字のない絵本おすすめ5選!子どもでも感じられる絵本

更新:2021.12.20

文字が描かれていないからこそ、絵を通して作品の本質が伝わってくる絵本。読む人によって感じ方が変わり想像力が広がります。読み聞かせるというよりは子どもと共に絵を見つめ自由に感じ取る。そんな贅沢な時間を過ごせる作品をご紹介します。

ブックカルテ リンク

鉛筆画から伝わる思い、切なさと愛おしさで胸がいっぱいになる作品

ベルギー人絵本作家、ガブリエル・バンサンが描く鉛筆デッサンによる作品です。

主人公は車から投げ捨てられ、野良犬となった一匹の犬。飼い主から捨てられたにも関わらず懸命に車を追う健気な姿に、冒頭から切なさがこみ上げてきます。やがて車は見えなくなり、途方に暮れ項垂れる犬の哀愁漂う姿。犬はそれでも匂いを辿って飼い主の元に向かおうとします。

そして、犬が飛び出したことにより起きてしまった自動車事故。後ろ髪惹かれる様に振り返りながら去っていく犬。切なそうに遠吠えをする姿や、何もない只々広い土地で佇む後姿。その全てが哀しさにあふれ、そばに行って抱きしめてあげたくなります。

そして、ラストで訪れる幸せな瞬間。この時を迎える為に、切なさを乗り越えてきたのではないかと思えるほど、犬の嬉しさが伝わって来て幸せな気持ちにしてくれますよ。

著者
ガブリエル バンサン
出版日

線の一本一本が生き生きと描かれ、鉛筆のみで描かれたとは思えないほどの躍動感と迫力にあふれています。まるで絵本の中から飛び出して来るのではないかと思えるほど。

そして、犬のデッサンからひしひしと伝わってくる捨てられてもなお飼い主を思う気持ち、そして思いが届かないと気付いた時の切ない思い。その全てが、表情の違いや犬の動きのみで表されています。こちらをふと振り返った時に読者に訴えかけるようにじっと見つめる姿は、心にずしんと響きます。

しかし、そんな困難を乗り越え、最後に描かれている幸せそうな様子。この姿がきっと犬の本当の姿なのでしょうね。

一つひとつの絵をじっくりと見つめ、犬の気持ちに思いを馳せながら読みたい名作です。

少女と波との交流、五感が刺激される絵本

韓国人絵本作家スージー・リーが描く、波の美しさや面白さ、そして少女との交流が青と黒という2つの色のみで表現された作品です。

ある日、お母さんと一緒に海にやって来た女の子。初めは恐る恐る波に近づいてみます。そのうちに波が近くまで来ないと知ると、両手をあげて立ち向かってみたり、近くで眺めてみたり。ついには波に入って思い切りはしゃぐように。すると波は突然女の子に向かってきます。そして波に飲まれてびしょ濡れになる女の子。

でも大波の後には、素敵なプレゼントを残してくれたようですよ。

波が静かに揺れる様子、しぶきをあげるキラキラとした様子、渦巻いて女の子に迫るくる様子。そのどれもがダイナミックに、そして繊細に描かれ波の音までもが聞こえて来るようです。

著者
スージー・リー
出版日
2009-07-17

左のページには女の子とカモメが白黒で描かれ、右にページには波が濃淡をつけた青い絵具で表現されています。

途中までは、波は女の子とカモメがいる左側のページには入ってきません。その境界線をなくすのは女の子。自分から波に足を踏み入れ、色のある世界に飛び込みます。描かれているカモメも、右のページに入った瞬間い薄い青色で羽が描かれ、色のある海の世界に踏み込んだことが分かります。こんな、細かい描写にも作者のこだわりを感じますね。

文字は一切描かれていませんが、だからこそ女の子のはしゃぐ声や海の香りまで感じさせてくれる、五感が刺激される一冊です。

女の子の冒険と成長の物語

アメリカ人作家アーロン・ベッカーが描く、美しく幻想的な世界と女の子の冒険を描いたワクワクする物語です。

主人公は、家族に構ってもらえずモノクロの世界で生きる女の子。ある日、一本の赤いマーカーを見つけます。モノクロの家にマーカーで扉を描くと、その扉は本物に。外の世界はなんとも幻想的で美しさにあふれた森でした。ここから女の子の冒険が始まります。

マーカーで船を創りお城に来た女の子。水路が途切れて落ちてしまうかと思いきや気球を創り、悠々と空の旅へと出発します。そこで出会った捕らえられた紫色の鳥。女の子は鳥を逃がしてあげた代わりに捕まってしまいます。赤いマーカーも落としてしまいもはやここまでと落ち込んでいると、なんと鳥がマーカーを拾ってくれたのです。空飛ぶじゅうたんを描き鳥と共に夜空に飛び出します。

