買わずにはいられない!思わずタイトル買いした「女性」たちの物語3選

更新:2021.12.21

普段書籍を買う際に、皆さんはどんな理由で購入するのでしょうか。お気に入りの著者、話題の一冊、装丁の好みなどさまざまありますが、ついつい目を引くタイトルにつられて買ってしまうという方も多いと思います。

ブックカルテ リンク

普段書籍を買う際に、皆さんはどんな理由で購入するのでしょうか。お気に入りの著者、話題の一冊、装丁の好みなどさまざまありますが、ついつい目を引くタイトルにつられて買ってしまうという方も多いと思います。タイトルから想像してその通りのものもあれば、良くも悪くも想像を裏切られるものあり、ちょっとした運試し感覚でタイトル買いすることも個人的にはしばしばあります。そこで今回は、私が書店で思わず「タイトル買い」した本をご紹介します。

私たちは本当は血の繋がった兄妹で、間違いを起こさないように神様が細工したとしか思えないのです。

「いきなりだが、夫のちんぽが入らない。本気で言っている。」というかなりのインパクトを持った一文から始まる本書は、2014年5月に開催された「文学フリマ」で販売された同人誌『なし水』の収録作品の一つです。新聞の広告欄には「タイトルは書店で確認してください」という旨の文言とともに掲載されており、まんまとこの広告に嵌められて(?)購入しました。

著者
こだま
出版日
2017-01-18

大学進学ために地元を離れた「私」と下宿先で出会った夫となる男性との約20年間を描いた物語ですが、個人的には「どうにかこうにかしてちんぽが入るように奮闘する夫婦の物語」とばかり思っていたのでちょっとだけ面喰いました。しかし、淡々と描かれていく「私」の個人的なエピソードと夫との関係性(「入らない」問題も含め)、教師となった「私」を取り巻く環境と心情の変化などが緩やかに重なり合っており、あっという間に読み切ってしまいました。

少々ネタバレになってしまいますが、この「入らない」問題はその原因が解明されることも解決されることもありません。二人の間の了解のもと、解決しない(改善を諦める)という選択を取るのです。もしかしたら読者にとってはそれが宙ぶらりんに感じるかもしれませんが、これも一つの夫婦の形であると思います。「夫婦であれば子どもを設けるべき」という固定観念はいまだに根強くありますが、さまざまな理由で子どもを授からない(授かれない)夫婦というのはたくさんいるのも事実です。「正しい夫婦のあり方」マニュアルなんてものは存在しませんし、存在する必要すらないと思います。そんなことを考えさせられる一冊です。

恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界で、私たちは何か強烈な「命へのきっかけ」が必要で、「殺意」こそが、その衝動になりうるのだ、という。

「誰か一人殺していいけれど、その代わり10人子どもを産みなさい」と言われたら、あなたはどうしますか?そんな生と死が隣り合わせな世界を描いたのが、『殺人出産』です。

著者
村田 沙耶香
出版日
2016-08-11

特定の誰かを殺したいと希望する者は「産み人」となって10人の出産を目指し、達成すると合法的に一人殺すことができる制度が導入され始めた時代。そんな「殺人出産」制度に疑問を持ちつつ実際に「産み人」である姉・チカを持つ育子は、制度そのものに全くの疑いを持たない従妹のミサキや真反対の意見(「殺人出産」制度に反対)を持つ同僚の早紀子とのやりとりの末にとある決断をします。

この「殺人出産」以外に、若者の間で三人で付き合う恋愛がブームとなった世界を描く「トリプル」や、性というものを一切排除した結婚生活を営む夫婦が、「清潔」な繁殖を試みる「清潔な結婚」、死のタイミングを自分で選択できるようになった世界を描く「余命」の4つの作品も収録されています。いずれの作品も、我々が「当たり前」だと思っている事柄(生殖、殺人、恋愛、死のあり方)を逆転・ずらした発想が採用されており、今の時点ではフィクションにとどまっているけれど、どこかのタイミングでそれが現実になるかもしれない「現実可能性」もそこには隠れているような気がします。

私はバッド・フェミニスト。まったくフェミニストでないよりは、バッド・フェミニストでいたいのだ。

「フェミニスト」という単語を聞いて、どんな人を想像するでしょうか。著者の言葉を借りると、「おまえは怒りっぽい、セックス嫌いの、男嫌いの、被害者意識でいっぱいの気取り屋だ」(11ページ)というものがある一定層の人が抱くイメージのようです。おそらく日本でも同じようなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。そんなイメージを崩す「バッド(イケてる)・フェミニストであるロクサーヌ・ゲイのエッセイ集が『バッド・フェミニスト』です。

著者
ロクサーヌ・ゲイ
出版日
2017-01-24

彼女はアメリカ合衆国で育ったハイチ出身の黒人女性で、大学教員でもあります。白人中心主義のなかでは彼女はマイノリティであり、それゆえにさまざまな差別を経験しているのですが、そんな彼女が考えるアメリカの現実とパーソナルな告白は、ときに痛快なまでに切れ味抜群のものもあれな、胸を締め付けられるような切実さを感じさせるものもあり、軽快さと丁寧さが織り交ざった文体が印象的な一冊です。

本書で紹介されるさまざまな作品(小説や映画、TVドラマなど)は、今では日本でもアクセス可能なものばかりです。彼女の意見を踏まえつつ見ていくと、自分が今まで見えていなかった問題などにも気づかされるのではないでしょうか。

フェミニズムの歴史も少々複雑なのでここでは割愛しますが、彼女の冒頭の「バッド・フェミニスト」宣言は「フェミニスト」と高らかに言えないフェミニストにとって、ある種の心強さを感じさせます。

「フェミニズムと私のあいだにどんないろいろな問題が生じていようと、私はフェミニストだ。私はフェミニズムの重要性と絶対的な必要性を否定することはできないし、これからもしないだろう。ほとんどの人たちと同様、私は矛盾だらけだが、しかし女でいることを理由にクソみたいな扱いは受けたくないのだ。」(385ページ)

「フェミニスト」という言葉に違和感ないしは誤解しているかもしれないという方におすすめの一冊です。もしかしたらあなたも「バッド(イケてる)・フェミニスト」なのかもしれませんよ。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る