飴村行のおすすめ本5選!エログロ小説「粘膜」シリーズも紹介

更新:2021.12.21

読者に衝撃を与えた「粘膜」シリーズをはじめ、エログロバイオレンスな作品で一躍人気作家となった飴村行。ホラーでありながら、実は意外とコメディタッチ、また作品だけでなくその驚きの人物像にも注目です。

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エログロバイオレンス小説の鬼才、飴村行

飴村行は、1969年1月21日に福島県で生まれました。中学高校時代は、友達がおらず孤独な学生生活を送っていたそうです。特に高校時代は男子校だったこともあり、3年間女子と話す機会もなかったとか。卒業後は東京歯科大学に入学しますが、自分は歯科医にはなれないと感じ中退。それからは漫画家を目指したり、独学で脚本の執筆をしたりしていましたが、どれも達成するところまでは行きませんでした。

そんな飴村に大きな転機が訪れたのは2008年でした。日本ホラー小説大賞において『粘膜人間』でついに「長編賞」を受賞し、作家デビューを果たしたのです。さらに次作の『煙幕蜥蜴』も各所で高い評価を受け、2010年に日本推理作家協会賞を受賞。一躍エンタメ小説界の注目作家となりました。

作風は基本的に暴力描写が多くグロテスクですが、ホラーとしての幻想的な部分とバイオレンス要素が絶妙なバランスで配合された作品が多く見られます。飴村行は「リア充じゃないから小説家になれた」と語っていますが、そのネガティブ要素もホラー作品に上手く活かされているのかもしれません。また、学生時代には西村寿行作品を読んだり、ホラー映画を見たりして妄想の世界にどっぷり浸かっていたそうで、そのことも作家としての原点になっているのではないでしょうか。

飴村行が描くエログロ小説の代表作『粘膜人間』

父の再婚相手の連れ子・雷太は、11歳にして身長195cm・体重105kgのありえない巨体の持ち主。ある日を境に突如として横暴になり、ついには父親を殴って怪我をさせてしまいます。

そんな雷太に憎しみを募らせる兄弟、利一と祐二は雷太を殺そうと決意しますが、残忍かつ凶暴な雷太の前ではなす術がありません。そこで2人は、蛇腹沼に棲むという河童に頼んで雷太を殺害してもらおうとするのですが……。

著者
飴村 行
出版日

作品は主として3章構成で展開していきます。1章は、雷太殺害を計画した兄弟が、河童に依頼に行く物語、2章は、兄弟の依頼の代償として河童に捧げられた少女の視点、そして3章は、雷太と河童が出会う雷太視点のストーリーとなっています。

蛇腹沼に棲んでいるのは、河童のモモ太、ジッ太、ズッ太の3兄弟。利一と祐二はその中で長男のモモ太に雷太殺害を依頼しますが、モモ太はその見返りとして村の若い女性を差し出すことを要求してきます。それを聞いた祐二は、自分の同級生で周りから非国民として村八分にされている清美を勝手に差し出すことに。

信じられない巨体の小学生、それを殺害しようとする中学生の兄弟、ごく普通に人間と共存している河童などキャラクターひとつを取ってみても、多大な情報量が込められている本作。その誰もがどこかで酷い目に合うのだから、万人向けではなくどちらかというとマニア向けの小説として見られる傾向があります。

しかし、文章のテンポの良さと各シーンにおけるスピード感によってスラスラと読み進めることができるはず。痛覚をいろいろな角度から刺激されるスプラッターホラーです。

飴村行の「粘膜」シリーズ2作目『粘膜蜥蜴』

医者で大金持ちの父を持つ、月ノ森雪麻呂。彼に仕える従者の富蔵は「へルビノ」という蜥蜴(とかげ)の頭を持った爬虫人でした。

本作の舞台は戦時中と思しき日本。日本帝国陸軍は、東南アジアにあるナムールという国を植民地化していました。ナムールには地下資源があり、そこには爬虫人であるヘルビノが生息。日本人は彼らを国に連行し、労働力として従事させていたのです。

著者
飴村 行
出版日
2009-08-25

ある日、同級生の真樹夫と大吉が雪麻呂の自宅に招かれます。暴君で知られる雪麻呂により、地下にある死体安置所に連れていかれる2人。そこで残虐な運命に巻き込まれていくのですが……。

前作『粘膜人間』同様、3章構成になっている本作。1章は国民学校初等科に通う雪麻呂と、その同級生の堀川真樹夫が中心、2章は真樹夫の兄・美樹夫が戦地ナムールで体験したこと、3章はキャラクター総出演の終章という流れになっています。

『粘膜人間』を遥かに上回るスケールで展開する、グロテスクとユーモアの世界。「ヘルビノ」という人外の存在が当たり前のように登場し、その世界観を一層不可思議なものにしています。雪麻呂と従者の富蔵のコミカルなやりとりは可愛らしくもあり、読者を笑わせるポイントに。そしてラストでの見事などんでん返し。最後の1行を読んだ時、心に迫るものがあるかもしれません。

