「クマのプーさん」の本おすすめ5選!絵本から装丁の綺麗な愛蔵版まで

更新:2021.12.21

「クマのプーさん」といえば、ディズニーによってアニメ化され、今や知らない人はいないほど認知されたキャラクターです。今回は、その源流へと皆さんをご招待します。

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ただのかわいいキャラクターではない、家族愛の象徴「クマのプーさん」

誰もが知っている有名なキャラクター「クマのプーさん」。ディズニーによってアニメ化され、今やディズニーキャラクターとして欠かせない存在となっている彼ですが、元はイギリスの児童小説です。

著者アラン・アレクサンダー・ミルンが、息子のクリストファーが持っていたテディベアを主人公に、彼のために書いてあげたお話が『クマのプーさん』でした。

そう、作中に登場するプーさんの友人、クリストファー・ロビン少年は、ミルンの実子がモデルなのです。

他にも、ティガーやピグレットなどの動物たちも、モデルとなったのはクリストファーが持っていたぬいぐるみたちで、現在はなんと、ミルンの「出生証明書」を付けた状態でニューヨーク公共図書館に展示保存されています。

ミルンによると、彼の妻ダフネと息子クリストファーが、このぬいぐるみたちで遊んでいるのを見て、物語を着想したそうです。ミルンは母子が遊びの中で創り上げたキャラクターを、ありのままに描いただけと言っています。

つまり、「クマのプーさん」は、ミルン家の家族の絆と愛情でできているんですね。

世界中で愛されることになった、家族の愛の物語。日本では、どんなものが出ているのでしょう?今回は、その一部をご紹介します。

最も原作に近い作品。『クマのプーさん』の原点を読みやすく

1968年に出版されたこの絵本は、時代を感じさせる素朴で質素な装丁の絵本ですが、古いだけあって、原作の雰囲気が一番分かる絵本です。

原作の中から、選りすぐりの3話を収録しています。

A・A・ミルンの文にE・H・シェパードの絵という構成は、原語版そのままです。

もちろん、翻訳版なので日本語に訳されているのですが、翻訳を担当した石井桃子の日本語が大変美しく、原作の雰囲気を損なわない、見事な翻訳になっています。

著者
A・A・ミルン
出版日
1968-12-10

ディズニーアニメ版のプーさんに親しんでいると、ちょっと戸惑うかもしれません。

なぜなら、児童文学として書かれた原作を翻訳したのですから、難しい言い回しの部分が少なくないからです。

言葉使いが違えばキャラクターの個性も違うように感じられますし、違和感を感じてしまうかもしれません。

この最も原作に近い翻訳を子どもに読み聞かせた方々は、だいたい口を揃えて「子どもは夢中にならなかった」というようなニュアンスの感想を書かれています。同時に、それは言葉が難しいからだとも明言しているのです。

しかし、それでも読み聞かせ続けた方の感想はガラリと変化し、「最後には一緒に笑いながら楽しめた」となっています。

子どもはお話が楽しいと感じれば、多少言葉が難しくても素直に受け止めてくれるんですね。

せっかく美しい日本語に触れるチャンスですから、ぜひ、恐れずにお子様とお楽しみください。

プーさんとみつばちを数えよう

『クマのプーさん』、『プー横丁にたった家』の発表後、早々と児童文学からの決別を宣言したミルン。

ミルンの手を離れたプーさんは、その後も一人歩きを続け、様々な人の手によってリメイクされたり、続編が作られたりしていきます。

本作も、そんな作品の1つです。

この絵本は仕掛け絵本になっていて、ページに空いた穴からみつばちが顔を覗かせています。

ページをめくる度、みつばちは減っていって……と、絵本を読みながら、ページに触れ、数を数えられるようになっているのです。

著者
出版日
2011-08-25

この絵本を描いたアンドリュー・グレイは、プーさんの絵本をいくつも手掛けています。基本、原作の1話分を1冊の絵本にしたもので、作としてミルンの名前がクレジットされているのですが、この絵本だけは、グレイ作のオリジナルという形です。

しかし、ディズニーアニメ版よりの絵ではなく、どちらかというとE・H・シェパードの絵に近く、水彩タッチで描かれた画面は原作へのリスペクトが感じられます。

ご覧になっていただければ、グレイがこの仕事を任された理由が解っていただけるのではないでしょうか。

原作をもっと楽しめる『クマのプーさん』絵本シリーズ

ミルンの手から離れてしまったプーさんですが、ミルンとシェパードが関わっているものが全く出なくなったわけではありません。

最初にご紹介したのは、原作から3話だけを収録した絵本でしたが、こちらは原作の「プーのはちみつとり」、「プー あなにつまる ふしぎなあしあと」、「プーのゾゾがり」、「イーヨーのたんじょうび」、「カンガとルー 森にくる」の5話を、1話ずつ1冊にまとめて刊行した、絵本シリーズです。

著者
アラン・アレグザンダー・ミルン
出版日

ミルンとシェパードのオリジナルコンビに加え、翻訳も日本語版ではオリジナルキャストと呼んでも過言ではない石井桃子という、とても贅沢な絵本です。

第1集となっていますが、第3集まで刊行されているので、コレクションしてみるのも良いかもしれません。

最近はインテリアとして本を購入する方も増えています。そういう方にも、カラフルでかわいい装丁のこのシリーズは喜ばれるのではないでしょうか。

最初にご紹介した絵本版では物足りないけど、児童小説版は挿絵が少なくて、子どもに読み聞かせるのには……という方におすすめです。

これこそ原点。原作への愛が感じられる素晴らしい装丁の絵本

プーさんの生誕80年を記念して出版された、愛蔵版絵本です。

ミルンもシェパードも亡くなってしまったけれど、遺された作品へ向けられる読者たちの愛は、止むことはありません。

最初に紹介した『絵本クマのプーさん』は、日本語版として文を縦書きで記載してある「縦組み」でした。

シェパードの挿絵と石井桃子の名訳で、「原作に近い、日本語版の絵本」としての体裁は整えてあります。しかし英語は横書きですよね。画面構成が変わってくるので、そういった意味では、縦組みは少し原作の雰囲気を削いでしまっていたのかもしれません。

