難しい知識は必要ナシ! 読んで知って体感する西洋文化入門

更新:2021.12.13

前回は日本伝統文化入門をテーマに和の音楽や文化についての本を取り上げました。そこで 今回は「和ときたら……洋だ!」という至極明快(単純?)な流れで3冊ほとどご紹介。いやいや、あなどるなかれ。どれもこれも良書ばかりをご用意しました。読書の世界から西洋音楽やアートに興味を深めてみましょう。

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オペラに込められた深い人間ドラマ

やれモーツァルトだ、バッハだ、とかいっても記憶にあるのは音楽室に掲げられていた薄暗い肖像画の思い出だけ。 ずずーんと上から見下ろす先人たち。うーん、ちょっと怖かった……。

今回一冊目に紹介する 『愛と裏切りの作曲家たち』はそんな名作曲家たちの作品の中でもとりわけとっつきにくいオペラに関する本です。

ところで「オペラ」って聞いたら、どんな印象を抱きますか? 
難解な曲を声楽家が歌って演じる堅苦しいコンサート?日本人には理解できないヨーロッパの古典文化?上流階級の人たちだけが楽しめる高尚な芸術?そんな印象もこの本を読んだらイメージが変わること間違いなしです。

そもそもオペラがどうしてとっつきにくいかというと、当時の時代背景や歴史的事実、歌われる歌曲の意味がわからなくて感情移入しづらいというのがあると思います。 そんな消化不良感をバッサリ一刀両断してくれるのがこの本です。 モーツァルトやヴァーグナー、ロッシーニといった名作曲家たちの苦悩や葛藤、生きる喜び ……オペラが作られていった歴史を作曲家の等身大の物語を通して感じることができる1冊になっています。

とりわけ僕が興味を抱いたのヴェルディの物語。1853年に初演された「椿姫」。 その作品ができるまでのヴェルディが経験した哀しさと悲恋。社会的弱者や愛する人への想いをオペラに結実させていったヴェルディの姿を知ることができます。

「ヴェルディはそんな彼女の不器用な生き方を理解した。(中略)人生の前半で一生分の苦悩を味わったヴェルディだからこそ、それができた。そして、一度道を踏み外した女性をけっして許そうとしない無情な社会を、彼もまた糾弾しようと思うのだ。」
 

著者
中野 京子
出版日
2015-03-12

名作オペラの影には人間ドラマあり、なのです。
 

テクニックや技術を越えた音楽の感動

ところで、皆さん好きなアーティストやバンドっていますか? 僕はスピッツが好きで昔から聴いています。 じゃあなんでスピッツが好きかと言うと「優しい歌声だから」とか「歌詞が面白い」とか理由はあるんですけど、むしろこれは後付けで、「初めて聴いたとき何となく心地よかった」 という言葉にしにくい気持ちが一番だと思います。

次に紹介する『聖夜』はカトリック系高校のオルガン部が舞台の青春小説。主人公の鳴海一哉は部内随一のテクニックを持ちながらも「どんな思いで弾けばいいのだろう」と自問し悩み続ける高校生です。

まず本文から印象的な文章を引用します。

「いつのまにか、俺は聴くのではなく、聴かされていた。この部分をどう弾くかとか、ちゃんと弾くかとか、うまいとか、そんなことが頭から消えていた。ただ、天野の音が心身にしみていった。」

不器用なオルガン部の後輩・天野真弓の弾くバッハ「前奏曲とフーガ ト短調 BWV535」。 それを聴いた鳴海はテクニックや技術を越えた部分で感動を与える天野のオルガンに深く引き込まれます。

「ああ、バッハだ! いったい、これまでに何人の人間が、どれだけの鍵盤で、バッハの曲を弾いただろう。その時間的な地理的な壮大な広がりと継続。その中には、父もいる、母もい る。伴奏の域を出ない、父のつたないオルガン、仕事と趣味で人生の大半を弾き続けてきた母のピアノやオルガン、その中には俺もいる。」

家族との不和や青春の葛藤を抱えている鳴海。彼は音楽を通して生きる力を取り戻していきます。テクニックを越えた感動、それを小説という形で感じられる名作です。
 

著者
佐藤 多佳子
出版日
2010-12-09

他人の尺度ではなく、自分の尺度で楽しむ西洋アート入門

ここまで2冊、西洋音楽に関する本を取り上げました。最後の本は西洋美術、現代アートに関する本です。

ピカソ、ウォーホル、マティス……名前は聞いたことがあるけど、その作品の一体なにが素晴らしいのか分からない。 理解できないのは知識がないからだ、と思って美術書を開いてみても書いてあるのは難しい専門用語のオンパレード。 キュビズムだとかモダニズム、新古典主義にいたっては新しいのか古いのかはっきりしてくれーという状態。 「うーん、分からない→じゃあ、やめとこう」という図式になってしまう前に『現代アート、 超入門!』を一読されることを強くオススメします。

まず著者の魂の叫びを聞いてください。

「ヒントを得るべく『現代アート入門』とうたっている本を買い、開いてみると、著者の超人的な解釈が述べられているばかりで、見方のヒントになるどころか、逆に『自分にはとうてい、ムリだ』と自信を失わせかねないのは憂うべきだと私は危惧している。(中略)初めっからハイレベルな鑑賞論が違和感なく読めるくらいなら、現代アートを前にして戸惑ったりはしないだろう。」

そう、そう、そうなんです。今まで僕も同じような経験で、いくど枕を濡らしたか……。 難しいことは分からないからとにかく優しく導いて欲しい……そんな気持ちにバッチリ答えてくれるのが本書です。 実際の鑑賞にあたっては知識よりもあくまで感覚重視の安心設計。

「自分が引っかからない作品は、どれほど高く評価されていても、とりあえずは放っておく。 逆に引っかかる作品については、たとえ無名であってもじっくりとていねいに見る。そして、 気が向いたら、さまざまな事柄を“お勉強”する。(中略)ある作家や作品を学んだ事が契機となって、ほかの現代アートにも関心が広がっていく副産物がある。」

そうそう、こういうのが自然です。だってスピッツだって最初にメンバーの名前や歴史を学んだりしませんからね。結局、好きなら勝手に知識が増えていきますからね。 それに「よく分からないけど好きだ!」というのが恋愛で最強なように、理屈ぬきで好きになれる作品こそ、その人にとって最高の作品だと思います。 
 

著者
藤田 令伊
出版日
2009-03-17

今回は3冊、西洋文化に関する本を取り上げました。うららかな春の一日、読書で芸術を体感してみて下さい。

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