こぶしファクトリーの広瀬彩海です。暖かくなってきて、読書が捗る最高の気候になってきました。こんな今だからこそ私は重苦しい本を欲してしまいます。こんな今、に限ったことではないのですが……。
春の暖かく心地よい陽射しを浴びながら、読みたいと思う本は、殆どの方が「ふわっと心が浮き上がるような物語」のものだと思います。そんな小説を紹介される場面も多いかと思いますので、今回は敢えて、手に取るだけで心が重くなるような「気圧される」小説をご紹介します。
絶望しか残らないと同時に……
まず、クローン人間という設定から、人権無視という底知れぬ残酷さを感じます。あたたかい光が差し込んだかのように思えても、周りの空気はあたたまることなく、ただ冷酷さが際立つのみ。切なく、苦しい。こんなに胸が締め付けられることはあるのでしょうか。
自分の夢を持って、希望を持って、将来に向かう権利を得られずにただ歳を重ねる。私がそんな人生だったら、何を生き甲斐にしたらいいか分からず絶望しか残らないでしょう。そう考えると、この小説に出てくる人物は強いんだな、と思うのと同時に、この世界は幸せだと感じることが出来ます。
恐怖心に支配されていく
とにかく分厚さと長さにまずは圧倒されます。読破できるのか。この本との勝負はまずそこから始まります。ですが、面白い。奥深い面白さがあります。
が、読み進めているうちは面白いというより、逃げられない――という恐怖心に支配されるようです。真っ暗な部屋に閉じ込められて、壁に手が触れただけでも何かいる!と思ってしまうような、そんな計り知れない怖さと不気味さを持っています。
読み終わって感じたのは、人はつくづく孤独に弱い生き物なのだなということ。一番怖いのは屍鬼なんかではない。人間なのではないかと。読めば読むほど深いと感じ、いろいろなことを考えさせられます。そして、読めば読むほど、怖い。