対して、こちらの愛蔵版は、文を横書きで入れている「横組み」になっています。

著者
A.A. ミルン
出版日
2006-09-05

原作の装丁や構成、今もこの作品を愛している愛読者たちの心情も考慮した装丁となっています。中のページも、白が美しく出るように薄いクリーム地にしてあるなど、その繊細な気遣いが、本の隅々まで行き届いている作品です。

単純にハードカバー化して、ちょっと豪華に箔押しで飾って……という風に終わらせなかったのがよく分かる完成度です。

『クマのプーさん』誕生に隠された、本当にあったお話

さて、最後にご紹介するのは、『クマのプーさん』にまつわる、本当にあったお話。原題『Winnie the Pooh』のネーミングの由来となった、クマのウィニーのお話です。

この本で語られるウィニーは、第一次世界大戦の頃に実在したクマ。当時、カナダ軍に従軍していた獣医師のハリー・コルバーン中尉は、猟師さんから孤児の子グマを20ドルで譲り受けます。

コルバーン中尉の故郷であるウィニペグにちなみ、「ウィニペグ」と子グマは名付けられました。そう、ウィニーはウィニペグの愛称だったんですね。

詳しくは、ぜひ読んで確認していただきたいのですが、コルバーン中尉が従軍していた連隊が出征することとなり、ウィニーはその途中でイギリスのロンドン動物園に預けられ、1919年12月、正式に寄贈されました。

ミルンの息子、クリストファーと出会うのはそれからのこと。

当時の動物園では、子どもが柵の中に入り、餌を与えることも可能だったそうで、ウィニーに蜂蜜を与えたクリストファーはえらく気に入り、自分の持っているテディベアに「ウィニー」と名付けたのです。

著者
リンジー マティック
出版日
2016-08-27

ウィニーは、直接的にプーさんのモデルになったわけではありません。プーさんの物語は、クリストファーと母ダフネが遊びの中で紡いだ物語ですから、個性や人格も、クリストファーやダフネの思い出が元になっています。

しかし、ネーミングの由来になっていたりしますよね。それは、ミルン家の親子が出会った様々なめぐり合わせが奇跡的に積み重ねられ、今のプーさんの形を成しているということではないでしょうか。

つまり、何か一つ欠けていたら全く違うプーさんの形になっていたかもしれない、ということです。

コルバーン中尉がウィニーと出会わなければ、ウィニーが渡英しなければ、ロンドン動物園でクリストファーとウィニーが出会わなければ……そう思うと、本当に奇跡的ですね。

ちなみに、この本の著者リンジー・マティックは、ハリー・コルバーン中尉の曾孫にあたります。

もし、リンジーが絵本という形でこのお話を世に送り出す縁に恵まれていなかったら、この絵本も誕生しなかったと考えると、『クマのプーさん』が誕生したこと自体が奇跡だったと感じずにいられませんね。

原作とディズニー版、どちらの魅力も子どもに伝えてみては?

プーさんは、ファンにとって強いこだわりがある作品です。原作ファン、ディズニーファンのどちらにも、それぞれ支持するところがあるのではないでしょうか。

原作ファンの間では、ディズニーへの批判的意見は、もう定番中の定番と化しつつあります。原作とはかなり異なるデザインですし、お話の内容も簡略化されているなどあって、仕方がないことなのかもしれません。

対して、ディズニーファンの間では、「原作は小難しい」「可愛いだけでいいじゃない」というような意見が大半を占めています。あの可愛らしいディズニーキャラクターが好きな方であれば、これまた出てきてしまう意見かと思います。

しかし、本来の読者であるはずの子どもたちには関係ありませんよね。

かつてミルンはこう言っています。「このお話は子どものための本であり、そして、大人に気に入られるために、子どもにそっぽを向く児童文学作家などは居はしない」と。

それに原作者ミルンが、息子クリストファーのためにプーさんを書いたように、ウォルト・ディズニーもまた、実子に見せたいがためにアニメ化しました。形は違えど、「クマのプーさん」は親から子への愛の象徴であることに変わりはないはずです。

原作の良し悪しを大人で判断せず、子どもたちが読んで理解してくれれば、それで良いのかもしれません。逆に、ディズニー版も良いところがたくさんありますから、それぞれの違った魅力も子どもに伝えてあげたいですね。

今回は、原作に近い作品を多く紹介させていただきました。ぜひ子どもたちに読んであげてみて下さい。

そして原作ファンはもちろんのこと、ディズニーファンの方も、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。どちらの雰囲気も知ることで、より「クマのプーさん」を好きになれるかもしれませんよ。

というわけで、「クマのプーさん」の世界、いかがでしたでしょうか?

原作はたった2冊の児童書籍ですが、そこから派生した形態の多様さは、他に類を見ない数です。関連書籍まで数え上げたら、いったいどれほどの数になるのか、想像もつきません。

それこそ、プーさんにまつわる本を集めだしたら、一大コレクションが成立するほどだと思いますが、そういう大人の楽しみ方は置いておいて、まずはお子様と一緒に楽しんでいただけたなら、作者のA・A・ミルンも喜んでくれるのではないでしょうか。

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