マンガ
趣味/実用

日本橋ヨヲコを読むならこの順番がおすすめ!外れなしの全作紹介!

更新:2020.11.27 作成:2017.5.28

『G戦場ヘブンズドア』で高校生たちの熱い青春を描き、ブレイクした日本橋ヨヲコ。『少女ファイト』ではスポ根と精緻な心理描写で読者を魅了しています。熱い言葉で読者の心を捉えて離さない日本橋ヨヲコの全作品を一挙、ご紹介します。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

熱くたぎる魂の叫び、日本橋ヨヲコ

日本橋ヨヲコは、1974年生まれ、香川県出身の漫画家です。

1996年に講談社「週刊ヤングマガジン」に掲載された『ノイズ・キャンセラー』でデビューしました。「日本橋ヨヲコ」はペンネームで、本名は公開されていません。大阪の日本橋駅にいるときにペンネームを考えていたことから「日本橋」、本名をもじって「ヨヲコ」となかば時間にせかされてつけた名前でした。

小学生のころからバレーボールをやっていたことは広く知られています。それが『少女ファイト』をはじめ、それぞれの作品世界の随所に登場。「バレーボール」もキーワードのひとつですが、バレーボールだけでなく、過去作品の登場人物が新しい作品に登場することも頻繁にあり、作品と作品が設定を共有しています。

登場人物一人一人に過去があり、そこに存在するように、ひとつの物語が終わっても作中人物たちは、生き続けています(このことは、全作品を通読しているファンにはうれしい楽しみになっているようです)。

読者を魅了し続けている秘密は、「日本橋ヨヲコ節」とも言えるような、言葉の持つ力をめいっぱい活かしているのが特徴です。具体的には、独特のセリフまわしやナレーション、モノローグなどがあります。

青臭く傾いてしまいそうなセリフの数々も、日本橋ヨヲコの作中ではキャラクターの個性と密接に結びついて、読者に共鳴します。ある種、癖になるような強い響きを読者の心に沸き起こさせる、言葉の魔法を駆使する天才だと言えるでしょう。

画風に顕著なGペン(漫画を描くときに使う道具。つけペンの一種)の太さを強調した描き方でわかるとおり、日本橋ヨヲコは、Gペンを愛用しているようです。着色などの加工には、パソコンのソフトウエアも利用していると公言しています。

また、チーフアシスタントで、現在、監修を担当している木内亨と結婚しています。アシスタントから多くの漫画家を輩出していることからも、日本橋ヨヲコの作中に登場する漫画家像と重なる部分があるのかもしれません。

学園生活を最大限、楽しむべし!『極東学園天国』

全国に徴学令がしかれ、高校まで義務教育が延長された近未来の日本。全寮制で卒業まで学外へ一歩も出られない私立・五色台学園(ごしきだいがくえん)の2年に編入してきた平賀信号(ひらが・しんご)。暴力・スリ・売春・アル中・拒食症……。ハードな問題を抱える生徒たちが、上下の学年も巻き込んで、学食の優先権を奪い合う「学食争奪戦」を始めるところから物語は始まります。

冒頭の平賀信号が編入してくる場面を落ち着いて見始めた直後に、「学食争奪戦」の火ぶたが切って落とされるので、物語世界に突然ポーンと放り込まれた状態になり、事態を見つめる目としてページをめくることになります。
著者
日本橋 ヨヲコ
出版日
2013-07-23
アクの強いキャラクターが日本橋ヨヲコ作品の特色のひとつですが、『極東学園天国』に登場する人物たちもくせ者ぞろいです。問題の「学食争奪戦」も、学校を実質統括している3年生・城戸(きど)の采配から始まります。

と、ここまでは、ストーリーの常道どおりなのですが、物語を邪魔することも浮くこともなく、吐き出されるセリフが刺さるのです。

「いやだなあと思うこと そのままにしてたら たましいが腐るから」(『極東学園天国』より引用)

