北川歩実のおすすめ本5選!覆面作家のサスペンスを堪能しよう

更新:2021.12.20

全てが謎に包まれたミステリー作家、北川歩実。作品も幾多の謎で包まれており、本気で読んだ者にしか答えを与えない重厚なミステリー・サスペンスが繰り広げられます。新感覚ミステリーと評された北川の作品の中から、選りすぐりの5冊を紹介しましょう。

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北川歩実とは

北川歩実(きたがわあゆみ)は日本の推理作家。覆面作家であり、プロフィールは性別を含めて何一つ明かされていません。

1995年、日本推理サスペンス大賞に応募した『僕を殺した女』でデビュー。2009年、『金のゆりかご』が16万部突破という大ヒットを記録しました。その後も数々のミステリ小説を手掛け、近年は短編を多く執筆しています。

サスペンスミステリーを基軸にした複雑なシナリオが多く、読者を驚かせるラストが待っている作風が特徴的です。また、医学や科学などの知識が豊富なトリックが見どころで、作者は医学の専門家なのでは……と想像させます。

北川歩実のデビュー作『僕を殺した女』

北川歩実のデビュー作にして、多くのミステリーファンに衝撃を与えた一作。

主人公の篠井有一はごく普通の大学生“でした”。ある朝目覚めると性別が男から女になり、記憶よりも5年先の世界にいる状態になっています。記憶喪失状態で混乱に陥る篠井は、自身の持っていた謎の女性名義のキャッシュカードや殺人事件などの点をたどり、衝撃の真実へと導かれることに……。

記憶喪失かつ性転換、おまけに時間軸がずれているという極めてSFチックな設定で物語は展開していきます。あまりに複雑な設定から、混乱の極みに立たされる読者も少なくありません。
 

著者
北川 歩実
出版日
1998-06-30

この作品の評価すべき点は、ここまでSFのような設定を繰り広げ、あらゆる回収できないような伏線をちりばめながら、全てをラストで解決することです。まさかそんな終幕があるとは……と息をのみ、読後はしばらく動けなくなるかもしれません。

ちなみに、白紙とペンを本とともに準備して読書することをおすすめします。時間軸や人物背景をメモし、北川歩実の幾重にも絡み合うトリックに挑戦してみてください。

もしもそのパズルを解くことができならば、あなたはきっと北川ワールドのとりこになるでしょう。
 

記憶喪失ミステリーの真骨頂『模造人格』

デビュー作で一躍脚光を浴びたのち発表された『模造人格』は、記憶喪失になった主人公を軸に謎が謎を呼ぶ展開になっています。

木野杏奈は5年前から記憶がありません。何もわからぬまま母とホテルで2人暮らしていましたが、ある日母が姿を消します。母からの手紙によって集まったという見知らぬ男女は、「木野杏奈は4年前に死んだ」と杏奈に伝え、存在自体を否定します。どうやら木野杏奈であるという記憶は母に刷り込まれた偽りのプロフィールのようだですが、では自分は誰なのか……?

著者
北川 歩実
出版日

「私が一体誰なのか」というアイデンティティそのものが崩壊した疑問は、作品の複雑さとともに読者に不安定な感情を引き起こします。前作同様のミルフィーユのように重なるエピソードが用意され、読者はついていくのが精いっぱいというような上級者向けの一冊です。

ポイントは主人公の前に現れる5人の男女。彼らの言動や行動は、どこかつじつまが合わず、違和感ばかり。この違和感に対して「何が原因なのか」と解明していくことが、本作の妙味です。

ラストまで一気に読ませるスピード感と没入感の強い作品なので、集中して時間のとれる時におすすめしたい作品ですね。
 

天才によって紐解かれる超絶技巧ミステリー『金のゆりかご』

本作は、天才児と周囲の大人が主軸になるミステリーで、北川歩実の代表作とも言われています。表題の“金のゆりかご”とは、早期幼児教育に使われる器具の名前で、天才脳を生み出すための機械です。

タクシー運転手の野上雄貴は、かつて金のゆりかごで育てられ、天才的な少年ともてはやされた過去を持ちます。能力の限界により見捨てられた彼が、金のゆりかごとそれを有する教育センターの真意を探るうち、そこで育った子供たちに関わる事件が浮かび上がっていきます。

悪は彼らをつくり上げた大人たちなのか?それとも純真無垢な子供たちなのか……?

