福井晴敏のおすすめ文庫本6選!『亡国のイージス』の作者

更新:2017.5.20

福井晴敏と聞くと、重たいテーマの作品が多いとイメージする人も多いのではないでしょうか。しかし、自衛隊や戦争などがテーマでありながらもエンタテインメントとして楽しむことのできる作品ばかりです。今回は、その中から6作品紹介します。

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福井晴敏とは

福井晴敏は1968年、東京都生まれの作家です。1997年、警備会社に勤務する傍ら『川の深さは』を江戸川乱歩賞に応募します。選考会で大きな話題となるものの、受賞は逃しますものの、後に加筆修正が行われ出版されます。

翌年、『川の深さは』の続編と位置付ける『Twelve Y. O.』で江戸川乱歩賞を受賞。これがデビュー作となり、専業作家になりました。

緻密な描写により、綿密に組み立てられた内容が特徴です。文字の多さに圧倒される読者も多いものの、読み始めるとそのハードな内容に引き込まれます。小説では堅い文章である一方、エッセイではくだけた表現が多くみられます。

自衛隊や戦争、軍事的な要素が含まれることも特徴の一つです。架空の組織や兵器も登場するものの、それらすべてがリアリティのある内容になっています。

ガンダム作品かつ福井晴敏作品『機動戦士ガンダムUC』

宇宙世紀0096年。工業コロニーでは、財団法人「ビスト財団」から、ネオ・ジオン残党軍「袖付き」へ「ラプラスの箱」が渡されようとしていました。その頃、工業コロニーに住む平凡な少年、バナージ・リンクスは、謎の少女、オードリー・バーンと運命的な出会いを果たします。

しかし、「ラプラスの箱」の取引を察知されたため、地球連邦軍の軍事介入が行われ、工業コロニーは火の海となります。友人たちと避難するバナージ。オードリーを心配し、探す途中で瀕死の「ビスト財団」の当主、カーディアス・ビストを発見します。

カーディスから明かされたのは、自身の出生の秘密。それと同時に「ラプラスの箱」を開くための鍵である白亜のモビルスーツ「ユニコーンガンダム」を託されます。バナージは、自身の意思とは関係なく「ラプラスの箱」を巡る戦いに巻き込まれていくのです。

著者
福井 晴敏
出版日
2010-02-01

テレビアニメ『機動戦士ガンダム』をはじめとする宇宙世紀を舞台にする物語です。『機動戦士ガンダム』から続く地球連邦とジオンの抗争の総括的作品でもあります。そのため、初期のガンダムファンにとっては、胸の熱くなる作品ではないでしょうか。

しかし、ガンダム作品でありながら、しっかりと福井晴敏らしさが散りばめられています。『機動戦士ガンダム』を視聴したことのない読者にとっても、時代背景が丁寧に描かれているため、福井晴敏作品としても楽しむことができます。

葛藤しながらも「ユニコーンガンダム」に乗らなければいけないバナージ。物語が進むにつれ、徐々に成長していきます。また、バナージ以外にも魅力にあふれる登場人物が登場し、それぞれの立場で信念をもって行動していく様に見惚れるのではないでしょうか。

「ラプラスの箱」の正体とは何か。少しずつ明らかになっていく様からも目が離せない作品です。

国防とは何か問う『亡国のイージス』

舞台は、海上自衛隊の最新鋭イージス艦「いそかぜ」。新たな国防の礎となるシステムを搭載した「いそかぜ」は、戦闘演習のために東京湾近郊へと向かっていました。しかし、艦内で非常事態が発生します。その非常事態とは、艦長が殺害されたことと艦内に爆弾が仕掛けられたこと。

自衛官である宮津にあこがれ、自衛官となった息子の死により、憎しみを抱く宮津。劣等感が強く、不良だったこともあるものの海上自衛官としての誇りを誰よりも持つ仙石。暗い過去を持ち、誰とも交流を持とうとしない如月。交わることのなかった人生が「いそかぜ」で出会ったことにより、物語が大きく動き出します。

著者
福井 晴敏
出版日
2002-07-16

序盤で登場人物たちの背景を入念に描いているので、物語が進むににつれ、読者に登場人物たちの想いが迫ってきます。正しいことだと言い切れないにも関わらず、その人物がなぜそのような行動をとったのか。読者の胸に迫ってくる想いは、丹念に人物像を掘り下げたからこそではないでしょうか。

国とは何か、自分たちとは何か。各国の思惑が絡み合い、明かされていく真実。揺れ動く彼らの感情と、交わることのなかったそれぞれの人生が交差していく様にページをめくる手が止まらない作品です。

戦争とは何か考えさせる『終戦のローレライ』

戦争の形を変えると言われる通称ローレライ・システムと呼ばれる特殊兵器。第二次世界大戦末期、特殊兵器を手に入れるため、アメリカ軍は、これを装備する潜水艦「UF4」を執拗に追っていました。日本海軍に身を寄せようとしていた「FU4」でしたが、アメリカ軍の追跡により、やむなく日本の海へ特殊兵器を放棄することとなります。

日本海軍で特異なポジションにいる浅倉は、譲り受けた「FU4」を「伊 507」と名前を変え、秘密裏に特殊兵器の引き上げを命令します。浅倉には、ある思惑がありました。

著者
福井 晴敏
出版日
2005-01-14

浅倉が特殊兵器回収のために集めた面々は、胸のうちに何かを秘めた人物たちばかり。それぞれが抱える闇も描き出すことで、強烈な印象を与えます。迫力のある戦闘描写にも引き込まれると同時に、それぞれの葛藤にも目を移すとよりリアルに作品を感じることができるのではないでしょうか。

