気軽に手に入れられるファストファッション。しかしその裏側には、劣悪な環境のもとで働く生産工場労働者がいます。今回はその実態や問題点、背景にあるもの、解決策としてのエシカルファッションについてまとめました。
ファストファッションとは、流行が取り入れられた服を大量に生産し、短いサイクル且つ低い価格で、それらを販売するブランドのこと。安さと早さを売りにする「ファストフード」を模してつくられた言葉です。
消費者にとっては、手に入れやすい価格がありがたいところですが、その背景には問題点があることも指摘されています。
ファストファッションの問題点として、2点整理します。
①環境の悪化
……大量生産によって有害な物質が大量に出たり、大量消費によって大量のゴミが生まれたりします。
②発展途上国にある生産工場の劣悪な労働環境
それでは以下の項目から、②の劣悪な生産工場の実態に1冊の本とともに迫っていきましょう。
- 著者
- エリザベス・L. クライン
- 出版日
- 2014-05-17
アパレル企業向けの商品を作る工場の実態は、どのようなものなのでしょうか。『ファストファッション: クローゼットの中の憂鬱』では、工場の労働環境を以下のように説明します。
「法の抜け穴があるために、消費者が知ったらといてい見過ごすことのできないような労働環境がまかり通っている。バングラデシュの工場は、建物の多くが古くて非衛生的だ。経営側も防火管理をおろそかにしている」(pp. 187〜188)
本書ではさらに、バングラデシュ(ダッカやガジプール県)の工場で実際に起きた事故ーー大手アパレル企業の親会社に向けて子ども服を作っていた工場の崩落事故(2002年)、別の大手アパレル企業の商品を作っていた工場での火災(2010年)、大手アパレル企業向けの衣料品を生産していた服飾工場の火災(2010年)ーーを挙げます。
しかしこのような悲惨な現状に対して、われわれはどう取り組めるのでしょうか。著者は、アパレル企業に対しては、労働者を搾取する工場を使わないことを求めるだけではなく、労働者に基本的な生活ができるだけの賃金(=生活賃金)の支払いを求める必要があると主張します。
実際、多くの大手ブランドでは、その国の最低賃金を支払えば充分なのだと考えているといいます(※現地には、最低賃金すら支払われない工場もあるとのこと)。しかし最低賃金だけでは、まともな生活をしていくことは困難なのです。だからこそ大手ブランドは「生活賃金」を保障し、労働者が長期的な生活設計を立てられるようにする必要があります。
とはいえ、そんなことをしたら、消費者にしわ寄せがくるのではないか、と思われるかもしれません。
しかし「現状では労働者の賃金は低すぎ、アパレル企業の利益率は高すぎる。だからコストを消費者に転嫁しなくても、企業は大幅な賃上げが可能」(p. 205)なのだそうです。さらにアメリカの消費者価格の話にはなりますが、工場労働者の賃金を2〜3倍に増やしても、消費者価格への影響はほとんどないともいいます。
このように、ファストファッションの裏側について本書から学べることは盛りだくさん。低価格で大量生産・流通される実態や背景に疑問を抱く方に、ぴったりな1冊になることでしょう。
- 著者
- 伊藤 和子
- 出版日
- 2016-04-23
ところでファストファッションは、なぜ安いのでしょうか。そんな疑問に答える1冊が『ファストファッションはなぜ安い?』です。
本書ではその理由として、発展途上国の工場で働く労働者の安い賃金を挙げます。大手アパレル企業による下請け工場では、低価格且つ短期間で大量の商品を生産するために、劣悪な労働環境のもと、長時間残業を含む過酷な労働が強いられているのです。
それでは、このような搾取の構造を変えるためには、不買運動を進めていけば良いのでしょうか。著者は、問題はそう簡単なものでもない、と主張します。というのは、バングラデシュなどの国では、女性が自立できる職業が極めて少ないからです。
「私たちは調査の間、『路頭に迷う』『失業する』という恐怖をかかえた多くの労働者の訴えを聞きました。また、NGOからも言われました。『バングラデシュで作った商品に対する不買運動はしないでほしい。私たちが生きていく大切な産業を奪うようなキャンペーンは望んでいない』」(p. 27)
どうやら不買運動だけでは、物事は解決しないようです。
そのうえで著者は、①衣料品の生産過程に関心を持つこと、②工場で働く労働者の人権が守られるような労働環境を要求していくこと、③消費者として労働者の犠牲によって成り立つ低価格商品を望まないことを主張し、それをコンセンサス・市場のトレンド化していくこと、が解決策になりうるのではないか、と考察します。
本書は、横書きで比較的薄い本(117ページ)ですので、まずは図書館で手に取ってみるのもいいかもしれません。また物理的に薄いとはいえ、日本のアパレルブランドの中国委託先工場についての調査報告など、ファストファッション業界の裏側について、しっかりと学び取ることができるので、読み応えも十分な1冊といえるでしょう。
このようなファストファッションに対して、エシカルファッションというものも生まれています。以下の項目からはエシカルファッションについて、整理してみます。
Fashionsnap.comによれば、エシカルファッションとは、社会的な良識に沿って、生産されたり流通されたりする衣料品やバッグなどを含むファッションのこと。また「環境だけにとどまらず、望ましい労働環境や貧困地域支援、産業振興なども視野に入る」といいます(引用)。
なお「エシカル」は日本語では「道徳、倫理上の」という意味があります。
それでは以下の項目から、エシカルファッションについて1冊の本とともに詳しく見ていきましょう。
- 著者
- サフィア・ミニー(ピープル・ツリー/グローバル・ヴィレッジ代表)
- 出版日
- 2012-10-03
作り手を搾取するファッション業界に対して、デザイナーやモデル、役者などが声を上げています。
『NAKED FASHION: ファッションで世界を変える おしゃれなエコのハローワーク』からは、国内外を問わず、さまざまな立場(イラストレーターから音楽プロデューサーまで)にいる人びとが、エシカルなファッションに関心を持ち、取り組みを行っていることが読み取れます。
たとえば、ハリー・ポッターのハイマイオニー役で、その名を世に知らしめたエマ・ワトソンは、本書でフェアトレードの重要性を語ります。
エマといえば、フェミニズムについて国連でスピーチを行うなどフェミニズムの推進者としても有名です。そんな彼女は、当然といえば当然かもしれませんが、ファッションについても高い倫理観を持っていたのです。
本書でエマは、同年代の若者に対して「もし、何かを買うときに、フェアトレードとそうでないものの選択肢があったなら、フェアトレードのものを買ってほしいです。それが世界を変える大きな変化につながるのですから」(p. 126)と述べます。彼女の取り組みや言葉からは、ファッションに対するエシカルな思いが伝わってきます。
本書は、カラー写真が豊富でカタログあるいは雑誌のような本です。エシカルファッションに興味がある方は、図書館などでぜひ一度手に取ってみてください。
流行が取り入れられた服を大量に生産し、短いサイクル且つ低い価格で、それらを販売するファストファッション。
大量生産と大量消費によって環境が悪化することや、発展途上国の生産工場の劣悪な労働環境などがその問題点として挙げられます。また生産工場で働く労働者の賃金は低く、過去には工場が悲惨な事故に見舞われることもありました。
そんななか「エシカルファッション」が注目を集めています。エシカルファッションとは、社会的な良識に沿って、生産されたり、流通されたりする衣料品やバッグなどのファッションのこと。ファストファッションに対する一つの選択肢として、あるいは解決策として、今後より一層の広まりを見せるように思われます。