「夫婦」とは、この日本においては婚姻関係にある1組の男女を指します。しかし、それはあくまで書類上でのこと。本当の「夫婦」とは一体どんな関係なのでしょう?今回は「夫婦」を主軸に据えた漫画5作品をご紹介します。
ネイルサロンを開業している高森杏寿(たかもりあず)。3年前に夫の純平が単身赴任してからは、5歳の娘・七香と2人暮らしをしています。純平は週末には必ず帰ってくるため、一見幸せそうな夫婦です。
ある週末、娘が先に寝たおかげで、久しぶりに夫婦2人の時間が出来ました。ところが以前と違って素っ気ない純平。杏寿はそこはかとない違和感を覚えます。そしてたまたま見てしまった夫の携帯電話のメールボックスには、数百件分のメールを消した痕跡が。
大切な人の裏切りを知った時、もう1度その人を信じることが出来るでしょうか……。
- 著者
- 草壁 エリザ
- 出版日
- 2015-05-13
杏寿は30歳という年齢ながらスタイルも良く、周囲からは仕事の出来る美人と評判の女性です。夫の純平は週末には帰ってくることもあり、夫婦仲も悪くありませんでした。しかし、娘も出来て、家族らしくなっていくにつれて、周囲の評価の反面、一番大事な男性である夫から「女性」として見られなくなっていくことに不安も感じていました。
そして純平の不倫は現実になります。それも1度や2度ではなく、常習していたことが判明。さらに純平の相手、井筒里奈は思い余って派遣社員として純平の職場に就職までしていたのです。出会い系アプリを利用して純平と知り合った里奈自身も、実は夫のいる身で……。
裏切られたと知った杏寿は、どうしても純平をもう1度信じることが出来ません。最も大事な誓いを破った者を、どうして信用することが出来るでしょうか。
そんな時、最近になってネイルサロンの客となった女、坂口から杏寿は出会い系アプリを紹介されます。坂口はどうやら、里奈ともなんらかの繋がりがあるようです。
複雑に、そして最悪の方向に絡み合っていく人間関係、生々しいまでの人間ドラマ。最愛の人を失い、最愛の関係が壊れた時、その愛が大きければ大きいほど喪失感は重くのしかかってきます。人生そのものが壊れるほどに。結婚して1つになったはずの夫婦の人生は、この先どうなってしまうのでしょうか?
バツイチ漫画家の祭田丈(まつりだじょう)。ある日、編集者の丹下日歌(たんげにちか)が彼の元を訪れ、かつて描いていた自分の漫画を丈が盗作したと糾弾します。日歌はこのスキャンダルを隠すために交換条件を提示してきました。それは、秘密にする代わりに丈と日歌が結婚することでした。
1度結婚に失敗し、ただでさえ女に不信感を持つ丈。盗作してきた相手にすり寄ってくる日歌の本心が読めず、疑心暗鬼に陥ります。それでもやることはやってしまうので、日歌の美貌も相まってどんどん深みにはまっていく丈でした。
- 著者
- ジョージ朝倉
- 出版日
- 2014-07-08
脅迫から始まる新婚夫婦という、開始早々かなりぶっ飛んだ展開が繰り広げられます。脅迫して金銭を要求するのではなく、脅して婚姻を迫る。エキセントリックな日歌の行動が、この一点から窺えることでしょう。
7年間同棲関係にあった元彼と進展せず、別れた日歌。結婚生活が破綻し、莫大な慰謝料を払って前妻と別れた丈。結婚して子供が欲しいと願う日歌に対して、丈は失敗した経験から結婚には消極的です。アクティブな日歌に、うだうだ悩んでなかなか決心しない丈。
共に似た経緯を持ちながら、2人の性格は正反対です。日歌がぐいぐい引っ張って、丈はどんどん彼女に影響されていきます。前妻の苦い経験もあって、この仮面の結婚生活に歯止めをかけようと努める丈ですが、気付けば日歌の美貌を前に努力は霧散。
日歌の本心が読めない、という点を除けば理想的な結婚生活です。日歌は思い切りが良くて男前な性格ですが、女性としては非常に魅力的で甲斐甲斐しい。しかも、編集との初顔合わせで見惚れたほど日歌は丈の好み。だからこそ、余計に丈は脅迫がきっかけのこの関係に踏ん切りがつきません。
果たして結婚とはなんなのか?夫婦とはどういうものなのか?そんな問題提起がコメディタッチで描かれます。
中学からの付き合いで、2人はなんとなく結婚しました。長い付き合いがあったのに、結婚してから彼の知らなかった彼女の姿が増えていきます。彼はマイペースな彼女の気持ちがわからなくなって……。(「1軒目・染井家」より)
両親を亡くして、たった2人だけの姉弟。子供心にも姉を守ると誓った7歳の弟が高校生になった時、彼は姉の妊娠を知らされます。相手は彼の通う予備校の、45歳の教師でした。(3軒目・高橋家」より)
- 著者
