インパルス板倉が構想から執筆完了まで2年半を費やしたという小説『蟻地獄』。実はこの漫画版も名作であることをご存知でしょうか?原作の世界観が忠実に反映された手に汗握るストーリーです。今回は本作の魅力をご紹介!4巻までのネタバレありなのでご注意を。
- 著者
- 板倉 俊之
- 出版日
- 2015-07-29
『蟻地獄』は、ただのギャンブル漫画ではありません。スピード感のあるスリル、サスペンスが見どころとなっています。それだけではなく、主人公が追い詰められて倫理観が崩れていくなか、相棒との絆の深さを垣間見れるシーンも描かれた作品です。
そんな本作は実はお笑いコンビ・インパルスのひとり・板倉俊之が手がけた小説のコミカライズ作品。本格アウトローストーリーは彼独特の魅力、そしてストリーテラーとしての力を感じさせられます。板倉は前作『トリガー』もコミカライズされているので、本作が好きな方はそちらを読んでみるのもおすすめです。
ここでは、主人公の紹介を含め、本作の魅力をお伝えしていきます。以下、ネタバレも含みますので、未読の方は要注意!。
同じくインパルスの板倉の原作小説を漫画化した『トリガー』については<漫画『トリガー』が面白い!インパルス板倉の傑作、魅力をネタバレ紹介>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
銀髪の青年が殴られるシーンから始まる本作。彼は一体なぜこのような事態に巻き込まれてしまうのでしょうか?
彼が本作の主人公・孝次です。パチスロ機の仕組みを熟知していて、相棒の修平とともに確実に勝てる台を分析し、地道に稼いでいました。
56万ほど貯まったところで、彼らは「メインイベント」と称する裏のカジノ会場へと向かいます。彼らによるイカサマの計画通り、大金を得るために事が進められていきますが……。
パチンコ店で全く出ない台にイラつきをぶつける客の横を、何箱ものドル箱を持って優雅に歩くのが主人公の孝次。フラッと店に入って負けた腹いせに台を殴りつけるような人を「素っ裸で外を走り回ったら捕まんのが当然のように 負けるべくして負けるカス」だと評し、見下しています。
無職の彼は実家に住んでいますが、両親は無理に働けとは言いません。なぜならこの1年半ほど、毎月7万円を家に振り込み続けているからです。彼の収入源はスロット。頭を使い、パチンコ店でスマートに稼いでいます。
彼いわくスロット機には設定が6段階あり、1だと負けやすく、6だと勝ちやすくなっているとのこと。そしてその設定を決めているのはパチンコ店の店長です。パチプロは店長との心理戦だと考次は語ります。
そこで孝次は相棒である修平と手を組んで、閉店間際の優良店と言われるパチンコ店をはしご。出る台と出ない台のデータをとり、その店の店長の癖を把握します。
それが分かってしまえば、あとはこちらのもの。確実に高設定の台があるイベントデーに早朝から並び目当ての椅子に座り、その台を閉店まで回し続け、確実に収入を得るのです。
そんな孝次と修平はパチスロで稼いだ金を地道に貯めています。その目的はより大きな金儲けのため。そして、彼らは裏カジノへと足を踏み入れるのです……。
パチスロで稼いだ金をポケットに入れて孝次と修平が向かったのは、とあるビルの一室。呼び鈴を押しますが、うんともすんともいいません。そこで入り口に監視カメラを発見した孝次は、すかさずギャンブル初心者のような演技をします。
その途端扉が開き、豪華絢爛なギャンブル場が目の前に現れました。カメラ越しに監視員が、こいつはカモだと勘違いをし、いとも簡単に扉を開けたのです。持ち金すべてをかけた戦いは、すでに入り口から始まっていました。
実は、今回のカジノでの大勝負のために、孝次はパチンコ店で知り合ったギャンブル狂いの杉田という味方を用意していました。彼は裏カジノに詳しく、入り口の監視カメラの事や、今日は新人の女ディーラーが出勤しているということ、さらには彼女が扱うトランプの種類まで、ありとあらゆる情報を流してくれていたのです。
