滝平二郎は独特の世界観を感じる『モチモチの木』をはじめ、数々の絵本の挿絵を手がけています。彼の手がけた絵本は半世紀たった今でも多くの人に読み継がれています。今回は彼が手がけた30以上の作品からおすすめの絵本を5冊紹介したいと思います。
1921年栃木県で生まれた滝平二郎は子供のころから本が好きで、高校を卒業後は独学で木版画を学びます。青年期は徴兵された沖縄で終戦を迎え、その後は木版画家、切り絵作家として活躍しました。
1967年に出版された斎藤隆介の『ベロ出しチョンマ』の挿絵を担当したことをきっかけに、コンビでの創作活動が増え、たくさんの絵本を世に送り出しました。物語は昔の農村風景を描いたものが多く、少しずつ昔の日本を知る語り部が減っていく中で後世へと昔の日本の姿を伝える絵本としてとても大切な内容になっています。
また単独でも民話を題材にした絵本の挿絵を手がけており、独特の画風はそれぞれの物語に素晴らしい演出効果も与えています。
『モチモチの木』は小学校3年生の国語にも多く取り上げられ、学年をしめくくるテーマとして使用されることの多い作品です。
豆太の父親は熊に襲われて亡くなったため、じいさまと一緒に暮らす豆太。彼は5歳になるのに夜中に1人で外にある便所に行くこともできない臆病な男の子です。
モチモチの木とは、豆太が住んでいる小屋のすぐそばにある大きな木のことで、彼が名前をつけました。秋になると実をたくさんつけ、それをじいさまが木ウスでついて食べさせてくれます。これがとても美味しくて豆太は、モチモチの木に向かってもっと落ちてこいと催促をします。
- 著者
- 斎藤 隆介
- 出版日
- 1971-11-21
昼はモチモチの木に対して威張る豆太ですが、夜になると逆にモチモチの木が髪を振り乱し、手を上げて自分を襲ってくるように感じるので怖くてたまりません。
そんなある夜、腹が痛くなり転げまわるじいさまを目にする豆太。夜になると怖くて外に出られなかった豆太ですが、寝巻で裸足のままふもとの村まで走り出します。なんとかお医者様の元へたどり着き、お医者様と一緒に小屋へと向かう道で豆太は見たことのない光景を目にします。月が出ているのに雪が降りはじめ、モチモチの木にも不思議なことが起こり……。
『モチモチの木』では、滝平二郎の絵が物語を効果的に演出しています。夜中髪を振り乱し、豆太に襲ってくるようなモチモチの木。村へお医者様を呼びに行く豆太の必死な姿。そしてクライマックスの場面で見開きで描かれたモチモチの木。読み進めていくと物語と絵の相乗効果で、いつの間にか独特の世界観に引きずりこまれているでしょう。
最後のページではじいさまが豆太に「自分を弱虫だと思うな。やさしささえあれば、やらなければならないことはきっとやるもんだ」と声をかけています。臆病だった豆太がじいさまを思う気持ち、そして豆太を大切にするじいさまの気持ちも見逃せない絵本です。
「子育てが大変でなかなか絵本を買いに行く時間もない」「読み聞かせの時間がなかなか取れない」「家で仕事をしている間、1人で絵本を読めるようになってほしい」。絵本をたくさん読んで欲しいとは思いつつ、なかなかそんな環境を整えるのも難しいですよね。
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山の奥に一人で住むばばのおどろおどろしい方言混じりの語り口で始まる『花さき山』。見開きの墨で塗られた黒いページの中に登場する山のばばの姿は、何とも言えない怖さを感じます。
ある日、村に住むあやは祭のごちそうに使う山菜を採りに来て山奥へと踏み込んでしまい、山のばばと出会います。山のばばは山奥に住んでいながらあやのことを何でも知っていました。
山のばばは、自分を見た臆病な人間が勝手に怖がっていると言いますが本当なのでしょうか。そしてあやのこと、どうして山奥に来てしまったのかを知っていることは、それだけでそこはかとない怖さを感じます。
- 著者
- 斎藤 隆介
- 出版日
- 1969-12-30
山のばばが住んでいる山には色とりどりのきれいな花が咲いていました。その花は村の人間がいいことをすると1つ咲くのだそう。
あやの足元に咲いている赤い花は、前の日に彼女が咲かせた花だと山のばばは言います。貧しい家に住む彼女の家では、彼女と妹の分2着の祭着を買うことは大変。祭用の着物が欲しいと駄々をこねる妹を見て、自分の着物を辛抱をし、お母さんと妹を喜ばせたから咲いたと話してくれました。そして赤い色はあやの切ない気持ちであることも。
あやは村に帰ってから山のばばに聞いた話をしますが、誰も信じれくれません。そして彼女が山に入っても山のばばに会うことはありませんでした。しかし、彼女は山ばあばが話した花のことは忘れることなく、自分の気持ちの中で今花が咲いたと思うようになりました。