このセリフに打ちのめされる読者は多いことでしょう。

日本橋ヨヲコの秘められた力を放出するセリフは、青春真っただ中にいる少年たちばかりでなく、青臭かったかつての自分にも向けられるようで、大人にも響くこと間違いなしです。

日本橋ヨヲコの作品に共通するテーマである、重い過去のトラウマや傷をもつキャラクターたちが、一皮むけて自分を見つけ、迷っていた道を探り当てていく成長の物語がメインストーリー。どこにも居場所がない少年たちが居場所を作っていく物語です。

最後についている番外編も、登場人物のその後を描いていて好評なので、番外編を含めて、ぜひ読んでみてください。

「女の人を笑わせておけたら一人前だって」
「いつでもいろんな覚悟を決めておけ特に女はな 緊張感のある女はキレイだよ」(いずれも『極東学園天国』より引用)

日本橋ヨヲコの原点『プラスチック解体高校』

私立大段高校に入学する前日、桜の花が舞い散る中で蔵田三成(くらたみつなり)が出会った、真っすぐな瞳をした少女の名前は、古屋直視(ふるやなおみ)。三成とナオミは偶然にも同じクラスになりました。

2人の他には、担任で三成の兄・一誠(いっせい)や、同級生の志度鉄甲(しどてっこう)と姉で生徒会長のアルミなどが登場。中学時代のナオミと一誠の出会いなど、背負った過去は重く、もつれた糸をほどくように、それぞれが個々の居場所へと導かれ、運命を切り開いていきます。
著者
日本橋 ヨヲコ
出版日
2014-06-23
ブレない一貫したテーマを掲げた初期作品『プラスチック解体高校』。自由を求めながら、どこか限界を感じている高校生たちへ向けた、日本橋ヨヲコ流のエールではないでしょうか。

冒頭のナレーションにある「君だけはこっそり命懸けで生きていて。」が、作者からすべての高校生へのメッセージだと感じられるでしょう。

日本橋ヨヲコが、その独自のアクの強いキャラクターとセリフまわしで描く青春群像劇。まだままならない心と体、その年代特有の暴力性、劣等感を抱えた登場人物は、もがき苦しみながらも真っすぐに対峙していくのです。

青春を生きる登場人物たちは、時に間違えたり、自分がただのガキであることにと気づいたりして、一歩一歩前進していきます。

日本橋ヨヲコ節が炸裂している「刺さる名言」の一部をご紹介します。

「何かをやろうとしている人間には目に見えない引力があって迷ってる人間はそれに引っぱられるんだと思う」(『プラスチック解体高校』より引用)

「あたし学校嫌いでさ すっごい冷めてたし何でもあきらめてたの――でも本当はずっとこんなはずじゃない自分がいるはずだって思ってたよ」(『プラスチック解体高校』より引用)

「慣れあって足を引っぱるよりは――強くなった彼を見送るほうがずっといい」(『プラスチック解体高校』より引用)

これらの名言から、日本橋ヨヲコはありきたりな手垢のついた言葉で濁さずに、人と人、自分と相手に、真摯に向き合おうとしていることが伝わってくるでしょう。そのために言葉を選んで、最適な言葉を紡ぎ出そうと、心の奥底にある思いを絞り出しているのです。

熱いセリフに酔う!『G戦場ヘヴンズドア』の青春群像劇

ベテラン漫画家・坂井大蔵(さかい・だいぞう)の息子・堺田町蔵(さかいだ・まちぞう)は、父親への反発から漫画を嫌悪しつつも、密かに小説を書き続けていました。町蔵は、父親の存在を隠したまま、同級生で漫画を描く才能のある長谷川鉄男(はせがわ・てつお)と一緒に作品制作をすることになります。
著者
日本橋 ヨヲコ
出版日
2016-08-12
『G戦場ヘブンズドア』は、漫画を題材にした青春スポ根ものに分類される作品です。町蔵や鉄男の他にも、鉄男の幼馴染である久美子、町蔵の両親や鉄男の両親、父・大蔵の秘書の裕美子や担当編集者の山田まで、キャラクターの深堀りが前作より際立っています。