予め決めていた通り、さっそく新人の女の卓につき、「ブラックジャック」を始めます。ブラックジャックとは、2枚のカードが配られ、カードの数字の合計数が最も21に近い人が勝ちというシンプルなゲーム。10、11、12、13のカードは10、Aは1もしくは11とカウントされます。
孝次はディーラーのトランプと同じ柄のAとJを用意し、ここ一番で必ず21になるように仕込んでいました。序盤では負け続ける孝次。その間に軍資金は56万から25万に減ってしまっています。
負けが込んで全てを投げ出したかのように残金の25万を全て賭ける主人公。大金を賭けても怪しまれないように、わざと負け続けていたのです。そしてすかさず服の裾から仕込んだカードを取り出し、何度も練習したすりかえの技でイカサマに成功。見事大勝利を納めました。
渡す金額があまりにも高価すぎるので……と別室に案内される孝次と修平。絵に描いたように有頂天な2人でしたが、支配人に上着を調べられ表情が一変します。そして次の瞬間、大男から内臓が飛び出そうなほどに強烈な蹴りを食らってしまうのでした。痛めつけられている孝次を助けるために割って入った修平も、一発で気絶させられてしまいます。
実は今回のイカサマは情報を提供してくれた杉田によって、予めリークされていました。裏カジノでの大勝利は、杉田やディーラーの掌で踊らされていただけだったのです。
支配人はそのあとひたすら大男に孝次を殴らせたあと、気を失っている修平を見てこう言います。
「三百万だ。無理ならそいつの『目玉』と『内臓』を売って金にする。」(『蟻地獄』1巻から引用)
決められた期日は5日間。カジノでの大勝利から一転、孝次は抜け出す事の出来ない蟻地獄にはまってしまいました。
5日間で300万という途方もない金額を突きつけられた孝次。金を用意するため、あらゆる方法を考えます。
実家にそんな大金はなく、パチスロで少しずつ稼いでも勿論間に合わない。まともな金融機関は無職の彼に金を貸してくれるはずもなく、だからといって闇金は一時的な方法に過ぎません。
あとはもう、違法な手段しか考えられません。銀行強盗、指名手配犯の懸賞金……。しかしどれも現実的とは思えないものです。
- 著者
- 板倉 俊之
- 出版日
- 2015-10-29
そんな時、裏切り者の杉田から連絡がかかってきます。怒りに震える孝次ですが、完全に相手が優位にたっています。
「なぜ落とし穴をつくるか?
それは落ちた人間の反応を拝みたいからだ
最初は何が起こったか分からず唖然とし
やがて事態を飲み込み悔しがる様をな」 (『蟻地獄』1巻から引用)
電話を壊してしまいそうなほど握りしめる孝次は、「だったら直接見にこい」と脅しますが杉田はこう言います。
「そいつは遠慮しておこう
お前の相棒の身代わりでカシワギに売り飛ばされちゃ敵わんからな
まあ世の中には自殺する奴もいるくらいだ
せいぜい汗かいて身代わりを探すがいいさ」(『蟻地獄』1巻から引用)
そう言って電話を切る杉田。浩二は電話を床に叩きつけます。
堪えきれないほどの怒りの中、浩二は杉田の言葉に何かが見えた感覚に陥ります。そして考え続けた先にある希望を見つけます。
何としても300万を稼ぎ、相棒の修平を助け出さなければならない浩二でしたが、杉田の言葉からあるアイデアを思いつきます。それは、死んだばかりの人間から新鮮な目玉をえぐり取り、高価で売却するという人の道を外れたものでした。
違法な行為である事はどう考えても確かですが、仲間を守るため何ふり構っていられません。次の朝、浩二は早速、自殺の名所である富士の樹海へと車を走らせます。300万を稼ぎ出すために、必要な眼球は9個。死後2日後には移植が不可能になってしまうため、1日に4から5個も目玉を手に入れなければならない計算になります。
