天涯孤独の男にある日訪れた、人生一発逆転のチャンス。しかしそれは一歩間違えると今の苦しい生活よりさらに地獄を見るような、危ない橋を渡るものだった……? 裏社会の現実をリアルに描いた福本伸行作の漫画『銀と金』。池松壮亮、リリー・フランキー主演で2017年にドラマ化された人気作です。、登場人物の設定、そして作品前編の見所を徹底紹介!ネタバレを含みますので気になる方は無料で読めるスマホアプリでご自身でご覧ください。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2014-07-28
『賭博黙示録カイジ』、「アカギ」などで知られるギャンブル漫画界の巨匠・福本伸行。今回は、彼の代表作のひとつである『銀と金』を紹介していきます。
本作は2017年1月には、池松壮亮、リリー・フランキーなどが出演し、テレビドラマ化されました。福本伸行が得意とするのが壮絶な心理戦。ギャンブルにおける心理描写は見るものを圧倒させ、物語に引き込んでしまうほどです。大金が動くギャンブルゲームの展開から、目が離せなくなってしまうでしょう。
ここでは、物語のあらすじを紹介しながら、作品に登場する名言を厳選して紹介していきます。
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森田は両親を早くに亡くし、天涯孤独となった20歳のフリーター。ある日、競馬場で銀二という男に声をかけられます。その男は森田に日当10万円、明朝3時間「重いものを運ぶ」バイトをしないかと持ちかけてきました。
森田は怪しいと思いながらも、彼の話にのることに。翌朝軽トラで現れた銀二が持っていたのは総額10億円が入っているという大量のダンボールでした。森田は恐ろしく思いながらもそれをボロアパートに運び込みました。
そこにやって来た何やら目をギラつかせた人物たちは、ひとりひとり銀二と面接をします。ここで行われるのは闇金融資。金に困った者たちが銀二の口車に乗せられて次々と彼の術中にはまっていきます。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2014-07-28
銀二はある時は鬼の形相で金利18%で金を貸したかと思えば、ある時は夜逃げをしようとする男に400万円の金を渡し、オレがどうにかするからしばらく隠れていろと言うのです。
それは全て最終的に銀二に有利になるための算段。森田は横でそれを見ていてこう思います。
「この人達は 羊だ… 生贄として連れて行かれる羊……!
そして罪人のように頭を下げる
その理由はただ金を持っていないということなのだ……
どんなに真面目に働いても 金を持たなければ罪人!」
森田が見たのは奪う者と奪われる者の現実。彼は金が無いと虐げられるだけでなく、罪人のように頭を下げて生きていかなければならないことを知ります。
それほどに人と人の間に格差をつくる、金というもの。この世の現実を表した衝撃のスタートです。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2014-08-28
その仕事が終わり、森田に日当を渡す銀二。彼は森田に今夜大事な取引があるから一緒にこないかと更に誘いかけます。
その夜、森田が見たのは大手銀行の面々が銀二に頭を下げる姿。銀二は「お利口な」銀行のために裏で色々と汚い仕事をするのが自分の役割のひとつだと語ります。
そして森田の目の前に5000万円を置き、「人をひとり……殺してもらいたい」と言うのです。銀二は死期間近の老人と金に困っているその老人の息子の話をします。老人は治療の痛みから、たびたび自分で点滴を外す姿が見られていました。
銀二は、誰もいなくなった空白の時間帯に「不幸な事故」が起こる確率について話します。それを聞いた森田は息子がこの依頼をしてきたのかと聞きますが、銀二は奴等はそんなにハッキリと言ってこないと笑うのです。
「なぜ奴等がハッキリした言い方をしないのかというと
自分へのごまかし…要するに自ら悪徳の決断はしたくないって事
イヤな決断は……例えばこのオレのような悪党に委ねてくるのさ
つまり……奴等 親を殺したその後で
まだ……いい人間でいたいのだ……!」(中略あり)
今まで散々汚い仕事をして来たであろう銀二の経験から出る言葉。人間の本性を表した重みのあるものです。そして彼は森田にこう続けます。
「加担しろっ!この悪に………
人を殺して初めてオレの仲間だ…!」
森田は5000万円を前にして揺らぎますが、さすがに金のために人を殺すということはできないとその場を去ります。彼が去った後、銀二の仲間であるひとりの男が「見込み違いか…?」と銀二に語りかけました。
しかし彼は「逆だよ ここまで奴は合格…!」と答えるのです。金のために何でもやる人間は決断を迫られた時、結局金を選んで人を裏切ると言う銀二。この話を断った上で再び戻って来て殺さないと言えば合格だと続けます。
あまりにも難しい要求に驚く仲間の男ですが、銀二はあと2時間待ってほしいと彼に言うのです。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2014-09-27
そしてその2時間後、緊張した面持ちで銀二のもとに戻ってくる森田。彼は人は殺せないが、この世界で生きていきたいと土下座をします。それを見た銀二は「人を殺す必要はない オレとコンビを組まないか?」ともちかけ、そして今のこの「人を殺したくない」という気持ちを忘れるなと森田に言うのです。
「裏(ここ)に長くいるとまわりは殺したい連中ばかりだよ
殺した方がいいダニども でも殺すな……!