そしてたどり着いた、小さな紫色の扉。その扉をくぐり女の子を待っていた世界とは……。

著者
アーロン・ベッカー
出版日
2013-11-29

細部まで綿密に描かれ幻想的な色彩で彩った絵の数々は、その全てを飾っておきたくなるくらい美しさであふれています。特に水の透き通るような美しさや、夕焼けの情景は心に沁みわたり思わずため息が出るほどです。

一人の平凡な女の子が、赤いマーカーという魔法を手に入れたことで冒険の世界へと踏み出すというファンタジー要素の強いこの作品。子ども達はきっと、自分に置き換えながらワクワクした気持ちで読み進めることでしょう。そして、自分で考え困難を乗り越えながら成長していく姿は気持ちが良く、読んでいて明るい気持ちになりますよ。

ラストで、本当に欲しかったものを見つけた女の子。きっと大切なものはすぐそばにあるのかもしれませんね。

こんなカメラがあったら面白い!?漂流物を通して知った奇想天外な世界

アメリカ人作家、デイヴィッド・ウィーズナー。彼が描いた作品はどれも衝撃的で良い意味で読者の期待を裏切るものばかりです。この作品も、もちろん子ども達が興味を持つこと間違いなしの驚きの展開が描かれていますよ。

主人公は、海辺で遊んでいた男の子。遊びに夢中になり波に飲まれかかり、なんとか浜辺に上がるとそこには変わったカメラも流れ着いていました。早速現像してみた男の子が目にしたものは、驚きの写真ばかり。機械でできた魚に本を読むタコ、甲羅に貝でできた街を乗せて走るカメに海の中を観光する宇宙人まで!

そして最後に映っていたのは、このカメラを見つけたたくさんの子ども達。その写真はどんどんさかのぼり、なんと白黒時代の写真まであるのです。

男の子も、その子ども達と同じようにカメラで写真を撮って海へを流します。さてこの不思議なカメラを次に手にする幸運な子どもは誰でしょうか?

著者
デイヴィッド ウィーズナー
出版日

海の生き物や人々の表情、洋服のしわまでも綿密に描かれた写実的な絵とは裏腹に、なんとも奇想天外な世界が広がる不思議な絵本です。

不思議な生き物までもが本物の写真のように細かく描かれているので、本当にこんな生き物がいて、海の底ではこんな世界が広がっているのではないか?と思ってしまうほどです。きっと子ども達もこの不思議な世界に胸を躍らせることでしょう。

そしてユーモアにも溢れた絵の数々。例えば観光中の宇宙人が一生懸命写真を撮っていたり、宇宙人の子どもがいたずらをしていたり……。細かな部分もじっくりと見て行くと笑える場面がたくさんありますよ。

ぜひ、親子で不思議な世界の一部を覗いてみてくださいね。

懐かしい昭和の匂いに心まで温かくなる絵本

細部まで細かく、そしてどこか懐かしく優しいタッチの絵が人気の西村繁男が描いた作品です。

「これから、あっちゃんは、おとうさんとおかあさんとあかちゃんといっしょにおふろやさんにでかけます。」という初めの一文以外には、文字が出てこない字のない絵本。しかしその絵はとても賑やかです。

世間話をしながらお風呂に浸かるおじさんたち、子どもの世話をしながら体を洗うお父さん、楽しそうにはじゃぐ子ども達。懐かしいお風呂屋さんの光景が広がります。お風呂の桶や脱衣場に貼られたポスターなど細かい部分もしっかりと描かれていて、いくら見ていても飽きません。

最近ではあまり見なくなってしまったお風呂屋さんですが、賑やかでほっとするこんな場所が今こそ必要なのかもしれませんね。

著者
西村 繁男
出版日
1983-11-01

細かく描かれているにも関わらず、温かさにあふれた絵は読者の心まで温かくしてくれます。また、文章では描かれていませんが、様々なストーリーが絵の中に描かれているので、それを見つけながら自分でストーリーを考えて読むのも楽しみの一つです。意外と子どもの方が細かいところにも気付き驚かされるはずですよ。

大人にとっては懐かしく、子どもにとっては新しい場所。絵本を通してその温かさを感じながら親子で会話を楽しんでみてくださいね。

文字のない絵本の魅力をご紹介しました。文章でストーリーが綴られていないからこそ、絵の一つひとつから全てを感じ取ろうと感覚を研ぎ澄ませ、絵本の世界に入り込むような感覚に浸ることができます。そして、読者自身が自由に感じ物語を創り出すことができるのも魅力の一つです。

子どもと一緒に読む時も、文章がある絵本を読み聞かせる時よりもゆっくりと一枚一枚の絵を味わい、子どもが思い切り想像力を発揮できる環境を作ってあげたいですね。読み終わった後にその絵を見て感じたことを親子で話してみると、大人が想像もつかなかった答えが返ってきて面白いですよ。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る