著者
北川 歩実
出版日

カギを握る存在は頭脳が明晰で精神面だけ幼稚な子供という所が面白く、謎を解く過程での大人たちとのコミュニケーションが見どころです。設定も魅力的で、教育センターにおける子供たちへの扱いに対する問題や、天才の定義など考えさせられるポイントは多々あります。

北川歩実らしいラストへの疾走感とどんでん返しも用意されています。結末は最後の1ページまで予想できず、読み終わると「またやられた…」とため息が出るでしょう。

大人を小馬鹿にし、真相にやすやすと手が届いてしまう天才児の姿は、北川歩実本人なのではないでしょうか。読者として挑戦状をたたきつけられているような気分になりながら、それでも読むのをやめられません。

そんな手のひらで転がされているような感覚を楽しめる方は、ぜひ北川歩実のミステリーを芯から感じられる本作を読んでみてください。

ミステリーとサスペンスの味を凝縮した短編集『虚ろな感覚』

北川歩実のミステリーはとにかく伏線が多く複雑に絡み合うことが特徴なので、なかなか短編では描き切れません。しかし、本作はそれを実現しようと試みた珠玉の短編が集まっています。

短編ですが内容は詰め込んでいるので、スピード感は圧倒的。どんでん返しを必ず作るのですが、文字数が少ないので、あっという間に落ちる感覚に置いていかれそうになることもしばしば。北川が他作品で描く謎とはまた違うものとして楽しめます。
 

著者
北川 歩実
出版日
2009-11-27

心理戦に焦点をあてた「幻の男」、健忘症をテーマにした「告白シミュレーション」、ミステリー構築の定番を楽しませる「風の誘い」。どれも意図的に使うテクニックを変えながらも、読者が期待する北川歩実らしいラストのめまいは共通で残してくれています。後を引く嫌なモヤモヤ感が垂れこめているので、感受性の強い方だとトラウマになるかも……。

真相がわかっても考え込む、触れられたくない内面をちくちく刺してくるような表現がある、など北川歩実の作品は独自の刺激があります。最近はどの本を読んでも楽しめない、と悩んでいる方はこの刺激が気持ちよいかもしれません。

北川歩実らしさを手軽に楽しめる短編集『もう一人の私』

北川の作品には記憶喪失になった自分自身を求める、過去の自分と今の自分の乖離に迫るなど「私」というものが多く登場します。『もう一人の私』はまさに自分自身の中にある二面性をテーマにした作品が集められた短編集で、北川らしさを堪能できる一冊です。

長編作品の複雑さやミステリー構築は本作ではあまり登場しません。あくまで内面にある恐怖や不安をテーマにしており、少しつまむ程度のミステリー要素を楽しむことはできます。読後に背筋が凍る感覚は、どちらかというとホラーに近いですね。
 

著者
北川 歩実
出版日

おすすめは「婚約者」。女性を誇張した女性が登場し、人間の不条理な感情の動きをち密に描いています。また、北川歩実のミステリーはどんでん返しがなくちゃ、という方は「替玉」を読むと北川ワールドに引き込まれることでしょう。

他の北川作品と違い、手軽に楽しめるところが本作の良いところ。通勤時間やちょっとした休憩にさらりと読めるので、北川歩実初心者の方はここから入るとハードルが低くて良いと思います。

重厚なミステリーは敷居が高い、とためらう方は、まずはこの一冊から入りましょう。

いかがでしたでしょうか。

北川歩実の作品は、「私自身が謎だけれどね」と微笑みながら北川から届けられる挑戦状のような作品ばかりです。ミステリーが好きな方であればあるほど、その謎の奥深さに首をひねりながらも読まずにはいられない魅力があります。

新感覚ミステリーと呼ばれ、書評家からは賛否両論の作品を残した北川歩実。読書の上級者は複雑怪奇な読むパズルに、挑戦してみてください。

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