1996年、小林賢太郎と片桐仁は多摩美術大学で出逢い、コントグループ「ラーメンズ」は産声をあげました。舞台を中心に活動している彼らですが、よく「お笑いではなく演劇」「非日常の中の日常を描いている」と評されています。実際に彼らの作品を観ると、確かに「笑い」の要素だけではなく何が日常で何が非日常なのかといった境界線がぼやけ、我々の立つ土台がぐらりと揺らぐ感覚に陥ります。今年で結成20周年を迎える二人について、知らなかった人はこれから、知っている人はいま一度、活字を通して彼らについて知ってみましょう。
- 著者
- 小林 賢太郎
- 出版日
いわゆる英文字三部作にあたる第5・6・7回公演の戯曲集です。彼らの初期の作風(ちょっとしたブラックユーモアや時事ネタなどが初期作品には散見されます)に触れることができます。もちろん、実際に観に行ったり映像で観たりするほうがより面白さがダイレクトに伝わってきますが、彼らのちょっとした言葉遊びやアドリブ(「あの部分ってこう言っていたんだ!」「あれ、あのセリフ戯曲にはないぞ?」など)は活字ならではの発見があったりします。また、次の項目で詳しく書きますが、公演を重ねるごとにセリフに無駄な要素がまるでない、とても洗練されたものになっていくことがよくわかります。『小林賢太郎戯曲集』シリーズで「椿・鯨・雀」(第8・9・10回公演)「CHERRY BLOSSOM FRONT345・ATOM・CLASSIC」(第11・12・13回公演)「STUDY ALICE TEXT」(第14・15・16回公演)も出版されているので、そちらもぜひ。
ちなみにこの戯曲集に収められている作品で個人的に好きなのは、「無用途人間」(home)、「ドーデスという男」(FLAT)、「雪男」(news)です。必ずと言ってよいほど、一つの作品に一つはお気に入りのフレーズが登場します。ぜひお気に入りのフレーズを見つけてみてください。
- 著者
- ラーメンズ
- 出版日
舞台上のパフォーマーとしての彼らだけではなく、「小林賢太郎」と「片桐仁」の思考、そして彼らの周辺にいるさまざまな職種の人々からみた「ラーメンズとは?」を知ることができます。
例えば、宮藤官九郎と小林賢太郎との対談で、ラーメンズが下ネタをやらない理由としてディズニーランドみたいになりたいと返答しています。なぜならば、「あそこまで嘘を徹底できたら、その世界として成立する」(69ページ)からだそうです。この「嘘」というのが頻繁に登場し、小林氏の個別インタビューのなかでも、「物語に嘘や秘密が入ると、すごく潤うと思うんです。」(135ページ)と発言しています。徹底された嘘と「あり得ないがあり得ちゃう」世界の構築、それが彼らの魅力なのだと思います。
また、特に面白いと思ったのは、ラッパー(KREVA)やDJ(Fantastic Plastic Machine田中知之)がセリフの韻やリズムの取り方に言及していることです。セリフを音として捉えて作品を観直してみると、とても洗練された言葉の選択をしていることに気付かされます。このように、自分だけの「ラーメンズ」以外に触れることでさらなる魅力が再発見できる一冊です。
- 著者
- ラーメンズ
- 出版日
- 2002-08-01
「ラーメンズ」名義で出版されている本は限りなく少なく、こちらは『Quick Japan』で連載されていたものを単行本化したものです。前半が「つくるひと」小林賢太郎がさまざまな人(バクシーシ山下、菊池成孔、小島淳二etc.)との対談、後半が「演じるひと」片桐仁がさまざまなものを体験(テディベア作り、サッカー審判員、セルフポートレートetc.)というラインアップとなっております。「お笑い」ではないフィールドの人々との関わり、経験がどのように「(二人が想定する)笑い」に結びついていくのか、そのプロセスを見ることができるのではないでしょうか。
理論派である小林賢太郎と感覚・実践派である片桐仁。真逆の思考・嗜好を持っている二人が一緒に「笑い」を作っている理由がより一層わかる一冊です。舞台上以外の彼らを知りたい方は必読書です、きっと。
ちなみにこの本の帯に「ラーメンズの素」と書かれているのですが、この「素」は「もと」とも「す」とも読めるんですよね。ラーメンズを形成する「もと」が書かれているものでもあり、ラーメンズの「す」が現れているものでもあります。こういった言葉遊びがまたニクいですね。
いかがでしたか?
よく小林賢太郎はラーメンズの頭脳派、片桐仁は怪優(御神体)と言われていますが、「片桐仁の取扱説明書は、僕しか持ってないと思います」(小林)、「あれだけ努力してる人、ほかにいないんじゃないかっていうくらい、書く事に貪欲ですからね」(片桐)という具合に、お互いがお互いを褒め、尊敬しあっています。それは時折舞台上での「アドリブ」(小林氏は「アレも全て計算」と言っています)に垣間見えます。演者がお互い足りない部分をお互いで補い合う相互補完的な関係性は、観客が実際に作品を観ることと言説に触れる関係性と似ています。補完し合うことでさらなる魅力に導かれる、今回紹介した本を通してそれが少しでもできたら幸いです。
そして、届くことはないかもしれませんが、ラーメンズの小林賢太郎さん、片桐仁さん、20周年おめでとうございます!これからも二人の「嘘」を楽しみにしております!