哀しみの双子と一人の女『粘膜兄弟』

須川磨太吉と矢太吉は双子の兄弟。自力で生計を立てながら、ある地方の町外れに暮らしています。2人は揃って、駅前のカフェー「タイガア」で女給として働いているゆず子のことが好きなのでした。彼女は美人で、言い寄られることも多く、2人も日頃から全く相手にされていませんでした。

しかしそんなある日、ゆず子の方から彼らと食事をしたいと申し出てきます。磨太吉と矢太吉は喜んでそれを受け入れますが、それが凄惨な運命の幕開けだったのです。

著者
飴村 行
出版日
2010-05-25

磨太吉と矢太吉は「フグリ豚」という豚を養殖し、その子どもを売って暮らしていました。フグリ豚は1年に24頭もの子どもを産む豚で、双子の家には「ヘモやん」という豚の世話係で、ちょっと変わった趣味の老人も同居しています。また弟の矢太吉は、異空間から突如現れる「黒助」という化け物に悩まされていました。それは定期的に矢太吉の前に現れ、彼に暴行を加えて去っていくのです。

これまでの「粘膜」シリーズとは異なり、双子の兄弟が一人の女性を巡って戦う恋愛バトルの要素が取り入れられています。もちろん、魔訶不思議な世界観と魅力は相変わらず健在。バトル要素が入ったことで、冒険小説としてのワクワク感も感じられるようになりました。双子を待っている数奇な運命、矢太吉を襲う「黒助」の正体、それらが解き明かされた時、衝撃のラストへと繋がります。笑いあり、涙ありのエンタメ冒険小説です。

絶望が繋ぐ2人の男『爛れた闇』

主人公は高校2年生の正矢です。彼が4歳の時に両親が離婚。母の美代子がたった一人で生活を支えてきましたが、40歳になった時、彼女は疲れからかうつ病を患ってしまいます。

ある日正矢のことで学校に呼び出された美代子は、上級生の不良・崎山とお互いに一目惚れ。何と交際を始めてしまったため、その姿を見た正矢は生きる気力を失っていました。そのうちに学校は退学、ぶらぶらと暮らしていた正矢を親友の晃一と絵美子が励ましてきます。

著者
飴村 行
出版日
2013-03-23

一方、異なる場面。独房に監禁された男が目を覚ましていました。彼は一切の記憶を失っており、自分が誰なのかもわかりません。ここは戦争真っただ中の東南アジア。そこで男は、大きな罪を犯してしまったらしいのです。独房の男は、謎の人物によって目を覆うような拷問を繰り返し受けています。そんな中、正矢と男の世界がリンクし、お互いが夢の中に現れるように。2人の過去に隠された、驚くべき秘密とは?

異なる2つの場面で構成され、それが次第にリンクしていく物語。過去と現代のストーリーが交互に展開していきます。2人の男の絶望が繋がった時、何が起こるのか?「粘膜」シリーズとは一線を画した作品ですが、本作もやはり欲望と狂気に満ちています。ホラーやグロテスクな表現はもちろんのこと、人間の嫌な部分にスポットを当てたミステリー要素の強い作品。まさに「飴村ワールド」が展開される小説です。

作家・飴村行のルーツに迫るエッセイ『粘膜黙示録』

『粘膜人間』で念願のデビューを果たし、その衝撃的な内容から根強いファンを獲得した飴村行。しかし、そんな彼にも苦しんだ時代がありました。本書は、飴村行が作家としてデビューする前の激動の時代を赤裸々に綴った初のエッセイです。

著者
飴村 行
出版日
2016-02-10

東京歯科大学を中退した理由、世界的な漫画家や脚本家を目指した時代、その夢を諦め、本人をして「朝起きるたびにこの世に生まれたことを激しく後悔した」と言わしめた恐怖の派遣工時代……その紆余曲折と恨みつらみとにわかには信じがたい真実が、コメディタッチで描かれています。

家族や友人とのやり取り、日常におけるふとした出来事から生まれたエピソードなど、決して明るい内容ではないはずなのに、不思議と読者を飽きさせない魅力に満ちています。むしろ、読むうちにそのマイナスともいえる感情に同調してしまうのです。

中でも最も内容を割いて描かれているのが、派遣工として10年間勤務した時代のエピソード。飴村が「人生のどん底だった」と語るその時代は、常識では考えられない奇怪なエピソードに満ちています。そして「本当にこんな人間が存在するのか」と疑問を持たざるを得ない強烈な人物たちが登場するのです。現代版『蟹工船』とも言うべき時代の物語は必見です。

作家「飴村行」の、間違いなく礎となったものが詰め込まれ、その溜まりに溜まった鬱屈した感情がそのまま本になったかのような一冊。面白くも、どこか悲哀を感じる良作エッセイです。

グロテスクな物語が苦手でも、そのコメディ性で比較的気軽に読める飴村行作品。深い物語を一度体験してみてください。

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