様々な主義主張や理念が描かれ、そこに国や組織の在り方が絡み合い、不条理や矛盾を浮き彫りにします。その波にのまれ、抗う登場人物たちを通じて、戦争について改めて考えるきっかけになるはずです。

6つの脇役の物語『6ステイン』

5作品の短編小説と1作品の中編小説で構成される短編集です。他作品にも登場する架空の情報機関である防衛庁情報局に所属する人物たちが描かれています。

『亡国のイージス』ともリンクしている中編「920を待ちながら」についてご紹介します。防衛庁情報局のスタッフの男とタクシー運転手の男の話です。ある日、奇妙な任務を受けることになった二人。とある監視が任務でありながら、対象の情報が一切与えられません。監視を続ける二人は、やがてあるシステムを作り上げた組織に目を付けられます。

著者
福井 晴敏
出版日
2007-04-13

姿勢に紛れ任務をこなす登場人物たちは、年齢も性別もバラバラです。そして、彼らは普通に暮らす人々と同じように仕事や家庭などに何らかの問題を抱えています。しかし、政局や国際情勢などに翻弄されながらも己の信念を貫こうと奮闘する人物たちでもあります。

長編作家という印象の強い福井晴敏ですが、短編でもその構成力の輝きは失われていません。むしろ、短編であるからこそ、長編では脇役になる人物たちを明確に描くことができているのではないでしょうか。長編に尻込みしている人の入門編としても最適です。

『人類資金』に込めた福井晴敏の想い

太平洋戦争中にフィリピンから密かに日本に持ち込まれたとされるM資金。そのM資金を巡り物語は進んでいきます。

真舟雄一は「M資金」をネタに大口詐欺を働く詐欺師です。真舟自身は「M資金」は存在しないと思っており、存在しないM資金をいかに実在の資金として信じ込ませるかに心血を注ぎます。

そんな真舟に目を付けたのが実際に「M資金」を運用している財団の関係者であるMです。Mのグループは、「M資金」を本来の目的である「人類資金」として活用するために、引き出しを図ります。真舟の詐欺師手口を活用しようとしているのです。

著者
福井 晴敏
出版日
2013-08-09

コンピュータウイルスを活用した偽融資ファイル、ロシアのヘッジファンド運用会社を活用した資金の引き出しといった大きな展開に読み手をいつの間にか引き込まれます。日常生活からは考えもつかない大それた展開は、さすが詐欺師の面目躍如といったところです。それでも小説の展開としてしっかりと繋がりが保たれているのは、Mの「人類資金」活用の熱い構想に、相手が真に腹落ちする展開となっているから。実際、一つのトピックスの展開には詳細な背景説明と福井晴敏の想いが丁寧に記されており、読者も納得感をもって読み進むことができるでしょう。

主にMが構想した計画で物語の前半は進んでいきますが、後半は真舟自身がMを取り戻すために、自らストーリーを組み立てていきます。そこでは人類の欲望に根差した資本主義という従来からのルールに替わって、新たなルールが提示されるのです。

これまでは、少数の既得権益者による富の独占により、世界の秩序を維持していこうとするルールでしたが、これからの情報化社会は社会基盤に資本を活用し整えていくことで、多くの持たざる者に安価で公平な機会を提供することができるという考え。そんな「資本共生社会」を創り上げていくという構想にこそ「人類資金」であるM資金は活用されるべきという考えなのです。

それは現在のインターネット社会をさらに進めた新たな構想の提示であり、とりわけ持たざる国に対する基盤整備に資本を投入することで、世界全体がさらに豊かになっていくはずだという考えに繋がっていきます。

この構想は資本主義の既存ルールに挑戦するものであるがゆえに、M資金をこれまで共同で管理してきたアメリカ側は認めることができません。しかし、日米以外の国の中にはこの構想に賛同する国も現れるのです。

小説では、その後の展開は記されていません。しかし、新しい未来を予感させる一大構想が示されている本書を読み終わったとき、読者はきらりとした朝日の光の差し込みを見ることができると思います。

福井晴敏の原点『川の深さは』

元警察官の桃山が警備員として勤めるビルに、ヤクザから追われ若い男女が逃げ込んできます。命を懸けてでも少女・葵を守るとことが任務だという保。桃山は、保にかつての自分を重ね、二人に協力しようと考えます。しかし、二人は桃山の前から姿を消してしまいました。

新興宗教のテロ事件とも関係のあった保と葵。そして、テロ事件の裏で暗躍する各国の情報機関。二人を探す桃山は、知らないうちに巻き込まれていきます。

著者
福井 晴敏
出版日
2003-08-08

手に汗を握るアクションシーンが鮮やかに脳裏に浮かびあがります。それ以上に、見逃せないのが人間ドラマです。葵を命がけで守る保の想い。二人を探す桃山がその対中に対峙した防衛庁情報局の涼子の桃山に対する感情の変化。桃山に対して心を閉ざしていたものの、終盤にはコンビプレーをこなすまでに信頼関係を築き上げた桃山と保。それぞれの想いや信念が共鳴し合って変化していく様に胸が熱くなります。

デビュー作ではないものの、デビュー作以前に江戸川乱歩賞に応募した作品でもあります。そのため、他作品同様に国の安全とは何か、そしてそれを守る人々とは何か、権力についてなど様々な問題提起も読み取ることができます。現実にも類似した事件が発生しているために、より身近に感じられるのではないでしょうか。

堅い文章がしっかりと作品に反映され、そして、綿密な描写が登場人物をリアルに浮き彫りにしている福井晴敏作品。これを機会に手にとってみませんか。

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