- 谷川 史子
- 出版日
- 2008-01-28
良くも悪くも、他人が家族になる結婚は、様々な変化をもたらします。それまで見えなかった面が見えるようになったり、逆に見えなくなったり。たとえ夫婦になったとしても、2人の人間が1人の人間になるわけではありません。
そんな夫婦関係に焦点を当てた7編の短編。それぞれ全く異なる背景と事情が描かれ、7組の夫婦が登場します。
幼馴染みが惰性で結婚した夫婦。文字通り夫の救世主となった姉さん女房の家庭。年の差出来婚。結婚早々、妻に先立たれた男やもめ。浮気から見直す、仮面夫婦のあり方……等々。
些細な日常から、ドラマチックな追憶まで。胸を打つ様々な夫婦模様がここにはあります。
漫画家のナイトーと会社員のミノワは結婚7年目の夫婦です。西荻窪のアパートに住み、仲良く暮らす2人。
大家の飼い犬ブッチを連れて早朝散歩に出かけたり、ふらりと飲み屋に入ったり、海外旅行出かけることも。そんな穏やかな日常の中で、ミノワはふとした瞬間に孤独感を覚えます。落ち着いた夫婦生活で感じる寂しさの意味とは……。
- 著者
- やまだ ないと
- 出版日
結婚7年目にして、未だ恋人のように手を繋いで散歩。気楽に2人だけの居酒屋飲み。円満で平穏な生活がそこにはあります。しかし、どこか拭い去れない寂寥感がそこかしこに。
婚前の女性がよく感じるというマリッジ・ブルー。そういう漠然とした不安感、孤独感がミノワにはついて回ります。夫のナイトーといる時、2人でいるからこそ際立つ、「夫婦は他人」だということ。
夫のナイトーはこっそり浮気をしており、ミノワはそれを察しています。いつか、ナイトーの浮気現場を曝露し、その場で自殺するという妄想を抱くミノワ。ナイトーはナイトーで、他の若い女を密会するたび、ミノワを強く意識します。そして、彼女を愛していると再実感するのです。
空虚感を挟んで、2人はお互いにお互いに必要としています。彼らには子供もなく、持ち家もなく、なんらかの理由でどちらかが欠ければ終わってしまう関係です。終わりが来るその時まで、彼らはひっそりと寄り添うのでしょう。
老松荘介(おいまつそうすけ)と天堂道(てんどうみち)。顔も知らない間柄の2人でしたが、互いの父親が飲み屋で冗談交じりにした約束で、夫婦となりました。
どうしようもなくいい加減な荘介と、マイペースな道のとりとめもなく続くナンセンスな日々が描かれています。
- 著者
- こうの 史代
- 出版日
- 2005-07-28
短編よりもさらに短い、ショートショートの連作ギャグ漫画です。
夫である荘介を「荘介どの」と呼ぶ道。やけに他人行儀というか、古風というか、初めて目にした時には不思議な印象を受けるでしょう。そして実際、道は掴み所のない、飄々とした不思議なキャラだということが読み進めればわかります。
荘介は甲斐性なしのギャンブル狂で、定職にも就かず、とにかく酷い夫です。さらには道と異なるタイプの女が好きで、平気で浮気もします。文句の付けようのない穀潰しですが、なぜか憎めません。
一方のヒロイン・道も、なかなかの曲者。表だって考えを述べず、常に脳天気でぼんやりしたところがあります。互いの親の酒の席での約束に律儀に従うところも、「不思議ちゃん」な様子が窺えます。とはいえ、単に言われるがまま荘介の住む町に嫁いで来たわけでもなく、そこには彼女なりの思惑があり……。
基本的には1編が数ページで終わるギャグ漫画。例えば以下のような風に。
落ち込んでいる荘介を励ますため、アロマキャンドルを灯す道。明かりを消した勢いで怪談話を始める道に対して、荘介は会社をくびになったという「怖い話」を打ち明けます。すると道は預金通帳を取り出しました。隠し預金だろうか?なんて出来た奥さんだろう――と思いきや、そこには限りなくゼロに近い残額。「怖い話」に「より怖い話」を被せてきたのです。
日常風景に突如ナンセンスな出来事が降って湧き、かと思えば次の話では何事もなかったかのように元通り。そしてまた不条理が起こる、といった具合です。どんなパターンでも最終的には道の笑顔でハッピー(?)エンド。
親に決められたお仕着せ夫婦。女好きで遊び好きの荘介は当初、表だって露わにしないまでも、やや邪険に扱っていました。これもやはり明言はしないまま、少しずつ態度が変化していきます。どんな形であれ、一緒に過ごしていくうちに男女は「夫婦」になっていくものなのでしょう。
いかがでしたか?一口に「夫婦」と言っても、様々な事情や関係性があります。あえてそこで共通項を上げるとするなら、それはやはり「愛」になるでしょうか。そこに幸福な「愛」があることを願ってやみません。