オレたちは世界を広げてなんぼの人間だ!
殺す人間の………世界は広がらない…
必ず閉じていく…!」(中略あり)
裏というダーティーな世界にいるからこそ、人というものを大事にし、自分のルールを曲げない銀二。その生き様が現れた名言です。
そしてこの夜をきっかけに、森田は裏社会で生きていく道を選ぶのです。
本作品の主人公。とてつもなくスケールの大きな人物で「平成の魔神 最後のフィクサー」とも呼ばれ、巨額の金を動かしています。
国内だけでなく、海外にもコネクションを持っており、 300億サシ競馬編ではその人脈が物語の鍵となります。若者の心をつかむのもうまく、森田鉄雄と川松良平に競馬場で声をかけ仲間に引き入れました。日本という国自体を裏から操ることを目論んでいます。
独自の哲学を持っている、作中最も魅力的なキャラクターの一人です。
本作品のもう一人の主人公。競馬場で大敗しているところで平井銀二に声をかけられ、そこから人生が大きく変わっていきます。
元々はギャンブル中毒のただの若者でしたが、裏社会で生きることを決め、平井の下につきました。仲間たちからは強運の持ち主と認められています。仲間たちと違って損得勘定抜きで行動することが多く、その行動が仲間から特別視されているようです。後半では自分を殺そうとした人間に対しても情けをかけるような男気をみせる場面がある、人間味あふれるキャラクターです。
作中で目覚ましい成長を遂げ、物語の終盤では意外な方向へ進んでいきます。
物語は平井銀二と森田鉄雄の出会いからはじまります。森田が競馬で惨敗したところに平井と名乗る怪しげな男が声をかけてきました。平井に飲みに誘われた森田は居酒屋で日当10万の仕事を持ちかけられます。森田は怪しみながらも請け負うことに決めました。
その仕事は軽トラから軽トラへミカン箱を載せ替え、アパートへ運ぶだけの仕事でした。平井はミカン箱の中身は10億もの大金だと言います。森田は信じませんでしたが、開けてみるとびっくり、本当に大量の札束の山が出てきました。森田は平井からあるテストを課されるのですが、テストをパスした森田は平井とともに裏社会で生きていくことを決意し、最初の仕事に取り掛かります。
最初の仕事は簡単に言うと会社の乗っ取りです。株の売り買いで会社の経営に食い込むのですが、それまでの経緯が面白い展開になっています。
森田は暴力団に協力して7件の殺人を犯した殺人鬼「有賀」を軟禁するよう平井に命じられます。有賀は女子供を中心に7人を殺害しており、生きたまま人間を切断する残虐な殺人鬼です。
森田と暴力団員は1時間交代で有賀を見張ります。見張りには弾倉が空の拳銃だけを持って部屋の中で1対1で対峙します。拳銃を奪われることを想定して、拳銃の弾倉は空にしておくというアイディアです。このアイディアについては平井もよいアイディアだと評価しますが、それだけでそううまくいくはずもなく、見張りの暴力団員は殺されてしまいます。
部屋を脱出した有賀に次々と暴力団員が殺されていくなか、最後に生き残った森田はまさに殺しのプロの有賀と対峙します。森田は殺人鬼有賀を倒すことができるのでしょうか。
森田は平井からある地点に達するまでコンビを解散することを告げられます。森田は自力でお金を稼ぐために、とりあえず金のにおいのしそうな高級ホテルのロビーで聞き耳をたてる日々をつづけます。
ある日、いつものようにホテルのロビーで聞き耳をたてていると、画商が新人画家を批評しているのが聞こえました。批評というよりくさしているといった方が適切なネチネチした罵倒です。その時、森田の脳裏にイナズマが走り、その画商にニセのセザンヌを売りつける方法を思いつきます。
いったいどうやって森田は画商に贋作を売りつけようというのでしょうか。
セザンヌ編では川田という相棒が加わります。川田と喧嘩する場面がありますが、そのいさかいは金というものの本質にかかわるものです。金が人を狂わせることについて、森田は自分なりの答えをだします。
森田はよく通っている喫茶店のウェイトレスに声をかけられます。森田自身はとても女にかまけている余裕はないのですが、どうやら彼女に気に入られてしまったようです。森田にその気はないのですが、彼女から聞いた賭博ポーカーの話が気になり、一緒に賭場に行くことにしました。
賭場ではボンボンの3人組が青天井ルール(得点計算のリミッターを外すルール)のポーカーを催しており、大金を賭けて押し切ることで大勝していました。最初に訪れた時には手持ちの大金を持ち出してボンボンの鼻を明かすことができましたが、後日再戦することになったのでした。再戦時には森田は手持ちの1億9000万円と借金した6000万円を合わせて2億5000万円の軍資金を用意しました。全力でかき集めた全財産で戦いに臨みます。