読み始めた時には怖いと感じた物語も読後は、いいことをしたときに山のばばの所で花が咲いているかもという気持ちも芽生えそうな絵本です。
『花さき山』には同じく滝平二郎の作品『八郎』、『三コ』の伏線として、村を守るため体を張った男たちが姿を消した時に山々ができたという話も書かれています。どちらも『花さき山』よりも先に出版されている絵本ですが、まだ読まれたことがない場合、こちらの物語を読むことで『八郎』、『三コ』を手に取るきっかけになるかもしれません。
鬼といえば、子どもにとってどんな存在でしょう。『ソメコとオニ』で登場するソメコの周りにいる大人たちは、百姓が忙しくソメコと遊んでくれないどころか「あっちへ行け。」と言います。
仕方なく草原で遊んでいるソメコの前に、一人のおじさんが座ります。おじさんはソメコのままごとの相手をしてくれますが実は岩屋に住む鬼で、ソメコをさらいに来たのです。
- 著者
- 斎藤 隆介
- 出版日
- 1987-07-30
鬼にさらわれたソメコですが、鬼が住む岩屋は迷路のようで面白くて仕方がありません。
鬼はソメコの親に、ソメコをさらったから馬や米と引き換えに渡すという手紙を書いたのですが、とにかく遊びたいソメコはなかなか手紙を書かせてくれず、とうとう鬼の姿に戻りソメコを怖がらせようとしますが、これにも全く動じないソメコ。
そしてソメコがいなくなり大騒ぎをしていた親に鬼からの手紙が届きます……。
暗く重い雰囲気を感じる作品が多い斎藤隆介と滝平二郎の絵本の中で、『ソメコとオニ』はクスッと笑ってしまう場面がたくさんあります。好奇心旺盛で嬉々としたソメコの表情、困ったオニの顔、ソメコの父親の表情。特にそれぞれの人物の目に気持ちが表れています。
『ソメコとオニ』だけで読んでも面白いのですが、そのほかの作品を読んだ後にこちらを読むのもおすすめです。
男らしさの中にもやさしさを感じる微笑みが印象的な『八郎』の表紙。作中では八郎の引き締まった体つきが、素晴らしい滝平二郎ならではの絵で再現されています。それとともに文章には秋田弁が用いられており、版画と秋田弁で物語にグイグイと引き込まれるような物語です。
秋田の山に住んでいた八郎はとても体が大きい男で、とても優しい性格でした。髪には小鳥たちが巣を作り、朝は小鳥のさえずりで目が覚める八郎。さらに大きくなりたいと思っていた八郎は山から浜へと駆け出し、海へと叫んでいました。
- 著者
- 斎藤 隆介
- 出版日
- 1967-11-01
ある日、浜に行った八郎は泣いている小さな男の子と出会います。一緒に遊んで泣き止ませようとしますが、男の子は自分が住んでいる村の田んぼに塩水がかぶりそうで、大騒ぎをしていることを八郎に話します。話を聞いた八郎は田んぼに塩水がかからないように男の子の住む村へと出かけますが……。
八郎はどうして大きな体をさらに大きくしたいと思ったのでしょう。また八郎にとって海はどんな存在だったのでしょう。『八郎』は1度読んで終わりの本ではなく、少し視点を変えるといろいろな読み方ができる奥深い絵本です。
日本の民話で古くから語り継がれてきた『さるかに』は、販売されている絵本でも数種類の展開があります。今回紹介する『さるかに』は、松谷みよこが文を書いています。
子どもの頭の中で『さるかに』の様子を想像させてくれそうなテンポの良い文章。そして滝平二郎の絵を使用した挿絵は、それぞれのキャラクターの表情がや動き生き生きと表現していてカニの甲羅の色づかい、柿の幹や実などは美術的なすばらしさも感じます。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 1967-11-15
柿の種を拾ったカニは土に埋め、目が出るのをワクワクしながら待ちます。やがて大きな柿の木になり、実もできるのですがカニは高いところにある柿の実をとることができません。そこに山から下りてきた猿が木に登り美味しそうに食べ始めます。カニはサルに取ってくれと言いますがサルは青い柿の実をカニにぶつけ、カニは死んでしまいました。
死んだカニのお腹からは小さいカニが出てきて、親が死んでいるので泣いています。小ガニの泣き声を聞いたくまんばちやくりがやって来て、サルのところへ仇討ちに向かいます。
後半では小ガニとくりやくまんばちたちの仇討ちが始まりますが、いろりから飛び出したくりにやられたサルは大きな口を開けて飛び上がっていて、なんとも痛そう。効果音などは書かれていませんが、版画の挿絵がとても効果的な演出になっていて、音も聞こえてきそうな絵本です。最後にちょこんと出てくるカニも可愛いですよ。
滝平二郎が絵を手がけたおすすめの絵本の特集はいかがだったでしょうか。少しづつ忘れられていく昔の日本の姿を再確認できるような物語を中心に紹介しました。まだ読まれたことのない方はせひ手に取ってみてください。そして子どもの頃に読まれた大人の方ももう一度手に取って読んでみてはいかがでしょうか。