少しずつ親の手を離れ、自分の世界を広げていくこの時期。知りたいことも挑戦したいこともたくさんあって、子どもの頭の中は好奇心で溢れています。今回は、そんな気持ちに寄り添って共感してくれる絵本をご紹介します。きっとお気に入りの1冊になりますよ。
少年のワクワクした気持ち、何度失敗しても諦めない気持ち、そして自分の力でやり遂げた達成感が美しい夏の風景と共に描かれた1冊です。
主人公は1人の少年。夏の暑い日に一人でどこかへと向かって走ります。「ぜったいにつかまえる」という強い思いを持って、全速力で走る少年。海を通り過ぎ野原を駆け抜け、牛小屋の前を通り。辛い階段を上り岩を飛び越えてたどり着いた目的の場所。何度も木に登って少年が捕まえようとしたものとは……。
- 著者
- はた こうしろう
- 出版日
少年の息遣いやカエルの鳴き声、牛の匂いや水の音まで聞こえて来るような臨場感に溢れた作品です。
1つの目標に向かって全速力で駆け抜け、何度落ちても木に登り続ける強い思いが伝わって来て、子どもの頃の夢中な気持ちを思い出します。子どもが読めばなおのこと、物語に入り込み主人公と自分を重ね合わせて楽しめることでしょう。そして、やり遂げた時の少年の達成感に溢れた表情、何とも言えずに見入ってしまいます。
最近では、こんな夏の過ごし方ができる場所も減ってしまいましたが、ぜひ子ども達には夏の匂いまで感じる経験をさせてあげたいですね。
温かな言葉と繊細な鉛筆画が物語の柔らかな雰囲気を作り出し、眠る前に読むのにおすすめです。
主人公の男の子は夜寝る前のひと時、お母さんに尋ねます。昼が終わってしまう理由を。するとお母さんは答えます。夜が始められるようにと。そして細い月を2人でながめるのです。昼が終わると夜が始まる。風が止んだらまたどこかで風が吹き始め、波は海岸で砕けるとまた海に吸い込まれて新しい波になる。
何かが終わるということは、また新しい何かが始まるということ。男の子の疑問に優しく丁寧に答えるお母さんの穏やかで温かな様子は、私たちに子どもとの対話の大切さを教えてくれます。
- 著者
- シャーロット・ゾロトウ
- 出版日
子ども達の頭の中は知りたいことや疑問に思うことでいっぱいですよね。「なんで?」「どうして?」と言う思いが子どもの興味を広げ知識を深めてくれます。できるだけ真剣に分かりやすく疑問に答えてあげたいけれど、返答に困ることもあるのではないでしょうか?
そんな時に、この作品は子どもの好奇心を満たしてくれるだけではなく、私たち親にも答え方を教えてくれます。決して子ども扱いをして答えるわけではないけれど、子どもにも分かりやすいく、そして前向きな返答をしてあげること。子どもはその返答の様子を思い浮かべ想像する力も身に着けていくのでしょうね。
子どもの声に耳を傾けながら、ゆっくりと読んであげたいですね。
鮮やかな表紙が目を惹く作品ですが、ページをめくると灰色と白黒の世界。それもそのはず、初めは色のない世界から始まる物語なのです。
その世界を変えようとしたのが一人の魔法使い。彼が薬を調合したり呪文を唱えたりして、色々な物を混ぜ合わせていくと初めて色ができました。青色、黄色、赤色と鮮やかな色ができて色鮮やかな素敵な世界になると思いきや、その時々によって、全てを一色の色に塗ってしまうので困ったことになってしまったようですよ。
青色の時は憂鬱に、黄色の時は目がチカチカして頭が痛くなり、赤色の時は皆怒りっぽくなり……。悩める魔法使いは、色と色を混ぜ合わせてたくさんの色を作ってみることに。さて、美しい世界は出来上がるのでしょうか?
- 著者
- アーノルド・ローベル
- 出版日
- 1975-03-20
色のない世界から一つの色のみを使った世界に。そして色鮮やかな世界へと移り変わっていく様子が新鮮な、色の面白さを実感できる絵本です。
青色は憂鬱に赤色は怒りっぽくと人の心理を描いている場面も登場するので、子どもと一緒にその理由について調べてみるとより知識が深まりますよ。魔法使いが色と色とを混ぜ合わせて、新しい色を作る場面では自然と色のでき方について学ぶことができるので、実際に絵本を見ながら絵の具を混ぜ合わせて作ってみるのも楽しいですね。
色のない世界や単色の世界のページを見ているからこそ、たくさんの色に溢れた世界の美しさをより感じることができることでしょう。
イギリスの画家であり絵本作家でもあるウィリアム・ニコルソンが娘の為に描いた絵本です。手書きの文字や優しい絵を見ていると温かな気持ちになります。
題名になっている『かしこいビル』はおもちゃの兵隊です。ある日、ビルの持ち主である女の子メリーの元におばさんから、お家へ招待してくれるという手紙が届きました。早速返事を書いて準備を始めるメリー。
馬のおもちゃにお人形、手袋に靴にティーポットまで、持って行くものが山盛りです。もちろんお気に入りのかしこいビルも。しかし、物が多すぎてなかなか鞄に入りません。とにかく詰め込んで蓋を閉めましたが、なんとビルを入れ忘れてしまいました。でもビルは諦めません。走って走って、全速力で走ります。
かしこいビルはメリーに追いつくことができるのでしょうか?