また、エキセントリックさは、主に久美子ひとりに集約されていて、そのため、久美子の輪郭が鮮明になり、目立つ存在になっています。といっても、久美子の尋常ならざる言動の根源にあるのは、鉄男への愛情と執着であり、一途さゆえ。そして、他の登場人物は、親しみやすい現実味の強い個性になっています。

父・大蔵と町蔵の関係性が、鉄男とその父親の関係性とリンクすることで、物語は加速度的な展開を見せていくのです。そこには学園ものの名残をとどめてはいるものの、青春スポ根ものの漫画勝負へと突入していき、まるで互いの魂に魅入られたもの同士のように、町蔵と鉄男は漫画をかくことに没頭していきます。

「もしお前がもう一度俺を震えさせてくれるのなら この世界でいっしょに汚れてやるよ」(『G戦場ヘヴンズドア』より引用)

熱量では、前作までを圧倒的に凌ぐ『G戦場ヘヴンズドア』は、読者の感情を揺さぶります。ストーリーも断トツにドラマチックな要素を盛り込んであり、鉄男の母親の死を経て、怒涛の展開を見せるのです。

町蔵も鉄男も、自分には何もないと嘆いては何かを取り戻し、まるで青春そのもののように、獲得と喪失を繰り返し、劇中でも何人もの登場人物が口にするように、「漫画によって勇気や力を得ることができる」物語になっていきます。

特に濃縮されたように中身が詰まっているので、全3巻とは思えないほどです。名ゼリフもまた、てんこもりなので、日本橋ヨヲコのセリフに耽溺してください。

「堺田君、本当にオレになりたい?しんどいよ?」(『G戦場ヘヴンズドア』より引用)口数が極端に少ない鉄男が漏らした本音です。でも、現実世界でも、誰かを羨んでも多分、誰もが鉄男と同じように「しんどいよ?」と漏らしたいのかもしれません。

町田都、三成、ナオミら『プラスチック解体高校』メンバーが登場。『少女ファイト』へと続くことになる雑誌「週刊少年ファイト」の存在も伏線になっています。

少女たちも熱い!悪役を演じることを恐れない『少女ファイト』

幼いときに天才的なバレー選手だった姉・真理(まり)を事故で亡くした大石練(おおいし・ねり)。小学校のときにバレーボール仲間から、彼女のプレーが恐れられていたことを知った練は、牙も爪も隠して平穏な中学時代を補欠として過ごします。

ある事件から中学の半年間を休学した練は、姉の母校で、幼なじみの式島兄弟と同じ黒曜谷高校に入学して、春高大会での優勝を目指す道と新しい仲間たちとの関係が始まります。
著者
日本橋 ヨヲコ
出版日
2006-07-21
何かに夢中になったことがある人にしかわからない「眼中になくなる」状態。小学校のときに大石練が「狂犬」とあだ名をつけられたのは、練がバレーに夢中になりすぎて周りが見えなくなるからでした。

バレーで勝つことに没頭するあまりに、キツイ言葉もチームのメンバーに投げつける。猛特訓も苦にならない。それは、姉の真理の死を忘れるためでもあったのですが、子どもだった小学生のチームメートには伝わるはずもありません。

本来、何かに夢中になることは素晴らしいことですよね。しかし、練はバレーへの熱中が原因で仲間だと思っていた友だちに嫌われ、さらに嫌われることを恐れてしまい、バレーから離れていきます。

その不自然な矯正は、黒曜谷に入ることでほぐれ、ほどけていくのです。そこからが、『少女ファイト』の核心へと近づく物語になります。

キャラクターは少女たちが主人公なだけに、前作までよりもややマイルドで、現実味もあるでしょう。そして、必ずしも悪くないはずなのに悪役を演じるという優しさが、説得力十分に描かれます。対戦チームのメンバーの物語も丁寧に描かれていくので、読み応えは十分です。

