驚きをピュアなままに【真舘晴子】

離れていくことと近づいていくこと

著者
村上 春樹
出版日
2016-09-28
好きな作家の自伝的な本を読むということは、どのようなものか知らなかった。
高校生の時、「羊をめぐる冒険」をはじめに好きになった村上春樹はどんな風に小説家をしているのか。おそるおそるページをめくってみる。

小説を書く方法や経緯を見て、はじめは何度も「これはメモだ、これはすごい」などと思っていたんだけれども途中で当たり前のあることに気づく。
これらが「村上春樹の方法」であるということ。それは彼が小説を書く上で一番の方法であること。
村上春樹の小説を書く環境や方法は自分に取り入れてみたいと思うヒントも多いけれど、わたしは自分の方法というものにもっとこれから出会っていくんだと感じる。自分の中での最高のやり方である。
曲を作る上でも近ごろそんなことを思う。
自分のもつ何かが、一番いい状態で飛び立てる環境とは、自分で知っていくべきなのか。

小学校のとき先生が、
「歴史を学ぶと今の日本が見えてくる」と言っていた。
バンドで2枚目のミニアルバムをリリースしたとき、
「何かからはなれていくことは同時に何かに近づいていくことなんだ」と思った。

村上春樹は、「この先僕は僕自身の内部に降りていってより深く遠くまで探っていくことが新しい未知の大地となる」という。

目に見えない距離や空間というもの、それは一体どんな形をしているのだろう。
生活の中でそのへりに当たったり、遊歩道を見つけたり、さまざまな生きものに出会うのかと思うと、すこしワクワクしてくる。
地球が丸くある秘密だって、まだまだこれから見つかりそうな気がする。

安西水丸さんのイラスト

著者
村上 春樹 安西 水丸
出版日
1990-03-28
自分は消しゴムを密かにコレクションしている。
ちょうど消しゴム工場見学の項目が本に書いてあったのですこしピンポイントに紹介します。

むずかしい説明は、著者に同行する安西水丸さんも編集のミドリさんも、きっとそんなに分かっていない感じがなんとも安心感をいだいてしまう。なんでか3人の不思議なグルーヴがある。
高校の化学の時間は「世界文学全集」読破に励んでいたと村上春樹も自慢げである。

簡単な消しゴムの発見としては、近ごろの消しゴムはほとんどがプラスチック製でありゴムなんてのはすこし入ってるか入ってないかということを知る。多くはつなぎの薬品たちで、消しゴムとは思いきり言えないのが事実ということで、これではなんだかダイエット中のお肉がすこしのハンバーグのよう。出版は1987年なので、現在の消しゴム業界は更にゴムを使ってないのかもしれない。

行程説明もおわり、文章は様々な消しゴムを紹介していた。水丸さんのイラスト付きで。そのイラストの中に身に覚えのある消しゴムを見つける。
それは、なんと私が4年前に観光客はまず訪れないであろうカンボジアのある文具店で買った消しゴムだった。
「わぁ、カンボジアの消しゴムは斬新だ。かわいいし友達にも買っていこう」と私はいくつか購入した。
確かにそのお店で他に日本製の文具も見られたが、この消しゴムは日本語が書いてないし、なんだかこれはカンボジアでかわいいものを見つけてしまったんじゃないか私!と嬉しかったのを覚えている。

文章には「僕が一番気に入ったのは東南アジア向けに作られている〈アルファベット字消し〉。こうゆうのは日本で売ってもけっこう受けるんじゃないのかなと思う」と書かれている。
輸出された消しゴムを、輸入した私が、そこにはいた。
まさかメイドインジャパンだったとは……というちょっと恥ずかしい再会でした。

あとは小岩井牧場の見学もおどろきが多い。
乳製品にすきなものが多いので、いつか生まれ変わったら酪農家の嫁になりたいとたまに思っている。
小岩井牧場というのは、実は日本鉄道会社の社長と局長と三菱の当主さんで設立されているという事実もすごい。3人の名前の頭文字で小岩井、なんという!
牧場のようすを水丸さんが色の気持ちよいイラストで教えくれる。
牧草と山の緑が濃くて、音の聴こえる村上春樹の文章とぴったり。

CD工場での、デジタル信号の数字の羅列を記号としてよみとると音楽になるだとか、そういった身の回りのものができる過程というのは、たまに意識してみることなしには忘れてしまう。
消費の裏には生産があることを感じるのは、まわりのものを大切にできるヒントだということがわかった気がする。

この本を読んだとき、「安西水丸さんにいつか会ってみたい」と強い想いをもったことをよく覚えている。調べてみると、安西さんが亡くなって一年ほどたった時期だった。イラストに見える、彼だけの色づかい、自由な線、素敵なセンスが大好きになった。

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