- 著者
- ウィリアム・ニコルソン
- 出版日
作者が娘のために書いたという絵本は、描かれてから約90年経った今でも世界中の人に愛され続けています。登場するおもちゃの数々は、実際に娘が使っていたおもちゃを描いているというこだわりも娘への愛情を感じますね。
子どもの頃に大切にしているおもちゃは、ただ遊ぶ物というだけではなく、大切な友達や家族のような思いを持つことも多いですよね。
この絵本に登場するメリーにとって大切なおもちゃのビル。でもその思いはメリーだけではなく、ビルも同じだったようです。置いて行かれてしまったビルが泣き出してしまう場面や一生懸命にメリーのもとまで走る場面は、メリーへの親愛に溢れ、強い絆を感じます。
きっと子ども達も、自分の大切なおもちゃに置き換えながら、想像力いっぱいに楽しめるはずですよ。
『かいじゅうたちのいるところ』で、日本の子ども達からも人気の作家モーリス・センダックが描く、不思議でユーモアたっぷりの作品です。
主人公はミッキーという男の子。ある夜中あんまり騒がしい音がするので、うるさいと叫んでみたら、暗闇に落ちて裸になってやってきたのは台所。働いているのはパン屋さん。ミッキーをミルクと間違えて粉と混ぜてオーブンへ。大変、焼けちゃうと思ったらミッキーがオーブンを飛び出して、パンで作った飛行機に乗って夜空に向かって飛び立ったのです。すると、パン屋さんが「ミルク!」と言いながらやってきました。それを聞いたミッキーは、ミルクのコップを受け取って舞い上がりますが……。
さてどうやってミルクを取ってくるのでしょうか?
- 著者
- モーリス・センダック
- 出版日
- 1982-09-20
ミッキーが飛行機が飛び立つ夜空の下にはビルが立ち並びと思いきや、全部が台所に置かれている物たちです。ケーキの箱に、ジュースのビン、走る電車はパンでできているし、薬の入れ物まで並んでいます。どれも日本語でラベルが描かれていて見ているだけでもワクワクすること間違いなしです。
そして、暗闇に裸で放り出されたりパンと一緒に焼かれそうになるなど、怖い思いをしているにも関わらず、どこか飄々としているミッキーの様子が本当に楽しそうで、一緒に冒険に行きたくなってしまいます。
子どもの想像力を掻き立てる魅力に溢れた作品です。
『シロナガスクジラより大きい物っているの?』は、動物や数を題材にした子どものための科学絵本を多く手掛ける、アメリカ人作家ロバート・E・ウェルズが描く、子どもの興味を広げてくれる絵本です。
世界で1番大きいと言われているシロナガスクジラ。この動物より大きい物とはなんでしょう?比較するのは動物だけではありません。エベレストに地球、そして太陽まで。比べ方も、ただ比べるのではありません。地球を何個も袋に入れて太陽と比べてみたり、太陽を木箱に入れたり。どんどん比べた先にある一番大きな物とは……。
- 著者
- R.E. ウェルズ
- 出版日
大きさ比べを通して子どもが世界、そして宇宙のあらゆるものに興味を持つ第一歩となる科学の入門絵本です。学びの中にもユーモア満載で、面白く読める作品ですので親子で楽しみながら読むことができます。
5歳というと保育園、幼稚園の年中クラスから年長クラスの年齢ですね。小学校に入る前のこの時期に、絵本を通して自然と科学に触れる良い機会となることでしょう。
『木はいいなあ』は、木との生活の素晴らしさを子ども達に伝えたいという思いから、アメリカ人作家・ユードリイが描いた絵本です。
「木がたくさんあるのはいいなあ」「たった1本でも、木があるのはいいなあ」に続く、木が素晴らしい理由。木は森となり、森はいきいきとしています。木が作り出してくれる落ち葉で遊ぶことができるし、枝に座って考えることもできるのです。他にも木が与えてくれるたくさんの素敵なことが、生き生きとそして人々の楽しそうな様子を通して描かれています。
木と共に生きて行くということは……。身近な存在である、木について考えるきっかけとなる絵本です。
- 著者
- ジャニス=メイ=ユードリイ
- 出版日
木に登ったり、枝にブランコを作ったりして遊んだことがある子どもがどれだけいるでしょうか。なかなか都会の生活の中では難しいですよね。木をなかなか身近に感じることができない子ども達に、木はこんなに素敵で楽しくて、皆を守ってくれるものなんだよと優しく伝えてくれます。
自然を大切に、と言葉で伝えるよりも子ども達の心に響くことでしょう。この自然を守るためにできることは、一本の木を植えることから。大人へのメッセージとも感じられる、親子でじっくりと読みたい1冊です。
