絵本の世界に思い切り入り込めるファンタジーな絵本。現実には起こらない事だからこそ、子ども達の想像は無限に広がり絵本の本質を楽しむことができます。それはもちろん大人でも同じです。空想の世界に浸りながら子どもの頃の気持ちを思い出してみませんか?
短編アニメ映画としてアメリカで制作され、2012年にアカデミー賞を受賞した作品が、絵本としても描かれました。本を愛し本に愛された一人の男の人生を描いたファンタジーながらも深い一冊です。
物語の主人公は、本を読むことも自分で書くことも好きな男、モリス・レスモア。本に囲まれ有意義な毎日を送っていた彼でしたが、ある日、嵐によって全てが吹き飛ばされてしまいます。途方にくれたモリスが目にしたのは、たくさんの本につかまって飛ぶ女の人。そして、彼女が持っていた一冊の本がモリスの元へと飛んできて、本がたくさん住む建物に案内してくれたのです。
中に入ると数えきれないほどの本が踊ったり、囁いたり。モリスはこの不思議な本たちと暮らすことにしました。毎日、本の整理や修理をしたり他の人にも本を貸し出したり、時には物語の中に迷い込むことも。そして、本が寝静まると自分の本を書き始めます。
何年も何十年も、本と暮らし続けたモリス。ついに旅立つ時、彼を迎えたものとは……。
- 著者
- ウィリアム・ジョイス
- 出版日
- 2012-10-11
モリスと共に過ごす本が、時には甘えてりおどけてみたり楽しそうに庭を駆けまわったりと、読んでいるうちに友達や子どもの様に見えてくるから不思議です。モリスの本を思う気持ち、そしてその思いに答えるようにモリスを受け入れる本たちの様子。その全てが穏やかで優しさに満ちています。
そして、本が部屋中を飛びまわる姿は何とも美しく、モリスが物語の世界に迷い込み文字にぶら下がる姿や本が踊る姿はユーモアにあふれ、全ての絵が読者の目を奪い絵本の世界に誘ってくれるのです。
ラストは「さて、このものがたりは、これでおしまいだ。でも本をひらけば、いつでもまた、ものがたりは、はじまる。」という言葉で閉められています。この文章からも、作者の本への思いが伝わってきますね。
自然の美しさを題材にした絵本を多く描き、1952年に亡くなった後もその温かな作品が世界中の人々に愛され続ける絵本作家エルサ・ベスコフ。この作品は、「世界傑作」シリーズとして彼女が亡くなってから約30年後に出版されました。豊かな自然との生活を丁寧に描いた物語は、優しい気持ちにしてくれます。
主人公は、森に住むこびとの家族。お父さん、お母さん、そして4人の子ども達です。森での生活はとても楽しくて豊か。子ども達は周りに住む動物や妖精と遊び、ふくろうの学校で学びます。時にはトロルにからかわれ、お父さんの狩りの様子を真似をして怪我をすることもありますが、毎日が楽しく穏やかに過ぎていくのです。
秋になると、木の実を蓄え温かな洋服を用意して冬へと備えます。自然に逆らわず共存する彼らはとても幸せそうです。そして、待ちに待った春。こびとの家族に訪れた、更に嬉しい出来事とは?
- 著者
- エルサ・ベスコフ
- 出版日
- 1981-05-20
豊かな森の恵みの中で穏やかに楽しく暮らす、こびと達の様子に胸が温かくなる作品です。
しかし、その中にも私たち人間が心に止めておかなければいけない言葉があります。
「こびとのあかいぼうしは、きのことそっくりでやくにたちます。もしにんげんやこわいけものがきても、しゃがんでじっとしていればいいのです」(『もりのこびとたち』から引用)
こびと達にとって怖いものは、冬の寒さでもトロルでもなく人間。怖い獣と同じくらい用心しなければいけない存在なのです。
この言葉に作者の思いが込められている様に感じずにはいられません。豊かな自然の中で暮らす生き物たちの、暮らしを荒らさないこと。それが自然を守る一番の方法であると教えてくれているようです。
女の子の不思議でワクワクするような体験を、優しいストーリーと絵で描いた作品です。作者はファンタジーな絵本を多く手掛ける安房直子。南塚直子の淡く優しい色遣いの絵が物語を彩ります。
主人公は、バレエ教室に通う女の子。踊ることが大好きなのにどんなに練習しても上手く踊れません。「おどりがじょうずになりますように」といつも願っていた女の子の元に、ある日届いた一足のバレエシューズ。女の子を山の方へ誘います。
そこで目にしたのは大きな桜の木の中にある、うさぎの靴屋。女の子にバレエシューズを贈ってくれたうさぎでした。忙しそうに働くうさぎに誘われ、女の子はバレエシューズ作りを手伝うことに。やっと出来上がった30足のシューズを受け取りに現れたのは……。
- 著者
- 安房 直子
- 出版日