大金が飛び交う中、森田は相手のイカサマに気付きましたが、形勢は徐々に悪くなっていきます。
ポーカーで大勝した森田の元に遂に平井が戻ってきます。平井は森田とコンビを再結成し、400億円もの金額を搾り取ることを画策します。平井が目を付けている8人の政治家を味方につけるために400億円が必要だというのです。
相手は誠京コンツェルンを一代で築き上げた蔵前仁。森田と蔵前は誠京麻雀という特種なルールの麻雀で勝負をします。一回ツモるごとに数百万の供託金が必要で、金さえ払えば2度ヅモもOKという金を持っているものほど有利になるルールで、一局で数十億の金が動く、とてつもなくスケールの大きな麻雀です。
掛け金は500億円で勝負がスタート。負ければ蔵前に文字どおり死ぬまでペットとして檻の中で飼われるという条件つきです。
しかもこの蔵前という男はゲームに慣れており、精神的に追い詰められることもなければ、資金力も底なしで森田は窮地に立たされてしまうのでした。
そこで銀二から森田にあるアドバイスがあり……。
今回の見どころはなんといっても平井と森田の連係プレイです。平井の仕掛けるトリックは鳥肌もの。ぜひ読んでほしいエピソードです。それまでビクともしなかった蔵前が、風前の灯火のように心を揺らす様子にはスカッとするものがあります。麻雀のルールを知らなくても楽しめると思うので、ぜひご覧ください。
誠京麻雀編で予想以上に大勢の58人の代議士を味方につけた平井は自由民正党の大物政治家、伊沢敦志に近づきます。
それから何カ月か後、新政党を立ち上げた伊沢敦志の依頼で法案に反対する5人を寝返らせることになった平井。
伊沢自身の進退に関わる政治改正法案をなにがあっても通さねばならず、平井に依頼したのでした。
平井は依頼された5人を寝返らせることは簡単に達成することができましたが、その裏工作がどこからか漏れ窮地に立たされます。
そんな中、伊沢が海外企業から1000億円もの金を借り入れていることが発覚し、伊沢の謎の行動に注目があつまります。
そんな紆余曲折がありましたが政治改正法案トップ会談で合意となり、伊沢敦志の思うままの決着となりました。しかし、実はこの政治のドタバタ劇の舞台裏では大きな金の動きがあったのでした。永田町編では平井銀二が出し抜かれるシーンがあり、必見です。
日本で三本の指に入る家電メーカー「カムイ」会長の神威秀峰から救出依頼を受けた平井。森田を救出に向かわせます。 神威秀峰は息子4人によって病院に軟禁されていました。秀峰は世継ぎの男子を決めるために息子たちを徹底的に競わせて育てていましたが、急に誰も知らない五男の存在が浮上しました。4人の息子にとっては寝耳に水で、その家長権を秀峰もろとも封印しようと考えたのでした。
助けに向かった森田は機転を利かせて神威秀峰を救出しますが、そこから一波乱あります。
神威家編は『銀と金』の中でも異色のバイオレンスアクションです。大勢の人間が怪我をします。死にます。神威家編では森田の男気と勇気がいかんなく発揮されるので、森田の成長ぶりをぜひ見ていただきたいです。
特に自分を殺そうとしている敵に対して情けをかけ、説得にはしる様は感動ものです。神威秀峰の鬼畜っぷりに対して、森田が制裁する場面は唯一の救いの場面です。
神威家編の後、森田は裏社会の仕事を引退することを決めます。悪党の世話をすることに嫌気がさし、どんどん正常な感覚が壊されて、自分も悪党になってしまう気がしたからと言います。
300億サシ競馬編は森田が引退してから1年以上が経過してから始まります。今回は平井を中心に話が展開されます。民政党総裁の河野洋一とサシで競馬勝負をすることになった平井。300億円を賭けた勝負が始まります。
ルールはお互いが用意した6頭の馬のうち、自分の陣営の馬が1位を取ったら勝ちというシンプルなものです。
有力馬は全て相手方に奪われ、どうみても不利な状況ですが、平井は大胆な作戦で河野洋一に挑みます。この勝負の後、平井は森田を失った虚無感から引退も考えますが、新たな決意をし、物語の幕が閉じます。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2014-10-28
ネタバレありでご紹介してしまいましたが、まだまだストーリーは始まったばかり。ここから登場する名言は、過酷な現場を通してさらに重いものになっていきます。
社会や、人間の裏の顔を表した本作。表だけ見ていると気づかなかったり、分からなかったりすることがいくつも出てきます。リアルを知る者にしか言えないズンとくる名言をぜひ作品でお楽しみください。