また、『G戦場ヘブンズドア』からルミコの成長した姿と町蔵とその後の作品を見つけることができます。ルミコはメインメンバーなので、目が離せない登場人物の一人です。

まるで、オムニバスストーリーをつなげて構成したように、黒曜谷高校のメンバーそれぞれが、各々の背景や劣等感、問題を抱えていて、一人ずつ紹介されるように物語が綴られていきます。

「生きている意味が全て噛み合うその瞬間を味わいたいのなら丁寧に生きろ この花のようにな」といった、女子目線の熱いセリフも山盛りです。

日本橋ヨヲコの初期衝動を抱えた短編集『バシズム』

日本橋ヨヲコの初期作品を集めた短編集です。デビュー作「ノイズ・キャンセラー」に加え、書き下ろし作品「CORE[コア]」を含めた、全9作の短編が収録されています。

日本橋ヨヲコのデビュー作「ノイズ・キャンセラー」は、純愛ラブストーリー。この作品で、すでに言ってほしい言葉を言ってくれる喜び、うれしさを描いていて、ファン必見の初期作品です。
著者
日本橋 ヨヲコ
出版日
2016-10-21
「花」は、腐土病という治療法のない奇病に冒され、死を待つだけの日々を送る高校生・鈴木と保健医・時田の純愛を描いた短編です。包帯だらけのからだをした生徒に、『極東学園天国』の間宮を連想する読者も多いのではないでしょうか。

強気の少女・五反田と生徒会長に推されるカオルを主役とした短編、「バング スタイル ア ゴー ゴー」。続編2本も『バシズム』に同時収録されている(「インセクトソウル」「ギアボイス」)ので、3本まとめて読むのがおすすめです。

カオルの「学校を利用して楽しんじゃえばこっちのもん」というセリフが、『極東学園天国』の城戸先輩を彷彿とさせます。

続編の「インセクトソウル」では、五反田とカオルの過去にまつわる秘話が明かされます。この辺りまでくると、日本橋ヨヲコ特有の過激な言動が表現されてきて、のちの作品に続く激しさが見られるでしょう。

続編3作目で、サイドストーリーとなる「ギアボイス」は、有島と与謝野先生を中心に描かれるラブストーリー。志賀の「オレは本気を見たいんだよ」は、のちの作品にもつながる名ゼリフで、キャラクターが自然に口にしたセリフが物語のテーマに結びついて開花する展開は見ごたえがあります。

「CORE[コア]」は、『バシズム』書き下ろし作品なので、本作でのみ読むことができる短編です。この作品だけ、線描写が劇中劇のように独特で(筆ペンのようなタッチです)、人物と人物の対比や思考が入れ替わる感覚がおもしろく読めます。最後のナレーションが作者からのメッセージでしょう。

ちょっとしたSF要素を盛り込んだ短編「Id[イド]」では、突然現れたスキンヘッドの男Id(イド)が高校生3人との出会いを描いています。ひねくれているIdと真っすぐな3人の対比、そして、謎の女・エスが女子高生へ放つ小気味のいいセリフも痛快。当時、日本橋ヨヲコがすでに獲得していた、セリフのパワーを感じさせる手法は、さすがの一言です。

のちの『少女ファイト』の練と隆子を思わせる、繭と蝶子、ふたりのハイジャンパーの物語が描かれている「ハイジャンパーズ・ハイ」。ドライでクールなのに、熱を感じさせるキャラクターで、描線も現在のかたちに近づいています。繭の豹変ぶりも見ものなので、ぜひ、見てみてください。

どの短編も日本橋ヨヲコの初期衝動を感じさせる作品ばかりです。

熱くたぎる青春の青臭さと、心に刺さる言葉が響く作品群。どの世界でもキャラクターの息づかいが聞こえてきそうな現実感を漂わせる日本橋ヨヲコの作品の魅力は、はまったら他では味わえない言葉の魔力です。