女の子の思いを叶えてくれた素敵な贈り物。きっと努力している様子や思いの強さが伝わったからなのでしょうね。
全てのページを彩る幻想的な挿絵の数々は、女の子の体験した不思議な世界の美しさを読者に伝えてくれています。そして何と言っても、うさぎ達と共に軽やかに踊る女の子の幸せそうな様子。その姿は輝きと喜びにあふれています。傍でその踊りを見ているような気持ちにさせてくれますよ。
女の子の強い思いに贈られた不思議な体験をぜひ一緒に感じてみてくださいね。
少年チムの冒険を描いた物語「チム」シリーズ。全11巻発行されている人気シリーズの第一作目となる作品です。作者はエドワード アーディゾーニ。イギリスの国民的画家である彼の生誕100周年を記念して、1963年に発行されて以来多くの人々に愛され続けた作品を、2001年に「世界傑作」シリーズとして新たに発行しています。
主人公は、船乗りに憧れる少年チム。元船乗りのおじさんや仲良しの船長から航海の話を聞くたびにチムの憧れは強くなるばかりです。しかし、両親はまだ小さすぎると笑うばかり……。
そんなある日、元船乗りのおじさんから一緒にボートに乗って汽船に行かないかと誘われます。喜んでボートに乗るチム。そしてなんと、汽船が出航するまでこっそり隠れて着いて行ってしまったのです。
ここから、チムの大冒険が始まります。船の中では見つかった時こそ怒鳴られましたが、船員達の仕事を手伝い、気に入られるまでになりました。しかしある日、恐ろしい嵐が船を襲ったのです。船に残ったのは船長と逃げ遅れたチム。船長はチムに「なくんじゃない。いさましくしろよ」と語りかけます。そしてチムはその言葉を聞いて涙を拭き、自分の運命と向き合うのです。手をしっかりと握り最後の時を待つ二人の運命とは……。
- 著者
- エドワード アーディゾーニ
- 出版日
- 2001-06-20
少年の眩しいほどの夢と大人への憧れ、その目標に向かって自ら行動し努力する姿が生き生きと描かれています。チムが最後の時を迎える覚悟を持って、船長と手を握り合う姿は心に迫るものがありますよ。大人が思っているよりも子どもは逞しく、自分の力で成し遂げる力を持っているのかもしれません。
そして、子どもが憧れる大人が近くにいることも子どもにとって大切な財産となるという事も伝わってきます。子どもは大人の生き様を見てたくさんの事を感じ、学びとるのでしょうね。
チムの冒険を通して、夢を持つことの素晴らしさを教えてくれる物語。将来に無限の可能性を秘めた子ども達にぜひ読んでもらいたい作品です。
「やなぎむらのおはなし」シリーズの2作目となるこの作品。作者は、美しい自然や動物、虫たちの物語を多く描く、カズコ・G. ストーンです。
物語の舞台は、大きな柳の木の下にある小さな村「やなぎむら」。毎年夏の季節になるとほたるのピッカリさんが「ほたるホテル」を開きます。たくさんの虫たちに人気のこのホテルは、ベット作ることから始まります。つゆ草のベットにシダでできたベット。クサフジのベットも。そして次々にお客さんがやって来るのですが、中には周りの虫たちから怖がられているかまきりまで……。
日が沈み蛍の光が瞬きだすとほたるホテルは幻想的な景色に包まれます。そんな穏やかな場所にやって来たのが、横暴なカエル。暴れてホテルをめちゃくちゃにしようとします。なんとかカエルを追い出すために、虫たちが考えた作戦とは?
- 著者
- カズコ・G. ストーン
- 出版日
- 1998-10-20
虫たちが一生懸命に力を合わせてホテルを作る姿は可愛らしく、蛍の光は幻想的で美しく、自然の温かさを感じます。そして、怖がられていたカマキリと他の虫たちが力を合わせる中で、徐々に心を通わせていく様子には心まで温かくなります。
私たちが知らないだけで、どこかにやなぎむらがあって虫たちが楽しくたくましく生きているのではないかと、想像力を膨らませてくれる作品です。
きっと子ども達にも、穏やかで美しい自然の魅力が伝わるはずですよ。虫好きな子どもにはもちろん、虫が苦手な子どもでも楽しめること間違いなしです。
子どもも大人も想像力が掻き立てられ、ファンタジーな絵本の世界に入り込める作品をご紹介しました。子どもと一緒に読んでいるうちに、いつしか自分も想像することが大好きだった子どもの頃の気持ちに還っていることに気が付きます。まさしく、一緒になって楽しめる絵本ですね。
そしてその世界は、夢を持つことの大切さ、自然を守るということ、自分が本当に好きだと思う事が見つかることの幸せな気持ちなど教えてくれることがたくさんあります。きっと、空想の世界の中だからこそ、心にすっと入ってくるのでしょうね。
ぜひ、思い切り絵本の世界に浸ってみてくださいね。