『とべバッタ』は、自然界の厳しさを勇気をもって変えようとするバッタが主役の物語です。この絵本の作者は田島征三。力強い筆遣いの作品は国内外で評価されています。
厳しい自然の中で、敵に怯えて暮らすバッタが主人公です。ある日、こんな風に怯えながら生きるのは嫌だと自らの運命を変える決意をします。全ての力を振り絞り、天敵のヘビ、カマキリ、蜘蛛や鳥さえも打ち負かして、高く高く飛び上がったのです。最後の試練に打ち勝つためにバッタがとった行動とは……。
- 著者
- 田島 征三
- 出版日
- 1988-07-01
自分を取り巻く環境や運命を変えようと奮闘するバッタ。その姿は5歳の子ども達にも通じることでしょう。
親の手を離れ小学校、中学校と社会に出る中で、自分の思うように行動できなかったり、その環境を変えようを思っていてもなかなか勇気が持てずに諦めてしまったり……。そんな時にこの小さなバッタの姿を思い出して一歩踏み出すことができる勇気を持ってもらいたいですね。
最後のバッタの幸せな様子は、勇気を出すことで環境は変えることができるという希望に繋がるはずです。
『さっちゃんのまほうのて』は、子どもに人気の絵本『おしいれのぼうけん』などを描いた田畑精一が先天性四肢障害児父母の会に所属する野辺明子、志沢小夜子と共同制作した絵本です。
幼稚園に通うさっちゃんは、おままごとが大好き。今日こそはお母さん役をやるんだと張り切って手を挙げます。しかし友達が言った言葉は、「てのないおかあさんなんてへんだもん」。その言葉にさっちゃんは幼稚園を飛び出してしまうのです。
生まれつき右手の指がないさっちゃん。「さちこのては、どうしてみんなとちがうの」と泣きながら訴えるさっちゃんに、お母さんは静かに指についての話をします。しかし次の日からさっちゃんは幼稚園を休んでしまうのです。
そんなさっちゃんに自分の手を受け入れる気持ちをくれた、お父さんの言葉とは……。
- 著者
- たばた せいいち
- 出版日
- 1985-10-01
娘の障害と向き合い、懸命に育ててきた野辺明子と、自分の障害について娘に上手に伝えたいと悩んでいた志沢小夜子とが田畑精一の力を借りて描いたこの作品は、多くの読者の心を打ち、子ども達が障害について考えるきっかけをくれる絵本となりました。
「さっちゃんは全国に沢山いるのです。」と語る野辺明子。「障害児」という特別な子どもではなく、ひとりひとりが可愛らしく、魅力いっぱいの子ども達。まずは私たち大人がそのことについてもう一度再認識したいですね。
そして、この絵本はこれからたくさんの人と出会う子ども達にとって、みんな違ってみんな良いということ考えるきっかけとなることでしょう。
『のはらひめ』は、女の子の憧れをぎゅっと詰め込んでユーモラスに描いた、なかがわちひろのデビュー作です。
物語の主人公は、お姫様に憧れる女の子・まり。そんなまりの元にお城から馬車がお迎えに来ます。馬車が向かった丘の上のお城は、「おひめさま城」。このお城は世界中のお姫様を育てる場所です。
綺麗なドレスを着て冠をかぶって、これで晴れてお姫様!とはいきません。笑い方から食事の仕方、ついには竜との戦い方の稽古まで……。まりはお姫様になれるのでしょうか。
- 著者
- 中川 千尋
- 出版日
綺麗なドレスに立派なお城、そして素敵な王子様……。女の子なら一度はお姫様に憧れる時期があるのではないでしょうか。そんな女の子の気持ちを美しい絵で描いた女の子がはまること間違いなしの絵本です。
ただ、美しいだけでは終わらないのがこの絵本。お姫様になるためには覚えなくてはいけないことやお稽古がたくさんあるのです。夢を叶えるための努力がユーモラスに描かれている場面もこの絵本の魅力になっています。
お姫様に憧れる、全ての女の子におすすめの1冊です。
好奇心と想像力に溢れた子ども達。その思いは大人が思っているよりも強く、興味を持ったことをとことん突き詰めたり、少し難しそうに思える事にも挑戦したりするパワーを秘めているのです。その思いを尊重しながら、更に世界を広げてあげることにも絵本は重要な意味を持ちます。自分の知らない楽しさや想像の世界を絵本を通して体感することで、子どもの世界はどんどん広がって行くのでしょうね。
5歳くらいになると自分の好きな絵本もはっきりしてきますので、親子で一緒にお気に入りの1冊を選んでみてくださいね。きっと一生の宝物になりますよ。