけが倖せになりたい」と自己中心的に考えれば考える程、誰かに分け与えないと達成できないことを知る。このジレンマは神様が仕組んだイタズラだと、このコラムでも前述しました。
ユヌスは理想論者、偽善者と後ろ指をさされたかもしれません。しかし実は全く逆で、究極の自己中心的な思想の持ち主なんだろうと僕は思います。幸せを何百万人へ配った結果、誰よりも幸せを手に入れたのだと思います。
ここで伝えきれない思いは『ブルース』(2012年リリースシングル『ホタル』のカップリング)に込めました。B4のうちの2つを持った男のブルースですのでお気を付けて聴いてください。感情移入したら彼氏にしたくない男になっちゃうかも(笑)。それではまたお会いしましょう。藍坊主のベーシスト藤森真一でした。