昼過ぎに富士の樹海へと辿り着き、死体を探し始めた浩二。自殺への注意喚起の看板や自殺防止のためのバリケードを発見し、やはりここなら簡単に眼球を調達できると喜びを隠せません。しかし、そう現実は甘くなく気が遠くなるまで探し続けた浩二でしたが、死体の1つすら見つけることが出来ませんでした。途方に暮れ、抜け殻のようになってしまった彼は、家に帰ることを決心します。
長い道のりを歩き、樹海の駐車場へと戻ってきた浩二。そこで、自分の車が車上荒らしによって漁られている場面に遭遇します。「おい」と声をかけられるや否や、鉄パイプの様な武器を片手に襲ってくる車上荒らしを、浩二は苛立ちのままに殴りつけます。怒りから拳を止めることが出来ず、相手の顔はぐちゃぐちゃになってしまいました。そして、ついにはそのぐちゃぐちゃ顔から目玉までえぐり出そうとする浩二。人の道を外れ、覚醒しつつある彼の人生は果たしてどうなってしまうのでしょうか。
富士の樹海で何も得られずに帰ってきた孝次。残された時間は4日しかない中で、どうすればいいのか分からず、ベッドにうずくまります。そんな絶望の中で考次がひらめいたのは、集団自殺者の目玉を抉ることでした……。
- 著者
- 板倉 俊之
- 出版日
- 2015-10-29
富士の樹海に比べて集団自殺では、確実に8つ以上の目玉を確保することができます。つまり残り4日以内で集団自殺に1件でも立ち会うことが出来れば、一気に300万を稼ぐことが可能だと考えました。
普段からパチスロで生計を立てイカサマが得意なこともあり、やはりここ1番で考次は頭がキレます。早速、掲示板から自殺者仲間を募り、集団自殺を望んでいる仲間を集めることに成功しました。しかし、いざ予定日になってみると、前もって決めていた場所に集まった奴らは明らかに外見がおかしい奴らばかり。果たして、集団自殺を成功させ目玉をえぐり、相棒を助け出すことが出来るのでしょうか。
廃病院へと向かう集団自殺者達。いざ廃病院へと足を踏み入れた瞬間、病院内に不審な影を見かけてしまいます。目玉を取り出し相棒を助けるためにミスが許されない状況の中、果たして考次の作戦はうまく行くのでしょうか。
- 著者
- 板倉 俊之
- 出版日
- 2016-02-29
「頼む!なんでもいいからお前ら、早く死んでくれ……。」 (『蟻地獄』3巻から引用)
廃病院に集まったものの、なかなか自殺に踏み切ることが出来ない自殺者達にに向けた、考次の心の声。前巻に比べ、ミスが許されない状況のためか、全体的に緊張感のある展開が続き、自殺者達と、彼らに一刻も早く死んで欲しい考次の心理戦にもどかしい気持ちになります。
しかし、自殺者達の死を選んだ理由も中々に壮絶なものが多く、『蟻地獄』ならではの少しグロテスクな表現もありました。考次の気持ちに共感するのはもちろんですが、自殺者達の死をためらう気持ちも分かってしまう第3巻。ぜひ手にとって、実際にその気持ちを味わってみてください。
これより後は4巻のネタバレを含みますのでご注意ください。
互いの死の理由を語り合った自殺者たち。死への意思が固まり、廃病院の1室で練炭自殺を決行します。真っ暗な部屋でそれぞれの意識が遠くなる中、彼らの目を抉らなければいけない考次は酸素マスクを装着。自殺者達が息絶えるのをじっと待ちます。
しかし、いきなり部屋の扉が開き自殺者の1人が逃走。実はその逃走車は連続殺人犯で、廃病院でいきなり命をかけた殺し合いが始まってしまいました……。
- 著者
- 板倉 俊之
- 出版日
- 2016-06-29
全4巻で完結の『蟻地獄』。自殺者を装った連続殺人犯との戦闘を始めとした、シリアスな展開から目を離すことができません。また、最終巻では1巻から張られ続けていた多くの伏線が一気に回収されます。スピード感あふれる怒涛の展開にも注目です。
はたして考次は彼らの目を取り、無事に親友を救い出すことができるのか、そして彼も生き残ることが出来るのでしょうか。あっと驚くその結末は、ぜひご覧になってみてください。
次々と波乱の展開が巻き起こっていく、スリル満点な本作。一度そこに足を踏み入れた者はどうなってしまうのか!?『蟻地獄』の衝撃のラストはぜひ作品でお楽しみください!